423話 看破
いやあ。右足がやばい状態です。
追伸:投稿が遅くなり申し訳ありません。
美しくもおどろに乱れた髪を掻き上げた表情は、とても妹の物には見えなかった。
【勇躍!】
部屋の中に出て、向かい合う。
「むぅぅ。あに……お兄様。先刻まで、鏡の中に潜んでいたのは、あなただったのですね? しかし、兄妹の間柄といえども、無礼ではありませんか? パルシェ! パルシェーーー! ……むっ、遮音力場! あなたは、妹に何をするつもりなのです?!」
「あぁ……茶番はそれぐらいにして貰えないかね。聖サザール。いや、サザルリムの魔女!」
怒りの顔が弛緩すると、肩が落ちて嘆息した。
「流石はソフィアが絶賛していたお兄様だけのことはある。全てお見通しか。なぜ私だとわかった?」
「単なる消去法……聖都に来てから、残留思念体が取り憑きそうな場所の候補が、あの遺跡しかなかっただけだ」
「ざっ、残留思念体……なぜ、それを?」
「数人の知り合いというか、仲間が居るからだが」
「仲間?」
「ああ、我が館には3人程……」
「はぁ。はぁぁぁーーーーー」
ん?
ソフィアが、苦悶の相で身を捩り始めた……収まったか?
「それさえ。それさえ知って居れば、これまで悩むことはなかったのに。お兄様申し訳ありませんでした」
「いや、何も謝る必要はない」
お前は被害者だ。
美しくも麗しきソフィーの面相が戻って来た。同じ顔形なのだが、どうしてこうも違うのか。そう思ったが、長くは続かなかった。
「……おっおお、制御が、制御が。よしよし。そなたの兄にはもう少し話が有るのだ。大人しくしていてくれ。良い子だからな……ゲホン、ううぅぅん。そこまで知っているのなら、話は早い」
再び、乗っ取られたか。
「何、私が死して、あの場に縫い付けられていたのは、本体の意だ。私の使命、いや遺跡の観覧客の僅かに生気を吸い取ってでも、この世に残ったのは世界を救うため」
「ふむ」
「ソフィアによれば、その使命とそなたと望みは一致している。だからこのまま、この娘の身体をしばらく貸して欲しいのだ。どうだ!?」
「答える前に1つ訊きたい」
「何か?」
「先日の未来視は、あんたの能力によるものか?」
低く嗤った。
「残念ながら、答えは否だ。残留思念体にそのようなことはできぬ。ソフィア有っての、巫技だ。私は彼女の能力を刺激して活性化させたに過ぎぬ」
なるほどな。
「それに、血統的なものだとは思うが、彼女とは相性が良い。それが、遺跡を訪れてくれたことに、初めて神に感謝した」
はっ?
どういった血統……いや、訊くまい。
「このような身となって、私だけでは魔力が足らぬ。安心せよ! 思念体の知り合いが居るそなたなら知っているだろう。依代を離れた我らの寿命など高が知れている。すぐに失せよう」
「わかった。では、俺も答えよう。確かに望みは一致している。だが、決定権は俺にはない」
「なっ! 騙したな!」
うわっ。見たことのない形相になった。ソフィーの下品な顔は見たくないな。
「くぅぅ、誰だ? 誰が決定権を持っているのだ! ミストリア国王か? 戦隊総隊長とやらか?」
「違う。ソフィーだ! 彼女を出せ、出さないとあれば、即刻祓魔だ」
「ああ、そういうことか。待て待て。止めてくれ。敵対する気はない、ふぅぅ、まだ定着が不十分な頃、そなたの魔術で消えかかったからな。本気を出されたら、本当に消えかねん」
ああ、遺跡から帰って来た夜に熱を出して、回復魔術を行使した時のことか。
確かに回復系と退魔系は術式が似ている。願う神名も同じだ。
数秒後。ソフィーの面相が入れ替わった。
「お兄様……」
「ソフィーを乗っ取って居た……」
「ああ、デルフェリさんなら……彼女は私を乗っ取って居たわけではありません」
「デルフェリ?」
「魔女さんの本名です」
「ふむ」
どうやら、ソフィーのようだ。
「お兄様。目が恐いわ」
「ああ、すまん」
「彼女を取り憑かせて……いえ、取り込んだのは、あくまで私の自由意志です」
「お前は、そうまでしなくても良いのだぞ」
「お兄様。私の生き甲斐を消さないで下さい。私は、ローザさんにも、アリーさんにもできないことをやるのです」
おっ、おう。
「私の答えは決まっています。デルフェリさんと共にお兄様をお援け致したいです」
やむを得ない。
「わかった。俺を助けてくれ。頼む」
「はい! よろこんで!」
「ああ、2つ条件があったことを忘れて居た」
「2つ?」
「ああ、1つめは、残留思念体のことは他言無用だ」
「はい。2つ目は?」
「デルフェリに伝えるのだ。ソフィーにしっかり食事をさせろとな」
「あのう……」
「ん?」
「それは、デルフェリさんの所為じゃ、ありません」
「はっ?」
「ですから、もう大丈夫です。お兄様にデルフェリさんのことが知れたら。もしも気持ち悪がられて嫌われたらどうしようかと。心配で、心配で……食事が喉を通らなかっただけなんです」
「ふふふ……はっははは。心配したぞ。ソフィー」
「お兄様!」
抱き寄せた。
「さて、状況はクローソには話しておくが、パルシェには?」
「いえ。大丈夫です。薄々気が付いているようですし」
「そうか。では、また明日」
立ち上がる。
「お兄様!」
「何かな?」
「大変申し訳ありませんが、ここへ入って来られた経路でお戻り戴けますでしょうか」
「ん?」
「次の間を通られますと、パルが動転しますので」
「うむ。そうしよう」
言われた通りにして、居室に戻った。
†
「旦那様、おかえりなさいませ。ソフィーさん、どうだった?」
心配そうな顔だ。仲が良いからな。
「多分、大丈夫だ」
「そう? 良かった! えっ、何?」
抱き寄せて、耳元に顔を寄せる。
「ああ、ソフィーには、聖サザールが取り憑いていた」
「はっ?!」
身動いで俺から離れた。
「本当に?!」
大きな声を出して、悔いたのか自分の口を押さえた。
「遮音力場は、張ってある」
「そっ、そう。ソフィーさんは、本当に大丈夫なのよね?」
「ああ。ソフィーも納得してのことだ。このままで、害が皆無とは言い切れないが。無理に引き剥がすよりはマシだ」
「そう……本当に兄思いよね」
そう言われると心が痛む。
「クローソも気に掛けてやってくれ」
「もちろん」
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訂正履歴
2022/06/25 誤字訂正
2022/06/26 脱字訂正




