403話 妻達の連帯
自分を除く周りの人が連帯してることに気付くこと、ありません?
「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
王都館に戻ると、家族全員に出迎えられた。転送所で別れたアリーも着替えて待っていた。
「おとうさま。おかえりなさい」
愛娘を抱き上げる。
「うむ。レイナ、良い子にしていたか」
「…………してた!」
少し間があったが。
じっと見つめると、顔を逸らした。
プリシラを見ると少し苦笑している。
「人形だったな。買ってきたぞ」
「やったぁ」
降ろしてやると、プリシラの方へ駆けていった。
「ちっ、父上。お帰りなさいませ」
ルークが何やら紅潮している
「うむ。ただいま」
頭を撫でてやる。
「あっ、あのう。父上は、空飛ぶ竜と戦われたと聞きました。是非お話を……」
「はっははは……」
それで興奮しているのか。
「ルーク、旦那様は遠き国よりお帰りなのですよ。まずは中に入って戴き、落ち着いてから、お訊きしなさい」
「母上……そうでした。僕としたことが」
着替えて、居間に行く。
家族がそろって、改めて挨拶を受ける。
早速レイナがやって来たので、人形を魔収納から出してやった。
しゃがみ込んで、渡してやる。
「ふぉぁぁ、きれー」
レイナは、相当嬉しかったらしく、その場で回ると、破顔して抱き人形の頭を撫で始めた。
「つるつる」
顔が陶器でできているからな。
「セロア人形とは。ありがとうございます。レイナ、お父様にお礼を申し上げなさい」
プリシラは知っていたようだ。
「あっ!」
ソファーにゆっくりと人形を横たわらせると、おしゃまにスカートを摘まんで、頭を下げた。
「おとうさま。ありがとう」
「うむ。うまくできたな」
えへへと照れている。
「おにいちゃん。ままごと……」
「後でしてもらいなさい」
プリシラが頷くと、レイナの乳母が手を牽いていった。
「ルーク」
「はい」
「ふむ。ルークに謝らねばならぬことが、さっきできた」
「はい?」
「それがな。セロアニアから、国王陛下への贈り物を預かってきたのだが」
「ああ、あの人形ね」
「「えぇっ?」」
アリーが何気なくこぼした言葉に、ローザとプリシラが驚く。
「ああ、違う違う! レイちゃんに渡したのとは、別の人形のことよ」
「はぁぁ……」
プリシラは安心したようだ。
「それで、あの人形が、どうか・し……あっ、ごめんなさい」
アリーは、バツが悪そうに黙った。
「その人形には、セロアニア公爵閣下からの親書、手紙だな……それが付いていたのだ」
「はぁ?」
「ここからが本題だ。親書にこう書かれていた。贈り物である人形を、私の息子であるルーク。お前からクリスティナ王女殿下へ差し上げたことにしてくれとな」
「えっ、ええ?」
ルークは、円らな瞳を何度か瞬かせた。
「こっ、ここ、困ります! 僕から、お目に掛かったこともない王女様に贈り物なんて。僕が、王女様を好きだってことに……」
顔が真っ赤だ。
うーむ。流石ルークだ。きちんと状況が理解できたようだ。
「ああ、すまないな」
「ちっ、父上は! 父上は、何も悪くありません。しかし、うぅぅぅ……」
頭を抱えた。
「旦那様。例のやつを出してあげたら?」
アリーがにやっと笑う。
「うーむ」
事態を余計に複雑化させるだけのような気もするが。
「人形?」
ルークが出庫した物を見た。
「これをね。エリちゃんにあげるの! その時に、これは僕が父上に頼んで、エリちゃんに買って来て貰ったよって言うの」
「ええ? 僕は頼んでなんか……」
「言うだけよ」
「いや、母上が嘘を吐いてはいけないと」
「あらぁ、エリちゃんが悲しんだ上に怒り出すのが良いの? それともすごく喜ぶのがいいのかしら? 王女様にも人形を差し上げたことは、すぐ新聞に書かれるだろうなあ」
ルークは、そっちの方で悩んでいるわけではないと思うが。
「わかりました。ありがとうございます。どう言って渡すかは、良く考えてみます」
物分かりの良いやつだ。
ルークは壁際に居たフラガを呼び、人形の入った箱を持たせて居間を出ていった。彼らに続いて執事とメイド達が出ていき。部屋には、俺と妻達3人が残った。
これはそう言うことだろう。
「うむ。では皆に言っておこう。クローソ閣下のことだ。この度、ご母堂であるエレニュクス女王陛下から、クローソ閣下との縁談を切り出された。それに対しては、お断りした」
「はい。その件は、アリーから先日連絡がありましたので、存じております」
「だが、女王陛下は、我が国の国王陛下に話をすると仰ってな」
アリーがふんふんと肯く。
「先程、国王陛下にお目に掛かったが、この縁談は俺の自由にすれば良いと仰った。したがって正式にお断りしようと考えている。現状は以上だ」
ローザは、両脇を見遣ってから、俺に向き直った。
