436話 災厄IX もう1人の英雄
本日2話目投稿です。多分もう1話本日中に投稿します。
いやあ、仕事で四国へ行っていたのですが。帰りに金比羅宮に寄りました。
膝が笑いすぎてへろへろになりました。
追伸
予告しておりましたが、新作「異世界にコピペされたので剣豪冒険者として生きてゆく_だが魔法処女に回り込まれてしまった」の連載を開始しました。
https://ncode.syosetu.com/n6470hv/
末尾にリンクがあります。是非お読み下さい。
「なっ、これは」
映像には、バロール卿とグレゴリー卿の2人が映っていた。
「ここは、この王宮の魔導障壁制御室ではないか?」
「国家間転送を使わず、自力で戻ったとは……」
止まらぬ映像は、王都の上空から見下ろした惨状を映し出し、広間にいる者の言葉を奪った。
そして。黎き竜を磔にしたところまできた。魔力を順調に吸収していき、そして3本の棘が射出された。
うぅぅむ。
広間が低い、呻き声で満たされた
1本が王都へ向かって墜ちていったが、それが逸れた。
「あの最後の地響きはこれだったのか」
「あれが、逸れなければ」
「魔導障壁には、物理防御力はありませんので……」
「ラルフェウス卿が、魔術で軌道を変えてくれたのだな」
「はい」
事実なので首肯しておく。
そして、黎き竜の前に3色の靄のような、ガスのような、それが凝集した塊が遮ったのだが、その途端映像が乱れて暗転してしまった。
なぜかアストラル体という言葉が頭を過ぎる。
「むっ」
映像魔導具に手を翳す。映像が少し戻って、再び再生されたが、やはり映像が乱れた。
「申し訳ありませんが、何かの影響で映像が失われたようです」
結構な物理的な衝撃が有っても、こうはならないはずだが。
おっ! しばらく、そのままにしておくと、再び光が乱れて映像が戻った。
黎き竜が形を失ってアストラルとなったが、数秒後には4体とも球体を象ったかと思うと、目映い尾を引いて四方に散った。
「止めよ」
「はい」
陛下だ。
「あれで、黎き竜も滅んではいないのか?」
「はい。実体化する魔力を失っただけと拝察致します」
「ふぅむ」
「ならば、時が経てば再び実体化して、災厄を起こすことも」
「ありえるかと」
「なぜ、滅ぼさなかった? 卿にはそれができたのではないか?」
「滅ぼせたかどうか。それは分かりかねます。まずもって、あの朱、蒼、そして黄金のガスのように見えますが、あれは他の成竜です」
「なんと」
「あのガスのように見えるのはアストラルという魂の形態であり、最後に黎き竜もそうなったことから分かるかと存じます。映像では途絶えておりますが、アストラル体の彼らに止められました。今、自分たちを滅ぼせば人類自体も生きてはいけぬと」
「なんと。どういうことか?」
「では……」
竜とは竜脈そのものであり、魔素を清浄に保つ役割がある。
そうしなければ、やがて魔術は使えなくなり、生物も死に絶える。
簡略に説明した。
竜達の主張は、まんざらデタラメではない。あの時もそうは思ったが。
「ところで。止められたとは、竜と会話したのか?」
「音声ではなく、念によるものです」
記憶に微妙な違和感があるが。
「確かに、竜が力を失った。そこまでは理解できる。だがそれで、災厄を回避できたと言い切れるだろうか。ああいや、竜達と会話したという、卿は確信しているだろうが」
地上に居た人々には、納得しづらいか。
「もっともなことに存じます。傍証ではありますが、世界で同時多発に現れた白い巨大超獣が一斉に消滅したと各国からの魔導通信により報告を受けております」
王宮に来るまで、4件もの同内容の通信を傍受した。
「巨大超獣は、昇華した成竜に取って代わる存在でありますが、それらが消滅したということは、しばらく昇華が起こらないということを意味します」
「なるほどな。ラルフェウス卿が申すこと、論理は通っておる。賢者ディアナ・ルーナス。如何に?」
ディアナ卿?
