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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
16章 救済者期II 新世界戦隊編
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396話 愛しい人

最近、親族から電話があると、悪い話の知らせばかりなのですが……そう言う付き合いを小生がしているからかなあ。

 フォイジン亭の離れの食堂。

 朝食を食べ終え、アリーが淹れた紅茶を飲む。

 うーむ。最近はハズレが減ってきた。余り嬉しくない。

 何度かに1度有った飛び抜けた当たりまで、減ってしまったからだ。

 しかし、そう言うとやる気をなくしそうなので口にはしない。アリーは褒めると伸びる性格なのだ。


「おはようございます」

 バルサムが食堂までやって来た。


「ああ。おはよう」


「新聞をお持ちしました」

 扉の前で挨拶したバルサムが、すぐ横までやって来て持参した新聞を差し出した。副長兼派遣騎士団臨時団長の彼が、わざわざ新聞を持ってくるのは当然意味があるはずだ。


 やはりこれか。

 1面に、大きな活字が踊っている。

『世界各地の拠点に一斉に立入捜査! 結社薔薇の鎖(ローゼン・ケッテ)は分裂か!』


 どの程度掴んでいるか気になり、少し読み込む。

 5日前、刺客侵入事件の後、バルサム達に一連の顛末を説明させられた。


 結社薔薇の鎖(ローゼン・ケッテ)については、スードリ達とミストリア陸軍近衛師団第2憲兵連隊、通称黒衣連隊(ノアレス)が連携して、圧力を掛けつつ追い詰めていた。

 去年辺りから、情報がよく入ってくるようになった。おそらく内部通報者を作ったと推量している。スードリ達、情報諜報班は騎士団では異質の存在であり、対超獣特別職もしくは大使の職に関することでは俺に従うが、それ以外は王宮の意に順って動く者達だ。


 俺としては、彼らを便利に使わせて貰っているという立場だ。それを弁えて、多くを訊かないことにしている。結社、薔薇の鎖もその1つだ。


 ミストリア国内の治安維持が厳しくなり、俺を狙えなくなった。

 加えて、本館も公館も城外の拠点ですら、設備も警備を拡充している。それで、今回の教皇領への滞在を、彼らが好機と思えるだろうと踏んだ。

 国外に出て、しかも新世界戦隊の手前、これまで通りの十分な警備ができないからな。


 予想通り、教皇領で俺を襲撃する計画があるとの情報が入ってきたが、5月の上旬。つまりは俺が、教皇領に派遣されると公表されて間もなくのことだった。


『ご存じならば、仰って貰えば警備を今以上に、充実させたものを』

『それでは、結社側が警戒して乗ってこないだろう』

『御館様の御身以上に優先すべき事などありません。それを自ら囮となるなど、ありえません』


 そう、バルサムにだいぶ絞られた。

 警備責任者は、彼だ。余りにも真っ当な主張になすすべなく叱られていたが。

 まあ、今でもわだかまりが消えては居ないのだろう。

 無言の抗議というわけだ。


「ケプロプス連邦で、首都近くの大法院と呼ばれる本部組織で交戦となり、突如爆発して法院派幹部と見られる7人が全員死亡か」


 ふむ、爆発か。これは知らなかったな。

 魔術か、魔導具が使われたな。

 ただ自裁したか、それとも連邦が口封じをしたかまでは分からないな。後者は穿った見方かも知れないが、現状新世界戦隊を害する国家と見られると、西方諸国の友好度は下がるだろうし、光神教会と教徒を敵に回しかねない。

 連邦は6つの都市国家の寄り合い所帯。かなり複雑な政治形態らしいからな。この辺も足の引っ張り合いが激しいとは聞いている。 


 それはともかく。

 事前に議定派は、法院派と袂を別つと宣言か。それで分裂というわけだ。おおよそスードリから聞かされている通りだ。

 ちなみに、法院派は最古参の派閥で活動はかなり過激らしい。議定派はその名の通り結社が光神教会と光神暦87年に分裂した後に、干渉が色々あって光神暦171年に約定を結んだ。それを遵守することを方針としている派閥だ。

