440話 救済者
予告しておりましたが、新作「異世界にコピペされたので剣豪冒険者として生きてゆく_だが魔法処女に回り込まれてしまった」の連載を開始しました。
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末尾にリンクがあります。苦戦中です。是非お読み下さい。
「ルーク・ラングレン。御前に」
やはりエスパルダ語だ。
「はい」
僕は、1人で祭壇の前まで歩く。
なんだろう?
まだ少し距離があるところで、騎士の1人が僕の前に来て遮られた。そして多分杖という棒状の物を近付けた。
尖端に鈴が付いている。
数秒間そのままだったけど。しかし、騎士の1人は、笑顔を浮かべるとそのまま、列に戻っていった。
何なの?
あれは、もしかして魔導具だったのか。
猊下は、両手を前に出された。ここに来いと言うことみたい。
もう挨拶しても良いらしい。
数歩歩いて跪く。
「教皇猊下。お目に掛かることができて、光栄に存じます」
エスパルダ語だから、無難な言葉にした。
「ふむ。この幼さにして、度胸が据わって居る。流石はラルフェウス卿の子、顔がそっくりだ」
「はい。よく言われます」
見上げると、猊下は笑っていらっしゃった。
「そなた、聞くところによると、ミストリア王都の危機を救ったそうだな」
「いっ、いいえ。僕は少し手伝っただけです。我が国の賢者達が護ったのです」
「そうかね。いずれにしても、一瞬でこの聖都へやって来た奇蹟を為した」
「そっ……」
それは、父上の魔術で……言い掛けて止めた。
猊下は何か狙いを持っていらっしゃるのだ。何かは分からないけど。
猊下は、大きく腕を広げた。
「ルーク・ラングレンに祝福を与えよう」
「お待ち下さい!」
えっ? 誰?
その声は、広間に響き渡る程大きかった。
声の主は、足音を蹴立てて僕の横へやって来た。
思わず立ち上がる。
紅い肩掛けをしている。そうだ、枢機卿という確か教皇猊下の次に偉い神職様だ。その人が何を言い出したのだろう?
「アマデオ。何かね? 異議でもあるのかね?」
「無論異議がございます」
細い体型の男が、僕を睨んだ。
「この幼子は、あのラルフェウス・ラングレンの子。祝福など与えてはなりません」
「その言い方はなにか? まるでラルフェウス卿が咎人のようではないか!」
「その通りにございます」
なんだって!
僕は思わず、枢機卿を睨み返した。
「それ、その形相! 馬脚を現した」
教皇猊下を振り返ると、手で自分の額を押さえていた。
「アマデオ。ラルフェウス卿は竜からこの聖都を守り、またミストリア王都に飛んで竜を阻んだのだ。彼が居なければ、幾万、幾十万の人々が死していたかも知れぬ。近代稀に見る聖人と……」
「それが間違いです。騙されてはなりません」
「なんと」
「竜を退けたのは、レガリア駐屯地が撃った神の雷。これに怯んだ、竜が他国に逃げ、そこで力を失ったに過ぎません。故に今回の功は、レガリアに拠るものです。ラングレンは他者の功績を奪った重罪人です」
なんてことを言うんだ、この人は! 父上を侮辱するとは、許せない。
「竜が逃げたか」
「はい」
「1つ訊くが、あれだけの巨体をミストリアまで転位させることができる竜は、果たして逃げる必要があったのだろうか?」
「はっ?」
「転位した先のミストリアでは、ブレスを2射放ったと聞く。とても追い込まれているとは思えぬ。それどころか、連盟の者に依れば、神の雷とやらはラルフェウス卿を狙っていたと言うことだが」
「そっ、それは、そのようなところに居た、ラングレンが悪いのです!」
「仮に、その位置に居たとして、ラルフェウス卿は下から竜を狙っていると、どうして知り得よう。レガリアは、自国王都防衛の魔導具を受け取り、また国家間転送魔導器を連盟から受け取った。にもかかわらず、神の雷とやらの存在を知らせては居なかったのだぞ。これは明らかに連盟に対する裏切りだ」
「我々は、連盟とは違います。それに。手続きはどうあれ、結果が良ければ良いのです。レガリアこそ賞すべき……」
枢機卿は言葉を止めた。教皇猊下が何度も首を振ったからだ。
「残念だよ、アマデオ。レガリアに不義を唆したのは、お前自身だということだが?」
枢機卿の顔は強ばり、そして弛緩するとニヤリと笑った。
「そのような話、どこから? 言の葉に乗せるのも汚らわしい」
「ラルフェウス卿!」
「お呼びですか。猊下!」
「父、父上!」
何もなかったところに、忽然と父上が現れた。
「ラッ、ラングレン。貴様、どうやって……」
そう。どうやって? 僕がここに居るというのに。
父上は、微かに笑ったように見えた。
「無論、国家間転送所を使ってですよ」
えっ。使えるようになったの?
