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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
16章 救済者期II 新世界戦隊編
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390話 新世界戦隊発足

活動報告にも書きましたが、本作品が500万PVを記録しました。

3年半に渡りお読み頂き、ありがとうございます。完結までお付き合い下さい。

 聖都(マグノリア)での宿舎は、老舗旅館の離れを借り上げた。

 着いてからバルサムは警備がやりづらいと、こぼしていたが、今更仕方ない。


 一夜明けて、新世界戦隊の本部となった、教皇庁大礼拝堂の近くある修道院跡に向かう。


 今からそこで、戦隊が正式に発足し、隊員が顔合わせをすることになっている。

 自家用馬車はご遠慮下さいと召喚状に書いてあったので、辻馬車を拾おうとしたのだが、昨日あれほど宿舎前を走っていたのに、今朝はなかなか捕まらなかった。今日は祝祭の日だかららしい。


 10分程掛かって、ようやく拾えたのだが。その辻馬車は観光用なのだろう、屋根は付いているが、席が囲われて居らず前方に壁がない。この方が景観を楽しむには良いのだろうが、余り人目に付きたくないので微妙だ。しかし、今は時間があまりない。それに聖都で顔が知られては居ないだろう。

 バルサムが先払いで運賃を払いつつ、急いでくれと頼んでいる。


 辻馬車が角を曲がると大きな通りに出た。


 幅100ヤーデンは有るだろう広い通りは、両脇に石畳の車道があり、その間が公園となっている。聖都中央通り。またの名を聖ジョスラン通りと呼ぶそうだ。


「流石は聖都。どこもかしこも石造りで立派ですな」

 横に座ったバルサムが、左右を眺めながら口にした。


「そうだな。それでいて、華美ではないのは好感が持てる」

 両脇に煌びやかな店舗が並んでいそうなものだが、目立たぬように配されている辺り、聖なる都の名に恥じぬところだ。路面もしっかり整備されているようで、変な揺れが少ない。まあ、見た目はそうなのだが、地下の方々に空洞があって、魔感応が微妙に反応してやや気持ち悪い。


 空洞の正体は地下水路だ。

 聖都は荒れ地に建設されたため、初期は水不足で悩まされた。これを解決するため70ダーデンも離れた台地から、大規模な工事を行って水道を引いた。それが、聖都の地下に大小張り巡らされている。


 余り気にしないようにしよう。

 前方に白亜の尖塔が見えてきた。大聖堂だ。

「随分高い塔ですな」

 高さ130ヤーデン程ある

「光神教の聖堂随一の高さだそうだ」

「ほう、それは凄い」


 バルサムは、いつもの鹿爪らしい顔だが、しきりに肯いている。


「まあ、そうなのだが。各地にある聖堂は、あの塔より高くしてはならないという不文律があるそうだ」

「はっは。そういうことでしたか」


 5分ほど直進して、聖堂が見上げるばかりのところまで近付いた時に、馬車は左に折れた。一筋進んで今度は右に折れた。

 すると、街並みの寂れ方が一気に強くなった。


「空き家ばかりのようですな」

 バルサムが眉を顰めている。

「ああ」


 崩れては居ないが、人気の無い建物が、半分位の割で存在している。

 そういう一角なのだろう。


 もの悲しい通りを数分走って、停まった


「着きました? テーレイズ修道院跡で……す」

 

 御者の言い方に違和感を覚える。

 それに、跡と言う割に荒れ果てては居ない。

 降りて振り返ると、やはり御者は眉根を寄せている。


「どうかしたのか」


「ああ、いえ。ここには1ヶ月振りぐらいに来たのですが、見違えたもので」

「ほう」

「……長いこと廃墟……ああいや廃修道院だったのに」

「そうなのか?」


 確かに良く視れば、外壁や屋根が真新しく、大規模な修繕を最近したような箇所が、いくつも見える。戦隊の本部とするならば、通り抜けてきた空き家を使った方が手っ取り早そうなものだが。