 構成員である社員は3対7だが、権威および集金力は前者の方が強いと言う話だ。しかし、今回の一件で弱体化することは間違いない。まあ、少し呆気ない気はするが。 


「副長」

「なんでしょう、奥様」

 今回は、救護班長ではなく俺の従者として付いて来ているので、そういう呼び名になる。


「そろそろ旦那様を赦してあげて」

「はぁ? 私は御館様の家臣です。また赦すことなどありませんが」


 バルサムは意外そうな顔をした、俺も自分の顔が見えれば同じようになっていただろう。


「本当にそうならば良いけれど。旦那様のやり方は、今後も変わらないと思うし……」

 助け船ではなく諦観か。


「……変えたら旦那様の良さがなくなるかもよ。それは嫌でしょう?」

 むぅ。


「つまり御館様を支える側が、変われと仰る訳ですな」

 おっ、何か少し表情が和らいだような。


「副長に変われなんて……ただ赦して上げて欲しいだけ。ああ、私が淹れたのだけど、お茶いかが?」

「はっ、戴きます」


 しかし、バルサムにゆっくり賞味する暇はなくなった。

 扉の方へ視線を向けると、フロサンが鞄を持って入ってきた。


「失礼致します。ルーナ様と仰る方から通信が入っています。御館様をご存じとのことですが?」

「ああ」


 あの賢者から? 何の用だ?

 鞄を開き、上部の釦を押して、通信を再開する。

「ルーナ卿、お久しぶりです。ラングレンです」


『やあ、ラルフェウス卿。元気かい?』

「先に申し上げておきますが、国際間通信で私信は禁止されていますよ」


『……いっ、いやだなあ。もちろん公務だよ』

 その割に、少し間があったが。


『それでだ。連絡したのは、君の愛しい人の頼みだからだ』

 愛しい?


 それが聞こえたのだろう、アリーが目を細めて微妙な貌となった。


『お兄様!』

「その声は、ソフィア?!」

『はい!』


「ルーナ卿。ソフィアには手を出さないと言いましたよね!」

『出していないって。逆だよ、逆!』


 逆って何だ?


『私が、何かお兄様のためにできることはないかと思いまして。王都に押し掛けて、ルーナ様に頼みました』


 何てことだ……。

 ルーナ卿の連絡先を知っていたということは、妹に何かしらの手出しをしていたというわけだが。今さら、そこを責めても無駄だ。


「ソフィー。悪いことは言わないから、すぐにエルメーダに戻りなさい。母上が悲しまれるぞ」

『いいえ。母上には、許可を戴いております。そんなことより……』


 いや、そんなことよりって。

 おふくろさんも、ソフィーを巫女にさせるのが嫌だったんじゃないのか!


『近く、お兄様から見て北西の地に、災いが訪れます。その時には邪魔が入るとの兆しが出ています。是非気を付けて下さい。ソフィアの願いです』


 北西? 邪魔?


『ああ、聞こえたか? ラルフェウス卿。これは、君の妹の渾身の卜占の結果だ。疎かにすることのないように。ではな!』


 おい!

「ソフィー! ソフィー! 切れたか!」

 気を取り直して、こちらから通信魔導具で呼び出したが、反応がなかった。


「あぁぁ。ソフィーちゃん、これはいよいよ家を継ぐ気はないようね」


     †


 翌早朝。セロアニアにて巨大超獣が発見されたとの連絡を受け、あわてて戦隊本部に出向く。


 カリベウス総隊長と彼の部屋で向かい合っている。

「ほう。出向いてくれるのか。既に第一隊が出動準備をしているが」


 既に対抗する隊の手配は終わっているのは別途訊いた。俺に対する出動依頼は出ていない。


「前にも宣言した通り、卿の活動について私から掣肘する気はない。ただ1つだけ聞かせて貰いたい。なぜ出動する気になったのかを」


 つまり、本件に対して俺が出動するまでもない、そう総隊長殿は見做しているということだ。


「セロアニアが、ここから北西に位置するからです」

「んん? 北西?」


 総隊長殿が訊き返すのは、もっともだ。理由が方角と答えられてもな。しかし。


「方角……ミストリアには、優れた巫女が存在すると聞くが?」

「その通りです。私も必ずしも信じているわけではありませんが」


 鋭いな。まあ、賢者ルーナではなくソフィーの未来視だが。言い出すとややこしくなるので、誤解したままにしておく。


「ふむ」

 顎髭を数秒弄っていたが。


「了解だ」

「では、私も出動させて戴きます。ああ、駆除については、できるだけ1番隊に任せます」

「うむ。助かる」


     †


 宿舎に戻ると、恭しくバルサムに出迎えられた。

「出動準備整っております」

 後ろに控えた、アリーも頷いて居る。


「では、セロアニアに向けて、出動する」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/11/27 少々加筆

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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