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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
最終章 救済者期III 終末編
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412話 貴族なるもの

家族のために何かしようとは思うのですが。家(家系)のために何かとは、考えたことないんですよね。庶民ですね。

 春が来て年が革まり、光神暦388年となった。


 (12)月22日、ローザは女子を産み、リーシアと名付けた。

 すこぶる健やかだし、ローザの産後の肥立ちも良い。

 うれしい限りだ。


 ローザは、しばらくすると俺の身の回りの世話を再開したが、頻度的には以前の半分以下に抑えている。まあ、ルークが生まれたすぐの時よりは、頻繁に赤子へ授乳させているようで、何か心境の変化があったのかも知れない。


 出産前にやって来たおふくろさんから、何か言われたのかも知れない。

 問題は、おふくろさんが住み着いたかのようにずっと離れに滞在していることだ。領主夫人は忙しいのじゃなかったのか?

 遠回しに訊いたところ、もう男爵領に敵は居なくなったそうだ。

 あとは、城内の学問所は発展的解消となり、城下にエルメーダ学院を創立したので、所長も辞めてしまったことも影響しているのだろう。


 要するに、暇らしい。

 親父さんが浮気しても知らないぞ。

 しないと思うが。


 ちなみに次女の調子は良いのだが、長女のレイナが最近時々夜泣きしていたらしい。

 プリシラによると、夜泣きと言っても赤ん坊の時とは違って、数分間火が付くように泣いて、すぐまた寝付くらしい。


 俺自身も3歳で夜泣きはどうなんだと思ったし、おふくろさんも同じように言うので、少し心配になった。

 そこで、俺の子3人を取り上げて貰った助産師ヴェスタ殿に相談した。助産師の専門ではないと仰っていたが、それなりに聞く現象らしい。


 いくつかの原因があるようだが。

『まあ。そんなに心配はないがな。下に子供が生まれた時に、上の子がなることがあるぞ。最近子爵殿は、リーシア殿に構ってばかりで、レイナ殿をおざなりにしていないか?』


 そう言われたのだが……いや、そんなことはない。変わっていない。そもそも前からそれほど構ってやれていない。しかし、それで思い当たったことがあり、フラガを呼び寄せた。


『はい。ルーク様は、リーシア様を可愛い、可愛いと仰いまして、勉強や剣術、魔術のお稽古の合間に何度かお部屋に向かわれます』


 やはりな。


『えっ? はい。レイナ様ですか? そういえば、このところ時々爪を噛まれまして。ご機嫌は、あまりよろしくないかと存じます』

 ルークはもうすぐ6歳だが、フラガが言っているように結構忙しいらしい。2人の家庭教師から代わる代わる、指導を受け居るからな。そこへ、新しい妹が生まれ、時間を振り向けた。その分はレイナが割を喰っているのだろう。


 ふむ。ウチの家系はどうも、妹の兄への親愛度が強いようだ。

 父親としては複雑な思いだが、ソフィーへの親父さんの立場と同じだな。


『わかりました。父上のお言葉通り、レイナともう少し遊んでやることにします』


 ルークは俺の言い付けを守った。嫌がっていた、ままごとにも付き合う頻度を上げ、自分の勉強の時間にレイナを誘い、文字の読み書きの練習やお絵描きをさせているようだ。それが奏功したようで、レイナの夜泣きの頻度が減ったらしい。

 レイナの立場として、大好きなルーク()リーシア()に取られると、無意識に圧迫を受けていた説が帰納的に濃厚となった


     †


「失礼致します」

 モーガンとスードリが連れ立って執務室に入ってきた。


「例の懸案について、報告がございます」

「聞こう」

 2人が執務机の前に並んだ。


「クリュセス伯爵領都クリュグに出向き、ライゼル准男爵デグラーネ殿にお目に掛かって参りました」


「ご苦労だったな」

「はあ。ただ、王都から600ダーデン余り離れているとはいえ、都市間転移を使っておりますので、それ程のことでは」

 モーガンが軽く会釈をした。


「そうか、まあ距離の問題だけではないだろうが。スードリも同席したのか?」

「いえ。私は別の方面を……」

「ふむ」


 デグラーネとは親父さんの実弟、つまり俺の叔父だ。10歳の頃に(くだん)の准男爵家に養子へ出されたそうだ。存在自体は知っているが、会ったことはない。


 養子の件は、男爵に復帰した今の本家であれば考えられない。

 だが主家であったスワレス伯爵家が、まだ先代の時期だ。親父さんは、現伯爵アンドレイ様と学友となり、主従ではあったが後の友情を紡ぎ始めた頃らしい。


 その頃のラングレン本家当主は爺様で、ソノール地方政府の能吏であった。しかし、所詮は罪人の疑いが拭いきれない一族の子孫であり、待遇が芳しくなかったと聞いている。そのラングレン家の次男となると、養子に出されるのは分からない話ではない。


 物心付いた頃は、そのように思っていた。だが、もう少し裏があるようだ。


 クリュセス伯爵家は、貴族の習性とも言える婚姻政策を積極的に進める家で、スワレス家とも縁を結ぼうとしていた。次期当主アンドレイ様を狙ったものの、妙齢の女子が居なかったため、分家のライゼル家に目を付けた。


 娘を一旦自家の猶子としてから、スワレス家へ嫁がせようと言う算段だ。しかし、問題があった。ライゼル家は1人娘で、婿を取ることを考えていたが、嫁に出せば無嗣になってしまう。そのまま推移すれば、断絶の憂き目を見ることになる。


