38話 驚愕の事実発覚!
私だけ知らなかった! 何てことありませんか。
知人同士が結婚したのを、年賀状で知るとか(実話)
12歳になった。
自分の呼び方だが。誕生日を期に、僕は止めて、俺に変えた。
あと、両親も、親父、お袋もしくは親父さん、お袋さんにした。お父さん、お母さんはやっぱり気恥ずかしいしね。お袋さんは複雑そうだったが。
そして秋となり、中等学校に入学した。
生徒は、周辺の村からも集まっているそうで、同学年の人数は1.5倍、3学級に増えたが余り関係ない。
ほとんど俺は自習という独習だからだ。
5年生の頃に、既に中等学校卒業の学力を有していると認定されたので、他の生徒と同じ授業は受けられないのだ。
あと進路として神学を志すことにしたので、その学習と入学試験に必要な論文の書き方を、中学校でも校長先生であるダルクァン司祭様に指導して貰っているが、そんな生徒はこの学校には居ないし。
そういう、学校生活も3ヶ月が過ぎた。
気になることができた。
なんとなくだが、ローザ、アリー姉妹の挙動が変なのだ。
2人とも、考え込んだり、逆にそわそわしたりして、アリーなんかは話していても上の空だったりすることもある。
アリーだけなら学校で何か有ったのかとも思えるが、ローザも何かおかしい。なので原因が分からないのだ。
数日前に、それとなくアリーに訊いてみたが、はぐらかされた。
昨夜は、それが気になって、あまり良く眠れなかった。まあ今日は休日だから良いけど、少し起床が遅くなった。学校がある日は、ローザが起こしに来るけど、今日は来ないからな。着替えて、居間に行く。
「あっ、お兄ちゃん。おはよーー……あっ、早くなかった」
「ははっ。ソフィー、おはよう」
スープ皿が空になってるところをみると。もう朝食を食べ終わったようだ。
4歳になって、女の子振りを発揮して、日に日に愛くるしさが増している。
ん?
あれ?
台所に続く通路を見るが気配がない。
いつもなら、ローザが俺の朝食を持って出て来るのだけど。来ないなあ……。
「あっ! ローザお姉ちゃんなら、さっきまで居たけど、部屋に戻っていったよ」
「へえ……」
「それで、お兄ちゃんの朝食は台所にあるって! 済みません、済みませんって、何回も言ってたよ。遅く起きたお兄ちゃんが悪いのにねえぇ。変なの」
「そうだな」
俺が来るのが遅いのはともかく、ソフィーの食器の片付けをせずに引っ込むのはおかしいなあ。
とか考え事をしてると。
「私が取ってきて上げようか!」
ソフィーは、家事が好きなようで、よくローザの後を付いて手伝いのまねごとをしている。
「うん、ありがとう。でも、まだいいよ」
朝はいつも食欲ないし。用意してくれてるなら食べるけど。それより、何をするために部屋に戻ったのか。気になる。
「ねえねえ……」
ソフィーがささやきかけてきた
立ち上がって俺の方へ来る。何だ?
隣の椅子に上ると、座面に膝立ちになって、俺の耳に顔を近づける。
最近ひそひそ話が、気に入っているようだ。
「あのね、今日はね。お客さんが来るんだって」
お返しに、俺も耳元に寄る。
「誰が来るの?」
「知らない」
にっこり笑って首を振った、かわいいなあ。
アリーが言ったら、叩きそうだけど。
それにしても誰だろう。バロックさんは、この前来たし……村長さんか、司祭様とかかな?
「でも、誰のとこに来るかは知ってるよ!」
「ほぉ」
「マルタさん」
んん?
「そうなんだ。珍しいね」
「珍しい?」
「マルタさんと言うか、ローザやアリー達は、この館に来るまでは、行くのに10日以上も掛かる遠くに住んで居たんだよ」
ミストリアの中だけどな。
「ふーん。でも、なんでそれが珍しいの? お兄ちゃん」
おお?
