385話 家族(15章本編最終話)
この話の末尾を書いた時、一瞬これで大団円でも悪くないなと過ぎりました。
いやまだ続きますけどね。
章の終わりなので、是非感想をお寄せ下さい。
エルヴァ領の主立った町を視察して、6日振りに王都館へ戻ってきた。
玄関まで、アリーとレイナを抱いたプリシラが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
「ああ。ただいま。2人とも。レイナは元気だったか?」
「はい」
「あったり前よ。私が付いてるんだから! まあ出番はなかったけどね」
「心強いが、それが一番良いな」
ルークとローザを馬車から降ろすと、肌寒いのでホールに入る。正面の暖炉が赫赫と燃えている。
娘を抱いて居ると、横に息子がやって来た。
「とうさま。ぼくにもレイちゃんをみせて」
「おお」
「レイちゃん、ただいま。じいじと、ひいじいじがおもちゃをくれたよ。おにいちゃんといっしょにあそぼうね」
妹の方は、兄と分かるのか? しきりに手を伸ばす。
その手を取って、自分の顔を触らせている。
ふふ。兄の自覚が出て来たようだ。プリシラの腕に娘を返す。
「さて、着替えるとしよう。ルークも、フラガも着替えてきなさい」
「はい」
「かしこまりました」
離れへ向かっていく2人とエストを見送り、執務室に入るとアリーが着替えさせてくれた。
「ああ、淋しかった」
「ん?」
「最近、留守番ばっかりなのよねえ。今回はモーガンも居なかったし。なんだか、私がしっかりしなきゃって」
「そうだな。悪い」
自覚が出て来ているのは、ルークだけじゃなかったか。
「いやっ、そう言う意味じゃなくて……」
アリーの顔が紅い。
「じゃあ、今日は久しぶりに一緒に寝るか」
「うっ。うん」
もっと紅くなった。
「それはそれとして。どこか一緒に、遊びに行くか。しばらく非番だからな」
「うん。ああ、それなら。ダトリーアが良い!」
「3年前に行ったところだな?」
「うん。あそこなら近いし。温泉もあるし。レイちゃんも連れて行けるでしょ」
地熱もあって暖かいから、悪くない案だ。
「そうだな。では、モーガンにセヴェレス亭を手配させよう」
「ありがとう。旦那様。ああ、そうそう」
「ん?」
「スパイラス新報。まとめて取ってあるから」
ああ。
「見出しはこうよ! ラングレン子爵の手腕が光るラグンヒルでの快挙! 本紙記者が独占同行取材。連載で今をときめく賢者の素顔に迫る」
「ふん。中々扇情的だな」
とはいえ。外務省が監修したはずだから、そんなに酷いことにはなっていないだろう。
「後で読ましてもらおう」
「後ねぇ……」
この世で、俺のことを訝しそうに見るのは、この妻だけ……ああ、いや。もう1人居た。エリザ先生と2人だ。
「旦那様の事を中々抉って書いているし。絵もね画風はちょっと変わったのかな。似顔絵も少し良い男になっているわよ」
「ああ、違う絵師が同行したからな」
「へえ。そうなんだ。って、女でしょ!」
相変わらず鋭い。
† † †
「とうさま。あれはみずうみ?」
「ああ、そうだ。リィーア湖という」
リィーア。ルークは、そう口を動かして、車窓に顔をくっつけるようにして見ていた。
それから30分もしない内にダトリーヤにある宿へ到着し、皆が荷ほどきをしている間に散歩に出掛けた。
宿の庭は湖畔で、50ヤーデン程向こうに見える生け垣までは、うちの貸し切りだ。
「ルーク。寒くないか?」
「うん。だいじょうぶ」
肩車をしてやっているルークは上機嫌だ。
湖を渡ってくる風は冷たいが、着ぶくれしているから問題ないだろう。
「おっきい。これ、ぜんぶみず?」
「ああ、水だ」
小さな砂利が積もった水際までやって来ると、風の所為か小さな波が打ち寄せて居た。
「へえ」
「どうだ。降りて見るか」
「うん」
降ろしてやると、水際に一目散と思ったが、数歩歩いて振り返った。
「フラガぁぁ」
「はい。若様」
5ヤーデン程後ろに付いて来た、6歳になった従者を呼びつける。
「とうさま」
「なんだ?」
「フラガにも、かたぐるましてやって」
「ふむ」
「めっ、滅相もありません」
「いいじゃないか。フラガもウチの子だからな」
「いえ、そんな……」
遠慮はしているが、離れていかないフラガの後ろに回り込むと、両手を脇に差し込んで持ち上げる。そのまま肩に載せた。
「どうだ、見え方が変わったか?」
「はい。もっ、もったいない」
「うん。フラガも重くなったなあ」
「申し訳ありません。降ろして下さい」
「いやいや。育つってことは。良いことなのだぞ」
「はっ、はあ。あっ、ありがとうございます」
俺達を見て、ルークが嬉しそうに手を叩いている。
兄弟ではないが、お互いを深く思い遣っている。兄が居なかった俺としては、少々羨ましい。
「最近。ローザに剣術を習っているそうだな?」
「へっ? あっ、はい。奥様に教わっております」
「ふむ。そうか。俺もローザから剣術を習ったのだぞ」
「そうなのですか?」
「うむ。それでな。ローザによると、フラガは俺より筋が良いそうだ」
「えっ?」
嘘ではない。
フラガは、習ったことを、きっちり習った通り反復練習するそうだ。
子供の頃は、それが大事と言っていた。
まあ俺は、習う先から自己流に改変するし。小さい身体で大きなモノに勝つことに血道を上げていたので、身体強化などの魔術を併用していたからな。さぞかし教えにくい弟子だったことだろう。
ルークは、おっかなびっくり水際まで近付くと、寄せてきた波に手を浸けた。
「つめたい」
「冬だからなあ。夏に来たら泳げるぞ」
「また、なつにくる」
ん?
背後に。
振り返ると、ローザとアリーがこちらにやって来た。
「あっ! 肩車して貰ってる!」
「アリシア奥様。御館様、降ろして下さい」
「そうかぁ」
降ろしてやると、焦ったようにルークの方へ寄っていった。
「旦那様。もうすぐ昼食の準備が整うそうです」
「では。戻るとしよう。ルーク! 食事だ。食べたら、またここに来よう」
「はい!」
†
家族揃って食事を摂れば、ひとときの幸せを感じる。
そう。ひとときだ。
超獣や竜の脅威は消えては居ない。
ルークやレイナ、それに妻達が悲しむことのない日を迎えるまで……。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
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訂正履歴
2021/08/21 細々訂正