 したがって、男子の養子をライゼル家に迎えることを、娘を猶子とする交換条件として出した。これが成り、めでたくクリュセス家とスワレス家の縁が結ばれた。そこまでは貴族では良くある話だ。

 しかし、その後クリュセス家は言を左右にして、ライゼル家への養子の人選を引き延ばした。


 致し方なく、スワレス家が動き出した。

 同家へ迎えた新妻の実家が断絶となっては、夫婦仲がうまく行かなくなることを恐れたのだろう。


 しかし、なぜその話が、我がラングレン家へ回ってきたかというと、行き先が准男爵家では伯爵家内に身分の釣り合いが取れる男子が居なかったかららしい。


 想像するに、厄介事を押し付けられたのではと、邪推せざるを得ない。

 この上、親父さんに何かあれば、ラングレン家こそ無嗣になってしまうからな。当時の伯爵家としては、さぞかし都合が良かったのだろう。

 本家は準男爵としてはそこそこの私有財産を持っていたから、無嗣断絶となれば地方政府が没収できる。

 幸か不幸か、それは実現しなかった。あるいは単なる邪推かも知れない。


 周囲には、そういう悪意が漲ってとはいえ、ライゼル准男爵家としては、大事な後継者だ。叔父上は歓迎されたと聞いてはいる。


 しかし、養子に出された当人の認識は異なる可能性が大だ。


「それで?」

「はい。我がラングレン家の麾下に入る勧誘につきましては、残念ながら辞退されました」

「そうか。本家が勧誘した時と変わらぬということだな」

 家令が以前交渉に行ったが、断られたと親父さんから聞いている。


 本家、当家とも、俄に領地を得たため人的な不足は否めない。

 有為な人材は徳目の高い親父さんが涵養して集めては居るが、それだけでは駄目だそうだ。俺は余りそう思わないが、やはり血脈が重要とモーガンに力説された。


『ご当代、ルーク様は良いかも知れませんが、さらなる御後胤はご苦労をされる可能性が……』

 そう言われたので、考えないといけないかと思えていた。


「しかし……」

「ん?」

「デグラーネ殿の御次男トゥーリ殿であれば、考えても良いと」


「ほう。俺の従兄弟(いとこ)か?」

「はい。年齢は19歳、従弟に当たられます」

 3歳下か。


「デグラーネ叔父上は、才気煥発と聞いているが……」

「トゥーリ殿の調査については」

 スードリが上体を前に出した。


「これまでの調査結果です。引き続き、細部を鋭意詰めております。」

「うむ。両名とも仕事が早いな」

 受け取って、一通りめくった。


「ファフニール侯爵領都、同高等学院へ3年間在学、専門分野は農学か」

 どうやって調べたかは知らないが、各年次の成績評価まで記載されていた。ムラはあるが全体的に優秀な男のようだ。


「ふむ。悪くない。1度会ってみたいな。今どこに居る?」

「私が訪問した時は不在でしたが、クリュグのご実家にいらっしゃいます」

「わかった。日程を検討しよう。ご苦労だった」


「では、私はこれで」

 スードリは普通に部屋を辞して行った。


「できますれば……」

「ん?」

「トゥーリ殿を是非取り込みたいと存じます」

 顔を上げて、まじまじとモーガンの顔を見る。


「外戚対策か?」


 我が一族の外戚は5家。

 パロミデス家は、本家の外戚であり、我が家への影響力はさほどない。

 マルタさんの家は農家であるし、領内には在住していないので同じだ。

 ダンケルク家、ファフニール家はそれぞれ貴族であり、義理の関係だから、我が家への干渉は控えるだろう。内務省貴族局の目が光っているしな。


「はい。御領内にてバロック氏のご一族が、力を持ちすぎるのは如何なものかと」


 そう。バロックの家は、他の4家とは異なる。

 彼は、父の友人であり農業、労務系で実力を持っている。得難い人物であり、頼りにはなるが、俺がプリシラを側室にしたことで状況が変わった。


 本家男爵領と我が子爵領で、農政面の協力をして貰っているが、別の見方をすれば利権を持っているということだ。単なる業者ならば不都合があれば、すげ替えることもできる。バロックは、プリシラのお陰で簡単に置き換わることもないしな。少なくとも周りはそう見るだろう。


 バロック本人に余り心配はないと思うが、彼の後継者も同様であるとは期待しにくい。

 ゆえにバロックへの依存を、これ以上高めるべきではない。あるいは減殺する方が望ましいと思っているのだろう、モーガンは。


 彼は、ルークの傅役でもあるからな。

 今のところプリシラに男子は居ないが、今後はどうなるか。それぐらいは考えていそうだ。


 そういった状況で、農学を修めた我が従弟を対抗馬にできると踏んでいるのか?


「心しておく」

「ありがとうございます。それから、こちらを」

 モーガンが、手挟んでいた冊子を差し出した。


 エルヴァイン地区林道建設稟議書か。


「ふふふ。メヴィルも働き出したようだな」

 モーガンの次男だ。今では子爵領都駐在の現地責任者に収まっている


「はい。時間は掛かりましたが」

 捲って見ると、難航すると踏んでいた林道敷設経路案が既に一本化されていた。

 その上、策定委員として、バロックをはじめ、利害が相反しやすい林業に従事している村長達が名を連ねている。つまりは、人心掌握が進んで居るようだ。


「吟味する。予算の査定を進めてくれ」

「承りました」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2022/04/02 誤字、少々加筆

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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