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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
4章 青年期I 上京編
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48話 左腕の聖痕(スティグマ)

俺の左腕がぁああ……って、なんか中二病ぽい。

「すごいね!」


 魔犬(ヘルハウンド)を斃した時、声がした。振り返ると、夕日を背にした人影がある。

 逆光からずれて、顔が見えた。


「豹……」

「豹?」


「……ああ、なんだ。アリーか」


 見慣れた少女だった。でもなんだかとても嬉しい。

 なんか、同じようなことが前にも有ったような気が……豹って何だ?


「なんだって、何よ。王都一の美女、アリーちゃんが、見守っているってのに! って、ラルちゃん、随分疲れた顔してるよ……回復魔術行っとく?」

 王都一は言い過ぎだ……身近に高い壁がある。


「別に疲れてないが! もうすぐ日も暮れるし帰るか」

 少なくとも身体は疲れていない。

「そだね」


 王都に向かって歩き始める。


「で、今日の狩りはどうだった? ギルドの帰りだから、そんなに斃せないか、10頭ぐらいまで数えたけど?」

「10頭って。お前、寝てただろう! 姿を消して」


 アリーは、巫女だ。悪霊系魔獣以外への戦闘力は一般人並だが、気配を消す固有技倆(スキル)を持っている。それゆえ単独行動しても、危険が無い。


「寝てない! 寝てないよ! ちょっと、うとうとって……ラルちゃんが強いから、私の出番がないのよ」

「はあ? 支援魔術とか、やることはあるだろうが」

「いやあ。しなくても、ラルちゃん十分強いし。それに、なんか肌に合わないって言うか?」

「もういい」


「で、どうだったの?」

「うーん。まあまあだな。小物ばかりだけど、23頭」


「23! 凄いよ! 全然まあまあじゃないよ。やっぱりラルちゃんは天才! 受付のサーシャさん、腰抜かすわよ!」


「別に大したことないさ」

 靴紐が緩んでいるので、屈んで締め直す。

「大したことあるって……あっ! どうしたの? その左腕」


「ん? 左腕?」

 腕が、ローブの前袷から出て見えている。


 何か、左腕って、最近話題になったような……思い出せない。まあそれはいいか。

 アリーが出せと手で促して居るので、立ち上がって突き出した。左肘を掴まれる


「ほら、蕁麻疹(じんましん)みたいのが、こんなに沢山。すぐ治癒魔法を!」

 確かにばらばらっと朱くなっている。


「待て! アリー、これは蕁麻疹じゃない。文字だ!」

「文字? これが?」

 アリーは、良く見ようと顔を近づける

「ああ、エスパルダ文字じゃない。アリーには読めないって!」

「ぶーー!」


 これは、呪文だ。


 何で俺の左腕に?

 そうだ、聖クライヤヌスが生まれた時に背中に表れたっていう聖痕(スティグマ)、それと同じ天の啓示……じゃないよな、呪文だし。

 自分を聖人と比較する恐れ多さは微塵も感じず、なぜか当たり前という気分だ。


 ああ火焔の(ਲਪਟਖਧਸਏਗਛਝ)美女よ(ਲਘਨਜਫਥਧ!) アグニス(ਅਗੳਙਸ)女神様 あなたほど麗しい方は……って、いつもなから恥ずかしい聖句だ。


「アリー、離れてくれ」

「何?」

「新しい魔術を試してみる」


 おおっと言いながら、10ヤーデン(9m)も離れた。俺って信用ないな。


「いつでもどうぞぉ!」

 アリーは、こんもりとした土の隆起に身を隠している。


 神名からして炎属性の魔法だろう。荒野で試すのはもってこいだ。半径300ヤーデンに、反応があるのは、人間じゃあ俺とアリーだけだし。

 

 狙いは……あれにするか。それと、もう一つは。

 崩れかけた俺の背丈ぐらいある蟻塚に向けて、腕を掲げる。


 いくぞ!


ਲਪਟਖਧਸਏਗਛਝ(エッペスト) ਲਘਨਜਫਥਧ(デムス) ਅਗੳਙਸ(アグニス)ਡਣਲਤਏਟਮਯ(サーアリック) ……… |ਢਛਕਭਇਬਠਸਗਰਸ《サチュルテスト》 ਨਪਬਇਥਛਲਭ(イグーニス)


 目の奥にチカチカと閃光が走った直後、腕に僅かな反動が来た!


 遅れて、何かが破裂するような、射出音と共に火球が飛んでいった!

 おっ!


 蟻塚に着弾した火球は、上半分を吹き飛ばしたに留まらず、7ヤーデン程の火柱を上げた。

 流石は中級魔術!


「からの!」

 俺の特異能力。魔術は2度目から無詠唱で発動できる、しかも威力は何倍も上がる。


 狙いを変え──


劫火(イーグニス)!!】


 狙いは、先に見定めた200ヤーデン先の丘、こちらに向いた岩壁だ!

