36話 騒動勃発
投稿を始めて1ヶ月経ちました。引き続きよろしくお願い致します。
「ソフィー、ほーら、コチョコチョ…………」
ウキャウキャキャ……。
夕食が終わった後、ソファに座って、幼女を抱きかかえている。
「兄たん、兄たん」
「なんだぁ?」
「ソフィーね。大きくなったら、兄たんのお嫁さんになる」
「そうか。なってくれるか、うれ……」
「うう、えへん……」
アリーのわざとらしい咳払いに遮られる。いいじゃないか、別に。
「この前のお嫁たん綺麗だった」
ああ、そう言えば、この前、村で結婚式があって、それを一緒に見に行った。それ以来、お嫁たん、お嫁たんと、何度も言っている。
「ああ、綺麗だったなあ」
「うん!」
凄く嬉しそうに笑う。
「ラルちゃん」
「……」
「ねえ、ラルちゃん! ……ラルちゃんってば!」
「聞いてるよ」
ギロッと睨まれたので睨み返す。
「お昼に、学校で聞いたんだけどさあ。隣村に怪しい人達が居るんだって」
「怪しい人達?」
「ファァ……うぅぅ」
「それでさ……」
アリーを手で遮る。満腹したからだろう妹が眠たそうだ。ゆっくりと、ソファーに横たえる。
すぐ眼を閉じた。
「で?」
「ふん……なんかさ。背はそんなに高くない人達で、言葉が通じないんだって」
「ほう……」
「南の朱丘の上の林に住み着いて、川に汚い泥を流しているんだって」
ここから5ダーデン(4.5km)ぐらい南南東にある。少しツァルク村に入ったところだ。名前は丘の西、ロタール川沿いの崖が赤茶けているからだ。
「あんなところにねえ」
「あっちにも、バロックさんとこの小作人がいるから困ってるって。その人達大分怒っているみたいよ」
へえ、バロックさんがね。
この前会った時は、お父さんと地代の話をしてたな。
ウチは、私有地を2,000レーカー(800ha)ばかり貸して、彼が雇った小作人に耕作して貰っている。来年の地代収入は、1レーカー当たり1ミスト5スリングになるようだ。
バロックさんの取り分は、多分25スリングぐらいだろう。もちろんバロックさんはウチの土地だけではなく、手広く耕作地を契約してる。
ちなみに1ミストは小金貨1枚だ。小作人世帯の年収は20から60ミストくらいだから結構大金だ。
僕も1ミスト小金貨は見たことだけはある。全体に円盤状だが中央に重さ10パルダ(約7g)の純金、その周縁に銀色の白銅が填まった豪華な物だ。昔は、金貨を周りから少しずつ削って、出てくる金粉を集めて悪用する輩が横行したそうだが。この様に2層構造にすれば、外周から削っても出てくるのは安価な白銅だし。真ん中の金を削ったら、直ぐバレる。
「怪しい人達って、ホビットかな?」
ポツっとアリーが零す。確かに背が低いのは合っているが。
「ホビットなら言葉が通じるだろう」
人族、ホビット族、ドワーフ族はよく知られてる。ミストリアに居る者達は、種族は違っても大体ミストリア語を話す。
まあ、ホビットとしても他国から移ってきたら違うのかも知れないが。
1回見に行ってみようかな。
†
「ラルちゃん、どこ行くの?」
セレナを伴って外に出たら、現場を押さえられた。
「おわっ、アリーか」
闇に潜むなよ。アリーは感知魔術の警告対象外にしてるんだからさあ。
「何で僕が出掛けるのが分かった」
「ふふん。すぐ寝ちゃった、ソフィーちゃんとは違うのだよ!」
いや、3歳児と張り合わないでくれるかな。
「で、行くんでしょ。隣村!」
「アリーには敵わないな。セレナ、ちょっと重くなるけど、アリーも乗せてやってくれ」
「ワフッ!」
「もう! アリーちゃん重くないもん!」
実際のところは、痩せた僕とアリーぐらい訳なく乗せられる。
僕達が跨がると、伏せていたセレナが立ち上がり、走り始めた。
まだ西の空に明るさが残っているものの足下は暗い。でもセレナは夜目が利くので、速度が昼間と変わらない。