玉座の裏から巫女姿で現れた。
相変わらず神出鬼没、全く感知できていなかった。
「陛下。竜脈の件。古代エルフの記録にもございます。それとは別に。ラルフェウス卿の報告の通り、王都の空に垂れ込めていた暗黒は吹き払われた。取り急ぎ行いました巫儀では、そのような託宣が得られました」
ディアナ卿は、これまでに見た中では、最も凛々しい面持ちでこちらを見た。
この短時間に、よく分かるものだ。
本当ならまだまだソフィーの及ぶところではないな。
「つまり、災厄は回避できたということだな」
「はい」
はぁぁと溜息が各所で漏れる。今回の竜の襲来が、そしてブレスが、王都に居た者に恐怖を与えて居たのだろう。
弛緩したあと、ざわざわと私語が交わされた。
「それと!」
再び、皆の視線がディアナ卿に向く。
「もうひとつ、竜を滅ぼさなかったことが論点かと存じますが、災厄とはすなわち竜の代替わりと言えます。つまり、仮に現代の竜を滅ぼしたところで、再び次代の竜が現れるだけのこと。しかも、竜脈の勢いは近年になく勢いを増していることは明らか。次の災厄まで1周期以上は伸びたと託宣で出ております。巨大超獣が現れぬならば、良き選択だった言えるかと」
「うぅむ。1周期と言えば400年か。グレゴリー、バロール両名の見解は?」
はっと答えて。グレゴリー卿が会釈した。
「小官には、災厄のことは分かりかねますが。先程までの邪悪な魔界を、今は感知できません。また、ラルフェウス卿が、魔術により黎き竜の魔力を吸引していたことは、確認しております」
「右に同じ!」
大きな声で、バロール卿も答えた。満面の笑みだ。
「そうか。理解した。朕は、我が国に発令していた非常事態宣言と都市からの疎開令について、現時点を以て解除する」
「御聖断承ります」
閣僚が一斉に胸に手を当てて上体を折った。
陛下は、背もたれに身を預けると、両肩を大きく下げた。
「……いや、安堵した。賢者4氏ともご苦労だった。このクラウデウス、全臣民……いや、世界中の人類に成りかわって感謝する。追って、厚く遇するであろう」
「はっ! ありがたき幸せ」
グレゴリー卿にしたがって、4人並んで跪いた。
「陛下」
「グレゴリー、何か」
「差し出がましいとは存じますが。この度の功、ラルフェウス卿が抜きん出ていること、言うまでもございませんが。卿の子息についても、お忘れなきよう」
陛下は身を乗り出した。
「そうであった。彼の者に報いねばな。ラルフェウス卿に恨まれては叶わぬ」
「はっ? それは、どういう意味でしょう」
「どういう意味も何も、卿は叫んだではないか。よくも、王都を……ルークを撃ったなと」
「あれが……。聞こえましたか?」
「うむ。大音声でな」
右を向くとバロール卿も肯いている。
閣僚達も笑みを湛えている所を見ると、皆に聞こえていたようだ。
「魔力を込めて叫んでいたからな、魔導通信含め相当な範囲まで聞こえているはずだ」
「それはなんとも。恥ずかしい限り」
「何が恥ずかしいものか。卿も人の親で良かった。それはともかく。ルークであったな。彼の者はどこに居るのか?」
「陛下。実は息子は王都には居りません。おそらくは教皇領の聖都に居るかと」
「教皇領だと! なぜ?」
「そのような魔術を使いました」
「うぅむ。まあ良い魔術のことは訊いても分からぬ。だが聞き捨てならぬことがある。おそらく……そう申したな。確認して居らぬのか?」
「はい」
陛下は瞑目して、首を振った。
†
「うわっ!」
目の前が明るくなると、身体の重みが戻って転げ落ちた。
「痛ったぁ……」
「ルーク様、大丈夫ですか?」
フラガは自分も痛いだろうに、跳ぶように起き上がって、僕に手を差し伸べてきた。それを取って、僕も立ち上がる。
「うーん。大丈夫。ここはいったい……」
見たこともない部屋に居た。
明らかにさっきまで居た王宮の部屋とは違う場所だ。
フラガの他には、セレナも居る。
だけど、いつも張っている魔導感知が今は働かない。
「あっ! クローソ奥様?」
慌てて辺りを見回していた、フラガの顔が止まった。ソファーの後ろから、クローソさんの顔が出てきた。大きく目を見開いて、無言のまま口をパクパクさせている。
ああ。やっぱりそうなんだ。ここは、教皇領都なんだ。
歩み寄って、肩を揺する。
