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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
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376話 ラグンヒルへ向け出立

よく何かに該当する人に、悪い人間は居ないとか言うフレーズを聞きます。例えば「犬好き」「猫好き」「紅茶好き」とかですが。いつも、そんなことはないやろ!って思ってます。

 エルメーダから来た客人一行は、サンプトン大聖堂やウチの城外事業所などを見学して我が館に2泊した。3日目。ソフィーは名残惜しそうにしていたが、都市間転送所を使って無事帰って行った。


 もっとも名残惜しいのは彼女だけではなく、ルークは2日ばかり塞ぎ込んでいた。が、ディオニシウス家の母娘が訪問して来たので、強制的に感傷を終了させられていた。


 それから、賢者なのか大使なのか分別しづらい仕事をこなしている内に月日は過ぎ、ラグンヒルへの出発日の朝になった。


 しばらく離ればなれになるルークとローザは、昨夜一緒に眠ったようだ。

 それも奏功したのか、涙ぐみながらもルークは元気にいってらっしゃいと言ってくれた。親子の仲を少しばかり案じたことも有ったが問題なくなったようだ。


 馬車が辻を曲がって、ふぅっと息を吐いたローザは、母の顔から筆頭従者の表情へ変えた。


 今回の出張は、ラグンヒル側の招待に応じる訳だが、国王陛下の国書を携えることになったので使節団となった。


 動員は、大使側としてアストラ、パレビー、レーゲンス、ルアダン、ホレリスの5人。ただし前者3人は、既に先発しており、残りも2人は同国王都マーレスまでは行かず、途上で駐在連絡員となる。騎士団からは、ダノン、バルサム、スードリ、ペレアス、他に団員20人。我が家の執事2人とメイド2人を会わせて合計32人だ。

 使節団長は俺で、渉外役はバルサムが務める。

 馬車は貨車2台含めて9台体勢だ。


 転送所に着くと、馬車ごと転送することになっているが、敷地内で止まった。

 しばらく停まっていたが、バルサムが扉を外から開けた。


「お話ししてあった、記者達を同乗させます。よろしいでしょうか」

 今回は新聞記者が帯同することになっている。

「うむ」


「しっ、失礼致します」

 ふむ。

 2人の記者が乗り込んで、扉が閉まった。馬車は微速で進み始める。

 対面に座った記者達は、2人とも女性だ。


「子爵様、奥様。お久しぶりです。この度は使節団への同行をお許し戴き感謝致します。スパイラス新報社の私カタリナと……」

「あっ、はい。ウラニアと申します。初めまして」


 同行を許したのは、俺ではなく外務省だが。おそらく忖度して、俺に好意的な新聞社を選択したのだろう。


「よろしくお願い致します」

「こちらこそ、よろしく頼む」


「カタリナさん、お久しぶり」

「はい。奥様、どうも」


「今回は……サブレーだったか、絵が得意な記者ではないのだな?」

 2人で、我が館に来たことがある。


「ああ、はい。彼は別の仕事をしています。今回は宿泊を伴いますので、2部屋ご用意頂くのは……」

 なるほど。男女で同室という訳にもいかないのだろう。


「でも、このウラニアも絵を描きます。なかなかの腕ですよ。あと趣味を生かして新人なのに連載も持って居るんです」

 ほう……。


「ああ。思い出しました」

 なんだ? 妻を振り返る。


「お茶の楽園でしたね。読んで居ます。とても面白い連載です」

 ほう。

 館で同紙を定期購読している。俺は読んで居ないが、


「奥様。ありがとうございます」

「茶の話題か」

「ああ、子爵様もお茶好きなのですから、読んで下さい」

「そうしよう」


 コンコンコンと三度音がして、御者台へ続く小窓が開いた。

「御館様。まもなく転送致します」

「うむ」


「転送! 私初めてなのですよね、わっわっわぁぁ」

 前方の壁が、虹色の縦水面に消えて、記者も向こうへ消えた。

 それから数秒も経たずに、俺達も転送面を潜り抜けた。


 もうここは、ミストリアの最外縁であるアグリオス辺境伯領都オリスタだ。


「はあぁ。一瞬なのですね」

 平民は、軍人か貴族の雇い人にでもならないと、都市間転送は利用できないからな。


    †


 オリスタで記者達は、別の馬車に乗り替えた。

 そして、ここを人的そして魔導通信の中継拠点とするため、ダノン、ヘミング、ホレリスの他に団員3名を滞在させることにして、30分後に出発。

 西へ向かえば、ここ数年よく行くプロモスだが、今回は北へ向かう。河岸段丘を登った後は、平原の街道をひたすら走行。昼食を含め3回の休憩をとり、その間に再び記者達を同乗させ取材を受けつつ、午後3時少し前には初日の宿があるベルリアという宿場町に着いた。


 2日目。

 最高峰が標高1500ヤーデン級のロロス山脈をだらだらと登る。幸い街道自体はそこまで登ることはなく、やや下がった標高700ヤーデン程の尾根筋にある国境線を越えていく。


