表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
14章 英雄期II 賢者への途編
364/472

閑話9 遺跡発掘(前) 鉄壁の守護者 

事務手続きって、面倒ですよね。特にお上相手のやつ。でも、去年やった国勢調査(WEB回答)はお手軽でした。

どこかに委託出したのかなあ。

─── やっとじゃ やっと来られた


 王都から東北東に40ダーデン(36km)余り。

 荒涼たるアンカイオス丘陵と言えば聞こえは良いが、地味の乏しい礫ばかり目立つ荒れ地。この何もないところに、楕円状の土塁が築かれている。ざっと総延長2ダーデンぐらい、軍の駐屯地のようだ。


 その外側に、昨日先行して来ていた騎士団が、既に7つばかりゲルを張っている。 

 ティア──俺に憑依している残留思念体のティアマストが興奮している。俺は以前に視察しているが、ティアを憑依させて連れてきたのは始めてだからな。


─── 半年ぐらい掛かった。


 仕方ないだろう。

 土塁の上の看板を見ろ。

 この遺跡は、文化省の管理地区と書いてあるだろう。俺としても勝手に入るわけにはいかん。


 申請書類を出すとともに各方面の働きかけをして事前調査を行い、計画書を提出といった手間暇掛けて、ようやく許可が下りたのだ。


─── お館様には感謝している


 ティアに取り憑かれてから、いくつかの遺跡を巡った。が、全て盗掘もしくは公の発掘を受けており、侵入してみたところもあるが、新たな発見はなかった。


 しかし、ここは違う。

 アンカイオス遺跡が見つかったのは、23年前。

 元は軍部の演習地であったが、今は引退された賢者ロヴァル卿が偶然発見した。そして未盗掘と知れると、文化省へ管轄が変わった。魔術行使の結果、露呈した遺跡は埋め戻され、それ以来手付かずとなって現在に至る。今回についても難色が示されたが、国防上の問題ということで特例が認められた。


 だが、その理由に納得がされていないようで、土塁の切れ目にある門の前に文化省が派遣してきた監視員が居る。

 なかなか態度が悪いやつらだ。俺は子爵で大使とは知っているようで、表面上敬意を表するように振る舞っているが、その他の者には随分横柄だ。ローザやゼノビアを無遠慮にじろじろと見て居ていたしな。


「そろそろ始めるとしよう」

「ご無事のお帰りをお待ちしております」

 肯くと、ローザ達にその場で見送られた。


 監視員には目も呉れず、土塁に中に入ると、目星を付けた場所に歩いて行く。後ろから20ヤーデン程離れて、付いて来ている。発掘計画書には魔術を使うと書いたからな、少し危ないと思っているのだろう。


 それにしても、随分ローザは物分かりが良くなったな。


─── それは 妾のお陰とは思わぬか?


 分かっている。

 今回付いていくとローザが言わなかったのは、おそらくティアの影響だろう。とはいえ、外までは付いてきたのだが。


 影響と言えば。以前より、ルークを良く可愛がるようになった。乳をやる回数も増えた。

 ティア自身は、出産の前から慢性的に体調が優れなくなり、乳も出なかったので授乳もできなかった。それ以前に、体力がなくてまともに抱いたこともないと嘆いていたからな。ローザに憑依してルークへ授乳したのは、代償行為だったのだろう。


 そのときの心情が、ローザに直接伝わったのは想像に難くない。


 ここか。知らぬ間に白い木の杭が地面に刺さっている。やつらか、まあいい。杭を引っこ抜いて、投げ捨てる。


 魔感応に意識を持っていくと、地面を通り過ぎて地下を探知していく。

 やはり、深度8.5ヤーデン(8m弱)というところだな。直径は3ヤーデンもあれば良いだろう。

 

 右腕を真下よりは少し前に突き出す。


魔収納(インベントリ)!】


 突如前方の地面が消えると、鈍い破裂音が響いて後方から旋風が吹いた。

 収納した土石が消えたことで、一瞬真空が生じて周囲の空気を吸い込んだのだ。


頑強(コルプス)!】

 坑壁が崩れないよう、強化魔術を行使すると、前に踏み出す。落下しながら対面の縦壁を蹴り、反転してまた壁を蹴ること3度。(あな)の底面に到着した。


 見上げると丸い空が見えた。自慢ではないが坑を掘るのも慣れたものだ。

 魔術を使うと掘りやすさと固さは関係ないので、崩れないよう強化しない分、岩盤の方が逆に掘りやすい。まあ地下水脈とかにぶつかると最悪だから、事前調査が肝要だが。


 目線を戻す。こっちだな。今度は水平に腕を伸ばす。

【魔収納!】


 縦坑の壁にアーチ状に横坑が開き、1ヤーデンもない先の空洞に繋がった。

 探知してあった遺跡の地下洞だ。


 映像魔導具を2個出庫して、繋がった輪を首へ掛け起動。録画を開始した。

 文化省との取り決めだ。俺が遺跡内部の物を着服しないようにするためだ。2個なのは、画角が変わる映像で辻褄が合っていれば、捏造の可能性を限りなく排除出来るからだ。


 さて行くか。


「ラルフェウス卿!」

 頭上から声が降ってきた。

 坑の上端から首が3つ覗いている。監視員達だ。


「何だ?」

「あっ、あのう。これでは我々は降りられません」


 知ったことか!

