404話 求婚するは我に在り
復讐するは我にありってフレーズ(映画題名,小説題名)の意味がよく分からなかったんですよねえ。我にあり=我こそが復讐するの強調かと思ってたら違ってましたね。おまえは復讐するな、我(神)がするって言う意味だったんですね。
翌日。プロモス大使館を訪れた。
今日は公式訪問ではなく私的な用件なので、私邸の方へ通された。10分程待たされたが、クローソ閣下が応接室に入って来られた。
立ち上がって挨拶する。
「一別以来、ご無沙汰しました」
「ああ。ラルフェウス卿……皆は席を外してくれ」
皆というのは、壁際にいた執事とメイド達だ。微妙な表情で部屋を辞していった。
「この度は、済まなかった。この通りだ」
しっかりと謝られてしまった。
「ご母堂に申し上げた通り、赦せぬとあれば、大使を辞してプロモスで戻るつもりだ」
「閣下に咎はありません」
辞めると言って、ある意味で俺を脅迫している以外は。
「確かに、悪いのは母王だ。何を考えているのだ? 私と……その、ラルフェウス卿が結婚すると、いっ、いや仮の話だ。仮の話だが、そうなったとしても、プロモスの賢者になってくれるわけではないのに」
すっかり上気している。
「何度でも、きっぱりと断ってくれれば良い」
「断って欲しいのですか?」
3度ばかり瞬いた。
「なっ、な、何を言っている?」
「私は求婚に参ったのですが」
「求婚……求婚?!【ばっ、馬鹿なことを言うなぁ!!】」
途中から、プロモス語に戻った。
顔が真っ赤だ。
「失礼致します!!」
扉が開いて、執事達が駆け込んできた。主人が大声を出したのだから当然だ。
おそらく俺が無作法でもしたと思ったのだろう。女性関係では評判が悪いからな。
「如何致しましたか?」
しかし、俺と閣下は十分離れているので、異変を見出せなかったのだろう。
「なんでもない」
「しかし……」
「何でもないから、外してくれ!!」
「はい」
俺を睨みながら、渋々部屋を辞していった。
「話を戻しますが、求婚と申しても閣下を正室には致しかねます。あくまで側室にということです」
「そんなことはわかっている。ローザ殿が……いっ、いやそういうことではなく、卿は正気か?」
「はい」
しばらくぶりに氷のような視線が来た。
初めて馬車で面談した時以来だな。
「もしや、クラウデウス陛下に強制されたのか? 母の所為で」
「いいえ。我が国王は、この件は私に任せると仰いました」
ふぅっと閣下は溜息を吐いた。
「ならば、なぜ? カゴメーヌでは、断ったと訊いたぞ」
「はい。浅はかでした」
「浅…はか……ラルフェウス卿が言うとは思わなかった。ああいや、それはそれとして。なぜ、今は私に求婚する?」
「誤解のないように申し上げておきますが、3人の妻をそれぞれに求婚したのは、第一に女性として好きだったからです」
閣下は、まるで頭が重くなったように、面を伏せた。
「妾もそうだというのか?」
「もちろんです」
表情が、何度か入れ替わった。
「うっ、ぅぅぅ。しかし、4人……4人も、ず、ずいぶんではないか?」
「はい。私もそう考えて、浅はかにも断りしたのですが。帰国してから妻達に諭されました。その理由を嫌気するのは私ではなくて、閣下の方だと」
「むむむ……」
「ついては、求婚致します。お気に召さずば、閣下が断って下さい」
顔色が赤から青くなり、普段の白さに戻った。
「もう一度訊く。本気なのだな?」
「はい」
「もし、私が求婚を受けたらどうする?」
「言うまでもありません。私の側室になって貰います」
「むぅぅ…………卿の求婚は理解した」
眉根を寄せて渋い顔になった。
「無作法をお許し下さい。ご返答はゆっくりと待たせていただきます」
「あっ、ああ」
どうやら、即答は無いようだ。当たり前だな。
「それでは、これで失礼致します」
立ち上がる。
「えっ?! あっ、そうかそうだな」
あからさまに挙動が不審だ。
まあ突然求婚されたのだ、無理もない…………ないが、大使館の私邸の中を勝手に歩き回るわけにはいかないから、誰かを呼んでもらわねば困るのだが。
