367話 王宮宝物庫
<お詫び>本作につきまして、誤って完結済みと設定して更新してしまいました。大変申し訳ありませんでした。完結したと認識されて見に来られた方、読者の方々、ご心配戴いた方にお詫びすると共に、ご連絡戴いた方に御礼申し上げます。引き続き執筆致しますので、よろしくお願い致します。
宝物庫というと何やらロマンがあるのですが。庶民が見られるようになった頃には、江戸無血開城のときとか、TV番組の開かずの金庫みたく何も入ってないってことが多いんですよねえ。
都市間転送を使い、王都に帰ってきた。流石に館へ戻りたいところだが、王宮に向かう。
実は転送前のこと。
アグリオス辺境伯領都オリスタの転送所で、王宮からの書状を受け取ったのだが、帰国次第出頭せよと書いてあったからだ。
王宮庁の受付で、帰国したことを伝えると、暫く待機するようにと指示された。陛下は生憎朝議に御臨席中ということで、これは一度館に戻れば良かったなと少し後悔した。
それでも着替えをしたり、館に魔導通信を送ったりして賢者の控え室で待っていると、意外にも30分程で呼び出された。通されたのは大広間だ。
しかも、既に陛下は玉座に着かれているではないか。
「特命全権大使ラルフェウス・ラングレン子爵。御入来!」
段上には多くの閣僚が並んでいらっしゃる。
大広間と分かった段階で予測できたが、これは式典だ。まあ、この方が手っ取り早いか。
広間の中央まで進み、跪く。
「ラルフェウス・ラングレン。本日立ち戻りました」
「ご苦労。随分早かったな」
「はっ!」
陛下に会釈する。
「ラングレン卿、ご苦労であった」
今度は宰相閣下だ。
「はっ!」
「昨日報告が届いた。先程さっきまでの朝議で披露したのだが、陛下を始め、皆々驚いておる。経緯を報告せよ」
「では」
立ち上がる。
「謹んで報告致します。8月15日、今回プロモス行の目的であります、光神教会教皇猊下に謁見致しました。つつがなく聖ロムレス憲章に記名されることになり、目録を授与戴きました。これにて派遣の目的は達したのですが、予定外の事項が発生致しました。ラグンヒルの超獣出現です」
「ほぉお、それで?」
「はい。まず、猊下は巨大超獣による災厄から世界を救うため、人類を糾合する必要があると仰り、私に巨大超獣退治の先頭に立てと」
「ふっ、ふむ……なかなかに虫の良い言葉だな……ああ、続けよ」
「次に、同席されていたプロモス王都カゴメーヌ駐在ラグンヒル大使から、直接ラグンヒル国内に出現した超獣駆除の依頼を受けました」
「待て待て」
今度は宰相閣下だ。
「はっ!」
「それでは、ラングレン卿は国家危機対策委員会の審議を受けることなく、ラグンヒルへ向かったと言うのか?」
「はい」
むぅぅぅと唸った。
「宰相。それについては、朕がラングレン卿の出立前に積極的に推奨してあったのだ」
陛下が庇ってくれたか。まあ事実だしな。
「そっ、そうでしたか。ラングレン卿、失礼した。続けられよ」
ふむ。宰相閣下の表情が動いていないところを見ると、予め陛下と示し合わせていたに違いない。喰えない人達だ。
「いえ。ついては同日、ラグンヒルへ移動、超獣を撃滅致しました。また同日、カゴメーヌに再入国、ラグンヒル大使と談合の上、本日帰国致しました。なお、入手した超獣魔結晶につきましては、ラグンヒル側に引き渡す所存でしたが同意に至らず。結果として、所有権については国と国の間で交渉することとなったため、ただいま持参しております。つきましては、お引き渡ししたく存じます。また、戦闘時の光景を撮影した映像魔導具を提出すると共に、教皇猊下とラグンヒル大使から預かりました国王陛下宛の親書をお渡ししたく存じます」
執事が盆を持って寄ってきたので、そこに載りそうな物を渡す。
「ふぅぅむ。卿のことゆえ超獣撃滅は一旦置くとしてもだ。朕と同じ時の流れに居るとはとても信じられぬ」
陛下は首を振りながら、執事が封を切って取り出した便箋を手に取られた。
皆が固唾を飲みながら、陛下が読み終わられるのを待つ。やがて、うむと大きく肯いた。
「見よ! 猊下は、ラングレン卿を手放しで褒めておる。そして、上級魔術師の国外派遣宣言について、朕に感謝すると仰られた。だが如何なる理念も実現してこそ活きるというもの。良くやってくれた。ラングレン卿」
「はっ! ありがたき幸せ」
陛下は笑みを浮かべながら、便箋を宰相閣下に渡された。
続いてもう一通を読み始める。
「むぅ……ラグンヒルとしては、魔結晶を当方に受け取って貰いたいようだな。ラングレン卿への報酬を魔結晶で相殺した恰好にしたいのであろう」
それはそうだ。
他国人に巨大超獣を斃させておいて、報酬を渡さないばかりか魔結晶まで受け取ったとなれば、ラグンヒルの評判が落ちるのは目に見えて居る。
