411話 女系
さて、最終章までやって参りました。読者の皆様のおかげです。
がんばって完結まで持っていきます!
ミストリア帰国から、3ヶ月余り経った。
光神暦387年11月も半ば、厳冬期を迎えている。
あれ以来、竜の出現報告はなく、西方諸国で巨大超獣が2体出現したが、在来の魔術師と新世界戦隊が連携して、どちらも撃滅できた。
選抜された上級魔術師の優秀さが証明され、戦隊の評判も上がってきている。
我が家を振り返ると。
まずはクローソの件だ。
プロモス王国大使辞任が同国から承認された。元々女王陛下の言い出したことだ。これを受けて大使離任の式典が実施された。また同人のプロモス王族からの除籍、ミストリア国籍の取得がささやかに告示された。
ここまでは両国の当局から何ら異議も出ず、滞りなく進んだのだが。
ひとつ問題が出た。
クローソの身分だ。正室、第1側室であったならば、我がラングレン家に編入で話は済んだのだが、第3側室では平民扱いとなる。
彼女も俺もそれでよいと思っていたのだが、我が国としては体面が悪いそうだ。なにせ友好国の現女王の娘だ。国籍は切れたが、親子の縁は切れない。しかも、我が国に亡命したわけではない。
それで、クローソをどう遇するかが、内務省と外務省で問題となった。
俺にも何回か聴取があったし、結局クローソは名誉男爵に叙されることになった。彼の国における俺の爵位に合わせたらしい。
あとは名前だ。ラメーシア姓を名乗るのは駄目だが、名誉男爵となったので姓がないと困ると内務省貴族局から言い出したようだ。だが、国王陛下が俺に任すと言っていたこともあり、妻の序列を変える気はないと聴取で宣言したので、結構困ったらしい。
水面下で、クローソを親父さんの養女にしてラングレン家に編入という案も有ったようだ。
こちらには、名誉男爵授爵の内示があったときに、新たに家名を付けてくれと、要請があっただけだ。
クローソは別に姓なんか要らないと言っていたが、熟慮の末、洗礼名のヒルデベルトにて家を立て、姓として名乗ることになった。
想像するにテルヴェル卿やサフェールズ卿には面倒を掛けたことだろう。
貴族局の告示に伴って、いくつかの新聞に取り上げられた。予想通り、悪意のある報道もあったが、世論としてはローザを排して正室にしなかった点が好感触だったらしく、間もなく沈静化した。
クローソは、当初離れの客間に居たが、今は本館のサラが居た部屋の内装工事が終わったので、そこに移った。
あとは、王都に居着いてしまったソフィーは離れに居る。時々どこかに出掛けている。おそらくはディアナ卿の所だろうが、門限までには帰ってくるので、干渉はしていない。
そういった訳で、我が王都ラングレン家は、女ばかりになってしまった。
何もなければ家族揃って、こうして夕食を摂るのだが……
俺の妻として、ローザンヌを筆頭として、アリシア、プリシラ、クローソ。それに娘のレイナ。妹のソフィア。計6人だ。
ああセレナも牝だ。ここには居ないが
食堂に執事はほぼ居ないので、女系一家だとしみじみ思う。まあ、原因の全ては俺なのだが。
対して男は、俺と息子ルークだけだ。フラガも居るが食事は同席しない。
別に肩身が狭いわけではないのだが、微妙な感じは否めない。
俺の3人目の子となるローザの第2子は、来月の終わり頃か再来月の早々に生まれる予定だ。今は日当たりの良い、離れの部屋で寝起きしている。
かなり腹もせり出してきているが、あの中に居る子は、男か女どっちなのだろうか。
迂闊にローザを見遣ると、鑑別しかねないので注意している。
さらに言えば、この館に来る客の多くは女性だ。
おふくろさん、ダンケルクの義母、ナディスさんにその娘エリス嬢。サラスヴァーダも稀に来る。
例外はルークの男友達だ。
俺が関知しているのは、ダンケルク一族の男子数人だが、他にエリス嬢の伝手で知り合った上級魔術師や深緋連隊の軍人の子息が居るらしい。
などと、ぼんやり考えているのは、理由がある。
珍しく執務室に、アリーがやって来た。今から2時間程前……。
『旦那様、少し時間を貰っても良いかな?』
部屋に居るのは俺だけだ。
『ああ、別に構わないが。すぐ夕食だぞ』
『そうなんだけどね』
どうやら、俺だけに話したいようだ。
ソファーを指して席を立った。俺も対面に腰掛ける。
『茶を貰うか?』
メイドを呼ぼうとしたが。
『ああ……今は要らない』
『そうか』
黙って待つ。
『単刀直入に言うね。私、身籠もったわ』
『ふむ』
『あれ? 驚かないわね。知っていた? お姉ちゃんから聞いていたの?』
なるほど。ローザには話していたのか。
『いや。妊娠したとは知らなかった』
『あらそう。今日ね、例の助産師さんの所へ行ってきた。間違いないって』
身籠もったことは知らなかったが、アリーが何か幸運に恵まれることは知っていた。
それが、子宝だったとは。
まあ、彼女も子を欲しがっていたからな、良い話だ。
ただ、なぜ知っていたのか、それは分からない。誰かに告げられてような気がしないでもない。ただその誰かが思い当たらない。曖昧模糊とした記憶? いや夢だったか?
