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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
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閑話13 贈り物と地団駄

15章後の閑話第2弾です。

 光神暦385年1月。

 ルーちゃん(ルーク)が誕生日を迎え、3歳になった。


 今日はそれを祝う宴が、離れの広間で開かれている。

 貴族の嫡男は、3歳、5歳、7歳、そして元服の時に対外的に祝ってもらうそうだ。そういえば、旦那様もやって貰っていた気がする。規模が今日とは雲泥の差だったけれど。


 ちなみに1歳の時は、なぜ派手に祝わないかというと、3歳までに死んでしまう子が多いからと訊いたことがある。3歳を迎えて健やかなら一安心らしい。まあ、内々では毎年誕生日のお祝いをするけれど。


 広間の壁際に、豪華な椅子が3脚並べて設えられており、真ん中にルーちゃんが座って居る。そして、向かって左に祖母のルイーズ様と、右に義祖母であるダンケルク子爵(ドロテア)夫人が座って居る。まあ、ルーちゃんの本当の祖母は、私の母さん(マルティナ)だけどね。旦那様は来て欲しいと手紙を送ったそうだけど、辞退すると返事が来たらしい。母さんとしては、お姉ちゃんを子爵令嬢としておきたいのだろう。


 その右側、少し離れて旦那様とお姉ちゃんの席があって、代わる代わる出席者の挨拶を受けている。私もさっき挨拶した。


 そう。今日はもう私の出番は無い、叔母だから。


「アリーさん」

「ああ、プリシラ。レイちゃんは?」

「やっと眠りました。今はシビラさんが見ています」

「そう」


 レイちゃんは夜泣き期に入ったようで、プリシラはやつれを隠すためか、今日は目元の化粧が濃い。まあ乳母(シビラ)の方は、もっとやつれているけど。

 そういえば、ルーちゃんは夜泣きしなかったみたい。さらに遡ると、旦那様も夜泣きしなかったと散々お姉ちゃんから聞いている、親子ねぇ。いや、レイちゃんが旦那様に似ていないということはない。

 むしろ、逆!