「旦那様のご意見は承りました。実は昨日、クローソさんがこちらにお見えになっていました」
「そうなのか?」
「はい。そして国王陛下の件以外のことは、同じように仰られ、旦那様と私達に申し訳ないと、涙ながらにお詫びされたのです」
「それは……」
「ついては、お詫びの証に大使の職を辞して、プロモスに戻ると」
「なんと……」
全く、あの母娘は……。
「それについては、大奥様が諭して。旦那様がお戻りになって、お話になるまで待っても遅くないと」
「はっ? おふくろが居たのか」
「はい。一昨日お越しになりまして、今日の早朝まで。ソフィーさんを迎えに来られまして」
「そういうことか」
どうやら、ディアナ卿は妹を返してくれたようだ。1度隠れ家を訪れたことが、警告になったのかも知れない。
「差し出がましいとは存じますが、この縁談をお断りになったのは、なぜでしょうか?」
「決まっている。まずは私には、お前達が居る。それに王族を側室に迎えるなどあり得ぬだろう」
「つまり、クローソさんが気に入らない、嫌いだということではないのですね」
それを訊くか。
「度合いはあるが、嫌いではない」
「んまぁ。お姉ちゃんには正直なんだから!」
ローザに嘘を言っても、即座に見破られるしな。
「承りました。旦那様がお戻りになる前に、私達3人で話し合った結果を申し上げます」
「むう」
妻達が連帯している。
「ではクローソさんを、側室にお迎えになっては如何かと……」
アリーとプリシラが揃って肯いた。
「なんだと?」
「差し出がましい提案で、申し訳ありません」
「いや。怒っているわけではない。しかしだな……」
「ちなみに、義母上様も昨日仕方ないわねと、仰いました」
この際、おふくろの意見はどうでも良いが、プリシラの方も向く。
「わっ! 私は、側室に加えて戴き、大変幸せです。ですから……」
もう1人加わっても良しとするか。連帯はしているが、俺へ対抗するわけではないらしい。
「皆は、なぜそんなことを言うのだ? 妻がもう1人増えるということだぞ……ローザ?」
何か言いたそうだ。
「私に妬心がないわけではありません。しかし、旦那様の子供が2人というのは、いかにも少な過ぎます」
「むう」
ローザは自分の腹を摩った。
「この子が生まれても3人です。それでは、世界にとって大きな損失です。後世の人達が残念に思うことでしょう」
おおげさだな。
しかし、もはや妻の見地ではなく、俺の母の視点だな。
この辺りは、結婚して以来、いやおふくろさんが俺の子守を頼んで以来かも知れないが、あまり変わっていないようだ。
「いやあ、ルークは賢いし、魔術も凄いし。このまま育てば、旦那様の後継者として相応しくなるとは思うけどね。他に男の子を作っておくに如くはないわ。ああいや、レイちゃんがどうだって言っているわけじゃないのよ。女の子ももちろん大事よ。第一私は1人も産んでないし」
迂闊な言い方をするな。プリシラが申し訳なさそうにしたじゃないか。
「アリーと完全に同意見ではありませんが、旦那様の妻を増やした方が良いと言うのは、プリシラを含めて同じ思いです。その候補として、クローソさんは悪くないという認識です」
皆が肯いた。それで良いのかよ。
「それに、お断りになるとしても、さっき仰った理由ではなりません」
ふむ。
「3人の意思は理解した。その話はこれまでだ……ソフィアはどんな感じだった? そもそも、いつここへ来た」
「ああ」
ローザとプリシラが、互いの顔を見合わせた。
「はい。お知らせしなかったことは申し訳ありません。ソフィーさんが来たのは5日前です」
間違いなく、妹が口止めしたのだろう。
「来た日は、凄く思い詰めた様子で、離れの部屋に閉じこもったままだったのですが。それが翌日になったら、前にこちらに居た頃のように明朗な感じに戻りました」
4日前というのは……。
「それは、第一報を入れる前か? 後か?」
「第一報というのは、旦那様が竜と戦ったというご連絡ですか? あぁ……えぇ、その前です」
「はい、お夕食の少し前でした。それが何か?」
「ああ、なんでもない」
やはりそうか。こことセロアニアの時差を考えれば、夕食の前とは竜と戦った時刻付近だ。その時点で、ソフィアは俺が無事なことを感じ取っていたということか。
ここに連絡を入れたのは、結社の最高法院の廃墟を探検して公都セロアに戻った後、戦闘から数時間経った時刻だからな。
「あのう、ソフィーさんには」
「ああ、これからは大人として扱うことにする。もう一人前だ」
まだ13歳だが。
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訂正履歴
2022/01/22 細かに加筆
2022/01/29 クローソの敬称(呼ぶ人間ごと)の統一
2022/08/18 人名揃え:ルーナス卿→ディアナ卿




