35話 神学
神学とは、空理空論か、心の中の理か、はたまた超越した科学か。私にはわかりません。
少し執筆が進みましたので、明日も投稿します!
11歳となった。
妹のソフィーは、3歳になってますます可愛くなった。
目がまん丸で睫も長いし、大人になったら美人になるぞ。
ローザ姉とマルタさんが夕食の準備をしているので、今は僕が遊んでやっている。
足下には、青白い美しい毛並みの狼魔獣のセレナが横たわって居る。5年前に助けて以来、館に居るときはとても大人しい。この間、鑑定魔術で見たとき、体重は300ダパルダ弱(約200kg)だった。ソフィーが髭を引っ張っても、何もしない程だ。
いつもは、僕かローザが毛並みを撫でて梳いてやるのだが。
お袋さんに、その手でソフィーは触らないでねと言われているから、今はセレナの方を我慢だが。
可愛い妹に、モフモフ魔獣。ああ、何て幸せだろう!
ほれほれぇ。
「兄たぁん……ひゃあぁぁ」
「ソフィー。お前はほっぺが真っ赤でかわいいなあ」
「んぅぅうん!」
おおっ、僕の耳を掴んだ。いいぞいいぞ、どんどん引張れぇ。
「ねえ、ラルちゃん」
醒めた眼で僕等兄妹を眺めていた、アリーが切り出した。
「何?」
「ラルちゃんは明日、アリーちゃんは明後日だけど、学校で進路のこと聞かれるよね」
「そだね」
こっちを向けよと怒気を感じたので、仕方なくアリーの方を向く。すると、ソフィーが思いっ切り僕の耳を引っ張った。
「痛たた。ソフィーちょっと待ってな。アリーお姉ちゃんがお話だって」
「おはなし? ソフィーも聞く」
「おお、良い子だな」
うっ、うんん!
アリーが何かイライラしてる。
「ラルちゃんは、進路を村の中等学校にするのよね」
「うん」
「じゃあ、アリーちゃんも村の中等学校にするからね」
「うん……ソフィー」
「気のない返事」
†
次の日。
授業が終わった。
「ああ、アリー。昨日も言ってたけど、司祭様に呼ばれているから。先に帰ってくれ」
「うん。じゃあ、待ってるね」
相変わらず、人の言うことを聞かないし、僕べったりだ。
でも、ニコッと笑った顔は、幼馴染みの僕からしてもドキッとなるぐらい可愛い。
いや最近では、16歳にして村一番の美女と呼び声高い姉に似て、美しくもなってきている。気恥ずかしいこともあるので、ソフィーをわざと見せつけるように可愛がってたりする。
「わかった」
廊下を歩いて、司祭室へ行く。
「失礼します」
「ああ、今日はラングレン君の番だったね」
司祭でもあるダルクァン校長先生が迎えてくれた。
勧められた椅子に座る。
「さて。まあ君の場合は、既に進路希望を聞いている……が、考え直す余地はないかな」
「ありません。
「やっぱり神職になるというのは?」
「ありません」
首を振って否定する。
笑っては居るが残念そうだ。
「僕は、隣の中等学校に進みます」
「いや、問題はその後だよ」
そう。問題はその後だ。
僕は王都に行く。そして上級魔術を学ぶ、その方法だ。
神職に成らずして、光神教会に僕を王都へ迎えさせる。
そんな離れ業がありえるのか?!
あったのだ。
教えてくれたのは、僧帽の上から頭を掻いてる人だ。
私の母校に神学科というのも有るよと。
「うーむ。神学生ねえ……」
そう、神学生だ。
それは、神学者の候補生だ。
母校──光神教・宗立修学院
光神教会幹部神職の養成学校だが、同宗教の学術研究機関でもある。
神学生とは、そこで学者と成るため神学やら光神教の見地で歴史などを学ぶ。そして、これこそが、最も僕にとって大事なことだが、学院は王都城内にある。つまり学生は、王都在住が許されるのだ。
神学科とは、他科とは違い唯一学者を養成する組織だ。
学者だから、光神教会の制約が大幅に緩和される。
「第一別の目的だしなあ……」
そう。僕の目的は、神学者ではなく、上級魔術師に成ることだ。
「神学生つまり神学者の養成は、結構教団の負担になるんだ。だから本来は神学者に成る気がない者を推薦する訳には……神学に接する過程で目覚める場合もあるしなあ」
「はあ……」
司祭様は、目頭を押さえた。
「とにかく惜しい。6年前にも言ったけれど。君の才能は群を抜いているんだよ。だからラルフェウス君は神職になって欲しい。教団の意向にも合致している」
「神職は人々をお救いになります。上級魔術士に成って超獣を斃すことでも人を救うことはできませんか?」
「君の言うことは間違っては居ない」
「それに、神学生になること自体も意味もあります、神学生となれば、教会が有する古代魔術書が収蔵された、光神教会図書館も入ることができます」
「確かにね。君は、ラーツェン語で書かれている律法も、難解な神統記もなんなく読み下せる。そんなことは、この国でも何人もできることじゃないんだ。そして、失われた古代語も本当は分かるんだろう?」
そう。
この国の周りで使われているエスパルダ文字も、その起源となったラーツェン語を含め、僕は見たり聞いたりしたことがある言語を全て理解できた。
魔術の呪文言語である古代語もそうだ。眺めていたら理解した……いや以前から知っていたのだ。ただ、知っていることを忘れて居ただけだ。
「……はい」
「それは、光神様か、あるいは御使い様が与えたもうた、奇跡に他ならない」
「そっ、そんな……」
大袈裟なという言葉は口にできなかった。
あと光神様はともかく、何だか御使い様というのは、なんか引っかかった。
「私は、君の能力や才能を目の当たりにする度に……ああ、数年前までの話だよ……」
司祭様は、手で顔を覆った。
何が言いたいんだろう。
「君が次第に眩しくて、羨ましくてならなくなってね。光神は私に何て物をお見せになるんだって思える程だった」
はっはあ。
「でもね、分かったんだ。それこそ、光神のお導きだってね。ラルフェウス君を育むのが試練であり私の使命だって」
司祭様……。
「ラルフェウス君は、神職になるべきだ……今でも思う。けれど、君の人生は、あくまで君の物だ。そして君はいつも、私の予測を遙かに超える。だから、君の選択を私は支持するよ。君が魔術師として活躍する所も見てみたいしね」
「司祭様……ありがとうございます」
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訂正履歴
2019/09/01 光神協会→光神教会