 休憩時に記者2人は、こんなに登ったのに馬がバテていないと感心しきりだった。ゴーレム馬だから当たり前だが、告げなかった。


 昼前にはラグンヒル王国に入った。

 入ったが特段何かがある訳ではなく、国境線からだらだらと12ダーデン程下ったところにある宿場町ゼルベクへ到着した。

 ここで、ラグンヒル側の出迎えを受けた。

 接待役と名乗ったのは、ヴァシレ男爵という人当たりの良い40歳代の男だ。ラグンヒルの外務省の役人だそうだ。


 3日目。

 ゼルベクからはラグンヒル側の警備隊も付くので、ペレアスと団員の半数をミストリアへ戻し、当方は15人の一行となった。ラグンヒル側を加えて50人程の団体で移動していく。騎馬12騎、馬車10台規模だ。

 超獣に対する訳でもなく、大袈裟だなとは思うが国の体面も掛かっているから致し方ない。


 移動速度は前日までの7割程度に落ちたが、都市間転送所のあるザシュリムまでは50ダーデン程でたいしたことはなく、午後4時には到着した。

 そこから、王都マーレスまでは都市間転送なので、冬の早い夕焼けの時間帯に到着。そのまま、迎賓館へ入った。


 玄関に出迎えが居る。

「おそらく、あの方は王族だ」

 はいとローザが答えたと同時に、先行していたパレビーが馬車の扉を外から明けた。


「第3王子ライゼル殿下です」

 やはりな。

 俺が馬車を降りるときに、パレビーがささやいた。


 年の頃は、20歳を僅かに超えた位だろう、明るい金髪が目立つ好男児だ。それに魔力が中々高そうだ。

 見た目と身分は一致した。それゆえに不自然だ。王族というのは、外交の切り札なのだ。


 国賓である俺を歓迎する意の強調か? その意義はわからないではないが。あまりうかつに使うものではない。失敗すれば、臣の立場では取り返しがつかないからだ。


「お招き戴き恐悦に存じます。ラルフェウス・ラングレンと申します」

 外交の儀礼となるエスパルダ語で名乗り、胸に手を当て、目礼する。

 非公式の場だ。王族には礼を尽くさないとな。


「高名なラングレン閣下に、我が国までご足労戴き大変名誉に存ずる。第3王子のライゼルだ」

 にっこりと微笑みながら、殿下は眼を細めた。

「恐縮です。こちらは妻です」

「ローザンヌと申します。お初にお目に掛かります、殿下」


「これはお美しい。我も妃を連れて来るのだった。さあさ、お入り戴こう」


 ホールに入ると、多くの執事とメイドが右脚を引き、一斉に礼をしてきた。軽く会釈を返して通り過ぎ、応接室に入る。

 応接室は1辺20ヤーデン程の広い部屋だ。豪奢な内装だが、中央に4人掛けるソファ-セットのみがある。


「どうぞ!」

「はっ!」

 促されて腰掛けると、すかさずメイドが茶を運んできた。


 ん。

 殿下は、俺の顔ではなく頭上を見ている。

 少し離れた背後にアストラが立っては居るが、角度が違う。


「実は出迎えは、私自身が志願したのだ」

「そうなのですか」

 ますますよく分からない。


「うむ。閣下と親しく話もしたかったのだが、それよりはこの目でいち早く見てみたかったのだ」

 見たかったか……どの道、この国の国王には謁見するのだ。その時に、会えばわざわざ出迎える必要はないと思ったが。何やら事情があるらしい。


「失礼ながら、殿下は魔術の使い手でありますか?」

 まあ、彼が上級魔術師ではないことは分かっている。


「ははっ。ああ、いや。魔獣や超獣を斃すような魔術を使える訳ではないのだが。我には、他人より光が見える。その所為で子供の頃、周囲には期待を持たせたようだが。魔術師を生業とするには及ばなかった」


 そういうことか。


「さきほど殿下は、私の光背(オーラ)をご覧になっていたのですね?」

「うむ。この放射の波動から考えて、常人には見えないように抑えては居るのだろうが……」

 確かに、抑えては居るが、僅かに放射している。


「………我にはまばゆく燃えるように星幽(アストラル)が見える。教皇猊下と会見された時の話は聞いている。一度抑制を解いてみてはくれないか」

 ほう。アリーでもぼんやりしか見えないと言っていたが。

 ご所望の通りにする。


「おおぅ……まるで燃え上がるようだ。そして頭上の環は、霊光冠(クワルナフ)か……」

 周囲の者達にも見えたのだろう。ローザとアストラ以外が感嘆するように唸る。


「この目で、我が国の多くの上級魔術師を視て来たが、これほど鮮やかで華麗な星幽は……霊光冠などは特に見たことはない。マウレッタが見たというのは、これか」

 カゴメーヌの大聖堂で、ラグンヒルの大使にも見せたのだった。


「ああ、閣下。ありがとう。目の保養をさせて貰った」


 これを見たくて来たという訳か、中々面白い人物だ。

 再び、魔力の漏れを抑えると。ふうと息を吐いた。


「持論だが星幽の美しい人物に、悪い者は居ないと思っている。閣下が我が国でやりたいこと、陰ながら手助けさせて戴こう」

「これは心強い。よろしくお願い致します」


「そうだ。明日は休日だ。良いことを思い付いた!」

 殿下は不敵な笑いを見せた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/06/19 表現を細々と見直し

2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/08/19 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2022/08/20 記者達の取材の時系列の記載変更(kurokenさん ありがとうございます)

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[気になる点] ラグンヒル王国への道中、オリスタで記者たちが別の馬車に乗ったのに、走行中に取材を受けているのには矛盾を感じました。
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