「えっ、えっ、ええっぇぇええ? ルーク……ルークなの? フラガに、それはセレナよね?」
「はい。ルークです」
「はぁぁ。びっくりした。旦那様が消えたかと思ったら、急に大きな蒼白い球が現れたから咄嗟に隠れたのよ……でも、なんでここに? ルークは、ミストリアの王都に居たのではないの? えっ、じゃあ旦那様は?」
いつも上品で淑やかにしているクローソさんが、半狂乱になっている。
無理もない。
「ああぁぁ。父上は、多分。王都にいらっしゃると思います」
「王都って、転送したってこと?」
「失礼致します!」
扉が開いた。
「大きな声が聞こえましたが、何かござい・ま・し……? ルーク様ではありませんか。なぜこちらへ?」
「バルサムさん!」
物音を聞きつけて駆け付けてきたのだろう。
「ああ……父上の魔術です。僕と……王都に居た僕達と、ここにいらっしゃった父上が魔術で入れ替わったんです」
「まったく信じられないわ。ここから王都までは、何千ダーデンも離れているというのに」
「そうかも知れないけど。父上のやることだがら。理解して下さい。僕達がここに居るのが証拠で……ふぅ」
フラッとなったけど、フラガが支えてくれた。
「ルーク様。やはり、まだ!」
確かに気を抜くとだめだ。身体が重い。
「ルーク、大丈夫なの?」
「はぁ……大丈夫です。魔力が切れて疲れているだけです」
「そっ、そうなの」
「ルーク様は……」
「フラガ!」
彼は押し黙って、下を向いてしまった。
「ともあれ。それが事実だとすると、現在は国家間転送ができない状況にあるということですか?」
バルサムさんは、顎に手を持って行って考えているが、流石に落ち着いている。
「多分ね」
そう。こんな手の込んだ魔術を、父上がわざわざ使った理由はそれしか考えられないだろう。
「その上で、お館様が王都へ赴かれる必要があるということになりますが……」
「うん。王都の空に、大きな黒い竜が現れたんだ」
「ええ? それで王都は?」
「僕達が居た時までは、大丈夫だったよ」
王都が竜のブレスで撃たれたけど、魔導障壁で耐えたと言って良いのかどうか分からないので誤魔化す。
「分かりました。お館様もしくは団長に連絡を入れて確認致します」
バルサムさんは、足早に部屋を出て行った。
「まあ。ルーク!」
「ソフィア姉さん」
入れ替わりに入って来た。後ろにパルシェが付いている。
「やはり、そういうことになっているのね。お兄様がここへお越しになった気配がしたのだけど。もういらっしゃらないのね」
すごい。わかるんだ。
「ソフィアさん。分かるの? 旦那様は? どっ、どうなって」
「お兄様は、お勝ちになります。何の心配もありません」
そう。父上は最強だ。
僕の方を見たから、クローソさんに向いて大きく頷いた。
「パル。あれを」
パルシェが、テーブルの上に透き通った魔結晶を置いた。
「これは通信魔導具だよね?」
「はい、坊ちゃま。先程これから、御館様の声が聞こえてきました」
「じゃあ、これで旦那様に……」
ソフィア姉さんは首を振った。
「だめです。今はお兄様からの通信を待ちましょう。迂闊にこちらから呼び出すと、竜との戦いの触りとなりかねません」
「そっ、そうね」
姉さんは、クローソさんの隣に座ると、手を取った。
僕もその隣に座る。
信じては居るけど、相手は竜だ。
いや、大丈夫。
3人は、魔導具と時々互いの顔を見て、じりじりと長く感じる時間を耐えた。
そして、その時はついにやって来た。
僕の身体が急に熱くなったんだ。
そのあと少しして聞こえてきた。
『ラングレンだ! 全ての戦隊員に告ぐ! 黎き竜を無力化して、災厄を回避した。繰り返す……』
「やったぁあ!!」
父上が勝ったんだ!
思わず立ち上がると、クローソさんは力が抜けたように背にもたれ、姉さんは穏やかな笑みを浮かべて大きく頷いた。
僕はさっきまでの状態が嘘のように、元気が漲っていることに気付いた。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
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訂正履歴
2022/09/17 題目のローマ数字を訂正