前々からソフィーは賢いと思ってたけど、今のは論理的な質問だ。
思わず頭を撫でる。
「んん……うふふ」
喜んでる。
「遠くに来たら、知っている人は少なくなる。親しい人達とも別れて来ることになるからね」
「だから、お客さんも少なくなるのかぁ」
うーむ、いいぞ。素晴らしく育ってるぞ。
「そうだよ。ソフィー。お利口だな」
「ソフィー、お利口?」
「うん。自慢の妹だ!」
「やったぁ、うふふ……。ご褒美にご本読んで!」
「読んで上げるよ、何が良い?」
「海賊と少年!」
ああ。絵本じゃなく、昔の小説だ。前にも少し読んでやったことがある。
「絵本じゃなくて良いのか?」
「良いの! だって、お兄ちゃんが読んでくれると、お話が凄くよく分かるのぅ。海が大きくて、波がばしゃーーんって」
嬉しいこと言ってくれるなあ。俺も海は見たことないけどね。
「じゃあ、そのご本を取ってくるからな、ちょっと待ってるんだよ」
「うん、待ってるぅ!」
廊下に出ると、セレナが居た。玄関の方に向かって、唸っている。
【どうした?】
【ナニカ クル!】
【魔獣か?】
魔力の気配は感じないが……。
【……ニンゲン】
なんだ、人間か。ああ。
【お客さんだから、失礼の無いようにな】
【…………】
なんだか微妙な反応だ。
【セレナは、自分の部屋に行ってるんだ】
軽く頷くと階段を上っていった。
すぐ後、玄関から、声が聞こえてきた。マルタさんと男の人の声だ。
思わず柱の陰に隠れると、2人は俺には気が付かず、前を通って応接間の方へ歩いて行った。
歳は30歳代後半だろう、筋骨逞しく、真面目そうな人だ。
どっかで見たことあるな、この人。
そして、いつになくマルタさんの華やいだ表情。
うーーん。
唸りながら階段を上り、書斎へ行って本を取ってきた。
「お兄ちゃん。遅かったね……ふわっ、恐い顔」
眼に涙が溜まっていく。しまった! ソフィーを怖がらせたか。
「ごめん、ごめん。ソフィーは何にも悪くないよ」
頭を振って、表情を吹き飛ばす。
「うん。よかったぁ。顔が戻った。私がなんかしちゃったかと思った」
「そんなことないよ。俺はソフィーが生まれてから、ずっと嬉しいことばかりだよ」
「お兄ちゃんの妹で良かった」
そう。超獣が隣村を破壊したあと、ソフィーが生まれて……超獣が?
「ああ!」
「何?」
「思い出した。あの客が誰だか」
「お客さん?」
インゴート村で、手伝いに来たマルタさんに声を掛けていた、アリーのお父さんの昔の知り合い。名前は……。
「ボースン。そうボースンさんだ」
「えっ?」
「ごめん。ソフィー。ご本はまたお昼からでも読んで上げるから」
立ち上がる。
「お兄ちゃぁあん!」
論理の糸が繋がる──
マルタさんの表情。あの男がこの館にやって来た。ローザとアリーの不自然さ。
廊下へ出ると、廊下を歩いて行くアリーの後ろ姿が見えた。
「……」
何も言えず、見送ってしまった。
駄目だ、駄目だ!
嫌な予感しか浮かばない。ここに留まっているわけにはいかない。俺も階下に降りた。
応接間の前まで行くと、薄く扉が開いていた。中からお父さんの声が聞こえてくる。
ボースンさんと、マルタさん一家の背中が見えてる。
「先日、私も聞いて驚いたが、君達姉妹のお母さんであるマルタさんが、こちらに居るサブレス村のボースンさんと結婚したいそうだ」
……やっぱりか。
サブレス村と言えば、領都の向こう。ここから20ダーデンは離れている。
「2人も知っているだろうが、バロックさんに聞いたところでは、こちらのボースン殿はサブレス村で土地を買って自営農をされているというのは間違いない。私としては、10年以上我が館で働いて貰ったマルタさんに感謝して、新たな門出に賛同したいと思う」
「旦那様……」
「ありがとうございます。ラングレン様」
ボースンさんの声だ。
「しかし。ローザとアリーにも考えはあろう。このことは予め聞いていたと言うことだが、2人の所存も聞かせてくれないか?」
「はい。旦那様。母の結婚に賛成します」
「おお。そうか。アリーはどうだ」
「姉と同じです」
ふーむ。結論が出ていたのか。
「ありがとう。ローザさん。アリーさん。我が家にも死に別れた前の妻との間に、娘が居る。マルタさんと結婚させてもらうに当たって、2人にも我が家に来て欲しい」
くぅ……そうなるよな。
ローザとアリーが居ない状況を考え……考えられない。
だけど──
「旦那様。お訊きしたいことがあります」
「ん……何かな。ローザ」
「私とアリーをこれまで通り、この御館へ置いて頂くわけには参りませんか?」
えっ?
「うっ……ううむ」
「ローザ?」
マルタさんが、心配そうに声を掛けて、止まる。
「ローザ。あなたにはこの家のことやって貰って、とても助かっているわ。でも親子が別れて暮らすことになるのよ?」
「奥様。私も早16歳となりました。同じ歳で既に嫁いだ者も何人も居ります。そうなれば、親子で別れて暮らすなど、何ほどのことでもありません」
「そうかも知れないけれど……」
「ううむ。アリーの意見は後程聞くとして……ローザ。確かに君をマルタさんの子としてではなく、一個の人間として、我が家で雇うことに支障は無い。だがなぜそうしたいのか聞かせてくれないか?」
「心に決めた人が居て、このシュテルン村を離れたくないとかなの?」
ううむ。
「はい。旦那様、奥様。私には心に決めた御方がいらっしゃいます!」
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訂正履歴
2019/06/14 誤字訂正(ID:1512158さん ありがとうございます)
2020/11/16 誤字訂正(ID:1421347さん ありがとうございます)