438話 絶対者と普通の人
ラストスパートです!
追伸
予告しておりましたが、新作「異世界にコピペされたので剣豪冒険者として生きてゆく_だが魔法処女に回り込まれてしまった」の連載を開始しました。
https://ncode.syosetu.com/n6470hv/
末尾にリンクがあります。苦戦中です。是非お読み下さい。
3月3日。ミストリア王都に戻って来た2日後。
そろそろ教皇領国家間転送魔導器の魔力が溜まってくるはずなのだが、どうも連盟レガリアと揉めているようだ。いつ使えるようになるのか分からない。
そう思いながらも、王都でやるべきことも多い。
昨日は、合同現場検証も無事済ませた。今日は昼過ぎになって、王都内郭、南街区にあるいわゆる官庁街にやって来た。
俺がたまに通う外務省や内務省とは、大通りを隔てて反対側。財務省の庁舎が建ち並ぶ区域だ。庁舎と庁舎に挟まれた中庭のような広場に居る。
高級官吏は、その大半が王都に残っていたようで、今日辺りから出勤してきているようだ。その目を避けるためか。広場の周囲を幔幕で囲っている。
お越しになったか。
カチカチと蹄鉄が石畳を踏む音が聞こえる。すると、道を塞いでいた幕が開き、白亜の馬車が入って来た。後続で3台の馬車も続く
起立して迎える。
赤い絨毯が敷かれたところの前に馬車が停まり、踏み段が用意されて扉が開いた。
いつもなら、大音声で触れがあるのだが、今日は公式行事ではないからか、静かに陛下が降りてこられた。
儀仗がザンと鳴って、それに従って待っていた我々が跪く。
10ヤーデン程歩いて、可搬式の玉座へ着かれた。
その両横に宰相と先年財務卿に成られた、マルカン伯爵とおそらく財務官僚達が大勢並んで、俺の方を遠巻きに見ている。
これ位、距離があれば大丈夫だな。
「では、ラルフェウス卿。ご披露願います」
披露か。
「承知しました」
陛下と宰相閣下に会釈する。
【光壁!】
予め透視可能な障壁を張る。
【魔収納出庫!】
「「「おおぅ」」」
数ヤーデン上の宙に、黒光りする巨大な物体が忽然と現れた。
その刹那、放射状に突風が吹いた。
物体が元々あった空気を押し出したのだ。
こちら……俺の背後にいらっしゃる陛下へ累が及ぶことのないよう、予め張った光壁に当たって上方へ抜けていった。しかし、他の方向にはそのまま吹き抜け、幕をバタバタと揺らした。
「ほぉぉ。これが竜の棘!」
思わず陛下が、立ち上がった。
直径5ヤーデン、全長18ヤーデン程。緩やかに反った弧状で、先端が錐状に尖っている。ただ、俺が一部を溶かしたのと、大地にぶつかった所為か歪んでいる。
「これほどの大きさだったとは……」
「はい。昨日、現場検証の後、地中より取り出しました、黎き竜が放ちました棘でございます。他の竜を封じ込めていました。無論今はただの物体に過ぎません。成分はほとんど魔導抵抗の少ない純銀です」
「それから、こちらとは別に落下前に鹵獲した2本が有りますが。そちらもお目に掛けますか?」
陛下は、溜息を吐いて玉座に着席された。
「ああ、ラルフェウス卿。出してみてくれ」
「承りました」
同じように、並べて出庫した。
「呆れた量だな。幕を張り巡らしたことは、やや大袈裟と思ったが……ううむ」
驚いたというより呆れたという感じだ。
「ラルフェウス閣下!」
見知った官僚の1人が手を挙げた。
「何か?」
「こちらの重量は、如何ほどでありましょうか?」
昨日の現場検証で知らせたはずだが。
「量ったわけではありませんが、3本でざっと7500ガルパルダ(約5400トン)程かと」
「7500……我が国の消費量の、およそ10年分ではありませんか!」
「金額に直せば、1ダパルダ(約0.73kg)で75スリングとして……」
557万ミストだ。
金の100分の1だからそんな物だろう。
値崩れするだろうから、目安に過ぎないが。とはいえ、一気に市場に出せる量じゃないな。
「500万ミストを超えます」
「500万……」
列席者がざわつく。
流石に宰相閣下の表情も変わっている。
「所有権についてですが……」
