374話 再会
しばらく別れていた人に会うのはうれしいものですね。また楽しからずやってやつです。
「ルーク寒くないか?」
「へいき」
かれこれ10分程待っているが、むずがることもなくご機嫌だ。
天井が高い建物の中。ルークと一緒に壁際の長椅子に座っている。ここは王都の都市間転送所の到着待合所だ。
対面の壁に3つある大きな扉のどれかが開くと、身分の高そうな人物やその随行達がぞろぞろと出て来るが、今のところ待ち人の姿はない。
「あっ!」
ルークが長椅子の座面から降りようとしたので、持ち上げて床へ降ろしてやる。
わぁと叫んで駆け出した。慌ててフラガが後を追う。
「レクター、着いたようだ。出て来る扉は……ルークが行ったところだ」
王都の転送所は使用頻度が高く、軍や騎士団などの団体が利用する大型の他、複数の魔導器が別々の部屋に配置されている。
しかも、どの部屋の魔導器がソノールに繋がるのかは、その時々で変わるのだが。
「はい」
レクターは、付いて来ている執事とメイド達に声を掛けて、走って行ったルークの後ろを追いかけていく。
扉が開いて、中から、20歳代の女性が出て来た。
「おねえちゃぁぁん!」
幼児が突然大きい声を出したので、少し驚いたように足取りがよれた。
ルークは、それを気にすることもなく、立ち止まって扉の中を見ている。いよいよ待ち人が出て来たので、再び走り出した。
「ソフィーおねえちゃん」
意中の人に抱き付こうとしたが、寸前に手で止められた。
「ルーク。ひさしぶり。前にも言いましたが、私はあなたの叔母です。間違えぬように」
「はい!」
「では手を出して」
手を繋いで貰って、ルークはようやく笑顔になると、こちらへやって歩いてくる。
しかし、それより前に。さっき、ルークを避けた女性がやって来た。
「子爵様。お久しぶりにございます」
「パピオーヌ先生。ようこそ王都へ」
「はい。この度は、ご無理を申しましたが、お受け入れ戴き感謝します」
「いえ。引率お疲れ様です。館までは、このレクター達がご案内致します」
「はい。ではまた、後程」
学問所の冬休みを前に、課外学習ということで我が館へやって来た。
「お兄様、おひさしぶりです」
「ソフィーは綺麗になったな。もう11歳だからな」
「お兄様、嬉しい」
抱き付いてきたので、軽く抱き返して頭を撫でてやる。
「もう! お兄様ったら。ソフィアは子供じゃありませんわ」
そう言いながらも満面の笑みだ。
身長が伸びて1ヤーデン75リンチ(158cm)はあるだろうか、めっきり娘らしくなった。それにおふくろさんと親父さんの良いところをとって、我が妹ながらかなりの美少女だ。
ルークは、こちらを羨ましそうに見ている。
ソフィーとは、2度ばかり会わせたことがある。彼にとって若い女性とは、おおよそ自分のことを可愛い可愛いと言ってちやほやしてくれる存在だが。この叔母は一線を引いている。まあ嫌ってはいないようだが。そういう存在は珍しいので、逆に好きになっているのだろう。
「ああ、失礼しました。本日は4人の学友を連れて参りました。紹介は館に着いてからで、よろしいでしょうか?」
「うむ。そうしよう。みんな良く来てくれたな。歓迎する」
†
客達は離れの1階に宿泊させることとなっており、入室させてしばらく経って準備できたというので、離れの広間に行った。
「ソフィアの学友の皆さん、王都へようこそ。私はこの館の主人で、ソフィアの兄。それから、皆さんが住んでいるエルメーダ領主の息子、ラルフェウス・ラングレンだ。なぜ領主は男爵なのに、その息子の私が子爵なのかというと、今は、超獣と戦う賢者をやっているからだ」
皆知っているようだ。
「では、家族を紹介しよう。隣は我が妻ローザンヌ。抱いている子は長男だ」
「ルークです。2歳です」
かわいいと声が聞こえてくる。
「それから、その向こうは側室のアリシアだ。頭巾巫女と呼んだ方が通りが良いかも知れぬ」
皆、ふぉぉとか言いながら聞いている。流石に有名だ。
「他に、ここには居ないが、もうひとりの側室プリシラと娘のレイナが居る。後で会うこともあるだろう。最後に、セレナという大きなウォーグが、ここを出て、階段を昇ったところに寝そべっている。見た目は恐いが聖獣だ。あなた方には、決して手を出さないから安心してくれ」
「セレナは、エリスちゃんが、からだにのぼってもおこらないよ」
ルークの口添えに、皆が笑った。
「聖獣様のことは。アリシア様から、伺っております」
「そうか。それはよかった」
「それから、フラガ!」
「はい」
少年が壁際から前に出て来た。
「この子は、正確に言うと難しいが、まあ家族みたいなものだ。ルークの近習をやってくれているから、一緒に接することも多いだろう。挨拶しなさい」
フラガは、片脚を引いて頭を下げた。
「フラガ・ラーハです。よろしくお願い致します」
もうすぐ6歳になろうという時期だが、立派なものだ。