「あのう、執事の方を」
「あっ、そうか。済まない。誰かある! ラルフェウス卿がお帰りになる!」
†
「お帰りなさいませ。随分早かったですね」
アリーに出迎えられた。
ローザは、身重になってから普段は離れで過ごすようになった。
寝室に行って着替える。
「これでいいわ」
上着を、着せてくれた。
「うむ」
「それで、クローソはなんて?」
「ああ、求婚については理解したそうだ」
求婚することは、出掛ける前に言い渡してある。
「んん、理解? 返事じゃなくて? てっきり大喜びで、側室になりますって言うと思ったのに。生意気!」
生意気って。年齢は、閣下の方がだいぶ上なのだが。
「相手は王族だ、余程のことでなければ、諾否、いずれも即答はしない」
「まあ、そうか」
「アリー、茶を貰えるか」
「ああ、淹れるのはわけないのだけど。ルアダンが、旦那様がお帰りになったら公館へ知らせて欲しいって。ノイシュが知らせに行っているけれど、何か用があると思うわ」
†
公館に向かうと、ダノンとバルサムが顔を揃えていた。
会議室に入る。
「申し訳ありません。アストラ殿が王宮から戻られた後に伺おうと思っておりました」
「構わない。それで?」
「はい。外務省から使いが参り、ご帰国間もなくで恐縮ですが、ヴィノーラ御料地へ明後日までに、お越し願いたいと」
その件だとは思っていたが、意外と早かったな。まあウチの家が納入している通信魔導具が普及しているからだが。
「明後日か」
「ただ会談される相手の詳細が分からなかったのと、御館様はしばらくお戻りにはならないだろうということで、アストラ殿は王宮へ情報収集へ向かわれました」
御料地までは大した距離ではない。飛行魔術で行けば1時間も掛からないが……。
公館のメイドが出してくれた、茶を喫する。
やはり、本館で出してくれる物からは一段味が落ちるな。まあ、あっちはローザが鍛えているからな。
それはともかく。
30分程して、アストラが王宮から戻ってきた。
「遅くなりまして」
「ご苦労。イーズ帝国大使の件は?」
「残念ながら余り情報が得られませんでした。ファラム閣下は、特級魔導師としては古株で、尊崇を集めているぐらいです」
「うむ。まあいい。では、明早朝に出立するとして、随行はアストラ殿が考えるでしょうが、警備は如何致しましょうか?」
馬車で移動ならばそうなるが。
「ああ、警備の団員は不要だ」
「御館様!」
バルサムは不服そうだ。
「まあ待て。バルサム」
「しかし」
聖都での襲撃の件が引っ掛かっているのだろう。
「目的地は国内で、しかも超獣が居るわけでもない」
「そうですが……団長」
「まずは、御館様の存念をお訊きしようではないか」
ダノンは落ち着いたものだ。
「出発は明後日10時。警備はレプリーにさせる」
「レプリー……」
皆、それがゴーレムであることは知っている。ここ数年で自律的なゴーレムの行動精度は上がっているので、警備程度は問題ない。
バルサムの眉間には皺が寄っている。彼としては、騎士団の存在意義が薄れることも懸念しているに違いない。
俺としては、自分の親衛隊ではなく、対超獣対策の人員だと思っている。その辺りに乖離があるが、達観しているダノンに言わせれば、矛盾はないらしい。
「相手が東洋の賢者であることを気にしているのだろうが、今回は大使案件であり特別職案件ではない。移動時間の観点から考えた結果だ」
「はあ……」
「そうですな。それに、余り大勢で押し掛ければ、相手を刺激することに繋がりかねぬ。バルサム自重せよ」
「わかりました」
完全に納得しているわけではないだろうが、ダノンにそう言われては彼も引っ込まざるを得ない。
「アストラ」
「はっ!」
「大使随行は、アストラともう1人連れていく。人選は任せる。あとはアリーを同行させる」
「承りました」
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訂正履歴
2022/01/29 イーズ帝国大使の記述を若干追加