 監視員には付いてきて構わないと言ってある。さりとて、彼等が付いて来やすいように整備してやる義理はない。


「俺は飛び降りたが?」

「わっ、我々はラルフェウス卿のようには行きません」

 じゃあ、なぜ付いてくると言ったのか?


「計画書に書いた通りだ。読んでいないのか? それに、遺跡やその周辺環境を極力破壊しないようにというのは文化省側の要求だろう」

「そっ、それはそうですが……まさか垂直な坑だとは」


 子供じみたやりとりにうんざりしてきた。

「本部ゲルに、ルーモルトという者が居る。その者が縄ばしごを持っているから、協力を頼むのだな」


 我々が行くまで、そこで待てとか言い出す前に遺跡に進んだ。

 意地悪でやっている部分も有るが、それ以前に未知な状況で付いて来られては、護ってやるのが面倒過ぎる。


 地下洞は、白い石灰岩の石畳に煉瓦の壁。天井には緑の蛍光があり仄明るい。中は、饐えた匂いもしない。通常の呼吸で問題なさそうだ。


─── ほぅ 流石未盗掘だけあって コーティングが1000年以上保って居るのか


 コーティング?

 何かを塗布して表面を保護する処理……そう概念が脳に流れ込んできた。


 そうなのか?


─── 妾が迷宮を作ると知った商人共が 売り込みに来たからのぅ


 そういう業者が居るのか。


─── ふふっ! 古代エルフの科学技術は 今の比ではない! あっははは


 ほとんど滅亡したがな……それはともかく。

 ティア。コーティングの成分を知っているか?


─── わっ 妾が知るわけはなかろう!


 …………。


─── ああぁ……壁面が真新しいであろう? 随分ここは金が掛かって居るのぅ


 話を逸らしたな。


 そんなやりとりをしながら進むと、1分も掛からず広間に出た。予定通りだ。

 暗かったが、俺が近付くと赫赫と所々に魔炎が焚かれ、隅々まで見渡せるようになった。ざっと30ヤーデン角。そして床から天井まで7ヤーデンもある大空間だ

 左の壁には祭壇だろうか、豪華な装飾が作り込まれた箇所はあるが、それだけだ。


 この深度には、通路と広間しかないから来たのだが。やはり、ここしかないないか。

 魔力感知阻害が掛かっている場所。広間中央の区画だ。。

 区画の4隅には、同数の台座が有り、その上に体長3ヤーデン程、見上げるばかりの彫像が載っている。


 ガーゴイル、あからさまにゴーレムだな。


 禍々しい。

 膜翼を持つ蜥蜴が乱杭歯が無数に生える顎門を開き、あたかも侵入者たる俺を威嚇しているようだ。一般人なら近付きたくないだろう。


─── お館殿 ガーゴイルを知っているのか?


 プロモス王都の地下。カルヴァリオ(聖君試練)で出て来たヤツと、ほぼ一緒だ。1000年たっても余り進化をしていないようだな。


─── プロモスというのは国の名前か?


 ああ。エルフが多い国だ。


─── それは一度行ってみたいものだな おっとそれどころではなかった


 台座を囲むように少し色が変わった床に踏み込むと、彫像に魔力の光が点った。ふむ。魔術の機構は、今でも生きているようだ。一々相手をするのは面倒だな。あの内側まで転位するか。


─── お館殿 あの転層陣に辿り着いただけでは転送してはくれないぞ


「なんだと!」

 思わず声が出た。

 彫像(ガーゴイル)が動き出し、柔らかく床に降りた。


─── とりあえず 少し離れよ さすれば貴奴らは止まる


 数歩戻って床色の境界外に出ると、確かにガーゴイルは静止した。

 ふむ。

 随分詳しいな、ティア。それで?


─── 正規の手順を踏まねば駄目だ


 あれも売り込みを……?


─── ああ鉄壁の守護者だそうだ 妾は断ったが


 ティアは、罠を仕掛けなかったわけだからな。侵入者歓迎だったのだろう。

 しかし。古代エルフは、どこまで迷宮好きなんだ? 呆れるな。


 それで? 正規の手順とはなんだ?


─── 既定の魔導具が放つ魔導波を発信 もしくは 転層陣の上で正規の呪文を詠唱


 前者は論外だ。そんな魔導具は持って居ない。

 呪文は? 憶えているのか?


─── 憶えるも何も 買い上げねば 設定はできん


 はあぁぁぁ。駄目じゃないか。

 魔導具と呪文以外は転層陣を利用出来ないのか?


─── できない


 まあ当然か。被埋葬者は、侵入されたくないのだ。例外を除けば……俺はよく当たってる気がするが、ともかく侵入者に便宜を図る必要などない。


 仕切り直すか。転送先はおそらく高深度の地下だろう。

 一度地上戻って、そちらを探した方が早い。


─── 待ってたもう 


 なんだ。ここに居ても無駄だとわかったろう?


─── 呪文は知らぬが ガーゴイルを100体斃せば呪文を再設定できるぞ


 ティア。そういうことは、先に言え!

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2021/02/03 誤字脱字訂正、少々加筆

2022/08/19 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