表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
399/472

380話 想定外は想定外を呼ぶ

低確率の状況に低確率の事態が重なるなんて、ないって思っていると、実は結構あって。あれですね、弱り目に祟り目ってやつ。逆にラッキーが重なることは、ほぼないんですけどね。

「条約の討議状況は以上です」


 ラグンヒル王都マーレスにやってきて5日目の夕刻。

 アストラから交渉状況の報告を受けている。


 交渉開始から3日経過して、安全保障特別条約の草案がまとまってきた。プロモスとの条文が雛形となっていることが奏功しているとは言え、かなり討議の進行が速い。


「ふむ。内容として大きな見直し要求が出ていないのは、上首尾だな」

 俺は初日に出席して以来、実際の交渉はアストラ達と当地の書記官達に任せている。


「はい。国王陛下のお声掛かりでもありますが……案外本気で閣下の帰国予定日までにまとめるつもりなのかも知れません。ただ、やはり4条の上級魔術師を派遣した報酬を支払わないという点が、引っ掛かっているようですね」


「報酬については相互主義と説明して、一昨日に合意を得られたはずだが」

「はい。まあ、閣下のお言葉には逆らい辛かったのでしょう。ラグンヒル側も正面切って難色を示しているわけではありませんが。ここで、余り性急に進めますと、無用なしこりを残しかねません」

 ふむ。立派な外交官と成ってきたな。


「そうだな。当方としては条約交渉に入ったことを望外と認識すべきだ。継続討議となるようであれば、私の帰国日程を延ばしても構わぬ」


 一瞬、アストラはこちらを窺った。


「承りました。その心積もりで臨みます」

「他には」

「いえ、特に」

「では、よろしく頼む」


 次の日。朝から接待の行事に呼ばれ、王都の名所を案内された。

 大使歴も3年となったので、そこは如才なく応対する。同行しているローザは見上げたもので、いつも微笑みを浮かべており立派に大使夫人を勤めている。


 昼食を摂りながら、午後はどこに行くのかなと考えていた。無論行程表は貰っているが、うんざりするので視ていない。食後のお茶を頂いていると、突如使者がきて、急転直下王宮に呼び戻された。


   † † †


「マーレスにて、ご歓待戴き、お礼の申しようもございません。また条約草案の取りまとめにおきましては、格別なるご配慮を戴きまして、心より感謝申し上げます」


 王宮大広間にて、ラグンヒル国王に対して居る。


 昨日の昼、王宮に戻ってみると、驚くことに草案がまとまっていた。

 滞在延長も辞さずと表明したのが、効いた気がするとはアストラの弁だ。


 急かしたつもりはないのだが。まあ結果としては良かった。

 そういった訳で、俺は予定通り本日帰国することとなり、国王陛下に挨拶をしているところだ。


「うむ。ラングレン卿に喜んでもらったので、我が国としても面目が立つ」

「勿体ないお言葉にございます」

「うむ。名残は尽きぬが、卿をいつまでも引き留めることはできぬ。クラウデウス陛下によしなに伝えてくれ」


「承りました。それでは失礼致します」

 胸に手を当て、礼をする。十歩後進して(きびす)を返す。


 執事に先導されて廊下を歩いていると、ライゼル殿下がいらっしゃった。


「殿下」

「ラングレン卿。お帰りになるか」

「はい。こたびは殿下に大変お世話になりました。心より感謝申し上げます」

「うーむ。うれしい言葉だが。まずいな、父上に訊かれては嫉妬されてしまう」

「はははは」


「我が国の爵位も得たことだ。また、ラグンヒルへ来てくれ」

「はっ!」

 握手して別れると、王宮を辞しローザ達と合流すると帰路に就いた。


   † † †


 ザシュリムまで都市間転送を使ったあと、馬車でゼルベクまで来た。

 魔導通信により、ザシュリムからオリスタのダノンへ連絡を入れていたので、先乗りしていた騎士団の出迎えを受ける。そこで一泊し、世話役のヴァシレ男爵とは別れた。その後は2日掛けて、順調にオリスタへ辿り着いた。