ソフィーも夢でお告げを受けることがあるそうだが。
しかし、知っているはずがないことを知っていても、俺にとっては不思議でも何でもない。子供の頃から良くあることだ。
言語、知識、知見。学んでも居ないことを、なぜか習得していることが多い。
ソフィーが持つ、覡の能力が俺にもあるのかも知れない。
『そうか。アリーにも子ができたか。うれしいぞ。大事にしてくれ』
『はぁい』
落ち着いた笑みを湛えた。
『ふぅむ。それで最近同衾を控えて居たのか。新婦に遠慮しているのかと思った』
『そっ、そんなわけないでしょ。クローソとは仲が良いけど、それとこれは別。好敵手だからね。あっ! いや、ルークが旦那様の後継者だということは、ちゃんと弁えているから……』
さて、そろそろ頃合いか。
一番食べるのが遅い、レイナも食べ終え、茶ではなく果汁を飲んでいる。
「皆、聞いてくれ。アリーから話があるそうだ」
「えっ、私から? まあ、いいけど。えーと。突然ですが! ああ、お姉ちゃんには話しましたけど……私にも子供ができました!」
アリーは嬉しそうに、まだ全然目立たない腹を摩った。
「あぁ。叔母上、そして父上。おめでとうございます!!」
「ルーク。ありがとう。うれしいわ」
レイナは、意味が分からないらしく、座り直した兄の腕を引っ張っている。
ソフィーは瞑目して、眉間に皺を寄せている。その後ろに控えたパルシェは、冷ややかな目で俺を睨んでいる。
「おめでとうございます」
「おめでとう。アリー」
2人の側室の方へ向き直る。
「へへぇ。ありがとう」
「アリーさん。何ヶ月なのです?」
クローソだ。
そういえば、訊いていなかった
「うん。3ヶ月だって」
「3ヶ月と言うと」
「聖都に行っている時期だわね。逆算すると」
そうか。聖都で孕ましたか。妙に納得した。なぜだろう。
「アリー」
「おっ、お姉ちゃん」
「まずは、おめでとう」
「うっ、うん」
アリー、顔が引き攣っているぞ。
「あなたも母になるのだから、少しは自堕落な生活態度を改めるように。初産までは良く動いていた方が軽くなると古来より言われます。ルークの時も、レイナの時のプリシラさんもそうでした」
肯いている。
「旦那様の大切な子供を産んで育てていくのです。こころしなさい。私もお腹がこんなでなかったら、色々してやりたいけど、暫くは自分のことで手一杯です。皆には手数を掛けるけど、よろしく頼んだわよ」
「「「はい!」」」
ふむ。良くメイド達を、統括しているな。
「それから、妊婦の飲酒はお腹の子に良くありません、控えるように」
「うっ」
「アリーが飲んでいるのを見付けたら、取り上げるように」
「承りました、奥様」
メイド頭のマーヤが大きく肯いた。
「はい。こころします」
†
食事を終えると、モーガンとレクターを執務室に呼びつけた。
「先程マーヤから聞きました。アリー殿にお子様ができた由。おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「うむ。ありがとう」
「ご本家、ファフニール家、それから、アリー殿のご実家には?」
まずはこれだな。
早めにご注進しておかないとだめだ。特に他家が知っていて自家に知らされるのが遅れると、臍を曲げられる。
「前者2家には、俺が書状を書く。実 家には、アリーが自分で知らせるそうだ」
「承りました」
「2人が同時にこのようなことになって、面倒を掛ける」
「いえ。御家にとって喜ばしいことです。何も問題ありません。ルーク様、レイナ様の時の経験が活かせるはずです。あとは、メイドを少し増やす必要がありますが、私共にお任せ下さい」
「うむ。頼んだぞ」
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訂正履歴
2022/03/26 名前一部間違え エリス→レイナ、誤字訂正、少々加筆
2022/08/18 人名揃え:ルーナス卿→ディアナ卿
2022/08/20 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)
2025/05/11 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)




