379話 取材が暴くこと
身近な人に、意外な貌があるって知ってびっくりすることがあります。ただ人見る目が無いのではという説も有りますが。(PCの件は活動報告をご参照下さい)
「おはようございます」
「おはよう」
迎賓館の応接室に、スパイラス新報の記者2人を向かえ入れて、取材を受ける。
「早朝から、ありがとうございます」
まだ8時にはなっていない。
俺の歓迎行事が詰まっていて、その間隙を縫って設定しているから致し方ないと言うか、逆に申し訳ない。
「どうぞ」
「失礼致します」
ウラニアと言った新人記者の方は、恐々腰掛けた。
ソファーが見るからに高級品だからな、気持ちは分かる。
「昨日は、ラグンヒルの名誉男爵の叙爵を受けたそうで、おめでとうございます」
「ありがとう」
「これで、国内の子爵の他、プロモスの名誉男爵でもあらせられ、大変ご出世ですが。どのようなご心境でしょうか?」
「カタリナさん。あなたとは、俺が無位の学生兼冒険者だったころからの付き合いだ。そんなに言葉に慮ることはない」
「ありがとうございます。そうですね。実は身分が変わられましたので、くれぐれも粗相のないように言われております。しかし、子爵様のお人柄はお変わりになりませんね」
「そうか?」
「はい。背負う物が遙かに重くなったにもかかわらず、見習いたいものです」
見習う……か。
「実は、カタリナさん、7月で副編集長になったんです」
「ウラニア! 余計なこと言わない」
「ほう」
「子爵様のお陰で、我が社の部数が3倍になって、その功労で」
「もう、ウラニアったら」
「それは、おめでとう」
「とっ、とんでもないです。でも、ありがとうございます」
「お祝いしたいが、今は時間がない。話を戻して……心持ちだったか。大変名誉なことと思っている。他国から爵位を頂くということは、その国のために何らかの貢献出来たということだからな」
半分位は本心だ。
ウラニアは、胸に抱えていた画帳に、なにやら描き始めた。
「巨大魔結晶のことは、当地の外務省から発表されていますが。別の魔結晶を贈り、ラグンヒルと我が国が少しずつ損をしあう、痛み分けでしたか? それで下手をすれば国際問題に発展しかけた所を収められた。素晴らしい考えです」
「そうだろう。我らが国王陛下のご発案だ」
「「えっ?」」
2人とも、目を丸くしている。
「そうなのですか? 子爵様の発案ではなく」
「ああ。もちろん」
聖典の年代記にある話を元にされたのだろうが、実際の政治に使われることが尊いのだ。
「それは重要ですね、しかも興味深い」
「うむ。間違っても私の発案とは書いてくれるなよ」
「はい。そういえば、確かに超獣の魔結晶は国宝相当ですから、例え子爵様が入手されたと言っても、勝手には」
「もちろんだ」
「なるほど」
「では次に……」
10分も質問に応答していると、ノックがあった。
「失礼致しますよ」
ローザとメイドが、盆の上に茶器を載せて入って来た。
まもなく茶を淹れ始めたが、あからさまにウラニアが落ち着かなくなった。お茶の連載を持って居ると言っていたが。
数分経ってローザがこちらへやって来た。
「どうぞ」
「ああ、奥様。勿体ないです」
「いえいえ」
「では、取材は一旦休止としよう」
「すみません」
俺の所にも一客置かれたので、持ち上げて喫する。
「うわっ!!」
「ちょっと! ウラニア」
「いいや、これ! カタリナさん。お茶を飲んで下さい」
「言われなくても頂くわよ…………ふぅぅ。おいしい。凄くおいしいわ。こんなおいしいのは初めてかも」
「でしょ!」
確かにいつものとは一味違う。
「こちらの水がよろしいからでしょう。迎賓館に置いてあった茶葉も最高級ですしね」
「なるほど、水と茶葉ですか……」
「カタリナさん。騙されないで下さい。あっ! いや、嘘は仰っていません。確かに茶葉はレーレック島の高原一番茶ですけど、このおいしさはそれだけでは出ません。奥様の淹れ方が素晴らしいからです。湯の温度、蒸らし時間……」
「ウラニアのいつもの蘊蓄が始まったわ」
ふむ。いつも、こうなのか?
「うふふ。お褒めに与って嬉しいわ」
ローザが俺の横に座った。
すると、ウラニアは眉間に皺を寄せて目を閉じた。
「王都にある喫茶マルドゥーのエレイン嬢、ファンセス伯爵家のメイド長バシーナ女史、王宮執事ドミニア氏の3人。その人達がミストリア3茶匠と言われていますが」
「ん?」
「ああ、子爵様。茶を淹れる名人を番付として表した最高峰3人です」
「それが、3茶匠か?」
「はい」
ふむ。知らなかった。
伯爵家は無理そうだが。喫茶マルドゥーか、一度行ってみるか。そう頭を過ぎった時、ローザは俺を冷ややかに見ていた。
「でも、その3人を越える茶匠が存在するいう噂もあるのですよ。まあ、ここ数年の話ですが」
「ほう」
「あくまで噂です。それが誰なのかすら分かりませんし」
若い方の記者は震え始めた。
「ちょ、ちょっと。大丈夫? ウラニア」
「私は、エレイン嬢の淹れてくれたマルドゥーのお茶の甘みと渋みの加減が好きで。それ以上、つまり薔薇の茶匠なんて存在しないと思っていました。」
薔薇?
「ですが、たった今。考えを改めました。いらっしゃいました。ここに!」
「ウラニア。ここって、どういうこと?」
「わかりませんか?」
「はあ? えっ、まさか……奥様が薔薇の茶匠ってこと? あっ……薔薇!」
「カタリナさん。ウラニアさん。何を思い付いたかは知らないけれど。王都ラングレン家はね、新興の貴族でしょ。謂れのない妬みを受けることが多々有るのよ」
知らぬ間に苦労掛けているらしい。
「奥様。私達は何も思いついていません」
「えっ? いや、カタリナさん! さっき……」
「ウラニア!!」
「はっ、はい!」
ウラニアは、弾かれたように腰を上げると、直立不動の体勢となった。スパイラス新報社は軍隊式のようだ。
「あなた。お茶を淹れるとき、一体何を考えているの?」
「えっ? いっ、いやぁ、それはもちろん。少しでも飲む人に喜んでもらおうと……」
「新聞も一緒でしょ!」
「はぁ……」
「スパイラス新報社是 第3訓!」
「だっ、第3訓。新聞は社会の公器。記事で悪人以外を苦しめてはならない……はっ! そうでした。私、ウラニアは、お茶を頂いて……なっ、何も思い付きませんでした!」
んん?
「結構。奥様、お聞きの通りです」
「はい」
ローザは、穏やかな笑みを浮かべて肯いた。
つまり、ローザの事は記事にしないと言うことか。
「なかなか、立派な社是だな」
「はい。第17訓まで、ございますが。ウラニアに暗誦させましょうか」
「いや、それには及ばぬ」
「分かりました。ウラニア。もういいわよ」
「はっ、はい」
腰掛けると、深く息を吐いた。
「それでは、取材を再開させて下さい。昨晩は奥様も、式典や晩餐会に出席されたのですよね。いかがだったでしょうか?」
「そうね……」
ローザは艶冶に微笑み、語り始めた。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2021/07/10 細かに訂正
2021/09/11 文章に不正な多重部分があり削除(ID:442694さん ありがとうございます)
2022/02/16 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/08/19 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)




