50話 無双の始まり
誰にでも全盛期という時期があるそうです。そこで驕らないことが、その後の成長の大小を……。
ところで、私には記憶がないのだけど。これから来るのかな? 自覚がないだけ?
「あれ?」
起きたら既に昼の11時過ぎだった。
こんなことは、物心ついてから初めてだ。宵っ張りだし、睡眠時間短くても大丈夫な体質なのに。
だが、よく眠れた気はする。
それに。何時になくお腹が空いている。朝食には遅すぎ、昼食には早すぎるが、まあなんかあるだろう。
取り敢えず着替えて部屋を出ると、吹き抜けの廊下を掃除しているローザと鉢合わせした。
「おはようございます」
「おはよう。余り早くないけど」
「そうですね。うふふふ。ああ、お昼はスープを温めれば、よろしいだけになって居りますが。召し上がれますか」
見透かされているなあ。
「うん。食べる」
「では、少々お待ち下さい」
ローザはモップとバケツを抱えると、サッサと階段を降りていった。
いいなあ。あのメイド姿は、楚々としていてローザの美しさを引き立てているよなあ。ああ、衣装はローザ自身が決めた物だ。
食堂に行くと奥の厨房で、ローザが動き回る気配がする。
座ってから、ものの数分で、コップに水と大きめ皿にキッシュを持ってきてくれた。
パイ生地の上にほうれん草、ベーコンそしてチーズなどを生クリームを加えた卵で綴じて、オーブンで焼いた物だ。円盤状の1/4が乗っている。
湯気を立てていて、思いっきり良い匂いだ。
お腹が珍しくぐうぐう鳴る。
「はい。おまちどうさまです」
最後に温めたコンソメのスープが出てきた。
「ありがとう」
一口食べる。
おお、黄色く灼かれた卵には、クリームが入っていて滑らかだが、胡椒が効いている。
「美味い!」
「それは良かった……朝一応起こしに参りましたが、結構うなされていらっしゃったって」
うっ!
「寝汗を掻かれていたので、拭って差し上げたら円満なお顔になって。またお休みになったので、無理には起こしませんでした」
「そう……なんだ。うん。久しぶりにぐっすり寝た気がするよ。ああ、そうだ。アリーは?」
「ええ。何でも、教会に行くとか。出掛けましたが」
教会?
よくわからないが。これは好都合だ。
「じゃあ。俺も出掛けることにする」
食事を済ませて、一休みしてからセレナと一緒に出掛ける。
今日はいつもの東門ではなく、西門から出る。
東門前と同じように貧民街が広がっていたが、それも通り抜けた。5ダーデンも行くと人も、耕作地もない荒れ地が広がる。
15分程前から街道を外れて獣道っぽいところを歩いている。
土壌が茶褐色だったのが白っぽくなってきて、どんどん乾燥して細かくなってきている。
立て札がある。
この先、砂丘地。地中魔獣生息地。危険に付き引き返せと書いてある。
もちろん俺とセレナは無視して前進だ。
目的地はその砂丘だからな。
そのまま歩き続けると、グッグッと鳴るように足を取られ始める。
感知魔術の範囲を広げていくと、数ダーデンの範囲に、人間の反応はない。
しかし、魔獣の反応は有る。
地下だ!
まずは挨拶代わり──
【衝撃!】
轟音と筒状に砂地を抉る。
少し遅れ盛大に砂が舞い上がり、300ヤーデンも貫いた。
おお、これまでとのエンペルスとは、まるで違う魔術だ。
【衝撃!】【衝撃!】
地に何度も大溝が引かれ、地形を変えていく。恐るべき威力、下級魔術とは信じられない程の威力だ。
その振動が気に障ったのだろう。
前方が盛り上がり、大樽程の太さが地中から突き上がった。
大砂虫だ!
その顎門が、大きく開く。内壁は無数の歯、歯!
俺など一呑みにできる。
【閃光!!】
よく絞り込まれた蒼い光条が、何の抵抗もなく迸る。
収束度は以前より圧倒的に高いのに、太さは数倍──
その熱量は数十倍。
砂虫を狙い違わず貫いたとき、光条の周りが刹那に昇華し、ワームの半身を吹き飛ばした。
我ながら凄まじい。
魔圧が一瞬に上がり、発動する。
自分が自分でないような感覚に襲われる。
魔力が減って行かない。魔術を撃つ度、減っては居るが、あっと言う間に補充されていく。無限に撃てるぞ!
我知らず全能感と躁状態に襲われる。
次々と地中から繰り出すワーム達を、間断なく魔術を放ち斃し続ける。
風魔術を駆使し吹き飛ばし、千切り、粉砕を続けること10分。
ぱったり攻撃がなくなった。
それどころかヤツらの反応が遠ざかっていく。
逃がさん!
【劫火!!】
気が付くと、この間より魔力が籠もっていた。
この後何が起こるか、忘れては居ない。しかし、もう慌てはしない。
【光盾!!】
俺とセレナを囲むように、無数色へ分光した障壁低級魔術を構築。
熱風と砂を含む衝撃波を弾いた。
数分が経ち、炎魔術の惨禍が収まった。
地が大きく抉れ、以前あったのが砂なのかなんのか、分からない程に、ガラスのようにひとつとなり褐色に融けたままだ。
周りにワームの反応はない。1ダーデン先に居るやつらもどんどん離れていく。
「ちと、やり過ぎたか」
「ワフ!」
ああ、なんかセレナが怒っている。調子に乗って彼女に獲物を与えなかったからな。
「ごめん。ごめん。あとで魔力をやるからさあ」
「ワッフン!」
機嫌が直らないな。
同じ魔法を使っているはずなのに。王都に来るまでの俺とは別人と思える。
大体魔術の通り方もわかった。魔圧が上がる速度が半端ない。
経験上だが、その速度に比例して威力が上がる気がする。
なかでも中級魔術は、自分でも危険と思える程だ。しかも。まだ全力では撃っていないのだ。空恐ろしくもあるが、超獣を斃すには更なる研鑽が必要だろう。慢心している暇などない。
呪文の中で気になっている部分がある。
解読を進めて、特徴を抽出、他の魔術にも……。
心は逸るばかりだ。
そうとなったら……
「帰ろう! セレナ」
「ワフ!」
皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2018/05/01 魔術名が被ってました。【光壁!!】→【光盾!!】
2021/05/07 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/01/29 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)




