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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
16章 救済者期II 新世界戦隊編
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405話 ヴィノーラ御料地

栃木県に御料牧場があるのですが。明治の頃からあるのかと思っていたら、昭和44年開場なのか。意外。(千葉県から移転)

 馥郁たる香気をあげるカップを置く。

 カチッ。佳い音色を上げる。

 夕食後の団らんだ。


 家族揃ってソファに座って居る。


 最近に流暢になってきたレイナ()の語り口を、みんなで聞いている。


「でね、イーヴァちゃんが、このこがいいなあって……」


 この子とは、先日買ってきた人形だ。レイナ《娘》が自分の膝の上に抱え、髪を梳いてやっている。

 かなり気に入っているようだ。


「ほう……」

「こんな、おにんぎょうはみたことない。どこにつくらせたのってきくの」


 レイナは得意そうだ。

「ほう。なんと答えた」

「おとうさまが、とおいところでかってきてくれたのよって。そしたら、いいなあ、いいなあって。うふふ……」


 作らせたと訊くならば、貴族の子だろう。

 レイナの横に居るルークの方を向く。


「あっ、はい。イーヴァ・フェイルズ嬢は、エリスの友達です」

 エリスとは、賢者バロール卿の愛娘だ。それにしてもルークは、俺の考えたことが、よく分かるな。少しうれしい。


「ほう。フェイルズといえば、ダイナス卿の娘か?」

「はい。ナディさんのところで時々」

 ローザが肯いた。

 ダイナス卿とは、俺と同時期に成った上級魔術師だ。俺はそれほどでもないが、妻達は交流があるようだ。


「年齢は?」

「たしか、4歳かと」

 ルークの1歳下か。


「ふむ。それで、もうエリス嬢には人形を渡したのか?」

「あっ、はい。父上にくれぐれもよろしくと言っておりました」


「ああぁ……おにいちゃん。うそついた!」

「んん?」

「エリちゃん。そんなこといってなかったもんね。おにいちゃんにだきついて、ありがとう、ありがとうっていってただけだもん」

「レイナ!」


「そうなのか?」

「いえ。レイナの居ないところで、ちゃんと父上にもお礼を伝えてくれるようにと」

 必死な目だ。

「うむ」


「レイナ。そろそろ、湯浴みをしましょう」

 プリシラが腰を上げた。


「えぇぇ。まだ、おにいちゃんといっしょにいるの!」

「レイナ」

 プリシラはにっこり笑っているが、圧があるな。

「はぁい」

 レイナは両手を挙げると、気を利かせたルークがソファから降してやった。


「父上にご挨拶なさい」

「おとうさま、おやすみなさい」

「うむ。お休み」

 プリシラに手を牽かれて居間を辞して行った。


「父上」

「何かな?」

「明後日、東洋から来た魔術師に会うと聞きました」


 アリーの方を向くと、ゆっくりと顔を背けた。

 喋ったな。別に構わないが。


「ああ。その通りだ」

「僕は、東洋の人間を見たことがありません。ご一緒させて貰えないでしょうか?」

「ほう……」


 その横に居たローザが、編み棒を置いた。

「ルーク。旦那様はお仕事なのです。しかも、国の代表である大使としてお会いになるのですよ」

「分かっておりますが……だめでしょうか?」


 自重というならば、効き過ぎているほどに効いている息子だ。

 それに、外務省から新たに得た情報では、レーゼンの大使は相当気難しい男のようだ。それでもまだマシで、イーズの大使はまともに喋らないらしい。

 そこに、ルークを連れていくのは、案外悪くはないかも知れぬ。


「ふむ。アストラには私から話しておく、準備せよ。あとは挨拶ぐらいはできるようにするのだ。文言は教えてやる」

「やったぁ! ありがとうございます。父上」


     †


「旦那様の邪魔は、決してしないこと。いいわね、ルーク」

「はい、母上」

 ローザは、ルークのコートの前袷をしっかり締めてやっている。


 いよいよ、ヴィノーラ御料地に向かう日となった。

 玄関で、本館の主立った者達が送ってくれている。だが、プリシラとレイナは居ない。ついさっき、兄が自分を置いてどこかに行くと分かって、自分も行くと大泣きしたからだ。10年ぐらい前に同じような光景を見た気がするが、親父さんも同じような気持ちだったのだろうな。

 

「おねえちゃん。大丈夫よ、私が付いているから……」

 アリーが言い添えたが、ローザの表情は好転しなかった。自分が付いていきたいのだろうが、今は大事な時期だ。


 俺とアリーが後ろ向きに、そしてルークとフラガが前向きで馬車に乗り込み、王都本館を出発した。まず向かう先は王都城外の事業所だ。


 フラガの表情が硬い。

 まあ、強張っているのは顔だけでなく、膝も腰も直角で、背もたれに付いていない。

 

