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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
16章 救済者期II 新世界戦隊編
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397話 戦闘開始

クライアントのところに行ってみると、全く準備ができて居らず、やるべきことに取りかかれない経験が何度かあります。そういう時はカリカリしても意味ないですよねえ。

 新世界戦隊出動から遅れること、数時間。聖都からセロアニア首都セロアズに転送された。

 既に第1隊はセロアズを発していたが、俺はそこで思わぬ足止めを食った。


 事情を訊きに行ったバルサムが帰って来た。

「報告致します。先行隊によると、超獣出現地の周辺住民の避難が終わって居らず、本日中の開戦は見送られましたので、御館様は明日お越し頂きたいとのことでした」


 俺も先行したいところだが、今回の作戦は第1隊のものだ。戦闘がないのならば良いだろう。


「わかった」

 結局、その日はさっさと早く就寝した。


 翌朝。

 首都セロアズに騎士団選抜隊を置いて、俺は1人で出立した。

 セロアニア公国の中央に横たわるマーセド山脈に向けて1時間弱、距離にして400ダーデン(360km)程、これまでに飛行した。眼下にプロマニスという小都市が見えてきた。地図の通りと、確認しつつ上空を通過すると、前方に山脈の裾野が迫ってきた。


 ふむ。

 さらに5分飛行を続けると、10ダーデンほど先に巨大超獣を感知した。が、勝手に戦闘開始するわけにはいかない。戦闘は1番隊に任せてあるからだ。


 あれか。

 田園風景の小高い丘の上。農家の屋敷に慌てて取りつけたのだろう、長い旗竿に公国軍と戦隊の旗がはためいている。

 前進陣地だ。


 屋敷の庭に、公国軍兵の姿が見える。手っ取り早くあそこに降りたいが、そうすると襲撃と思われかねない。

 (おもんばか)った結果、やや離れた場所に降り徒歩で近付く……後から考えれば、かえって良くなかったらしい。

 門前で衛兵に槍を突きつけられた。


【何だ、お前!】

 セロア語だ。


【新世界戦隊所属、賢者ラルフェウス・ラングレンだ!】

【賢者? ふん! 戦隊の皆様は到着済みだ】

 どうやら、俺の着到のことは徹底されていないようだ。


【戦隊員と言うならば、腕章はどうした?】

【腕章?】

【皆様は、揃いの腕章を着けていらっしゃるのだ】

 そんな話は初耳だ。1番隊で作ったのだろう。


【いよいよ怪しいな。どう見てもセロアニア人には見えぬ】

 鉄兜からはみ出ているのは、黒髪ばかりだ。


【ああ。私はミストリア人だ】

【ミストリア人が、なぜセロア語を話す! もっとうまい嘘を吐け! 反乱分子か? それともこそ泥か?!】


 確かに彼の言う通り、この言語を喋る他国人は少ないはずだ。

 俺は、言語という言語を解して会話できる……などと釈明しても余計怪しまれるだけだ。第一面倒臭いしな。こめかみに指を当て──


呼出(アンルフ)