連盟の職員だ。
「ああ、そうだな。聞いておこう」
「連盟規則によれば、戦隊員が得た利得に付きましては発生国所有が原則であり、連盟では一切関知致しません。また他の加盟国には情報開示致しません」
今度は財務省の官僚だ。
「続きまして、税務庁の見解を述べます。連盟殿のお話を受けて、目の前にある物は全て我が国の物となりますが。所有権については2通りに分ける必要があります」
「2通りとは?」
「鹵獲品と埋蔵品の2通りです。右と真ん中の棘につきましては、ラルフェウス卿が公務中に得られた物。つまり鹵獲物ですから、すなわち国家の物となります」
「ふむ」
宰相閣下が肯く。
「残る左の棘は、埋蔵物扱いとなります」
いやいや。俺が飛来した軌道を逸らせて、地中に埋まっただけだ。それに埋まったのは、一昨日だ。それでも埋蔵物になるのか? 税務庁らしくない。何らかの意思が働いていると見るべきか。
「よって、見つかった土地所有者と発見者の物となります。今回はそれらが同一人のため、全てラングレン家所有となります。ただし、埋蔵物には時価から必要経費を除いた額の5割が一時所得税として課税されます」
必要経費は0として、ウチの税引後収入は93万ミスト弱か。
おおよそ我が家の収入5年分だな。
「宰相閣下!」
「ラルフェウス卿。何か?」
「ラングレン家当主として、意見を述べさせて戴きたく」
「聞こう」
「ラングレン家と致しましては、埋蔵物に課される所得税を物納すると共に、残りに付きましては、国庫へ寄付致したく存じます」
そういうつもりで、竜に立ち向かったわけではない。ただでさえ、我が家は、嫉妬の目で見られるのだ。これ以上はかなわない。
宰相閣下の眉が上がった。
「ほう、それはまた殊勝な……」
「はい。つきましては、城外復興の一助にして戴ければ……」
「却下だ!」
遮った声の方を向く。
「陛下……」
問おうとした宰相をさらに抑える。
「駄目だ。国庫に寄付などは許さぬ。聞けば、卿の土地にあった施設が被災したのであろう?」
「はっ、はぁ……」
「そもそも。棘の半分以上を鹵獲品として国庫に入れることになるのだ。それで十分だ。卿は寄付と言うかも知れないが、他国から見れば、我がミストリアが取り上げたとしか見えぬ」
むぅぅ。
「法令に基づき対処せよ! 厳命だ。よいな!」
「承りました」
中々に恐い顔をされている。
「うむ。それでよい。宰相、内務卿。異見を述べる者が居れば、朕が許さぬとな。政府内、貴族、そして国内外へ遍く布告せよ」
「謹んで承ります」
宰相閣下以下が胸に手を当てて、陛下へ向けて会釈した。
なるほど。
今は幕を張って、衆目を阻んではいるが。今回の件は公開されるのが、ご意志らしい。
あとは税務庁にはおそらく王宮から、圧力が掛かったのだろう。
「では、帰るぞ」
敬礼していると、陛下は立ち上がった。
そして、あっと言う間に馬車へ乗り込み、広場を後にされた。
他の方々が立ち去ろうと準備される中、内務卿が手招きしているのが見えた。
俺は、足早に寄っていく。
「ラルフェウス卿」
「はい」
「陛下がお怒りを顕わにされる時は……」
「さほどお怒りではない」
お怒りの時は、逆に平然とされているように見えるらしい。
「ふむ。知っておったか」
寄ってきた外務卿も肯かれた。
「知っては、おりますが」
「なんだ、ご真意までは測りかねたというところか」
「はい」
素直に肯く。
「簡単に言えば、卿から寄付を受け取るわけにはいかないというのは、ご本意だろう。それと、群がってくるだろう有象無象に、卿が煩わせぬようにとの、ご配慮だ。お陰で私も色々手を回さねばならぬ」
確かに隠し立てをすると、かえって露見した時に反動が大きくなる。
「申し訳ありません」
「いいや、それが仕事だ。それに陛下と同意見だからな。喜んでやらせてもらおう」
「恐縮です」
「うむ。ではな」
「はっ!」
胸に手を当てて、見送っていると。
「あのう……」
振り返ると財務省の官僚が居た。
「子爵様にお願いがあるのですが」
「分かっている」
†
馬車に乗って館に戻ってきた。
おっ!