「ああ、はい。では!」

 一鞭呉れて、馬車は走り去った。


 その時、十点鐘が始まった。

「時刻です、御館様急ぎましょう」


 召喚状を見せると、すんなり中に入れた。

 私は壁際でバルサムを待たせ、礼拝堂の中ほどに進む。


 そこには、内陣を含め、祈りの場としての設備は、全て取り払われている。代わりに事務用の机と椅子が並び、右端の席を除いて色取り取りの軍服やローブ姿の男達が座って居る。要するに俺が最後の出席者というわけだ。


 18人。

 魔感応を使うまでもない、その魔圧の高さで全員が上級魔術師だとわかる。


 逆に、こちらにも何か感じるところがあったのだろう、聖堂に居る者達の内、半分以上が振り返って俺を見た。中には射竦めるような視線を送ってくる者も居る。


 10回目の長い鐘の響きが止んだ。


 彼らが座る列の前方、こちらに向かう席。威厳のある老境に差し掛かった男が咳払いをした。そして──


「ミストリアのラルフェウス卿だな?」

 ラーツェン語だ。西方諸国で共通性の高い言語だからな。


「いかにも」

 答えると低く響めいた。

「では、右の席に座ってくれ。全員揃ったので始めるとしよう」


 その宣言を聞きつつ、俺は空席に座った。


「私は、新世界戦隊組織委員会から、戦隊総隊長を拝命したカリベウスだ」


 カリベウス・ディース。

 ネフティス王国の外戚。現国王の叔父にして元上級魔術師、つい最近まで同国の最高軍事顧問だった。いや、現在もそうか。休職しているだけで。


「諸君らは、祖国が加盟した特定安全保障連盟規約の第2条第2項に基づいてここに来て貰った。つまり、規約前文に書かれた目的を遂行するため、加盟国の上級魔術師から別途定める基準に基づき選出された者だ。諸君らを成員とする新世界戦隊の発足をここに宣言する」


