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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
4章 青年期I 上京編
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44話 ギルド入会試験(ラルフサイド)

試験で万全を期すというのは、私はなかなかできませんね。

自動車学校の入学試験で、うんてんめんきょしょうを漢字で書けという問題で、運転免許書って答えて恥ずかしい思いをしました。

 人通りの多い大通りに面した建物を見上げている。

 看板には、冒険者ギルド・ミストリア王国王都(スパイラス)東支部と書いてある。


「やっと来られた……夢実現の第一歩だね。ラルちゃん」


 言われた通り、少し感動していたのに、ぶち壊す呼ばれ方だ。


「ああ。何度も言っているが、ラルちゃんって呼ぶのはやめろ!」


 視線を降ろすと、傍らでアリーが微笑んでいる。

 大きな瞳と、僅かに幼さを残す丸い頬はやや紅潮していて可愛らしい。

 後で束ねた茶髪もフリフリと揺れている。


 問題は──

 穿いている膝上丈のスカートだ。もう秋だというのに扇情的に過ぎるよな。


「夢だったもんね。ラルちゃん!」

「まあな。だから、ラルちゃんは止めろって」

「ぇぇぇええ」

 語尾上げがむかつく。


「もういい、いくぞ」


 自分が看板に見とれてたんじゃないと聞こえてきたが、無視してギルドの玄関に上がる。バネ仕掛けの小扉を押して中に入った。


 ふむ。

 中には10人余りの冒険者がいた。入って来た俺達、主にアリーに視線を向けた者がいる。すこし睨み付けると、元に戻したが。

 だから、裾とか襟元とか露出が……もう少し大人しい服にしておけと言ったのに。


 板張りの床に、腰高の小さいテーブルがいくつか置かれ、壁には無数の小さい紙がピンで留められている。


 対面に長いカウンタがあり、一定の距離で職員らしき人が並んで座っている。

 総合受付と書かれた窓口を見付け近寄る。

 カウンター向こうに、少し年上かな……綺麗な、お姉さんが座っていた。


「新規加入なのですが。ここで受付して貰えますか?」

「はい。致しますよ」

 ほわっとした、笑顔が魅力的だ。


 ううんっと、後で咳払いが聞こえる。

「では、2人分の受付をお願いします」

「君と、後の子?」

「はい」

「この支部に所属するには、王都在住許可票が必要なんだけど。今持っていますか? 持って居ないと北門の外にある城外支部に行って貰うことになるけれど」


 王都スパイラスは、転入者を厳正に制限している。

 貴族の一族か、特定の職業に就いていなければ、例えミストリア国民であっても城壁内に住むことは許されない。

 したがって、このギルド支部も、それに遵っていると言う訳だ。

 今は、修学院に学籍があるから良いけれど、卒業するか、放校されると王都には居られなくなる。そのためにも王都内のギルドに所属する必要がある。


 肯いて、首から下げている金属片、許可票を見せる。

 

「光神暦380年6月25日転入、って今日じゃない。では、こちらの申告書に……文字は書けるかしら?」

 スワレス伯爵領では初等教育に力を入れているが、そうでないところもたくさんある。


「ええ問題ありません」

「17歳未満だから。質問欄の印が付いた必須項目枠以外も、できるだけ書いてくれる?!」

「分かりました」


 紙を2枚渡された。申請書だ。

 既に1枚には俺の名前と、性別の男に丸が書かれていた。空いているテーブルに行って、アリーにも無記名の方を渡す。

 二人して記入して、再び窓口へ戻る。


 お姉さんは、申請書を読み始めた。

「えーと。ラルフェウス・ラングレン君。15歳、人族、准男爵子息と。住所は……へえ、良い所に住んでいるわね。で、職種は魔術師(ウイザード)と。結構です」

 お姉さんは、俺を見てにこっと笑った。

 次はと言いながら、紙を入れ替える。


「アリシアさん。15歳、人族、あらっ? 住所がラルフェウス君と全く一緒だけど?」

「妻だからっ、あっ……痛ったぁ! もう! 叩くならお尻にしてよ、馬鹿になっちゃうでしょ!」

 アリーは後頭部を摩っている。

「親族の同居人です」


「なるほど。じゃあ、この職種の主婦というのも間違いね?!」

 何書いてるんだお前は!

