439話 ルーク 教皇と会う
予告しておりましたが、新作「異世界にコピペされたので剣豪冒険者として生きてゆく_だが魔法処女に回り込まれてしまった」の連載を開始しました。
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末尾にリンクがあります。苦戦中です。是非お読み下さい。
着替えてから執務室へ戻ると、モーガンが待っていた。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
俺が帰って来た時、彼も玄関には居たが妻達と再会の邪魔をしないように、端に立っていた。
「首尾は如何だったでしょうか?」
控えめな態度で訊いてきた。
彼の関心は、無論家族の話ではない。
「ああ、国王陛下の厳命で、遺憾ながら棘1本の半分を受け取ることになった」
「厳命……そうですか。お館様のご意志は通りませんでしたか」
今日、財務省へ出向いた時に起こることは想定できたので、昨日の段階でモーガンと話をしてあった。もし、棘の一部を下賜するとなった場合は、辞退すると言い渡してあったのだが。
それに対して、モーガンとしては、内心我が家への利得を望んでいたはずだ。しかし、俺に異論を挟まなかったのは、ある意味で彼の老獪さという所だろう。
「ところで、お館様のことです。どの程度の量になるかご存じかと思いますか」
「1250ガルパルダだ。今のところ棘1本を預かっているが、半分は一時所得税として物納するからな」
2本は官僚の依頼で、財務省の倉庫に収納してきた。
「それはまた……膨大な量ですな。お館様は不本意なのかも知れませんが、ありがたいお話です」
「我が家も物入りだからな。とはいえ、財務省から処分方法に注文が付いている」
「短期に売却するなということでしょうか?」
察しがよい。
「そうだ。特に国内へ全量売却すれば、銀相場が崩れる量だからな」
「では、お館様が、王都にいらっしゃるうちに、セブンス商会を呼びましょう。ゴメス殿ならば役に立ってくれるかと」
†
「聖都郊外における被害状況は、分かってきました。地面に竜のブレスが直撃した溝が、何筋か発見されていますが、幸い荒れ地でしたので農作物等への影響はほぼないとのことです」
『そうか。何よりだったな』
バルサムさんが、国家間通信魔導器に向かって、父上と話している。
全く父上の魔導具は凄い。その声は、すぐそこにいらっしゃるようだ。
僕は後ろに座って、黙って待っている。
バルサムさんが、父上を驚かせましょうと通信を始める前に言っていたからだ。でも父上の感知能力は凄いからな。黙っていても僕がここに居るのが分かるかも知れない。
父上の凄さは竜を退けただけではない。
あの王宮にあった障壁魔導器も元々は古代技術らしいけど、それを改造強化したのは父上だ。あれがなければ、王都はどうなっていたか、考えたくない。おそらく僕は生きていなかっただろう。
そして、あの障壁魔導具は、同じ物が僕の居る聖都にも設置してあって、王都に竜が来る前に動いたそうだ。そして、連盟という国々に設置させたのは、もちろん我が国の国王陛下のご尽力も大きいけれど、父上の働きかけがあったからだ。
今日の午前中にお目に掛かったカリベウス・ディースというお名前の、新世界戦隊総隊長がそう仰っていた。
凄く恐そうな人だったけど、父上が世界のために如何に働いてくれたのかを僕に説明してくれたときの眼は、とても優しかった。最後には大きくなったら、ネフティスにも来なさい。とても景色が良いところだからと誘って下さった。
「報告は以上です」
『うむ。ご苦労!』
おっと。思い出している内に、バルサムさんの報告は終わったようだ。
こうして通信しているのは、こちらに来てから4日も経ったのに、まだ転送所は使えないからだ。
「つきましては、ルーク様から、お話がございます」
『ルークから?』
「はい」
ここに僕が居るのは、感知できなかったようだ。
『分かった。代わってくれ』
「ルーク様」
立ち上がると、にっこり笑ったバルサムさんが椅子を持って退き、フラガが運んでくれた座面の高い椅子に腰掛ける。
「父上」
『ああ、ルーク。元気そうだな。今日は総隊長殿にお目に掛かったのだろう』
「はい」
『話とは、そのことか?』
「いいえ、違います」
『ふーむ。そうか。ああ、私用で国家間通信を使ってはいかんのだぞ』
「申し訳ありません。でも、どうしてもご報告と、ご指示を戴きたいことができまして」
『そうなのか? 言ってみなさい』
「はい」
答えてから、少し唾を飲み込む。
「実は昼過ぎに、教皇庁からご使者が来られて、教皇猊下が僕にお会いになりたいと、申し入れがありました」
『ほう。教皇猊下が』
「それが、明後日なのです。明後日、父上は聖都にお越しになりますでしょうか?」
どうだろう。
『うーむ。そろそろそちらに行きたいのだがな。こればかりは、何とも言えぬ』
「そうですよね……」
駄目そうだ。
バルサムさんが、何時使えるようになるか分からないと、言っていたしなあ。
残念だ。折角だから猊下に一度お目に掛かりたいと思ったのだけど。
「では、教皇庁の件は、お断りしておきます」
『んん? その必要はない。父が居らずとも、お目に掛かればよい』
「えっ?」
『別に猊下は私に会いたいと仰ったわけではないのだろう?』
確かに会いたいと伝えられたのは、僕だ。
「そうですが。よろしいのですか?」
『うむ。バルサムも居るしな。バルサム、聞いた通りだ!』
「はい。承りました」
てっきり父上と一緒でなければと思い込んでいたけれど。意外だった。
こうして、僕は教皇庁へ行くことになった。
†
辻馬車を呼んでもらって、中枢地っていうところにやってきた。実は一昨日の午前中にもクローソさんに案内されてやって来たのだ。すぐミストリアに戻るはずだったから、また来ることになるとは、思ってもみなかった。
すぐ父上が迎えに来てくれて、ミストリアに帰るつもりだったし。
バルサムさんは、父上に付いて何度か来たことがあるって言っていた。
『折角だから観光していけば良いわよ。もう竜は来ないんだし。でも、ここには子供が喜びそうな名所はないのよねえ』
そう言っていたクローソさんは、今日は留守番だ。
なぜなのか、昨日訊いてみたところ。
『ああ。あそこはねえ。一般人が礼拝に行くところとは違っていてね。歴史的に、女はあんまり歓迎されないのよ』
そう言っていた。宗教的な慣習らしいけど。
普段お導き戴いている、エルディア大司祭はそんな感じではないんだけどなあ。
母上も信頼しているし、珍しくレイナも懐いて居るし。
「ああ……」
ここじゃないんだ。
マグノリア大聖堂。
多分聖都で一番背が高い尖塔の横を通り過ぎていく。
「ルーク様。もうすぐ着きます」
「はい」
数分で石畳の広間に着いた。
「正面の建物です」
玄関まで来ると、バルサムさんが振り返った。
「お前達は、ここで待て」
別の辻馬車で来た騎士団の人達だ。
「はい。お待ちしております」
教会内には、特に許された者以外、武装しては入れないからね。
若い司祭様が出迎えてくれたので、バルサムさんとフラガと3人で、石造りの建物に入っていく。
急に緊張してきた。
バルサムさんは、教皇猊下はエスパルダ語を話されるので、ルーク様でも話すことができますと言っていたけど。
いくつかの木の扉を潜り抜けると、小さい広間に出た。
祭壇の前に、蒼いベストを纏った騎士が並んで居て、その中央に蒼い刺繍が施された白い聖衣を着けた人が居る。
頭には三重冠帽。
教皇猊下だ。
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2022/09/19 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
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