34話 将来のこと
進路ってどうやって決めました?
私は、結構偶然というか、はずみで決めてしまいました。
まあ悪くなかったんですけどね。
少々、時系列は遡る。
まだ、ソフィーが生まれる前、おかあさんのお腹を蹴っていた頃の話だ。
僕は、領都のダノンさんの家を1人で訪れていた。
夫妻で迎えてくれた。
「おお、ラルフ。良く来た。無事で何よりだ」
「そうよ。本当に良かったわ。ラルフちゃんの家の近くで超獣が出たって聞いたから。もう2人で心配してしてたのよ」
「なっ、何を言う。私は心配なぞ……」
「ふふふ。そうねえ。『ラルフは大丈夫だ!』って何度も言いながら、部屋の中をずっと歩き回っていたけど、ねえ」
「ううぅむ」
ダノンさんが唸った。
なんかもう、本当の祖父母のようだ。
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
「そうよねえ。次の日に、大勢の怪我を治した2人の子供のことが、噂になって、ああラルフちゃんだって、ウチの人がね。そうだ! もう一人の子、アリーちゃんだっけ? こんどウチに連れてきなさい。ふふふ」
えーと。
「ドリス。そんなことより、菓子を焼いていたんじゃなかったのか?」
「そうそう。すぐお茶を用意するから、ちょーと待っててね」
おばさんは、立ち上がると、廊下へ出て行った。
「それで、7ヤーデンもある六脚巨猪を斃したようだな」
なんか話が大きくなってる。
「いや、5ヤーデンくらいです。赫火でなんとか」
「5ヤーデン……その規模の魔獣は、下級魔術で斃せたりはしないのだがなあ」
ダノンさんは、少し難しい顔をした。
そう──
真面目に詠唱して発動した場合の威力が、どうやら標準的らしい。
僕の場合、無詠唱で発動した方が、なぜだか威力が上がるので、ダノンさんが悩むことになる。
「で、その魔結晶を持ってるか?」
「はい」
鞄から取り出して渡す。
ダノンさんは、結晶を窓に向けて透かして見た。
ふと結晶の中に魔力の動きを感じる。
「ふむ。確かに、六脚巨猪のようだな。前に斃した物の結晶組織が似てる」
「ダノンさんも斃したことあるんですか」
「ああ、私と戦士、弓兵と3人がかりだがな。かなりの価値がある物だ、大事にすると良い」
「はい」
返して貰った結晶を、元の鞄に仕舞う。
「超獣は見たのか?」
「見たといえるのか……4ダーデンぐらい離れていたので。小山のような姿が最初紅く光り、次に青く光って、弾け飛びました」
「ふむ。金縛りは、失神はしなかったか?」
「身体は硬直し始めましたが、なんとか耐えました」
みんな、そういうことになるのか。
「耐えたか、特に初回は厳しいのだがな。魔力が強い者ほど罹りやすい症状……いや現象か」
確かに、魔力枯渇に相当する衝撃だった。
「それで、どう思った」
「やはり、超獣は許せません」
祖先や姉妹の父の仇と知ってから、そう思っていたが。
「許せないのなら……どうする」
「超獣を斃せる者になります。あの超獣も、先祖やアリーたちの仇ももう居ないけど。斃すために、前に聞いた上級魔術師に……」
そう、唯一斃せる者に。
上級魔術を縦横に行使するために。
「……どうすれば、成れますか」
ダノンさんの眉間に皺が寄る。
「…………」
聞こえてこない。
「……むぅ一番の早道は、国軍、士官学校に入ることだ!」
ダノンさんは、口を引き結び瞑目した。
「軍人が悪いとは言わぬ。魔術師もそうだ。だがな軍人の上級魔術師は勧められぬ。それに軍人で上級魔術師になるには、士官学校卒業資格が必要だ」
「士官学校……」
「ああ、士官学校は、男爵家以上でなければ入学資格がない」
ダノンさんは、国家魔術師ではあったが、上級魔術師ではなかったのはその辺か。
「はぁ……」
「実際には少ないがな、そのような者は」
「は?」
「魔術科で士官学校に入る者の大半は、猶子だ!」
「ああ……」
養子はだめでも、相続権がない猶子なら。なるほど、そう言う抜け道が。
「上級魔術師候補ともなれば、里親も喜んで引き受けよう。だがな、ヤツらに自由など無い。婚姻も、住居も、日々の移動とて拘束される。そのような人生をラルフに送らせたくないのだがな」
確かに正式な貴族の猶子ともなれば、確かに結婚相手は、里親に決められるだろう。それは困る。軍人からの線は駄目か……
「軍人以外では、上級魔術師には成れないのでしょうか?」
「そんなことはない。魔術師が多い職業は何だと思う」
魔術師は、職種であって職業ではない。
戦士が、兵か、冒険者か、はたまた用心棒にでも成らなければ喰っていけないように、魔術が使えるだけでは収入を得ることはできないということだ。
「冒険者ですか」
「そうだ。だから冒険者ギルドは、推薦という形で上級取得を推奨している。何せ上級認証をする魔術師協会へ理事の大半を送り込んでいるからな」
「ならば、冒険者で!」
「まあ、そうあせるな。上級魔術師になるには、最低でも上級魔術を使いこなす必要がある。無論、限定付きではあるが」
「はあ」
上級魔術でも限定解除しなければ、中級魔術と変わらないとは聞いていたけど
「だが、国防上、王都在住の魔術師協会会員しか上級魔術術式を公開していない。王都在住の資格は知っているな」
「はい」
(1)国軍の王都所属軍人
(2)子爵以上の爵位をもつ貴族の一族
(3)光神教会が認める者
(4)商人、工人、冒険者ギルドが認める者
1の軍人は外して。
2は、准男爵なので、該当しない。
3では、王都に入れたとしても、魔術師としては経験が積めない。
やはり冒険者か。
「やはり冒険者という線かと……」
「そうだな。だが、王都在住を冒険者ギルドが認めるには、中級者3ランクが必要だそうだ。そうなった者の中等学校卒業後平均では実務経験から10年以上は掛かる。つまり25歳以上だな」
要するに、まずは王都在住資格を得るために、冒険者ギルドに入って中級者3ランクを取得。それで王都に転居して上級魔術を学び、推薦を受けてようやく上級魔術師の受験資格が得られるのか。
あと17年も先になるのか。
「そう、残念そうな顔をするな」
「はあ」
そう言えば、凄く詳しく知っているなあ、ダノンさん。
いや──
「あ、あのう。ダノンさん。僕の為にわざわざ調べて下さってありがとうございます。そっ、そうですね。僕、諦めません」
笑っている。
「上級魔術師試験の受験資格を得るには、軍人以外なら冒険者ギルドだろうな」
なんか、引っかかる言い方だな。
「それって」
「学校の校長に訊いてみると良い」
「ええぇぇえ?」
って、いうか今言ってよ!
ダノンさんは笑っている、教えてくれなさそうだ。
「あらあら何々。ラルフちゃん」
ドリス夫人が、大きなお盆を持って部屋に入ってきた。
「済みません。大声を出しちゃって」
「良いのよ。自分のウチだと思ってね。さあお菓子をお上がりなさい」
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訂正履歴
2023/04/15 誤字訂正(ID:2221581さん ありがとうございます)