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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
15章 救済者期I 終末の兆し編
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356話 人質

持明院統と大覚寺統ってありましたねえ。

「ラルフェウス卿。どうぞお入り下さい」

 侍従長が(うやうや)しく、胸に手を当てて礼をした。


 王宮の中枢。国王執務室へ入る。

 面談を申し込んだところ、30分ほど待たされたが、これは短い方だ。


「おお、ラルフェウス卿。何用か?」

「はっ! 陛下に報告致すべきことが起こりまして」

「プロモスの件か?」

「御意。昨日のことですが。予告なく、クローソ大使が我が館を訪れまして、こちらを私に渡されました」


 侍従長に、封書を差し出す。

「早速か! 朕の外交辞令を逆手に取るとはな。ふははは……」

 外交辞令。アストラが持ち帰った外務卿の伝言でも、俺を使役しても良いと取れる綸言があった。よって、寛恕せよという話だった。

 

「で、これは?」

「エレニュクス陛下からの親書です」


 俺宛の親書ではあるが、俺としては国王陛下に差し出さざるを得なかった。むしろ女王こそがそう仕向けていると言って良いだろう。文面にはそうは書いてないが。


 陛下はふぅと息を吐いた。

「あの女傑。色々やってくるものだ」


 侍従長から便箋を受け取り、読み始めた。


「ふふふ……」

 数十秒の後陛下は相好を崩した。


「卿も随分見込まれたものだな。プロモスに囲い込もうと必死ではないか」


 確かに、文面はそうだ。

 クローソと仲良くせよ。爵位を与えているのだから、プロモスを粗末に扱うな。何とならば我が国で伯爵位を与える。

 そして──


「ふん、もう一度プロモスへ来いか。これはまた……ラルフェウス卿」

「はっ!」


「なぜ、彼の王女が駐在大使となったか? 外務の部局で揉めたのだがな。これを読んで結論が出た」

 そんなことは文面にはなかったが。


「と、仰いますと?」

「朕はな、破談になった王女と卿を娶せるつもりだと考えていたが……まあ、その線もまんざら消えていないが」

 破談の件は当たり前のように知っているな。


「王女は人質だ」

「ええ、そのようなことは」

 ふむ。


「要は卿を借り受けるための担保、ミストリアを裏切らないという証明だ。朕はそのような物を請求しては居ないがな。そのための特別条約なのだが、人間の意識とはそう簡単には変わらないと言うことか。まあ少しでもプロモスの借りを減じたいのだろう」


 条約を結んだ今となっては、プロモスへ俺を呼び寄せたい理由が有るとは思えないが。書状とは矛盾する。


「ふーむ、その顔は。卿は気付いていたようだな」

「ああ、はい。クローソ殿下の振る舞いから、おそらくそうではないかと」

 

 大使に成った理由を、何度か殿下に聞いてみても、はぐらかすばかりだったが。殿下も自分が人質ということに気が付いたか、あるいは。いずれにしても、あの自尊心の高い殿下だ。奇矯な行動をとった理由はそうなのではないかと推理した。


「ほう。あの女王のことだ、そう言い含めたのかも知れぬな。つまり……」

 

 俺の顔を見て、陛下は一旦口を閉ざした。

 何を言い掛けた?


「それはともかくも、同盟を結んだばかりだ。不要とは言え人質を送って来たのだ、女王の顔も立ててやらずば成るまい」


 仰った通りだ。

 俺をプロモスに派遣して欲しければ、俺に親書を送るなどと回りくどいことをしなくとも、昨日クローソ殿下が直接陛下に頼めば良い。条約も有る、我が国も断りづらいはずだ。

 だが、あの国はそうは行かないのだ。

 

 3度あの国を訪れ、分かってきたことがある。

 庶民の女王に対する人気は高いものの、彼女の立場は意外と脆弱だということだ。

 現在、あの国に宗家たる王家はなく、かなり昔に分化した3公爵家が持ち回りで、代表者を王にすると言う慣わしを守っている。


 古来より、王家とは跡目相続で内紛を起こし、勢力を減じることが茶飯事だ。


 プロモスの慣わしは、身内で紛争を起こすことなく平和裏に跡目を決める方法……であったのだろう。だが、今となっては他の2公爵家が対立派閥となり、虎視眈々と取って代わることを狙うといった構図が何代か続いているそうだ。今、対外的な問題が起これば恰好の攻撃材料となる。


 今回の条約で、条文の一言一句に細心の注意が必要だったのは、プロモス現王家に気を使ったのだ。


 その上で。

 顔を立てるとは、プロモス国内の対立派閥に対して女王が面目を喪わないよう、陛下へ直接頼むといった行為を避けてやるということだ。

 しかしどうやって?

