41話 前途多難! (第3章最終話)
そろそろ卒業の時期ですね。淋しい別れもあるけれど。前途に胸膨らませることが多かったなあ(遠い目)
14歳になった。
中等学校も最終学年、しかも、もう2月。春真っ盛りだ。
もう数ヶ月、夏が来れば卒業だ。
(1月1日は、春分。2学期制、前期は7月始まり、後期は1月始まり6月終わり)
ダルクァン校長先生へ呼ばれて、司祭室へやって来た。
部屋に入ると、にっこり笑って封筒を差し出した。
「ラングレン君。この間の選考結果だよ。おめでとう」
2ヶ月前
伯爵領都ソノールで試験を受け、その後、小論文を書き上げ、王都教会へ送った。その結果のことだ。
それにしても校長先生。
本人が通知書を見る前に、結果を言うのは止めて欲しいのだけど。
あまり緊張感なく、通知の封書を受け取る。
あれ?
「司祭様。封を切った様子がありませんが?」
「もちろん、君宛の手紙を開けるわけないだろう。私が見たのは別の手紙ですよ」
「ああ、失礼しました」
光神教会の封蝋をちぎって開け、中を見る。
王都修学院 光神暦380年度 神学者候補生選考結果通知書
貴殿は、前記選考に合格されました。
入学日、8月1日。
よし! えーと、何々。
申請の奨学金は上限額まで、支給可。
住居については、王都内であれは制約はないが、神職候補生寄宿舎入舎の希望があれば、入学の1ヶ月前までに申請されたし。
うんうん。これって、最高の待遇だよな。
書面から目線を上げると、穏やかな笑顔の司祭様が居た。
「校長先生……何と言って良いか……ありがとうございます。本当にお世話になりました」
俺は、恩師の手を取った。
「よかったね。ははは、私は司祭だけど、教師でもあるんだ。生徒のためになることをするのは当たり前だよ。迷った時期もあるけどね」
「それでも……」
「そう、それでも。ラングレン君の世話を焼こうと焼くまいと、君は良い結果を得ていたと思うけど」
「そっ、そんなことはありません。司祭様のお蔭です」
先生には、論文の書き方を懇切丁寧に指導して貰った。
勝負は、最後の一手が大きい。
「そう思っていてくれるなら、まだまだ君は前に進める。さあ、お父様、お母様に知らせて上げなさい」
そうだ!
俺は、魔術師への一歩を踏み出したんだ。少し逸れている気はするが。
「はい。それでは失礼致します」
司祭様の部屋を出て、廊下に出る。いつものように、アリーが待っていた。
無言で肯く。
「ラルちゃん。ああ……おめでとう。早くお姉ちゃんや伯父さん伯母さんに伝えようよ!」
「ああ」
◇
「ただいま! ローザ」
「ただいま。お姉ちゃん」
夕日が沈みかけた頃、家に戻ると玄関に出迎えが居た。
黒い膝丈のワンピースに、白いエプロンを着けている。
「お帰りなさいませ、ラルフェウス様。良い結果のご様子。おめでとうございます」
「ありがとう!」
しかし、俺は顔に出る質なのか。
そんなはずは……ああ、アリーの満面の笑顔の方か。
「居間で旦那様と奥様がお待ちです」
そうだった。
「ただいま戻りました」
ソファに座った両親に会釈する。
「おお、戻ったか。ラルフ」
「はい。王都から選考の結果通知を受け取りました。どうぞ」
通知書を父さんに渡す。
うむと言って、封筒から通知書を出し、ざっと眼を通した父さんは、大きく肯いて母さんに渡す。
「わあ。合格したのね、ラルフ。おめでとう」
「ああ。よくやった。合格率1/20の難関とは聞いていたが、私は信じていたぞ」
「もちろん。母も信じていましたよ」
母さんは泪を浮かべている。
「しかしだ、神学生として王都へ行くのだろう。それで、お前の夢だった上級魔術師に本当に成れるのか?」
「神学者とならない場合は、卒業後3年以内に奨学金を返せば、問題ありません」
「うむ、そうなのか……学費ぐらい、私がだな」
お父さんが、少し不満そうに俺を見る。
「いえ。前にも言いました通り、長らくこの家を離れますので、自分でなんとかします」
「うーむ。ラルフなら大丈夫だと思うが……」
「それで? ラルフは、この神職候補生寮に入るの?」
「はい、そのつもりです」
「それは駄目です!!」
はっ?
否定の言葉は、背後から来た。
反射的に振り向くと、ローザとアリーが居た。
「あっ、えっと。ローザ。何が駄目だって?」
厳しい目線で2人は俺を睨んだ。
「ラルフェウス様は、あの時の誓いを憶えていらっしゃいますか?」
もちろん忘れては居ない。
俺はこの姉妹と一緒に暮らすことを、彼女達の母に誓ったんだよな。
「もちろん、誓いは憶えているけど……ローザだって、俺が王都へ行くことは賛成していたじゃないか!?」
「無論賛成していますよ」
ローザは、すまし顔だ
「はぁ?」
「それと、寄宿舎に入られることとは、話が違います。それでは、お仕えできません」
「じゃあ、最初は寄宿舎に入るけど、どうにかして2人を呼び寄せる方策を探す……とかは?」
「そのように悠長なことで、どうしますか。貴族たる者。集合住宅に住むなどあってはなりません。そもそも王都に御館を用意して、3人で移り住めば良いのです」
横で、アリーがうんうんと頷く。
確かに、そう言う考えもあるが……。
「ローザ。分かってないのかも知れないけど。王都では、子爵以上でなければ、館なんか持てないし。第一そんな金が。奨学金はあるけど、館なんて到底……」
「御館の件は、私にお任せ下さいませ! ただし、日々に必要な金については、当然ながらラルフェウス様にご用意戴くことになりますが」
「ラルちゃんは、甲斐性があるから大丈夫!」
えーと。この姉妹は、何を言っている?
「それで、よろしいですね! ラルフェウス様!」
「いっ、いやぁ。本当に館が用意できるなら……良いけれど。でも1ヶ月前までに決めないと」
押し切られた。
まあ実現はする余地がないが。
「では、そのように。すぐにご夕食の用意を致します」
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