382話 ラングレン家の一族
唐突ですが、映画犬神家の一族(1976年)が好きで、何度も見返しています。
王宮で表彰を受け、ラグンヒル派遣使節団の解団式を行った4日後。
準備や先触れの先行者を派遣後、俺を含む一行はスワレス伯爵領へ都市間転送で移動した。
「やぁ。ラルフ……いや、ラルフェウス卿。良く来てくれた」
そのままソノールの城へ入り、広めの応接にローザとルークと共に通された。伯爵様が待ち構えていらっしゃる。
「お久しゅうございます。この度、伯爵様御領地近隣に封地を賜りましたので、ご挨拶に参りました。ラルフで結構ですよ」
「うむ。だが、まさか、こういうことになるとは。しかし、めでたい!」
「ありがとうございます。ルーク。こちらの方はスワレス伯爵様と仰ってな、父もそのまた父もご恩がある方だ。ご挨拶せよ」
「はい」
ルークは、きれいに片膝を地に着けた。
「はじめてぎょいをえます。ルーク・ラングレンです。よろしくおねがいいたします」
言い終わって、2回肯いた。自分でもうまく言えたと満足なのだろう
「ほうぉぉ。2歳と訊いたが、きちんと話せるではないか」
「はい。あと、3かげつで3さいになります」
差し出した3本の指が、年齢なのか、月なのか分からないが、それ見た伯爵様は目を丸くした。
「これは驚いた。賢いなあ。ああ、そなたの父も、それは、それは賢かったのだぞぅ……」
ルークがうれしそうに笑った。
「まあ座ってくれ」
「失礼致します」
「参ったな。王女様の話がなければ、我が孫娘の輿入れを申し込むところだ」
「いえ、あれは……」
流言だが。
「それにしても、娘も生まれたと聞いたぞ。あの小さかったラルフが、もはや2児の父とは。私も歳を取るはずだ」
「ご冗談を」
「ふはははは。それでだ。卿も忙しい身、単刀直入にいこう」
「はい」
「領地に、請負代官を置けと国の要求だそうだな」
流石に耳が早い。
「はい。恥ずかしながら」
「何が恥ずかしいものか。ラルフは今やミストリアを代表する賢者だ、それを統治で労力を裂くわけにはゆかぬわ。国も配慮せざるを得ないというわけだ」
「はぁ……」
「それで? この時期に、エルメーダに向かうと言うことは、請負代官をそのままディランに頼むということだな?」
「あははは。伯爵様には隠し事ができませんね」
「そうか。それはいい。あやつもはりきっているからな。よしよし」
むう。伯爵様は、親父さんは引き受けると思って疑っていないようだ。
「うむ。近隣に領地を賜ったとなれば、我に与力を求めるところだ。だが、卿の立場は良く心得て居る。不偏でなければならぬ故、それは致さぬ。だが、互いに良き隣人となろう」
親父さんが請負代官を引き受ければ、今と変わらないと考えておられるのだろう。
「ありがたいお言葉。感服致しました」
「ありがとうございます」
ルークだ。
「はっははは、そうか、そうか。ルーク殿も礼を言うか。一度抱かせてくれ」
†
途中を転位魔術で端折って、エルメーダに入った。
城の玄関で、父母と妹の出迎えを受ける。
「じぃじ!」
馬車を降りたルークが駆け出して、じぃじと呼ぶには男盛りの親父さんに抱き付いた。
「おお、ルーク。走ったら危ないぞ」
「だいじょうぶ」
「そうかそうか」
初孫で可愛いのだろう。剛毅な親父殿が蕩けるような笑みだ。
隣で、おふくろがお前を抱きたくてヤキモキしているぞ。まあ、ばぁばの方は時々我が館に来ているらしいからな。なぜか俺が居ない時を見計らって。
「ルーク。きちんと挨拶なさい」
「はぁい。おじいさま、おばあさま。こんにちは」
「はい。こんにちは」
床に降ろされたルークは、今度はおふくろに抱き付いた。よしよし。
「父上、母上。ご無沙汰致しました」
「やあ、ラルフ殿よく来られた。この度はおめでとう」
「ありがとうございます」