「そんな馬鹿な!」
「再開後の使用者第1号だそうです。もっとも、一昨日辺りから使えるようになっていたそうですが。おや、枢機卿。私が来たのが意外ですか? そうでしょうね」
聞かれた方は憎々しげに顔を痙攣させている。
「枢機卿。あなたのお考えの通り、レガリアはあなたを売ったのですよ。人を裏切る者は何度でも裏切る。これは歴史的真理のようですな」
「くっ……」
枢機卿は崩れ落ちるようにうずくまった。
後から聞いた話では、この枢機卿がレガリア軍の一部と謀って、父上を陥れようとしたそうだ。
「天使様が、この男こそ悪だと仰ったのだ」
何?
「私には、天使様が付いているのだ。この男を殺せ! そう仰ったのだ」
「アマデオ」
「なんだ?」
「悔い改めよ! 天使は、人を殺せなどとは、仰ることは有り得ない」
「はっはは、ひぃひひ。それは、天使様にお目に掛かったことがないからだ。誑かされるな。その男は、豹頭の堕天使が操っているのだ。天使様はそう仰っていたぞ! 悔い改めるべきはラングレンだ!」
「豹の頭? 堕天使? 知らないな。何のことやら」
さっぱりわからない。
「アマデオ。私には分かるぞ。お前の言葉にも、ラルフェウス卿の言葉にも嘘はない」
むっ!
教皇猊下の手には、始めて面談した時に見た杖がいつの間にか提げられていた。杖の先端にぶら下げられた鈴は鳴っていない。
あの魔導具、俺の魔術常時発動を鳴って警告したが、人間が嘘を吐いていることを暴く機能もあるのか。どういった術式なんだ。
「そこから導き出される結論は、お前が見たものは天使ではないということだ」
「天使様 姿を現して下さい……この者達に罰を!」
聖堂は、それっきり静まりかえった。
枢機卿は、がっくりと肩を落とした
「アマデオ。我テオドリク4世の名において枢機卿位を剥奪し、光神教会から破門する」
教皇猊下の宣言に、元枢機卿は何の反応もしなかったが、神職に両脇から抱え上げられ、広間から連れ出されていった。
†
「改めて、ルーク・ラングレンに祝福を与えよう」
教皇猊下は自らの唇に触れた指を、跪くルークの額に当てた。
「僕に幸多からんことを」
ルークは立ち上がると、左胸に手を当てて会釈した。
猊下がこちらに向き直った
「ラルフェウス・ラングレン」
「はい」
俺は、教皇猊下の前に跪いた。
「そなたは、良き子息をお持ちのようだ」
「自慢の息子です」
「ははは、そうかそうか。神職の身ではあるが、少し羨ましいな」
確か、教皇猊下は未婚だ。
「うむ。アマデオの件は、教団を代表してお詫びする」
胸に手を置いて謝意を示された。
「猊下……」
「アマデオのことは赦してやれとは言わぬ、せめて忘れてやって欲しい」
「はい」
猊下は大きく肯かれた。
「その心根、誠に殊勝。光神教団は、汝に救済者の称号を贈り、永く語り継ぐであろう。ありがとう。よく人々を救ってくれた」
救済者!
「光栄に存じます」
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訂正履歴
2022/10/22 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)
2025/05/11 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




