430話 災厄III 罠と暗躍
いやあ。お盆ですねえ。まだまだお暑いですが、ご自愛下さい。
(連休ですが、残り話数も減ってきましたので、来週も投稿します)
竜がこじ開けた実空間との境界が、再び閉ざされていく。
地響きにも似た、くぐもった音と共に、竜の顎門に目映い灯りが灯る。俺を屠る光明。
目映いブレスが閉空間に迸った。
なんとか避けたが、恐るべき熱量が魔導障壁を擦過した。
───イツマデ ヨケテ イラレルカナ
むぅ。
竜の躰が一際赤熱───
今までの数倍に魔界強度が高まっていく。
好機!
【発動 積重】
【間断勇躍!】
【因果点 変位】
【焦点固定】
【魔鏡殻囲集】
【楕円牢獄】
多重術式構築の数瞬。
竜が孕む魔力の余りの高まりに、身の毛がよだつ。
───シネ!
吼えた音速よりも速く、ブレスが迫り来る。
【解放! 積重】
瞬く間に上級空間魔術が逆順に発動──
だが、この世の理を歪める魔術が、見たことのない文字のような、紋様のようなモノが光となってゆっくりと解れていく。
魔力の喪失感に襲われる中、俺は何度も転位した。
───ノガサヌ!
転位する度、俺へ向けて竜が渾身のブレスを放つのを見た。
そして、静止。
俺と竜は、虹色に滲んだ境界面に囲まれていた。
───ナンダト?
その境界面に、波紋を残してブレスの光束は跳ね返る、跳ね返る。
最後に向かった先は。
───ナゼ ウゴカン! グゥゥァ……
焦点から楕円の鏡面壁に向けて放った光線の先は、どの方向に撃ったとしても、もう一つの焦点へ。
そこを通過した先は、さらに反射して、当然元の焦点に戻る。
つまりは、自らが放ったブレス3射が、吸い込まれるように竜に殺到した。
【光壁】
総毛立つ熱量が一点に集中して、眼も眩む爆発を起こした。
その衝撃波を魔導障壁で受け流す。
閃光が止んだあと、爆心は依然として存在していた。
竜は、濛々たる湯気を纏い、その皮膚は大きく爛れ、腹が大きく抉れていた。正に自爆。
───ナゼ ワレニ……
ブレスが戻って来たのか?
───楕円反射の定理を知らないのか?
───マンマト サソイコマレタト イウワケカ……
───ダガ マダ マケヌ
むっ。
再び竜の魔界強度が上昇していく。
青い棘がほぼ光を失った代わりに、紅い棘がぼんやりと赤らみ始めた。
また魔力の充填をする気だ!
なぜだ?
時間因果律の低い亜空間では魔素供給ができないはず。
外部からではなく、内部からか?!
闇の境界に、僅かなら光粒子が漏れてきている。
完全なる反射効率を持ち得ない鏡面結界が、ブレスを受けた反作用で急速に崩落し始めていた。
まずい! 亜空間内で多重の空間構築は無理だ。
やはり、あの棘が魔力源なのだろう。
どういう理屈なのか、さっぱり分からないが。
闇の空間は溶けるように失せ、星空が瞬き始める。とうとう亜空間が崩れたのだ。
下方を見ると、聖都の灯りは小さく見える。亜空間移動したおかげで2ダーデンは上昇している。
再び竜に魔力が漲っていく。
だが、前例通りなら充填完了までには20秒余り。それだけあれば!
最低限距離は取った。
俺は、竜と聖都の間に入る。
魔束高速循環!
夥しい魔力が五体を巡り、強烈な戦きが脊髄を駆け上がる。
竜を屠る極大魔術を……。
だが───
通常空間に戻った俺と、駐屯地に残していたレプリー達の間で、途切れていた魔感応が繋がる。
───警告! 国家間転送魔導具の魔素供給が停止しました
───駐屯地内で魔界強度急速上昇!
何が起こっている?
意識が逸れた瞬間、下方から蒼白い光条が突き上がってきた。
†
少々時間は遡る───
教皇領内レガリア王国軍駐屯地地下。
薄暗い通路に7人の軍人が行動を開始しようとしていた。
「本当に……良いのですか?」
「枢機卿の予言通り、聖都上空に竜が出現したのだ。我らは神の加護を得ているというわけだ。ふふふ……」
「しかし、ラルフェウス卿が……」
「あのミストリア人が成功するとは限らぬ、それにだ! このまま竜を駆除すれば、我が国の威信低下は免れない。いずれにしても、密命は発効しているのだ、我らに選択権はない。行け!」
魔灯がまばらの薄暗い地下通路を歩いていくと、古めかしい大きな扉の前に警備兵が2人居た。
「おぉい。交代だ」
「ああ。もうそんな時間か」
「それと、この上で竜と魔術師との戦いが始まっているぞ」
「おおっ! 本当か。見えるかな……誰だ! お前達」
「なんだ。ぐあっ!」
警備兵は、交代と称した者達に後ろから襲われ昏倒した。
後から来た賊達が合流し、扉に魔導具を当てると、中から音がして錠が外れた。
重々しく扉が開くと、中は差し渡し15ヤーデン程の部屋。
無人の部屋にもかかわらず、なぜか魔導具の照明がぼんやりと点いている。
勝手知ったる場所の如く、賊達は部屋の各所に散った。
「よし、既存動力供給を全て切れ! そしてここに回せ!」
2人がかりで壁際にある魔導回路切断機の突起にぶら下がると、大きな打撃音と共に下側に転換した。
その刹那。部屋の全ての魔灯が灯り、大幅に明るくなった。
部屋の中央。
椅子の前に灰色の布を被った塊がある。口角を上げた男は、布の端を握り、取り払った
「これが古代エルフの秘宝か。あの魔術師が持ち込んだ魔石のお陰で起動できる。運命の皮肉というヤツだ」
「中佐! 国家間転送魔導具への、動力供給が切れました」
「ああ、分かっている」
布を取り払った下には、大きな机があり、そこに埋め込まれた魔力計が、どんどん上昇しているからだ。
まもなく臨界を迎える。
正面に設えられた白い幕に、ぼんやりと上空のあらましが映し出される。
「おお照準が……伝承通り全て秘法がやってくれる」
中央に十字の印が重なり、巨大な黒い塊を追尾し続ける。
けたたましく、聞いたことがない音が響き渡る。
「ははは……これでレガリアが勝つ! 発射!」
中佐と呼ばれた男は、自らの拳を操作卓に振り降ろした。
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訂正履歴
2022/08/13 少々加筆
2022/08/20 竜の表記統一