 効果規模が不明なので、印加する魔圧は、さっきよりも低め……しかし。


 俺の背丈を超える大火球が迸った──


「ヤバイ!!」


 俺は魔術の結果も視ずに、後ろに向かって駈けた。

 アリーが隠れる窪みに向かって、身を投げ出して身体を捻る。


地壁(マウアー)!!】


「目を瞑れ!」

「何? ラルちゃん、キャッ!!」

 背後から視界を昏くする程の閃光が襲い、直後悲鳴も掻き消す轟音が周囲を圧した。



 ……うう……耳が痛い。

 ようやく収まってきたようだな。

 

 衝撃波が、何度か吹き超した。

 隆起させたはずの土の壁が跡形もなくなっており、下半身が軽く土に埋まっていた。

 ヤバかった。


「おい! アリー。大丈夫か?」

「……もう! ラルちゃん、私を殺す気?」

「悪い! あそこまで威力が出るとは……思ってなかった。あっと、ごめん。すぐ退くから」


 俺は、アリーに抱き付くように覆い被さっていた。

「べっ、別に良いけど……ああ、泥が一杯……イヤン、髪が傷んじゃう!」


 起き上がって振り返る。

 地鳴りのような、遠雷のような振動が未だに響いている。


 爆発的燃焼が衰え、惨状が見えてきた。

 ああっ……。

 標的にした丘は、岩壁はおろか、高さのほとんどが消し飛んでおり、未だ何かが燃え盛かっている。

 上昇気流があるのだろう、そこへ向かって風が吹いている。


「子供の頃さぁ……」

「んん? ああ」

「山火事があったけど。あれ並だね」


 俺たちが7歳の頃、隣村の山を半分焼いた大火事のことだろう。

 アリーと村はずれの峠まで見に行って、帰るのが遅くなって怒られたんだ。


 おっと、昔のことを思い出して気が抜けたのか、脚から力が抜けた。膝を地面に着いた。


「きゃっ! ラルちゃん! どうしたの?」

「問題ない」

 

「ああ……そう。いやあ、やっぱり、ラルちゃんはすごいね。さっき憶えたばっかりなのにね」

「ああ、まあな」


 魔術には格が有って、適正魔力量が変わる。

 それが高い程、同じ魔圧を加えても流れる魔力が大きくなる。今回は初めてだったので、思ったより魔力を込めすぎてしまっただけだ。慣れれば、問題はない。逆に、適正値が低い魔術に無理して魔圧を掛ける方が、効果が不安定になる。それにしても……。


「んん?」

「顔が蒼いよ」

「ああ、いや何でもない」


 何でもなくない。

 いつもは消えている簡易状況表示(ステータス)が、視界の左上に映っている。

 常時発動魔術で生命力と魔力が2本の横棒で示されている。


 これが眼に見えるのは、どちらかの残存量が上限値の半分を下回ったときだ。このような見え方をしたのは1年以上なかったことだ。


 上段は生命力、下段は魔力。

 左から緑、右から赤のせめぎ合い。右端が上限、左端が0、赤緑の境界が現在値だ。


 生命力は、若干減っている。さっきの衝撃波で損耗があったようだ。実感がないが。

 それより。

 魔力の棒が──赤が大勢を占めていた。つまり上限の半分を切っている。


 そんな馬鹿な。

 確かに下級魔術に比べれば、魔力が籠もった気がした。しかし、まだ何回も撃てる感覚があるのだが。しかし、感覚と表示は大幅にずれている。


 詳細表示に変えよう……。

 10種ある俺の能力値が、数値で表示される。魔力値は、721/1534……?


 はっ?

 1534


 この前見たとき、1000まで行ってなかったよな。それが、いきなり1.5倍になってる。まさか……な。

 再読み込み!


 788/1534。

 くう。上限値は同じだ。しかも怖ろしい速度で、分子の魔力現在値が増えてる。


 別の被験者(アリー)で……いや、流石に魔獣用の感知魔術だと、人間用と術式が微妙に違うから万全の確認にならないか。仕方ない。


「何?」

 アリーは、差し出た俺の手を見ている。


「しょうがないなあぁ」

 はにかみながら、アリーが手を繋いできた。

 いや。そう言う意味じゃないんだが。まあ目的は達した。


 魔力上限値338か……やはり感知魔術はおかしくなってない。

 用が済んだので、手を解こうと思ったが、しっかり握られている。


「さて、長居すると王都の警備兵がやって来そうだ」

「だね!」


     †


 王都の城門を抜けて、帰り着く。

 玄関の大きな扉を開けて、中に入る。


「お帰りなさいませ。ラルフェウス様!」

 メイド服の女性が出迎える。


「ただいま。ローザ」

「たっだいまぁ。お姉ちゃん」


 入ろうとしたら、両手を広げて止められた。


「2人とも埃だらけですよ! 外で払ってから入って下さい。アリー髪の毛まで、泥が付いてるわよ、何してたの?」


「ラルちゃんと泥遊びだよ! 良いでしょ!」


 意味がわからん。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/08/10 呪文の誤字訂正

2021/10/09 誤字訂正

2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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