 総白髪で、顎を蔽うような髭面男が朗々と語る中、他には誰も声を発しない。思ったより簡素な宣言だったな。


「始めに諸君らに言い渡すことがある」

 鋭い眼光で、睥睨するように見回した。


「戦隊も組織である以上、意思決定者。つまり私の決定に基づいて戦って貰う。これを承諾できない者は、ここから去って戴いて結構だ。どうかね?」

 片眼鏡の奥から射貫くような眼光には凄みがある。


「その判断をする前に、訊かせて戴きたいことがあります」

 特徴的な赤髪の男が挙手した。


「どうぞ。イラード卿」

「では。あなたは、ネフティス王国出身者。その出身国の利益を図らないという保証はどこにあるのでしょうか?」

「貴様! 王叔殿下に無礼であろう!」

 若い士官がいきり立った。紺色の軍服、ネフティス軍人だ。


「クレイオス卿、この場に身分は関係ない。発言を控え給え」

「はっ! 殿下、失礼しました」

 忌々しげに顔を歪めつつも、着席した。


「質問に答えよう。私は戦隊の総隊長を拝命するに当たって、我が甥ヴァーリン2世にこう言った。私はネフティスを捨てる……とな。故に、私は同国の外戚ではない」


 むう。


「各国はなぜ連盟を創ったか、ここに集った者で知らぬ者は居らぬだろう」

 皆は、苦虫を噛み潰したように渋面を浮かべた。


「言うまでもない。竜だ! 空飛ぶ竜から世界を護るためだ」


 大隊長は、天井を見上げ、溜息を長く吐いた。


「この人類が滅亡するか否かという状況で、国がどうしたと笑止だ。私が信じられぬと言うのなら、この場から去ってくれ。残られては却って戦隊活動の瑕瑾となろう」


 一瞬ざわついたが、静かになった。


「他に異議はないようだな。では、竜種を斃すため、諸君らには集団で戦って貰うことになる。初期として5隊に分かれて貰う。その隊長と隊員をこれから発表していく」

 皆が周りを見回す。


「1番隊。隊長、サーザウント卿。他に、エミリオ卿、クレイオス卿」

「はい!」

「返事は不要だ」


 サーザウンド卿はレガリアの賢者、あとはセロアニアとネフティスの上級魔術師だな。


「続いて、2番隊。隊長、メナス卿……」

 1隊当たり3人もしくは4人の魔術師か。

 次々と名が呼ばれていく。


「……カストル卿」

 ミストリアのもう1人の隊員は4番隊だった。


「5番隊。隊長、イラード卿……」

 またもや、礼拝堂がざわついた。

「レストラーデ卿、ミストル卿。以上だ」


 皆が、ちらちらとこちらを窺う。俺の名が総隊長から呼ばれていないからだ。まあ、ここ数年で、俺は目立っているからな。無理もない。


「あのう……」

 銀髪の若い魔術師が立ち上がった。カストル卿も動き掛けたが、少し遅れた。


「メナス卿、隊の構成に不服があるのかね?」

「はい。ああいえ。2番隊隊長に選んで戴き光栄です。そうではなくて、数々のお歴々の名が読み上げられましたが。ただ……その中に、ラルフェウス卿の御名がなかったように思いますが。如何でしょうか」

 カストル卿はじめ数人が肯いた。


「ふむ。ラルフェウス卿は5隊には所属せず、自身の独自の判断に照らして戦って貰う」

「はあ?」

「要するに、1人で遊撃隊をやってもらうということだ」

「遊撃……総隊長殿の指揮下には入らないと仰るのでしょうか?」

「基本戦略には沿って貰うが、概ねそういうことだ」


 これは、ミストリアにて新世界戦隊の企画を共同で進めていた中で決まった話で、俺は事前に知っていた。


「つまり、我々とは異なり特別扱いですね?!」

「特別扱い。大いに結構。ここは、上級魔術師の養成機関ではない。それに、この体制が人類を救うことに繋がると考えるが。異論はあるかね?」


「あっああ。いえ、私には……皆様は、ああサーザウンド卿」

 世界的に有名な賢者が挙手していた。


「良いですかな……では。私が1番隊隊長と言われた時に、最も意外に思ったのは私自身でしょうな」

 周囲から低く唸り声が響く。


「なぜなら、当然ラルフェウス卿が成ると思っていたからです。しかし、総隊長殿のお言葉で思い直しました。超獣との対戦実績に加え、大使となって誰もが驚く国を結びつける外交力。製薬業、超長距離転送、その他の魔導具の考案。ラルフェウス卿は型に嵌まらぬ方だと思う。総隊長には失礼だとは思うが、彼を遊撃とされるのは妙手と存する」


 要するに、俺は協調性がないということか? まあ、自覚がなくはない。


「他に意見はあるかね? ……ないようだな。では、皆、一流の魔術師だ。任務を如何に隊として果たすか、各隊ごとに集まって戦術をまとめてくれ。なお、連盟が諸君らの歓迎会をやりたいそうだ。17時から開催することになっているので、戦術の取りまとめはそれまでに済ませ、報告は私の部屋まで持ってくるように。では解散」


 えーと。まだ8時間以上先だな。

 隊に所属しない俺に指示はないのか? まあ、俺自身の戦術を書けば良いのだろう。


「ああ、ラルフェウス卿」

 総隊長だ。


「はい」

「話がある。付いて来てくれ!」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/10/23 灌漑用水(農業用ですね)→水道、誤字訂正、仇→瑕瑾

2022/02/16 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
[一言] 新世界戦隊が発足となりましたが、戦隊ものの定番だから5隊編成なのですね。 闘う前には名乗りと決めポーズが…ある訳ないですね(笑)
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