 近々俺がプロモスへ向かえば、口さがない連中が因果を言い立てるに違いない。


「よし。卿をプロモスへ派遣することは認めよう。だが、もう少し待て」

「はっ!」


「うむ。そのうち状況が整う」


 どう状況が整うのかは理解出来ないまま、俺は執務室を辞した。


     †


 アストラ達に箝口を指示しつつ、近々他国への派遣任務があると告げた。年に数度は出掛けているので、さほど大事とは捉えられることはなかったようだ。

 

 その後、1時間程執務を行ったものの、予定より早く王宮を辞して館へ帰って来た。昼食を摂って、自家用馬車に乗ってやって来たのは城外。騎士団訓練場の前だ。

 半年前にできたばかりの新宿舎群が見えてきた。


 騎士団を立ち上げた頃の、男の宿舎は訓練場併設のここ、女の宿舎は城内の公館脇の建屋だった。が、救護班の人数増加に対応できなくなったため、新たに建て増しした。無論男の宿舎とは別棟になっている。


 訓練場に入る門前を通り過ぎ、敷地を大きく回り込むと隣の区画に入った。ここはラングレン家王都城外事業所だ。


 2年程前ここの土地を買い増しして70レーカー(27ha強)を登記したが、更地が余っていたので、館の地下にあった工房を移設したのだ。


 ここでは、製薬業および魔導具の研究開発と一部生産を行っている。建屋は今のところ3つあり、それぞれの棟と管理棟だ。

 事業所で働く従業員は50名強。訓練場と兼用の警備員が約20名、食事作りなどの福利厚生で10名、事務員が5名程度となっている。おおよそ半分は、騎士団宿舎に隣接の宿舎群に住んでいる。


 管理棟玄関に馬車が横付けすると、先乗りしたモーガンと事業所長である副家宰のラトルトに出迎えられた。


「皆様、既に第1会議室にお集まりです」

「早いな。早速俺も入るとしよう」

 まだ予定時間の1時半まで15分程あるが。

 会議室には丸い大きな机があり、その周りにはサラにアリー、ブリジット、ゴーレムに身をやつしたガル。そして年配の男とその連れの若い男が座って待っていた。


 俺が入っていくと、皆が一斉に立ち上がる。

「ミフネア殿、遠い所まで、ようこそ」


 白い顎髭が持ち上がると笑った。

「ラルフ様、お久しゅうございます。若様のお陰で、都市間転送が使えますので何と言うことはありません」


 ミフネアは、爺様の後輩というか元部下で、スワレス伯爵領政府で役人をやっていたそうだ。だから親父さんのことを若様と呼ぶ。


「うん。元気そうで何よりだ。ああ、皆座ってくれ」


 俺の左にはローザ、右にはモーガン、その向こうには、議長のラトルトが座る。


「では7月度の経営会議を始めます。では、ブリジット君」

「はい」

 すっと立ち上がると、左手で眼鏡を摺上げる。

「報告致します。まず、6月度の売上速報値ですが……」


 型通りの経営状況報告が進んでいるが、誰も何も言わない。事業が順調だからだ。


「……受注状況は以上ですが、今朝民部省より月産1万単位の注文が来ました」

 ブリジットは無駄のない身の熟しで、腰掛けた。


 いや、順調すぎるな。俺も初耳だ。


「またですかぁ」

 サラが、頭を抱えた。

「無理なものは無理と返して欲しいのだが」

 隣に座ったガルも、こちらに言い放って頭を振っている。


「もちろん受注は留保しているが。生産はどうなのだ、ガル殿?」

「エルメーダ事業所では、既に3交代勤務で目一杯生産している」


「人員については、エルメーダ側でも善処させるが」

 白髭の老人が、胸を張った。


「ミフネアさん。大変ありがたいお言葉ですが、そう言うことではないのです」

「ああ、言い方が悪かった。サラが言う通り、これ以上は新設備を造らねば無理だ」


「造ることはできないのか?」

「ああ、それは。薬師ギルドとの協定を破ることになりますから。無理です」

 再来年までは国内生産量が規定されているのだ。


「そっちの方は、民部省が自ら交渉すると言っているが……」

 ラトルトの眉間に皺が寄り、サラの眉尻が上がる。


「議長もよくお分かりでしょう。この前も民部省は最初はそう言って、結局我々に丸投げしたじゃないですか」


 ラトルトも、その経緯はよく分かっている。1年前の一件も最大の被害者は彼だった。それでも粘っているのは、次に民部省が取る手段を懸念しているのだ。


「ラトルト」

「なんでしょう。御館様」

「民部卿からの圧力のことであれば気にするな。非公式な働きかけは断って構わない」

 サラは少し驚いたように口を開け、一拍あって眉を顰めた。裏の事情に気が付いたようだ。

「分かりました。それでは民部省からの依頼は断ることにします」


 ラトルトは、一呼吸置いて続けた。


「では次の議事に移ります。サラスヴァーダ薬師長提案のササンテ製法の詳細公開について。既に王都側の意見は伺って居ります。事前にお知らせ致しましたが、エルメーダ側のご意見はいかがでしょう? ミフネア殿」


 エルメーダ側。つまりラングレン本家は重要な出資者だ。事業の運営は俺に委ねられては居るが、利害関係者として意向を無視するわけにはいかない。


「いかようにも」

「あのう……と、仰いますと?」

 しかし、ミフネアは頑固そうに眦を決して、口を一直線に引き結んでいる。


「あのう。私が代わってお答えします」

 ミフネアの後方に座って居た男が立ち上がった。


「我が主ディラン・ラングレンはこう申しました。製法に関しては、元より御当家の物。いかようにされるとも異存なし。父ミフネアによりますれば、若様のラルフェウス殿への信頼は鉄壁にございます」

 ミフネアは振り向いた。

「余計なことを申すな!」

「はっ!」


 会議室ではくすくすと笑いが巻き起こった。

レビューありがとうございました。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴

2021/03/06 後書きに本文を入れてしまいました(たかぼんさん ありがとうございます),誤字訂正(ID:1824198さん ありがとうございます)、少々加筆

2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

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