表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/472

39話 告白と落胆と

私達、これからも良いお友達で居ましょう! 誰なんですかねえ。この断り文句を考えついた人。

 ローザの告白を聞いて、視界が歪んでゆく。


 そう……なのか。

 ローザには、心に決めた人が居るのか……。


 前々から近郷近在にも稀な美女と言われ。中等学校でも幾度となく求婚されたらしいけど、全て断り続けていた。

 だから、ローザと恋愛は縁遠いと、勝手に思い込んでいたけど。


「それゆえ、この御館を出たくありません。無論家事につきましては、母が居なくなる分も埋め合わせして見せます」


 ん? 違和感あるけど、頭が回らない。


「ふむ。そういうことであれば……。どうだろう、ボースン殿」

「ああ、いや。少し混乱しておりますので、暫し」


「ローザ! 心に決めた方とは、ラルフ様なのね!」

 ?!


「言うまでもありません」

 !!


「えっ? ええ? ラルフ……なの?」


 俺?!

 ローザの想い人は俺? なのか。


「はい、奥様。これからもラルフェウス様に、一生お仕えすると固く心に決めております」


 

 えっ?

 はあ? どういうこと?


「えーと、それは……求婚ではないのよね?」

「もちろんです。求婚などと畏れ多い」


 うーむ。

 他の誰かが好き! という絶望は払拭されたけど。俺を主人としか思っていない……という落胆が襲ってきた。


 親父さんも微妙な顔をしてる。


「ローザ。さっき一生仕えるって言ったし、今は誰かと結婚する気はないのかも知れないけれど、これからもそうとは……」

「まあ……ルイーザ、そう固く考えなくても、いいじゃないか。だけどな、ローザ。ラルフを買ってくれていることは、ありがたいが。あいつは12歳だぞ」

「はい、旦那様。ラルフェウス様が洗礼されたときから、決めておりましたから、10年経ちました」

「ううむ……そうなのか」


「そうです。そしてラルフェウス様は、12歳にして神童の名が伯爵領に轟いています。ご成人の暁には大成されること、このローザが請け合います」


「ローザ。確かにラルフは、生まれた時から普通の子とは違って……その、優秀だと言うことは、私達が一番知っているけれど」


 いやいや、お袋さん。


「私が信奉する、メイド道の先達に拠れば……」

 はっ? メイド道?


「……メイド最大の幸せは、信頼できる主人に仕えること! 私にとって主人はラルフェウス様をおいて他にございません!」

「……うう、うん。ラルフをそこまで思ってくれて、ありがたいとは思うけど」


「あのう!」

「ああ、アリー。悪かった。君も言いたいことを言うと良い」

 おお、何を言う気だ?!


「はい。私も、この御館を離れたくはありません。ラルちゃんは頭も良いし、しっかりしてるし、魔術だってすごいけど。私と姉さんが居なきゃ駄目なんです」


 はあ?!

 ローザはともかく。アリーもだと?


「ご主人様として仕えると言うのは違いますけど、同じようなものです。それに私もそうです。ラルちゃんの側に居なきゃ駄目なんです。もし姉さんだけ、ここに置いて、私に……どこでしたっけ、ああインゴート村へ行けって言ったら、家出します!」


「むうぅ、マルタ。どう思う」


「ローザ、アリー。この母より、ラルフ様を選ぶのね?」

「はい」

「はい」

 おおっ、ローザ、アリー!