 アリーを睨み付けると、すかさず明後日の方を向いた。

 さっき、もっと強めに叩いておけばと、少し後悔する。


「アリー。大体職種とは職業のことじゃない。冒険者として……」

「知らないもん、アリーちゃん悪くないもん」

 出たよ。


「……ああ、こいつは巫女(メディウム)です!」

「巫女ね……」


 二重線を引いて、書き足している。

 ほら、見ろ! お姉さん、口は微笑んでいるけど、目は笑っていないぞ。


「2人とも、魔獣との戦闘経験が複数あると……へえ従魔も使うのね。魔術師なのに珍しいわね。はい。分かりました」


 お姉さんが、窓口の奥から出てきた。


「さて。じゃあ、この水晶玉を触って貰える? ああ、これはね申請書に書かれた嘘を見抜くの。例えば、悪いことしてたらね」


 知ってますけどね。

「ええっ!」

 アリーが声をあげた。

「はっ?」


「この前、ラルちゃんの大事にしていた杖を、折っちゃったこととか……あっ!」

「あっ! じゃねえ。やっぱり、お前か!」

 爺様に貰ったやつだぞ、あれ!


「ごめん。ごめんなさい。いいじゃん。ラルちゃん、どうせ杖なんか使わないんだし」

「くっくく……ふふふ……」 

 はっ? お姉さんが笑い出した。


「大丈夫よ。悪いことと言っても、捕まったら牢屋に入らなければならないようなことしか反応しないから、ふふふ……」


 俺とアリーは、次々と水晶玉に触った。

 2回とも白く光った。


 行使された呪文が、頭に流れ込む。

 体力上限、魔力上限などが読み取られている。

 術式が教会のとほぼ同じだ。派生なのかな? ただ、ここに表示されるのは、合否だけか。


「はい。問題なしっと」

 ポン! ポン! 申請書に良い音で木印を捺してくれた。


「えーと。受付はしましたけど、登録には審査があって、冒険者として相応しいかどうか、合格か失格に分けられるの。


「ぇぇええ! 失格もあるんですか?」

 アリーが身を乗り出す。


「そうね。まあ戦闘か補助能力、経験が達していないとそうなるわ。あと、合格の場合も力量によって、冒険者階級(ランク)が決められるの。新人(ルーキー)ランク3から、その上のノービス《初心者》ランクに近い1までの3段階に分けられる大事な審査よ」


 ふんふんとアリーが肯く。

 それにしても、このお姉さん人間ができているな。アリーの傍若無人振りを笑顔で流せるなんて。


「ちょうど今、魔術師も、巫女も審査員が空いているけど、受けていきますか?」

「はい。俺は、そのつもりできましたが……アリーは?」

「ラルちゃんと一緒! 受けるに決まってるっしょ!」


 お姉さんの口がラルちゃんっと動き、口角がひくついた。笑い出すのを我慢している。あれほど言ったのに。後でお仕置きだ。


「じゃあ、準備ができたら呼ぶから、ちょっと待っててね」

「ありがとう。その……お姉さん」


 足が止まる。

「ああ、お姉さんはちょっと……私のことはサーシャって呼んでくれるかな」

「では、俺のことはラルフで」

「うん。ラルフ君、じゃあね」


 お姉さんは、席を立って奥へ行った。

 俺達も窓口を離れて、壁際の長椅子に腰掛ける。


「なによ、あのウインク! まったく。ラルちゃんも鼻の下伸ばさないの!」

「ラルちゃんは止めろ。また叩くぞ」


「ああ……そだ! 審査って何だろうね?」

 話題を逸らせやがって!