「所有権はどうあれ、まずは魔結晶を見せて貰おうか」
「はっ!」
一応天井を見上げる。8ヤーデン(7m強)は、あるから問題ないな。顔を戻すと、多くの閣僚が上を向いていたので、少し笑いを催された。
出庫するとざわめきが起こり、感嘆が漏れる。
「これは驚いた。皆が驚くのも道理。流石は巨大超獣。おそらく、この魔結晶は世界一の大きさであろう」
陛下の言に、宰相も継ぐ。
「確かに、如何ほどの価値があるのか、想像も付きませぬな」
「それゆえに我が国が、素直に受け取る訳にはいかぬ」
だろうな。
国王陛下の他国に宣言した上級魔術師派遣が、欲得ずくの話になってしまうからな。
だが、それで良いのかという気もする。ともあれ素直にか。
「では、ラングレン卿への報償は如何すべきか? 宰相、何か案があるか?」
「はっ! 正直難しいところに存じます。少々お時間を戴きたく」
無理もない。
ラグンヒルにおける超獣撃滅は国王陛下の命令に遵った結果とはいえ、現状のところ経済的にミストリアは得をしていない。この魔結晶が我が国の物になるのであれば、話は別だが。
「であろうな。そういった訳だ、ラングレン卿」
「はっ! ご配慮に感謝致します」
「よし、では。本日の朝議はこれまでする」
皆が胸に手を当て敬礼する。
「国王陛下が、ご退場されます」
玉座に座ることなく、段上脇の扉へ歩いて……こちらを振り返った。
「ああ、ラングレン卿、それを仕舞って付いて参れ」
「はい」
魔結晶を入庫すると、陛下と侍従に付いて段上の扉を通り抜ける。すると通ったことない廊下に出た。重厚な扉が左右に並ぶ所を真っ直ぐに進んでいく。
魔結晶が重くてかさばったことで、運ぶ役目を賜った訳だ。しかし、運ぶのは良いが、そこに手頃な台座があるのだろうか? 結構な重量があるが。
しばらく進むと。両脇の扉がなくなり、窓から外が見えようになった。大広間があった殿舎を出て渡り廊下となった。ああ、この先は、良く通される陛下の執務室や御座の間がある殿舎だ。その後も何度か曲がったものの、部屋には寄らず、また別の殿舎に入ったようだ。
ほう。
廊下の床が屋内とは思えないような石畳に変わり、天井も5ヤーデン程はある。明らかに普通の殿舎ではない。壁も黒光りした重厚な造りだ。
突き当たりに、廊下一面の大きさがある扉が見えた。それが両脇に開くと広間があった。左右は窓のない壁、奥の面は幕が掛かっており、その先に何があるかは見えない。
幕の前には、侍従3人と細身の紳士が待っていた。レーゲンス伯爵、王宮庁長官だ。
「お待ちしておりました、陛下。ラングレン大使」
「ご無沙汰しております。長官閣下」
「ここがどこか分かるか? ラングレン卿」
「存じ上げませんが、周りの物々しさから言って宝物庫かと」
「正解だが、物々しいとは?」
「随所に多重の結界が張られておりますので、私のような者にはそう見えてしまいます」
壁や天井に、いくつもの魔導具が埋め込まれている。
「ふむ」
陛下が手を上げると、侍従2人が。奥の両端へ歩み、紐を引いて幕が開いていく。
ミスリル特有の金属光沢を持った城門と言えるほどの巨大な扉があった。それに扉自体が魔導具だ。
幕が開き切ると、傍らにでかい貨車が準備されていた。あれに宝物を乗せて移動するのだろう。あれなら、あの魔結晶も十分載せられる。
長官が、扉の前に立つと、地鳴りがして扉が前へせり出し始めた。30秒程すると今度は左右に開き始めた。
「ところで、持って参りました魔結晶は、あの貨車の上に降ろせばよろしいのでしょうか?」
急かしてみる。
「ん? あれは卿が持っておれ」
「はぁ……」
では私は、ここへ何をやりに来たんのでしょうか? 陛下。
そう問い質したかったが、宝物庫を見せるためという線は無いだろう。ならば。
そこまで考えた時に、鈍い音が響いて扉が止まった。前に動いたあと右にずれた恰好になり、6ヤーデン角程の荷が通れる様になった。
ここからは棚しか見えない。一瞬見てから、顔を背ける。
「ははは。卿は慎み深いな。別に見られて困るような物は入っておらぬぞ」
「はぁ……」
そうは言っても、きっと見ない方が後の憂いがないはずだ。
空の貨車を侍従達が押して宝物庫へ入って行く。5分後には出てきた。
「これは……」
「これを持ってな、ラグンヒルへ行ってくれ」
やはり。
「承りました」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2021/04/17 誤字訂正、少々表現変更
2021/05/22 誤字訂正(ID:1374571さん ありがとうございます)
2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)