 どんな顔して言っているんだろう。だけど、即答はまずくないか。


「わかりました。あなた達は、そう言うけど。肝心のラルフ様の気持ちは、どうなの?」

「そっ、それは……」

「2人が、ラルフ様のことを思っているのは分かっていましたが。ここまでとは……でも、この子達の気持ちだけではなんとも。ラルフ様のご意志を伺いたく」


「うっ。それも道理だな。本人を呼んで来よう」


 その時──


「俺もローザとアリーと一緒に暮らしたいです。マルタさん」


 そう、言い放ってから、俺は自分が食堂に飛び込んでいることに気が付いた。

 マルタさんは、ゆっくりと肯いた。


「ラルフ様。お気持ちはよく分かりました。ローザ! アリー! 一生ラルフ様のお世話をできるのね?」

「はい!」

「うん!」


「旦那様、奥様……いえ。ディラン様、ルイーザ様。申し訳有りませんが、2人をお願い致します」

「母様……それじゃあ」


「ラルフ様。2人を慈しんでやって下さい」


「はい」

 肯く以外には思いも及ばなかった。



   † † †


 マルタさんが、ウチの館を離れてから7ヶ月が過ぎた。

 麦の取り入れもとうに終わり、もうすぐ夏がやってくる。


 宣言通り、ローザが我が家のメイドとなった。

 幼馴染み離散の危機から一転、心地良い暮らしになってきた。

 変わったことと言えば、半年前からローザとの朝稽古はなくなった。


『もう、武道でラルフェウス様にお教えできることがなくなりました。残念ながら後はお一人にて研鑽をお積み下さいませ』

 だそうだ。

 確かに、ローザに遅れを取ることはほぼ無くなった。背も1ヤーデン90リンチ(約170cm)で追い付いたし、力押しでも、身体強化を使わずとも凌駕できるようになった。そりゃあ男と女だし。そうなるよね。


 それでも続けたかったなあ。ローザが慎ましい表情や物腰を覆す、溌剌とした娘らしさを見せる数少ない機会だったので、それが無くなるのは残念だ。

 家事は、男爵家で毎日数時間メイド見習いでやっていて、一人前の評価を貰ったこともあり見事の一言。


 掃除は完璧、食事も良い。

 いや、マルタさんも俺のお袋さんも、料理は得意なので、格段においしくなったわけではないけど、俺に合っている感じだ。

 特に俺には甲斐甲斐しく尽くしてくれているので、前より過ごしやすいくらいだ。


 今日も狩りで遅くなって、帰って来たけど嫌な顔をせずに、優しく食事を出してくれた。この時間だと、アリーも食堂か台所で食べてるかと思ったけど居ないな。

 ここ3日、狩りには付いてきてない。珍しいこともあるものだ。


 ローザに訊こうと思った時に、アリーが入って来た。

「ただいまぁぁああ」

「ああ、おかえり」


「お姉ちゃぁん。おなかすいたよ!」

「少し待っていなさい」


 姉が台所に引っ込むのを見送ると、アリーは入り口に近い方に座った。


「アリー……どこへ行ってたんだ? 今日」


「はぁ……やっと!」

 ん?

「3日目にして、やっと訊いてくれたわ!」

「はぁ?」

「一昨日、昨日と何時訊いてくるかと、待っていたのに来ないし。アリーちゃんに関心ないのかと思っちゃいそうだったわ」


「別に言いたくなければ」

「そんなこと言ってないでしょ。領都よ、ソノールへ行ってたの」

「へえ……何しに?」

「そうよね、訊きたいわよね」

 なんか、もじもじしてる。段々訊きたくなくなってきた。


「教会! ソノール中央教会で癒やしの御技をね。アリーちゃん凄く筋が良いんだって!」

 何か鼻高々として得意そうだ。


 ああ、あれか。

 光神教会が実施する貧しい者達への施の催し。その一環で、炊き出しをしたり、病や怪我で患っている者へ回復魔術を掛けてやるのだ。 


 こんなアリーでも、慈母の特質を持ってるって司祭様も言ってるしなあ。


「なんか、ラルちゃん。とっても失礼なこと考えてない?」

「別に。じゃあ。本格的に巫女の修行を……」

「んなわけないでしょ。お姉ちゃんから、働けって言われるし。まあ徳を積んでおく方が、何かとねえ。白魔術の通りも良くなるし……」


 そうなんだよな。理由はさっぱり謎だが、確かにそうらしい。助祭様が実感があると言っていた。

 多分に打算だ

がアリーも成長しようとしている。やる気がなければ、決してやらないからな。この女は。ああ食事抜きを除く。


 斯くの如く。中等学校生活は平穏に、しかし、途切れることなく流れていく。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2019/11/20 誤字訂正 (ID:1336444さん ありがとうございます)

2022/02/13 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)

2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうしてもアリーの自由奔放さが許せません。 なぜ姉はメイドで妹は主人に対してわがまま放題なのでしょうか? このまま妹だけがいいとこ取りで話が進むならあんまりだと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