「さあな。でも、アリーなら絶対合格する」

「えへへへ。ありがとう!」


 アリーは俺の手を取って、華が開くような笑顔を浮かべた。なんだか、さっきより周囲の視線が険しい気がする。


「ラルちゃんは、他の女に色目使ったらだめだからね!」


 数分後。

「アリシアさん!」

「はぁい。行ってくるね」

「ああ」


 緊張など無縁のような声と共に、アリーは立ち上がる。サーシャさんが居る部屋の隅の通路へ小走りで向かっていった。

 さらに数分後、俺が呼ばれた。こっちは野太い男の声だ。


 階段を降りて、薄暗い通路の先、だだっ広い半地下の部屋へ通された。床が地面剥き出しだ。


「それでは。ウイザード(魔術師)の登録審査を行う」

「はい」

「私は、審査員のバルサムだ」


 俺とよく似たローブ姿、彼と戦うのか?

 顔を見ると、にやりと嗤った。


「審査方法の説明の前に……」


 むう!

 バルサムが右腕を地に向け、瞬く間に掌に光球が現れた。


 土属性魔術の詠唱──


 詠唱とは魔術術式の構築のことだ。

 呪文の発音一つ一つに魔力を込めなければ魔術は発動しない。

 それゆえ初心者ほど時間が掛かる。しかし、この審査員は5秒で終わらせた。

 今まで俺が見てきた、魔術師の倍の速度。心しなくては。


 ムクムクと地面が持ち上がるように2ヤーデン(※3)(1.8m)も盛り上がると、デカい人型となった。

 オーク? 

 筋骨隆々の土人形(ゴーレム)3体となった。


「待たせたな。今からやって貰う審査ではこのオークと戦って貰う。安心してくれ。君を殺すようなダメージは与えないし、そうなる前に判定で、審査は終了になる」


 ふむ。なるほど、魔術師相手ではこういう審査になるのか。


「万一の場合でも、回復魔術を持ったかんなぎもいるしな。それで制限時間は10分、まあオークを全て戦闘不能にしたら、終わりだが。ただし、回避能力を見たいから、開始直後の10秒は攻撃しないこと! たとえ攻撃が当たっても無効にさせて貰う」


 魔術師に接近戦は禁忌!

 彼我の距離は15ヤーデンしかない。

 新人、熟練者問わず、魔術師の審査に向いた内容とはとても思えないが……いいだろう。やってやろう。


「じゃあ、始めて、いいかな?」

「はい」


    †


「では、はじめ!」


 ゴーレムオークは動き出した。

 奥──

 次の瞬間に唸りを生じて、弩が擦っていった。

 ゴーレムからの攻撃だ。


 そういうことか!


加速(エピタキシー)


 2。

 俺は右から走ってくるオークの、さらに右に回り込む。


 3……4。


 左! 前に飛んで転がる。

 嫌な音が過ぎっていった。


 5。

 すぐ起き上がり、ステップを踏んで避けまくる。


 6……7……8。

 10秒長げー。


 おっと! 横から呼んで来た槍の一閃を掻い潜る。


 9。

 さてと!

 「10!」


 横に飛ぶ! 地に手を突いて、跳ね上げ──


氷礫(ヘイル)!!】


 オーク弓兵が爆散──あと2つ!


 足から降りた俺は、勢いを殺さず、再び跳躍。


硬化(アダマント)


 オーク槍兵の豚顔に膝を入れて、粉砕。


西風(ゼフィロス)!!】


 最後の1体も、圧縮気弾が吹き飛ばして斃した。


 試験官を、見ると掌をこちらに見せている。試験終了のようだ。


 完勝……ちっ!

 トラウザー(ズボン)が汚れた。


 がまあ、試験に対しては、できるだけのことはやれた。

 こんなところで躓いてはいられないからな。


 超獣に向き合うため──


皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2018/08/17 日付間違い 光神暦780年6月25日転入→光神暦380年6月25日転入

2025/05/20 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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