「きゃあ、こわぁい」
棒読みなアリーは、がっちり僕の背に抱き付く。成長の証が……わざとだな、これ。
15分後。
ツァルク村との境を越えて、2ヤーデンくらいのところまで差し掛かったとき。噂のあった丘が見えてきた。
「むう……」
遠目に、松明を持った行列が、丘を登り始めているのが見えた。
まずいな。
あの数だと20人は居る。尋常じゃない。
脇街道から山道に別れる所で、セレナを止めて、自分だけ降りる。
「どうしたの? ラルちゃん」
「アリー。お前は、このままセレナに乗って、バロックさんの屋敷へ行ってくれ。そして農民が丘で騒ぎを起こそうとしてると知らせて来い」
アリーが言っていたように、この辺りは小作人はバロックさんが仕切っている。僕やアリーとも顔見知りになっているから大丈夫だろう。
「あのおっちゃんかあ……わかった! さっきの分かれ道を右へ、領都の方だね」
方向感覚は確かだ。
「そうだ」
「ラルちゃんは?」
「今日は様子を見るだけのつもりだったが……見てから対応を決めるさ」
「そう。まあ、面白そうだから止めないけど。気を付けてね!」
「ああ。セレナ頼むぞ!」
「ワフ!」
「ハイヨー、セレナァー! あぁーーはっはは」
嬌声が響き渡らせながら、元来た道を駈けて行った。
なんというか、暗いの好きだよな。
さて。
【加速】
自己加速術式を発動。
身体全体が熱くなり、脚に力が漲った。
無理矢理、力で止めても遺恨が残るだけか。
えーと、川がこっちだから……。
山道の途中で外れ、右の林に分け入る。
こっちだな。
しばらく行くと、水音が聞こえ始めた。木立が途切れる、沢だ。もう少し西に行ったところで、ロタール川に合流する。
【光輝!!】
魔術を始めた頃のように、無制御に魔力を込め過ぎたり、全方位に放射するような間抜けなことはしない。
少し大きい礫が転がる水辺に降りていく。
光を当てると、なるほど……流れ下る水が赤茶けてるな。
赤い……鉄かあ?
【鑑別】
下級鑑定魔術によれば……やはり錆びた鉄だ。そこで、できるだけ上澄みだけ水を掬うと、ほぼ毒性はないと出た。
だが、この色じゃあ流石に、畑には使えないよなあ。この村の人達が怒るのは無理ない。
再び、丘を登る。
†
声が聞こえてきた。
「お前達は出て行け!」
「そうだそうだ! 水を汚すヤツは出て行け!」
丘の中腹、少し開けた場所だ。
松明と武器になりそうな農具を持った人達が集まっている。
対しているのは、革の服を身に纏った人型。ドワーフに似ているがデカい鉤鼻と垂れた長い耳が目立つ。
コボルトだ!
初めて見た。
鉱業を生業とすることが多いらしいが……ああ、鉄!
あそこか。
集まった者達の後に、山腹にぽっかり空いた坑道口が見える。何だか白い気体が時々その坑道から吹き上がってくる。
その入り口の前に、3個体出てきて、立ちはだかっている。
「ᱛᱦ᱙ᱳᱚᱝ᱕ᱭᱢᱫᱝᱦᱝᱤ」
「何言ってるんだ、わからん」
村人が苛だっている。
「ᱛᱝᱳ᱙ᱚ᱕ᱭᱳᱦᱧᱛ᱐ᱳᱝᱢᱫᱦᱝᱤ」
ん?
頭が冷えるように感じると、不意にそれは起こった。
【俺タチ 穴掘ル 何 文句アル?】
たどたどしい言葉遣いだが、理解できる。当然、今学んだわけではない。忘れていたのを思い出した。そうとしか思えない。
こういう風に、聞いたこともなかった言語が、突然理解できたことが、これまでも何度か有った。
「わかんないって言ってるだろ! 埒が明かねえ、とにかくここから出て行け!」
1人の村人が農具を振り上げた。
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訂正履歴
2019/07/13 誤字訂正(ID:1594445 様ありがとうございます。)
2019/08/10 魔術名訂正