「さて、皆さんに接する者達も紹介しておこう。副家令のレクターだ」
「レクターと申します。よろしくお願い致します。何かありましたら、執事またはメイド、誰でも構いませんので、お申し付け下さい」
「うむ。こちらの紹介は……以上だ」
先生に、どうぞと手で促す。
「ご紹介ありがとうございました。子爵様。では、こちらの一行もご挨拶申し上げます。私はルイーザ所長の下、学問所で教諭をしております。エーダイン・パピオーヌと申します。よろしくお願い致します。では、ソフィア様の他、連れて参りました者達を紹介します」
「「「はい!」」」
返事して立ち上がった生徒達は、全て女子だ。折角だから男子も連れて来れば良かったのに。
「イザベラ・ハールスです。子爵様、お招きありがとうございます」
「ん? ハールス……と言えば」
この子は、ソフィーより少し年上の12、3歳というところか。
「はい。父は、子爵様のエルメーダ工場で技師をやっております」
一昨年、親父さんの紹介で雇い入れた者だ。魔導器関連の機械の優秀な技師だ。
「そうだったか。ハールス殿にこんな大きい娘が居たとは知らなかった。よろしく」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」
「ジョシュア・デニールです。子爵様、お久しぶりです」
「やあ、大きくなったねえ」
「はい、憶えておいて下さり光栄です」
もじもじと身を揉みながら、本当に嬉しそうな顔をしている。
「あっ、あのう、エタルドです。」
「うむ。君も学問所で会ったね。よろしく」
「はい」
この子は引っ込み思案かな。顔が真っ赤だ。
今の2人は、おおよそソフィーと同い年くらいだが。次の子は少し小さいな。
「ゲルータと申します。よろしくお願い致します」
8、9歳といったところだが、この子は初めて見たな。幼いが如才の無い感じだ。
「良く来てくれた。よろしく」
「お兄様、ゲルータはエルメーダへ最近引っ越してきた商人の子です」
もしかして旧バズイット領に居た商人かもしれないな。暫定的に国王直轄領となってから、色々あったようだ。
「えーと。最後にパルシェさん……」
彼女は、席に着かず壁際に立って居る。言わずと知れたソフィーの侍女だ。
「わっ、私は以前にも、この御館に居りましたので、挨拶は結構です」
「うむ。パルシェも良く来てくれた」
「はい」
相変わらず言葉少なだ。
「さて、挨拶も終わったところで、お茶にしよう」
メイド達がお茶と菓子を運んできた。
焼き菓子だったが、昨日の夜からローザが陣頭に立って準備していた。
皆がおいしいおいしいと盛り上がった。アリーが、その菓子はお姉ちゃんが焼いたのよと明かしたら騒然となった。それで王都に居る間に習いたいとソフィー以外の全員の生徒が挙手。後日教室が開かれるようだ。
「あのう……」
1人の子がおずおずと挙手した。
「なんです? ジョシュアさん」
「子爵様に質問があるのですが、よろしいでしょうか」
既視感があるな。
「ああ、構わないが」
「ジョシュアさん。節度を持った質問をするように」
教師の方がハラハラしている。
「はい。子爵様は、ミストリアの大使様でもあらせられると言うことで。色々な国に行ったことがあると伺っております。どのような国に行かれたのでしょうか? そちらの王様にも会われているのでしょうか?」
「ああ、そうだね。国で言えば、クラトス、アガート、プロモス、ラグンヒルへは行った。大使というのは行った国で認証を受けないとならないので、概ね国王陛下と会うことになる。プロモスは女王陛下だが。ほとんどは、お目に掛かっている。ああ、そうそう。この間、教皇猊下には、プロモスでお目に掛かった」
「教皇猊下と会われたのですか? すごーい。凄いです。尊敬します」
ソフィーの眉が吊り上がっているぞ。
「別段に凄いと言うことはない」
「どなたか、親しい方はいらっしゃいますか?」
「いずれも親しいとまでは行かないな」
「あら? プロモスの女王陛下は、どうなのですか? 娘の王女殿下も、ここによくいらっしゃいますよね」
アリーめ、余計なことを。
「おっ、王族の方が、こちらへ。本当ですか?」
「本当よ。私も友達になったし、ウチのルークを気に入っていて、ここに居る時はずっと抱き付いているものね。ルーちゃん」
ルークは余り嬉しくなさそうな顔で肯いた。
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訂正履歴
2021/06/05 ルークの発言を漢字から平仮名へ。焼き菓子のところの記述を変更。
2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/02/16 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:288175さん ありがとうございます)




