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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
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閑話14 終焉と和解

15章後閑話第3弾です。前から温めてた話です。本編でもよかったかも……。それはともかく終焉って言葉は美しいですね。

 4月。


「ご本家より、急ぎの使者が来られました。こちらを!」

 執務室にレクターが入って来た

 どうしたことでしょう?


 旦那様は渡された書状の封を切って改める。

 机に置かれた封筒を見ると、お義父様の筆だ。


「ふーむ」

「あなた?」

 旦那様の表情が硬い。

 

「ああ……ローザ。パロミデスの爺様の病が、いよいよ思わしくないようだ」

「まぁ!」

 持病の肺の病が悪化して、1年余り伏せって居ると聞いている。


「レクター。使者は?」

「書状を渡されて、すぐお帰りになりました」

 使者が御館様の返事を訊かず帰ったということは、お義父様としては来るも来ないも、旦那様に任せると言うことだ。


 モーガンが立ち上がった。

「大奥様のご実家ですね。すぐに向かわれますか」

 このところ国内超獣の出現頻度は減少しており、臨戦態勢にはなっていない。


「そうだな」

「はい。では、レクターと共に仕度を調えますが、供はどう致しましょうか」


「ふむ。一刻を争う。俺とローザが先に向かう。レクターは、執事3人とローザ付きメイド2人を連れて後から追ってくるように」

 口にはされなかったが。葬儀のこともご念頭にあるのだろう。


「「「はい」」」


   †


「こちらと、こちらもお願い致します」

「ああ」

 私が差し出す衣装が次々消えていく。漏れなく旦那様が魔収納へ入れているのだ。


「以上です。あとは食堂へ」


 廊下に出ると、ルークとフラガが居た。


「とうさま? かあさま?」

 少し心配そうだ。

「父と母は、急ぎ出かけることになった。数日は帰っては来ない」

「はい。行ってらっしゃいませ」

 3歳に成ったばかりだというのに、凛々しい顔付き。


 駆けてきたエストに肯いて任せる。


 食堂に入って、夕食として出される状態にあった料理と飲み物を、追加収納してもらい、辻馬車で館を出た。

 暮れゆく春の空が、車窓に広がっていた。


 都市間転送で、スワレス伯爵領ソノールへ転送。城壁の外に出てしばらく進むと、乗って来た自家用馬車は停まり、旦那様が降りられた。


「しばらく待て」

「はい」


 差し込む光が紅から白に遷り、窓の外は霧に包まれたように何も見えなくなった。

 旦那様が、魔術で亜空間というところに、馬車ごと収納されたのだ。この床下にも似たようなところがあるので不安は感じない。旦那様の為さることだ、万にひとつも間違いは無い。私には何も感じ取れはしないが、今頃は空を駆けてパロミデスの私領へ向かっていることだろう。


 ソノールから、扇状地の要の位置にある館までは、10ダーデン強。あっと言う間に到着するはずだ。予想通り数分後に、車窓はまた紅くなった。

 扉が開いて旦那様が乗り込まれると、馬車は何事も無かったように走り出した。

 無言で対面の席に着座なさったが、目を瞑られたままだ。


 お仕えして、もうすぐ20年。

 数えるほどにしか見たことがない沈痛の相。声を掛けるのも憚られる。


 仕方なく車窓を見遣ると、まだまだ勾配はきつく、馬車はゆるゆると登っていた。

 つまり、ここはまだ扇状地の中程。館を出た時の慌ただしさを思えば、明らかに不自然。だとすれば、旦那様に急ぐ理由が無くなったということだ。


「ローザ」

「はい」

「爺様が身罷った」

 席を移って旦那様の手を包むことしかできなかった。


     †


「ラングレン子爵様、ご着到!!」


 ちょうど、日は山の端に消えた頃。

 家人の声が響くと、館の周りに詰めていた村人だろう人々が左右に割れた。馬車を庭に止め、旦那様が降り私の手を牽いてくれた。


「ラングレン様……」

「ラングレン様」


 なんだろう?