応接室に通されると爺様と婆様もいらっしゃった。
「うむ。良く来た、良く来た」
「ひいおじいさま、ひいおばあさま。こんにちは」
「おお。ルーク殿、よく来られた」
ルークが走って、爺様と婆様の所へ行く。
「ここにお座りなされ」
二人の間に座らせて、ルークの頭を撫でる。
孫の俺も随分可愛がって貰ったが、曾孫は輪を掛けて可愛いらしい。
「ひいばあは、ルーク殿がいらっしゃるというのでな、菓子を焼いたのじゃが……食べさせても良いかな?」
「もちろんです、お婆様」
ローザが答えた。
「そうか、そうか。では持ってきておくれ」
はいとメイドが部屋を辞して行った。
「では父上、我らは用向きがありますので。ここは、お任せ致します」
「おお、何時間でも任されよ」
明るい笑い声がこだました。
親父さんと別室に入り、対面して座る。
「父上。参った早々恐縮ですが。お願いがあります」
「うむ。承った」
はっ?
「いっ、いや、あの。まだ何も申しておりませんが」
「はっはは。父と子だ。言わずとも分かる。私にそなたの領地の代官……いや請負代官か。それをせよと。そう言うのだろう」
「その通りですが……」
「光栄だ」
「えっ!?」
「うむ。ラルフに頼られるのは、久しぶりだ。このような父でも、息子の役に立てる。親としてうれしく、そして誇らしい限りだ」
くぅ。
「父上……」
「遠慮することはない。今は離れているが、我らは家族なのだからな」
†
俺と親父さんは、それぞれの家の当主ゆえ、その2人が合意すれば方針は決まる。とはいえ、それぞれに家臣も居る。彼らにも徹底した方が良いのは言うまでもない。
すぐさま、交渉会議が開かれた。
我が家からは家令モーガンと副家宰ラトルト。本家からは、家令クリストフと2人領政府の役人が出席した。
結論としては、引き続き本家がエルヴァ地区の代理統治をする、つまり請負代官を親父さんが実質継続することになった。
本家家臣にも意向があっただろうが、現当主と対立候補の居ない次期当主候補の意思が一致しているのだ、彼らは逆らいようがない。
もっとも揉めた件もある。代理統治の請負の対価、つまり本家へ支払う金額だ。
代官と請負代官の税法上の違いがここで出て来る。
つまりは注文主が、課税相殺の国から事業税として課税される我が家に変わるので、それを補填するため、対価を税収の3割5分から4割5分に上げようと我が家から提案した。
しかし、本家からは、それでは上げすぎだし、第一我が家からそんなに貰えないと3割5分のままを逆提案してきた。
最終的には、とりあえず本家の取り分を据え置く4割とし、定期的に見直すこととなった。
言うまでも無いが、残りの税収6割が我が家の取り分となるわけではない。統治には金が掛かるのだ。本家に支払うのは統治の経費および軍事費と人件費に相当し、それ以外の土木等の事業予算、住民に施す福祉予算、非常時に備える補助予算を差し引けば、ほとんど税収は残らないどころか、おそらく損失だろう。
では、新領を賜ったのは我が家にとって損失なのかと言えば、そんなことはない。
エルヴァ地区内の旧バズイット家私領は、およそ全地区の3割に当たる。それが国王私領を経由してそっくりそのまま我が家へ下賜された。そこから上がる収入がある。そちらの面倒も本家に見て貰うことになるので、対価の増額を提案したわけだ。
もっとも大部分の統治は本家に任せるとしても、我が家も最低限の人を手当てする必要がある。頭が痛い話だ。
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訂正履歴
2021/07/31 委託料→請負の対価
2022/01/31 転移→転位
2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)