敷地に入って庭を回っていくと、大勢が本館玄関に並んで居るのが見える。まあ通信で知らせてはあったのだが。
「おかえりなさいませ」
ローザにプリシラ、それにアリーも領地から戻って、俺を迎えてくれた。
ローザに抱き付く。
「こたびは、久々に心配致しました」
「済まんな」
「いいえ、安堵しました」
涙ぐんでいる。ローザは意外と涙もろいと最近知った。
「おかえりなさい」
「アリーは、ゆっくりしてくればよいと言ってあっただろう」
随分腹がせり出してきているからな。
「えー。私だけって訳にはいかないわよ。ああ、私はお姉ちゃんと違って心配していないからね」
「そうかそうか」
軽く肩だけ抱く。
「おかえりなさいませ。旦那様。おめでとうございます」
プリシラはにっこり笑って迎えてくれた。
ゆっくりと抱擁してから居間に入った。
乳母が、次女を俺に一度抱かせると下がっていた。
「レイナは?」
プリシラの表情が少し曇る。
「申し訳ありません。それがついさっきまで、館内を走り回って居りましたが、ルークさんが御館に居ないことがやっと理解できたようで、大泣きしたあと部屋でふて寝しております」
「そうか。ああ、呼びに行かなくとも良い」
「そうよ。エルヴァ屋敷でも、レイちゃんが大泣きしてねえ。早く帰る、早く帰るって、毎日大変だったんだから」
「レイナには悪いことをしたな。だが、今後このようなことはない……とは言えぬが、少なくとも、竜や超獣に脅かされてそうなることはない」
「はい。レイナのことはよいとして。なぜルークさんは、教皇領へ行ってしまってのですか?」
プリシラは、不思議そうに訊いてきた。
理由までは知らなかったようだ。
「ああ、そのことだが……」
ざっと説明した。
途中からプリシラは俺を睨み、それでも何も言わないローザを見遣った。
「ローザ様。なぜ怒らないのです! もしかして、ご存じだったのですか?」
しかし、ローザは瞑目して何も答えない。
「ルークさんは、いくら賢いと言っても、たった6歳の子なのですよ。そんな幼子に、なんてことをさせたのですか? 旦那様!」
矛先がこちらへ来た。
俺なりに成算はあったが、返す言葉がない。
「プリシラさん。ルークは……たとえ死すとも旦那様のお役に立てばよいのです。それに、旦那様は、あれほど怒って戴けました。十分です」
むっ。
「まあ……お怒りになったとは?」
「あれ? 聞こえていなかったの。プリシラは。旦那がよくもルークを撃ったなあって、叫んだやつ。竜と戦った時」
ローザとアリーには聞こえたのか、領地まで届くとは。そんなつもりはなかったが、竜を威圧する為に気合いが入ってしまった。
「いっ、いえ、私は。そうだわ、レイナは寝ていたのに突然起きて。父上の声がした。とても恐かったと申しておりましたが。はぁぁ。分かりました。旦那様としても、御本意ではなかったいうことですね」
「うむ」
「旦那様。ローザ様が、なんと仰ろうともお子達に危険が及ばぬように、お願い致します」
「わかった。善処する」
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