 ダノンの出迎えを受け、王宮より報告は明日で可との伝言を受けた。


 馬車に乗り込み、都市転送所まで来ると記者達が乗り込んできた。

「子爵様、奥様。長らく帯同させて戴き、ありがとうございます」

「2人ともご苦労だったな。良い取材はできたかな?」


「はい。たくさんの出来事を子爵様の側から、あるいはラグンヒルの市中から体験できました。生涯の宝になると思います」


 大袈裟とは思ったが、商人でもなければ、平民は国外に出ることは希だと思い返す。


「感謝を込めて、渾身の記事を書かせて戴きます」

「おお、それは楽しみだな」


「はい。原稿ができあがり次第、御館へお持ちします」

「うむ」


「ウラニア? あなたもお礼を……えっ、泣いているの?」

「うっ、うう。私にとっては夢のような旅でした。描きました素描を元に描き上げます」

「うむ」

「楽しみにしているわ」

「奥様ぁぁ」

 随分懐かれたな。


 ノックが3度あり、御者台に続く窓が開いた。

「間もなく転送致します」


     †


 王都転送所を出ると、記者達とはそこで別れた。

 夕日が暮れようとしているなか、館へ戻ると玄関で出迎えを受ける。


「とうさまぁぁ」

 馬車を降りると、駆けてきたルークに抱き付かれた。

 持ち上げると、泣いている。


「ルーク、ただいま。元気だったか?」

「あい!」

「良い子にしていたか?」

「あい!!」

「よしよし。母様を馬車から降ろそうな」


 ローザが降り立つと、すぐさまルークが抱き付いた。

「かあさまぁぁ」


 知性は高いが、2歳児だからな。精神は脆弱で当たり前だ。

 折り合いを付けてきた心が、息子の顔を見ると揺らぐ。


 館に入るとモーガン達の挨拶を受け、アリーとレイナを抱いているプリシラとも再会した。やはり、我が家は格別だ。

 この日は、俺とローザの間にルークを入れて、3人で寝た。


     †


 翌日。参内すると大広間で待たされた。

 執務室かどこかの部屋で、報告するのだろうと思っていたが。意外だ。まあ先にパレビーを帰したから状況は伝わっているのだが。


「国王陛下、御入来!」

 跪いて待つと、陛下と主立った閣僚が階に現れた。

 御着座になった、立ち上がる。


「ラングレン。昨日立ち戻りました」

「うむ。ご苦労であった」

「はっ!」

 宰相閣下に目礼する。


「では、ラグンヒルでのこと、報告致せ」

 一応聞いてくれるようだ。


「9月25日ラグンヒル王国、同国王に拝謁し、お預かり致しました国書を捧呈致しました」

「うむ」

「また、私に対し、勲章と同国名誉男爵位を叙爵戴きました。魔結晶につきましては、ラグンヒル内で入手した物の贈呈は予定通り固辞されました。そこで、陛下御発案の別品をラグンヒルへ贈呈することで合意に至り、持参致しました物を贈呈致しました。御叡慮(ごえいりょ)(たまもの)と存じ奉ります」


「うむ。陛下、お言葉を」

「ご苦労であった。発案はともあれ、事を為したは卿である。十分な成果と誇るが良い」

「ありがたき幸せに存じます。では、持って行った魔結晶を御返納致します」

「うむ」


「なお、ラグンヒルド国王は、我が国との友誼の証として、かねて申し入れをしておりました安全保障特別条約締結を前提に交渉するようお命じになり、概ねプロモスと結びました条文と同じ内容で、基本合意された草案を作成致しました」


 少し響めきが起こった。

 執事に持参した草案冊子を渡すと、宰相閣下の手に渡った。

 初見ではないはずだ。複製した文書は、2日前には届いているからな。


「確かに、ラグンヒルの法務大臣と外務大臣の連署があります。ご覧下さい」

 陛下に冊子が渡った


「重畳である。宰相は如何か?」

「臣としては、破格の功労と存じます」


 むう。この流れは……


「であろう。ではラングレン卿に報いねばな」

「はっ!」


 やはり俺に褒美を出すつもりか。


「先のラグンヒル内の巨大超獣撃滅、同魔結晶の献上。さらに外交交渉の大幅な進展。真に見事あった。功績を為したラングレン卿を褒賞する」


 おそらく勲章だろう。


「勲三等金獅子章を贈ると共に……」

 ああ。親父さんが貰った……共に?


「……新領を(あて)がう」


 新領?!

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/07/17 誤字、少々加筆

2025/05/24 誤字訂正 (コペルHSさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