 何だか、赤子にして霊格値が高いってわかるくらい神々しい。眠っている時、限定だけど。


「あっ、プリシラ、空いたわよ」

「じゃあ、ちょっと待っていて下さい。挨拶してきます」

「いってらっしゃい」


 彼女は人波を掻き分けて、客が一段落した主賓の前まで行った。

 脇の両夫人も笑顔だ。


 うーん。プリシラもねえ……。

 ルーちゃんには私と同じくらいに懐かれている(と思いたい)し、ドロテア夫人の受けも悪くない。なかなか皆に愛されるのよね。


 それにしても、正室の(義)実家に好かれる側室が居るなんてね。ああ、私はお姉ちゃんの実の妹だから、例外だろうけど。

 まあ、あれだけ優秀な嫡男(ルーちゃん)をお姉ちゃんが産んでいるから、余裕なのだろう。


 旦那様とお姉ちゃんには会釈ぐらいで済ませて、さっさとこっちへ戻ってきた。


 宴が本格的に始まるまで間があるし、広間に人が増えてきたので、連れ立って玄関ホールへ出た。こっちはこっちで、あいかわらず大勢の執事達が立ち働いている。忙しそうね。


「アリーさん。もしかして、これは全部ルーク様への贈り物ですか?」 

 ホールの傍らに紅い敷物が敷かれ、その上に色取り取りの箱や包みが無数に置かれている。

「もしかしなくても、そうよ」


 領地まで貰った旦那様は、どこまで出世するかわからないし。

 その長男にして、世間に評判になるほど賢いルーちゃんだからね。何かしら繋がりを持っておきたい貴族は多いに決まっている。


「へぇぇ。ここ数日、執事さん達が、ここに何か並べているなあとは思ったんですが。こんなにたくさん。そうなんですねえ」

 そう。数えるのが嫌になるほどの数だ。すぐ横に、それぞれ立て札が立っていて、贈り主の名前が書いてある。


 贈る方は、これで親の関心を引くことを狙い。貰った方は披露することで自分と贈り主の虚栄心を満足させる貴族の慣習なんだけど。


 普段孤児院を巡っている私としては、悪趣味な光景にしか見えない。

 仕方ない。これが貴族というもの。

 それに旦那様のことだ。ここにある半分位のおもちゃ類は、きっとそのまま財団に寄付してくれることだろう。


 ルーちゃんも、おもちゃを貰うと。わぁ、ありがとうって可愛らしく喜ぶけど、私は知っている。旦那様と同じで年齢相応のおもちゃなんかに興味はないってことを。

 そんな物より本。絵本より文字ばっかりの本が好きなのよ。まあ、旦那様と違って読んで上げないといけないけど。でも、実は自分で読めるんじゃないかなあと、思うこともある。


「すっごいですね。あらっ! 見て下さい。実家があるスワレス伯爵様のお名前が……」

「確かに凄いけど……それより。ほら、あそこあそこ、あれはフォルス侯爵様からね」

「こっ、侯爵!?」

 プリシラは、自分の口を押さえた。


「そう。宰相閣下よ」

「はあぁぁ」


「その隣は、サフィールズ侯爵様、内務大臣。その隣が外務大臣、極め付きはヴェラス王甥殿下よ」


「はわわ……ということは、旦那様は本当に凄い貴族様だったんですね」

「うふふふ。今、気付いたの?」


 その向こうにはプロモスの女王陛下をはじめとして、外国の王族(大半は名義で中身は大使館だろうけど)からもたくさん来ているけど。プリシラが腰を抜かしそうだから、この辺にしておこう。


「いや、まあ。うすうす、そうかなあと思っていたのですけど」


 何と言うかプリシラは天然よね。

 少し弁護するとシュテルン村に居る頃、ラングレン家は準男爵だったし。逆にプリシラの実家(バロックさんの家)の方が、見るからに裕福そうだったからねえ。わからないでもない。


 本当に普段はほんわかしている。その辺が、プリシラが誰からも愛される理由かもね。

 帳簿を見る時は、人間変わるけど。

 レイちゃんを産んで差を付けられているからねえ、私もがんばらないと。


 あっ!

「ちょっと待っていて」


 車寄せにディオニシウス家の馬車が停まった。


「ナディさん。いらっしゃい」


 御者に手を牽かれて降りてきた。

「アリーさん。こんにちは。ちょっ、ちょっと、エリー」

 活溌な幼女は、地に足を着けるやいなや、玄関ホールへ走って行ってしまった。外聞を気にしたナディさんが、しっかり叱れなかったことをよいことに。


 あれは間違いなく、ルーちゃんのところへ一目散ね。

 何と言うか、昔の自分を見るようで痛い。どこにお目当てが居るのか分かるらしいし、なんとなく名前も被っているし。


「全くあの子は……困ったものだわ」

「済みません」

「えっ?」

 思わず謝ってしまった。


「ああ、いえ。ゆっくり行きましょう」

 ナディさんのお腹は少し膨らんでいる。安定期に入ったそうだけど、2人目の子を宿しているそうだ。


 おお! 玄関ホールへ入っていくと、エリーちゃんが受付前に居た。

 あの弾丸幼女をよく止めたわね、誰だろう? フラガだった。


 やるわね、あの子。流石、旦那様が目を掛けているだけあるわ。この前も肩車をしてもらってたしね。本当は旦那様の子なのではと言った輩も居たけど、悔しいことに旦那様はお姉ちゃんにぞっこんだったし。そもそも、シュテルン村に居たしね。


「エリス」

 地団駄を踏んで怒りまくっていた、幼女が固まった。振り返る。

 いまさら可愛く笑っても無駄だと思うわよ。


 ナディさんにがっちり手を繋がれて、広間に入って行った。

 執事に先導を任せて見送っていると、けたたましい足音が後ろから近付いて来た。


 何事?

