364話 鉄壁の巨大超獣
そう。自分を阻む壁は自らが造っているんです!(どうした花粉症が悪化したか?>小生)
おい!
少し慌てて避けると、数瞬前に俺が居た空中を、古代神殿列柱並の太さ劫火が通り過ぎた。なかなかの火勢だ。
炎の軌道が変わり、超獣の前半球を覆う。
最初からしっかり狙えよな。
巨大超獣が、強力な魔導障壁を持っていることぐらい知っているだろう。
術者が見えた。
マゥレッタ大使によれば、既に撃退作戦は終了しているという話だったが。誤報か、命令無視か。
他人が上級魔術を放つのは、ミストリアで幾度か見ているが、その中でも威力はまあまあというところだ。
行使しているのは上級魔術師で、両脇に2人は従者というところか。
だが、これではな。斃せる見込みが感じられない。
10秒も火焔が続いただろうか?
濛々と水蒸気が吹き上がったが、魔術が途切れると上昇気流は消え失せ、局所豪雨、そして数秒後には雹に変わった。
なんたる冷気。
大した魔力投入量ではなかったが、仮にも上級魔術だ。
それを一瞬でなかったことにするとは、恐るべき障壁と言わざるを得ない。
そして局所的な天候激変が過ぎ去ると、白い巨体が見えた。丸い超獣は無傷だ。
賢者会議に提出された資料通りか。
巨大超獣には如何なる熱魔術も効かない──
「むっ!」
超獣の内部で、何かが動いた。連動して魔界強度が跳ね上がる。
白い超獣の体表面に、幾何学模様が現れた。
魔導紋章? 魔術の発動だ。
彼らも自らが狙われているのが分かったのだろう。
3人が荒れ地を疾駆し始めた。
この巨大超獣を敵に回す意気はよし、しかし無謀すぎる。
そして、何より逃げ足が遅い!
両腕を上方に突き出し念じる。
【氷晶尖錘!】
手の周りに霧が掛かり、見る間に塊を成す。少し魔力を注ぐと、10ヤーデンを超す氷塊に膨れ上がる。
フン!
気合いと共に腕を振り下ろすと、轟く唸りを上げて落下して行った。
良い弾道だ。
直撃──
刹那、白い巨体が七色に滲んだ。
氷塊は砕け散った、超獣の僅か寸前で。
物理無効か。
もちろん、これしきで超獣を斃せるなどとは思っていない。
狙いは……よし紋章は崩れている。
集中!
【送達!】……【送達!】、えぇい動くな!……【送達!】
ようやく3つの環が地表に居る人間の頭上を捕捉できると、自ら閉じた。
その後に、術者達の姿はなかった。
どこまで跳んでいったかは知らないが、死ぬよりはマシだ。勘弁して貰おう。
さて。
超獣の体表面に新たな紋章が浮かぶ。
地響きが轟いた刹那、無数の岩石が空中に浮き上がった。弩よりも勢いよく、俺に殺到してくる。
掌を超獣に翳す。
飽和攻撃か。
とにかく数で圧倒する気だ。
空中の敵に物をぶつけるのは中々に難しい事を考えれば、悪くない戦術だ。
だが、数千を超す岩石を以てしても当たらない。
ほう。
弾道を変えてきた。無数の礫と言うには大きい弾の帯が、右へ左へとうねる。ある程度の空間範囲で加速度を制御できるのか。
すぐ横を数十リンチの塊が火花を上げながら通過、瞬く間に耳を劈くような金属音がいくつも掠めていく。
そして、そのいくつかが俺の前で弾けた。
危機を感じて強化した魔導障壁を紡錘状に変形して、弾道を逸らせていたのだが。偶々垂直に当たったか。
まもなく岩石の嵐が止んだ。
どうやら、こちらにも障壁があることに感づいたようだ。
ふむ。
やはりでかいだけではない。あの巨大な水滴のような態でそこそこ知能があるらしい。
要注意だな。
半年前、賢者会議に提出されたセロアニアの賢者が書いた報告書。西方諸国に現れた数体の巨大超獣の情報をまとめたものだ。
要約すれば2つ。
物理攻撃無効に冷熱攻撃無効。
確かに今の攻防を鑑みれば信じたくなる。この超獣が、報告書の対象となった超獣に匹敵するとすればだが。
あの魔導障壁に加え、これだけの負の熱量を持って居れば、並の上級魔術程度では揺るがせられないだろう。
やはりあれか。
認めたくはないが、超獣は俺より優れた組成を持って居る。
超電導──
温度を極低温として体内の電気抵抗を0にし、虚数誘導魔界で魔導波の侵入を完全に弾く。
仮説を立てた時、いつものように脳裏に浮かんだ言葉は、マイスナー効果だ。
マイスナーが何かは知らないが、意味は分かる。遮断するのが魔導波ではなく電磁波の違いはあるが。
しかし、具体的には何でできているのか、見当も付かない。見た目から言ってこいつの体内組成は液相のようだが。それでいて、ほとんど隔てる物がない構造。ざっくり言えば、スライムだ。
巨大で極低温のスライム。何か引っ掛かるが……まあ。
馬鹿馬鹿しく思えるが、耐魔術面では最強の楯の1つだろう。
ところで、スライムなら核があるだろうが、こいつもそうなのか? 内部は全く見通せないので、分からないが……分かり様のない物を、あれこれ考えるだけ無駄だ。
何かは分からずとも、やり様はある。
右腕の先に、紫光の刃が突き出ると、瞬く間に100ヤーデン超の刃渡りとなる。
ヤァァァアアアアア。
急降下し、気合い諸共に超獣に斬り付ける!
酷く耳障りな波動が響き渡り、光刃は弾かれた。
だよな!
残念ながら予想通り!
しかしそのまま地面すれすれまで流れると、超獣の側面を回り込む。
!
超獣の表面が音もなく盛り上がり、眼にも止まらぬ速さで鋭利な棘が何条も突き出た。
あれはまずい!
はぁっ!
加速減速、身を捩りつつつ、避ける躱す。
魔束を完全に弾く超獣の身体、あの棘もそうに違いない。
俺の障壁をぶち破る可能性が高い。
が、当たらなければ、どうと言うことはない。
【刃!】
左腕にも同様に刃を生成し、一瞬小旋回。
再び加速し大回りの間に小旋回をさらに2回。そして再び大回りした。
長い体感の数秒が経ち、俺は超獣を一周し終わった。
「待たせたな!」
俺は大地に降り立つと、地面へ両掌底を衝いた。
【並行励起【地極垓棘】×6】
俺が飛行した軌跡、超獣を巡った環。
その環通り地面に亀裂が走った。
丹田が熱を持つと、腕から膨大な魔束が流出して行き、ゆっくりと地面が持ち上がった。
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お断り
超電導は、超伝導の誤りではないかとのご指摘を戴きました。ありがとうございます。
どちらも、表記としてはありまして、まちがいではないと思います。
ただし、伝導としてしまうと、熱や様々な波動の内どれだ? と思われる場合もありますので、より直接的な超電導を使用致します。
訂正履歴
2021/04/03 誤字脱字訂正(ID:1374571さん ありがとうございます)
2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)
2022/08/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/09/24 誤字訂正(ID:288175さん ありがとうございます)