「初めて一緒に乗ったね」

 うれしそうに、ルークが彼に話しかける。


「はっ、はい。私のような者が、御館様の馬車に同乗させて戴いてよろしいのでしょうか?」

「よいから、乗せて貰っているのでしょう? ねえ。父上」

 肯く。


「ありがとうございます」

「フラガ、今から緊張していたら、いざという時に動けないわよ」

「はっ、はい。アリー奥様」


 いや、アリー……ほらみろ、余計緊張したじゃないか。

 微笑ましい旅程は、15分足らずで一旦終了した。


 城外を東に伸びた街道を逸れて、事業所の敷地に入るとアストラ以下の随員が待機していた。挨拶を受けて後続馬車に乗車させると、3台の馬車を亜空間に収納した。


「何度見ても素晴らしいお手並です。御館様」

 バルサムだ。

「ふふっ。では行ってくる」

「はっ! くれぐれもお気を付けて」

 見送りのバルサムが、いつもより数割増しの渋い表情で略礼をした。今回は騎士団を同行させないからだ。


「うむ」

光翼鵬(アーヴァ・ガルダ)!】


 瞬く間に、事業所が足下に小さくなるほど上昇した。一路北へ進路を取る。


 御料地までは120ダーデン程。空を飛べばあっという間だ。


 地上は、風が流れるように後ろへ去っていく。8月も目前となって、落葉樹が紅く色付いており、なかなかの景観だが、それを愛でて時間を取ると、中に居る者達が可哀想だ。何も見えないからな。


 そこそこ急ぎつつ、田園風景の上空を20分も飛行すると、丘陵地と平地の境に白亜の大きな館がいくつも見えてきた。あれが御料地に違いない。その周りには、広大な牧場や森林が広がっている。


 ほう。

 敷地の一部は、結界が張られているようだ。


 高度を落として、敷地の手前1ダーデン程度、人気のない街道脇に降下した。馬車を出庫して俺も乗り込むと、何事もなかったように車列は走り出した。


「外に出たということは、もう御料地の近くにいるのでしょうか?」

「御料地の門まで700ヤーデン(600mあまり)だ」


「はぁ……つい先程まで、城外の事業所に居たのに。信じられません。でも外は」

 フラガは、口を開けたまま、窓の外をしげしげと眺めている。

「そうか、フラガは初めてだよね。父上に運んで貰うの」

「はい」


 しばらくして、停車した。


「失礼致します」

 御者台との窓が開いて、上から声が降りてきた。


「ヴィノーラ御料地の入り口に到着致しました。ただいま先頭車のパレビー殿が降りていって門衛に進入許可を求めております」

「うむ」


「着いたね」

「はあぁ。王都から120ダーデンと聞いておりましたが、このような短時間で」

「僕も父上みたいに、速く飛べるようになるかなあ」


 ルークが、キラキラした目で見てくる。


「ああ、成れるとも。父が空を飛べるようになったのは15歳だ。ルークは既に飛べるようになって居るからな」

「飛んでいるというよりは浮いているだけですし、外を飛べるようになりたいです」


 ルークには、俺かセレナ(聖獣)が立ち会わねば飛行魔術を許可していない。そして、今のところ、戸外では禁止だ。人目に付くことになれば、大衆が過剰に反応するだろうからな。


「まあ、来年には、エルメーダに行って訓練するといい」

「はい」


 馬車が再び走り出し、門を通り抜けて柵を越えた。


「凄く広い。ここは牧場なの?」

「放牧地みたいね。ほら遠くに牛がいるわよ」

「でも、そんなに草が生えていないよ」

 ルークの言うように、黒褐色のよく肥えた地面が見えている。


「旦那様?」

 俺に頼るな。

「遠く……あそこに柵が見えるだろう。あの向こうが放牧地で、この辺りは採草地だ」

 アリーとルークは、首を捻った。


「その2つは何が違うのですか?」

「一緒じゃないの?」


「この辺りは平坦だから、明確な差はないかも知れないが。放牧地は牛や馬などの家畜が草を食べて過ごす場所だ。採草地は、家畜が冬の間に食べる牧草を栽培する場所だ。そこで放牧すると、家畜が食べてしまうからな。分けるのだ。今の時期は……そうだな3回目の収穫が終わったから、この辺りはもう草がないというわけだ」


「なるほど。流石、旦那様は物知りねえ」

「はい。すごいよねえ」

 横のフラガも大きく肯いた。


「てっきり魔術にしか興味がないかと思った」

 おい!


「シュテルン村でもそうだったぞ」

「そう……だっけ? 領地も貰ったから、私も勉強しないとね。ちなみに旦那様。御料地って離宮ではないのよね?」

 めげないやつだ。


「うむ。基本的には王宮で消費される食物を生産する農園と牧場だ。ただ狩り場もあるから、王族が滞在されることもあるようだ」


 聞いた話では、国王陛下はそれほどでもないが、王甥殿下はよく来られるようだ。


「牧場はわかったけど、農園って?」

「もう少し西には麦畑、北の森林の手前には果樹園があるぞ」

 さっき、空から見た光景を話す。


「へえ……」


 やがて中門が見えてきた。

 そこも通り抜けると、のどかな牧場には変わりないが、魔界強度が変わった。

 ここからは、魔術結界の中だ。


 ふふふ。

 急にルークがそわそわし出した。何かまでは分かって居ないようだが、感知だけはしているようだな。


 むっ!

 突如、騎乗の馬が疾駆して近付いて来た。


 あれは───

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2022/02/05 誤字訂正、少々加筆

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