「レクター、どうしたの?」

「緊急事態です!」


 へっ?

 普段落ち着き払っている副家令の血相が変わっている。そのまま、広間に入っていってしまった。

 これは……超獣?


「アリーさん。どうしたんでしょう?」

「さあぁ」

 迂闊なことは言えない、周りには客が居るのだ。


「申し訳ありません。こちらを開けて下さい」

 別の執事(ノイシュ)が、焦って入って来た


 あぁぁ……これは、やっぱり!


「皆さん! 申し訳ありません、壁際に避けて、広く開けて下さい」

 私も宴の客に頼む。


 おっ!

 中から、旦那様がルーちゃんを抱えて出て来た。

 なんで、ルーちゃんも?


 訊こうと思った瞬間。

 玄関ホールの中程で、ルーちゃんを降ろして2人揃って跪いた。

 これは!?


「勅使! 御入来!」

 やっぱりだ! 出動要請だ。


「あっ、アリーさん?」

「プリシラ、跪いて!」

「はい!」


 その数秒後、役人が入って来た。


(ちょく)!」


 来た!


「子爵ラルフェウス・ラングレン」

「はっ!」

「ルーク・ラングレン」

「はい!」


 可愛い声が、ホールに響き渡る。

 えっ?

 超獣にルーちゃんは関係ないわよね?!


「国王クラウデウス6世陛下ならびに王女クリスティナ様より、贈り物を下される。畏みて受け取るよう!」


 はぁ??? どういうこと?


 直後。2人の男が、荷台に二抱えもある木の箱を載せて入って来た。


「ありがたき幸せ」

「しあわせ」


「勅旨は以上です。なお、王女様よりお言葉です。ルーク殿、3歳のお誕生日おめでとうございます」


「確かに承りました」

「ました」


 旦那様とルーちゃんが、見送りに出ていく。


 えーと……単なる贈り物? 超獣じゃなくて?

 はぁぁぁ。気合いが抜けた。

 しかし、そんなことで、勅使を出して良いの?

 いや、まあ。他にどんな勅使があるかは知らないけれど。


「驚きましたな。国王陛下と王女様からとは」

 来訪客がざわついて、木の箱を遠巻きにして、こそこそ喋っている。

 まあ、気持ちはわかる。


 広間から、お義母様とお姉ちゃんに手を牽かれた、ドロテア夫人が出て来た。


「ラルフさん。これは……」

 あっ、戻ってきた。


「はい。先程、勅使がお越しになり、国王陛下とクリスティナ王女様より、ルークの誕生日祝いを賜りました」

「まぁぁ、陛下から! ……はあぁぁぁ」

「お義母様」

 立ちくらみだろう。すかさずお姉ちゃんが支えた。回復魔術……大丈夫みたいね。


「皆様。お騒がせ致しました。ただいまの件は後程披露致します。宴を続けますので、どうか中へ。中へお入り下さい」

 旦那様は客達を促していった


「しかし、これはまた大きい箱ですわね」

 ナディさんだ。

「そうねぇ」

 王様は何を狙っているのかしら。これでルーちゃんに唾付けたって宣言?


 ん?

 エリーちゃんが木箱の前に……えっ? またもや地団駄を踏んだ。


 えーと、誰からの贈り物か分かっている、なんてことは? まさかね。


   †


「ああ、出てる」

 スパイラス新報の2面に書いてあった。


「ねえ、旦那様。昨日の、王様からルーちゃんへの贈り物の話が書いてあるわよ」

「うーーむ。そうか」


 旦那様は眉間に皺を寄せて、こめかみに指を這わせた。

 知っていたの? そう訊くつもりだったが。問うまでもなかった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/09/04 微妙に加筆

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

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