431話 災厄IV 共時性
共時性というと、双子が一方の感覚を離れた所に居る他方が共有するというのが聞く話しですが……さて。
【勇躍!】
俺は、大地から撃ち出された蒼い光条を、空間転位で間一髪避けた。
ちぃ。
無事に転位はできたが、それ以前に練り上げていた術式が全て霧散してしまった。
怒りを押し殺して、状況を確認する。
俺が居た場所を掠めていった竜のブレスにも似た光条は、上空まで届き竜に直撃していた。
竜のブレスに比べれば劣るものの、なかなかの魔束密度だったが……。
しかし、重低音を放ちながら、竜は移動し始めた。
やはり、あの程度では駄目か……。
依然として、黎き竜の魔界強度が上昇していく。
ただ多少の効果は有ったのか、緩慢だ。
これならもう一度……。
しかし、俺の魔束体内循環が、上がり切る前。唐突に中断させられた。
「消えた?!」
思わず声に出していた。
上空に黎き竜は居なくなっていたからだ。あの巨体が忽然と。
そうか! 転位したのか。我ながら頭が回っていない。
どこへ?
額に手を当て集中───
くぅ。
探知限界の500ダーデン内には反応がない……か。ならば。
「全隊員に警告! 黎き竜は聖都上空から何処かへ転位した。厳重警戒。発見次第、報告願う」
あと一歩まで迫ったものを……。恨みがましく、駐屯地を見下ろす。
あれは、竜のブレスによく似ていたが、魔界強度にゆらぎがない人為的な物だ。そもそも発射した位置に、竜の反応はなかったからな。
では、あれは何だ?
数秒考えて、候補が浮かんだ。
古代エルフ族が開発したブレスを模擬した兵器を開発していた。そう知晶片に記録されていた。
ただ使われた記録はなかったし、完成したかどうかすら分かって居なかったが。それが現存していて、しかも、あの駐屯地に設置されていたとは。全く聞かされていないことだ。おそらく俺が提供した、国家間転送魔導具の動力魔石を、アレに流用したと考えればレプリー達の報告と辻褄が合う。
状況は分かったが、これからどうする?
もし、場所が分かっても、500ダーデン以上の遠距離だ。
聖都の国家間転送所にある魔導器は絶望的だ。再起動には魔力の充填はともかく、同調には時間が掛かる。しばらく使えないはずだ。
どうする?
『こちら、第3隊。ケプロプス連邦ケヴラー至近、白い巨大超獣発見!』
『こちら、第1隊。ネフティス王国ヴァレスト至近、白色の超獣と戦闘に移った……』
『こちら、ラグンヒル王国、連盟連絡員だ。白い何かが王都に迫っている。至急戦隊を来援を請う! 繰り返す、来援を請う!』
次々と白い巨大超獣が出現? 黎き竜ではないのか?
───父上 父上……
ルーク?
†
「そっくりと言うか、館の模造魔導器と全く同じですね。ルーク様」
「うん」
フラガが言っているのは、目の前にある巨大魔結晶を加工した魔導具のことだ。
さっき、王宮の中を移動して、この広間に一緒にやって来た。僕の付き添いの片方、フラガは興味深そうに、じっと見ている。
そっくりなのも当然だ。両方とも父上が加工したのだから。
卵型で高さは2ヤーデン程もある巨大な物で、青味掛かって透明度が高い。しかも内部から父上の魔力というか、魔束の流れを感じる。
「ほう。そんなものが、ラングレン家に用意されていたとはな」
「ああ、初耳だな。余程我らが信用できないと見える……ふふふ」
魔導具の反対側に座って居る賢者のお二人だ。
バロール卿は、エリスちゃんの父上で、僕が生まれた頃から顔を合わせているそうだ。けれど、もう1人の年配の人は、1ヶ月ほど前に紹介して貰ったばかりのグレゴリー卿だ。
笑っているが、顔が恐い。
流石のフラガも顔が引き攣っている。
「確かに。ラルフは賢者2人をこの部屋に閉じ込めただけでは気が済まず、6歳の子を送り込むとは」
「6歳といえども、私はルーク殿が神童であることを買っている」
「あっ! きったねぇぞ、おっさん」
バロール卿は、賢者をおっさん呼ばわりだ。
「貴公も、娘が早々に取られそうだからといって、眼が曇っているのではないか?」
「そっ、そんなことないよなあ、ルーク」
ああ、なるほど。
僕が、緊張しているとみて、わざとこういう話題を向けて来ているのか。
にっこりと笑っておく。
「ああ……ちなみにうちの館にあるのは、ここにある単結晶とは違って、父が人工的に合成した物ですから」
このおふたりは大丈夫。
だけど。僕の先祖はそれで酷い目に遭ったんだ。一応言っておかないといけないと思ったけど、喋りすぎた。
「いや、ラルフェウス卿を疑うことはない」
「まあ、ラルフなら、1個ぐらいくすねていても陛下は笑って許す気がするが」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うな」
「それはともかく。そのそっくりな魔導器で何をしていたんだ? ルーク」
「それは……」
「ルークは、良く訓練していた」
声の方を向くと、もう片方の僕の付き添いであるセレナが広間の端で蹲っていた。
大きく欠伸をしている。
「うわっ! こいつ、喋るのかよ。初めて聞いたぞ」
「ふむ。聖獣には、人間の言葉を解するものがいるとは聞いていたが……」
ああ。父上は、余りセレナのことを、外では言わないからなあ。エリスちゃんの前では、喋ったことないし。
「話を戻すが。本体はどうなんだ?」
「本体……古代エルフの秘法のことですか?」
「ああ」
「それにしても、ラルフェウス卿は、ルーク殿を余程信用しているとみえる」
「将来は安心ってことだな」
「それも、これから起こる災厄を生き抜いてからの話だが」
災厄か。
ん? セレナが急に顔を上げた。
「うっ!」
頭にずきっと来た。思わず額に手を当てる。
「ルーク様?」
フラガが慌てて寄ってくる。
バロール卿もこちらを見ている。
「うん。大丈夫。でも、父上が……」
「お館様、ですか?」
ビーーーーー!!!
この音は!
『全ての戦隊員、並びにレガリア軍に告げる。ラングレンだ。聖都上空に黎き竜出現! 繰り返す、聖都上空に黎き竜出現!』
父上の声。国家間通信だ!
「くぅ。ラルフの所に出たか。あいつは、いつも持っていくなあ……ああ、そんな顔をするな。ルークの親父は、世界で1番強い。心配するな」
僕は、そんな顔をしていただろうか。
横のグレゴリー卿も肯いている。
「はい。ありがとうございます」
部屋が一瞬暗くなって、すぐに灯りが戻った。
魔導回路が切り替わったんだ。
ここから遠く離れた教皇領に竜が現れた。しかし、それは王都の無事を保証しない。竜は、国を超える程に遠距離を転位できるのだから。
よって、ここでも竜の対策が始まったのだ。
「それにしても。ルーク殿は通信が入る前に気付いたようだが」
「おお。そうそう、なんで分かった? すごいな」
「あっ、いえ。親子ですから」
「いや。親子って、聖都まで何千ダーデン離れているか知っているか?」
「鷹の子は鷹ということだ」
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訂正履歴
2022/08/20 通番間違え430話→431話
2022/08/20 竜の表記統一(個体分別が必要な場合は黎き竜,取り違えの恐れの場合は竜または成竜)、バロール卿とルークの間柄を変更
2022/10/22 脱字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)