 旦那様を見て祈るような仕草をする者が、なぜか何人も居た。

 たしか、この地ではラングレン家の評判は芳しくない。有り体に言えば、一族として嫌われているはずなのだが。

 不審に思いながらも、田園特有の小綺麗な庭を横切り玄関の中に招かれた。


「どうぞ、奥へ」

 私は結婚のすぐあとにしか来たことが無いが、旦那様はそれからも何度か来られているはずだ。

 廊下で、旦那様の足が突然止まった。


 進む先から、高い声が聞こえた。


 慟哭──

 廊下の突き当たり、お義爺様の部屋の扉。その奥から、響いて来る。


「子爵様? どうされました」

 案内の家人が、怪訝な顔をしたが、動こうとしない。

「ああ。では、主人に知らせて参ります」


 一瞬扉が開き、泣き声が鮮明となった。

 そうか。お義母様なんだわ。


 数分の後、再び扉が開いた。

 中から当主のデボン様、旦那様から言えば伯父上が出てこられた。


「これは、ラルフ殿。わざわざありがとう。どうぞ、父の顔を見てやってくれ」

「はっ」


 その時、中からお義母様と、その肩を支えたお義父様が出てこられた。

 目元は紅いが、いつもとは違って丸い、随分と穏やかな面持ちだ。


「ラルフさん。あなたらしくもない。少し遅かったわね」

「ですね」

「でも……ありがとう」

 擦れ違う時、お義父様が肯かれた。


 中に入ると、大きなベッドにお義爺様が横たわって居た。

 胸元は上下していない。

 部屋の一角には、リノン殿が椅子に掛けて項垂れている。


「来て貰って恐縮だが、父はつい先程、息を引き取ったよ」

「そう……ですか」

「遠路駆け付けて貰って感謝している。では顔を見てやってくれ」


 デボン様の言葉に、旦那様が跪かれたので私も続く。右手を左胸に当て黙祷。

 立ち上がって、ベッドの縁まで近付く。


「お爺様。ラルフが参りました。遅くなって申し訳ありません」

 とはいえ、お義父様の書状を受け取ってから、まだ1時間も経ってはいない。


「ローザです。お爺様、安らかなお顔で……」

 肺病は苦しいと聞く。だが、そうは思えないほど、柔らかい。


 ベッドを離れた。


「伯父上。改めて、お悔やみ申し上げます」

「ああ。父も齢80を越えていたからな。寿命だろう。それと、父に代わって、ラルフ殿に謝らねばならぬことがある」


「はぁ?」

「実は、ラルフ殿から何度も贈って戴いていた薬ササンテだが、父はラルフ殿が奨めてくれた時を除いて、口にしていないんだ」

「はっ?」


 知らなかった。旦那様は、そんなことをされていたのか。

 ササンテは外傷や中毒の治療薬で、肺の病のような慢性疾病には治療効果はないとされている。それでもお贈りしていたのならば、服用した場合の鎮痛効果に期待したのだろう。


「そうなのですか……」


 ふーむ。旦那様は、パロミデスのお爺様には可愛がられていると仰っていた。

 昔……ラングレン家と御当家は、ラジナスと呼ばれるご一族が共に超獣と戦った後、行方不明となり、かなりの不仲になった。それに拍車を掛けたのが、お義母様の駆け落ちだ。

 2人もラングレン家に取られたと、まるで仇敵のような間柄だったと聞いたことがある。もはや一族だけではなく、周辺に住む者まで巻き込んでいがみ合うことになったらしい。


 しかし、旦那様が生まれてからは、表向きはともかく不仲が緩和されたと聞いていたのだけれど。もしかして、その絡みでササンテをお飲みにならなかったのかしら?


「ああ。無論ラルフ殿や、ラングレン家を恨んでのことではない。父はね、肺を患ってから、唯一の楽しみが、ラルフ殿だったのだよ。その書棚に並んでいる切り抜き帳には、ラルフ殿の活躍を書いた新聞ばかり貼ってあるのだ。わざわざ王都から取り寄せた物もある」


「だとしたら……」

 少し旦那様の顔が歪んでいる。なぜ飲まなかった? そう問いになりたいのだわ。


「父は、もったいなくて飲めぬ。私よりこの薬が有効な者に分け与えてくれとね」


 そうか!

 庭で……旦那様を崇めるような村人の目は。

 そうだったのか!

 お義爺様は、もちろんラングレン家の名で、そうなさったのだ。


「はぁぁ。存じて居れば、もっと大量にお贈りしたものを……」

 それは、できぬ案だ。他者の私領でササンテを配るなど、無論それを知らぬ旦那様ではない。地主を蔑ろにすることになるし、うちの村にも、我が町にもとなることは必定だ。


「それは困る。父は断食でもしていたかも知れぬ。そうなれば、さっき、折角ルイーザと父が和解したのもフイに成ってしまう。目を閉じた後だったが、まあ、和解するのに越したことは無い」


 そうか。

 お義母様は、お義爺様と和解されたのか。


 まだ私が子供の頃、油断されていたのだろう。

『あの糞ジジィ! 分からず屋! 石頭! ……』


 それはもう、あの麗しいお義母様が、別人のようにお義爺様を口汚く罵っておられたからな。最愛のお義父様を面罵されたのだから仕方ない。


「はあ……あんな姉上は……狂ったように泣き叫ばれる姉上を初めて見た。あれは本当に姉上だったのか?」

 義叔父上が、ぽつりぽつりと呟く。


 そうか……。


「なんだ、知らなかったのか? リノン。幼い頃はあんな感じだったぞ。淑やかになったのは中等学校に上がった頃だ」

「知りませんよ。姉上と僕は10歳離れているんですよ」


「ふん。それはともかく。父が亡くなり、妹と和解した。小作人達も大丈夫だろう。我が家としては、ラングレン家に対する遺恨が無くなったということだ」

「はい」

「では、甥殿。いや子爵殿。幾久しく、パロミデス家と昵懇に願いたい」


「伯父上、喜んで」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/09/11 少々加筆

2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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