「ああ、エミリオ卿、ラングレンだ。たった今、陣地前に到着した。悪いが衛兵に足止めを食っていてな……よろしく頼む」


【貴様! 何をブツブツ喋っているのだ!】


 いよいよ俺への警戒度が上がったのだろう、近辺に居た衛兵を呼び集めて俺を包囲した。

 ああ、来たか。


「ラルフェウス卿!」

 差し渡し30ヤーデン程はある庭の向こうから、こちらを認めた30歳がらみの男が、全速力で駆けてきた。

 衛兵達と同じ、黒い髪だ。


【大尉殿! 怪しい者が、侵入しようと致しまして】


 エミリオ卿が指呼の距離まで近付いてきた。青い腕章を巻いている。


【怪しい者とは、そこにいらっしゃる賢者様のことではあるまいな?!】


 衛兵は目を見開く。

【大尉殿! この若造が賢者様なのですか?】

【わかったら、槍を戻さんかぁ!】

【はっ!】


 ようやく、包囲が解かれ槍先が天を向いた。


「ラルフェウス卿、失礼致しました。どうかご容赦下さい【貴様ら、敬礼せよ】」

【【【【はっ!】】】】

 一応返礼しておく。


 庭を突っ切っていくと、クレイオス卿の姿が見えた。

「ラルフェウス卿。ようこそ」

 にこやかに出迎えられる。

 20歳代後半だろう。この間、俺に弟子入りを求めてきた男だ。


 農家らしい大きな土間続きの部屋に通されると、壮年男性が立ち上がった。


「やあ、ラルフェウス卿。お待ちしておりました」

「サーザウンド卿。恐縮ながら、推参致しました」

「いやいや。我らも心強い限り」


 傍らに、軍人が何人か居た。


「セロアニア公国軍、第2……連隊ベルナルド大尉であります。ご高……名は、かねがね」

 ラーツェン語がぎこちない。


【ラルフェウス・ラングレンと申す。大尉殿、当地の勝手はわかっておりませぬので、よしなに頼みます】

【おおぅ。セロア語まで、お話しになるとは。それは魔術なのですか?】

【大尉!】

 エミリオ卿だ。


【なんでしょう?】

【麾下の兵に、ラルフェウス卿のご到着予定が伝達されていなかった! どういうことか?】

【そっ、それは。申し訳ありません。今朝交代したばかりでしたので……】

 ベルナルド大尉は謝るのもそこそこに、部屋を飛び出していった。


「申し訳ありません」

「ああいや。エミリオ卿の手落ちではない」

「はあ……」


「それよりも、作戦はどのように。よろしければ、お教え願いたい」

 状況をいきなり訊いては失礼だ。


 サーザウンド卿が、にやっと笑った。

「巨大超獣は事前情報通り、水嚢型でした。元々近辺に民間人はごく少なく、避難命令も国軍が2日前に出しております。完了確認が取れ次第、まずは水嚢を破壊して、中身を引きずり出したいと思います。予定は11時です」


「了解です。私は少し離れた場所におります」


「ラルフェウス卿、ご心配なく。サーザウンド卿も小官も数体斃しておりますれば」

 クレイオス卿が、自らの胸を叩いた。

 任せておけと言うことだろう。


「ところで、ラルフェウス卿。ひとつ伺いたいことが」

 エミリオ卿だ。

「何でしょう?」


「はい。今回出張ってこられた理由の、本当のところを」

 3人が互いに視線を交わす。残りの2人も気になっているのだろう。


 戦闘前に不確かな話をしても、かえって良くないかと思って、彼らには告げていなかったが。訊かれてしまえば、逆に言わない方が引っ掛かるだろう。


「言うまでもありませんが、1番隊の実力を疑っているわけではありません。ただ、国元から気になる連絡がありまして」

「国元……ミストリアですか?」

「ええ。巫覡を為す者があり、戦闘時に何らかの邪魔が入るので注意しろと」


「邪魔が入る?」

「邪魔とは?」

 訊きたくなるよな。


「私にもわかりかねます。その曖昧かつ根拠薄弱な情報ではありますが、捨て置くには気になりまして」

「ラルフェウス卿は、その何者かわからない邪魔に備えると?」

 肯く。


「いや巨大超獣だけでも難敵に違いない。不測の時はよろしくお願いする」

 ふむ。不快感を示しそうなものだが、サーザウンド卿は老練というべきか、器がでかいと言うべきか。


「承りました」


     †


 予定通り11時には作戦が開始された。

 情報通り水嚢型だ。

 巨大超獣はやや上下に潰れた概球状で、極低温の白い霧を吹き上げている。時折身じろぎをするように揺れ動き、目映いばかりに皓い巨体に波紋が広がる。


 1番隊は、巨大超獣から100ヤーデン程離れた周りに、正三角形の頂点に各人が並んでいる。俺はというと、さらに200ヤーデン余り離れた空中に浮かび、待機だ。


 見下ろす形になって恐縮だが、入る邪魔がなんなのかわからない以上、できるだけ広い視野を得る必要がある。


 僅かに魔力が高まり、3人各自の足下に穴が掘れた。

 そこに各人が潜った。


 ふむ。これが、クレイオス卿の言う独自の工夫というやつらしい。

 魔界強度が高まっていく。


 これを巨大超獣も感知したのだろう、水嚢の中で輝点が生まれると、そこから魔晄が迸った。狙い違わずエミリオ卿へ……しかし、光条は虚しく大地を焼いたに留まった。

 穴に潜った理由は、これか。

 彼らは飛行できると言っても、高機動飛行はまだ不得手だ。


 さらに3箇所で、土魔法が発動。

 巨大超獣のやや外側の大地から、恐るべき速度で次の突起が突き出た。上から見れば、超獣に対して、接線方向揃って右回りに斜め上方向だ。


 これを受けて、敵は大きく撓んだ。

 それが2撃、3撃と続くと撓みが右回りにずれていき、数十撃を数える頃には超獣は緩やかに回転を始めた。

 

 ふむ。

 術式には無駄が多いし、角加速度も大したことはない。

 しかし、直接回転力(トルク)を伝えているがゆえに、俺のやり方に比べれば精密な同期連動は不要。脱調することなく加速し始めた。


 急造の隊には合っているやり方と言えよう。

 順調に水嚢内での対流が起こり始め、全ての魔導波を弾き返す超電導の破綻が迫った。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2021/12/04 誤字、文章乱れ訂正、僅かに加筆

2021/12/18 誤字訂正

2022/10/15 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[一言] 仕事先に出向いたら受け入れ体制が出来てなくてグダグダ&ムカムカ、ありますねぇ。仕事内容よりそっちの方がずっと面倒だったりします。
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