345話 ラルフ乗っ取られる?!
本作350万PV戴きました! ありがとうございます。文字数も120万文字に達しました。いろんな意味で効率が悪いな……。引き続きよろしくお願い致します。
うーむ。
知晶片を5個見たが、どれもこれも興味深い内容だった。が、目的である古代エルフの歴史ではないので、斜め読みで済ませる。
6個目と思った時。
「あのう……」
館長だ。正直鬱陶しい。
「何か?」
立ち会いを許容しているのだから、話し掛けるな! うっすら怒気が脳裏を過る。
「すっ、すみません。差し支えない範囲で仰って戴ければ、お探しの件をご案内できるかも知れません」
おっと、威圧が少し強かったらしい、館長が怯えている。冷静に考えれば、悪意でやっているわけではないよな。
「それは助かる。今日は、古代エルフ時代の歴史、もしくは社会統計のような内容が見たかったのだが」
「社会統計という分類はしておりませんが、歴史であれば……」
ん?
何か冊子のような物を眺めだした。
「……えーと、左側の棚。あっ、はい。それです。その……2段目にある4つがそれらしいです。ご存知かとは思いますが、何分にも完全なる翻訳は……」
「ありがとう」
改めて、1個目。
うーむ。歴史と言えば歴史だが……。
「……小説だな」
どの程度、史実が反映されているか分からないが、とある王の半生を後年に描いたものだな。比較資料がなければ、脚色を排除しづらい。
「ふむぅ」
なんだ?
館長の溜息に、目を開けて振り返る。
「どうかしたか?」
「ああぁ。申し訳ありません。疑っていたわけではありませんが、1分も経たぬ間に、それが小説だとお分かりになるのですなぁ」
「ふん。1分も何も、見ればわかるだろう?」
「はっははは……ご冗談を!」
「んん?」
「そもそも知晶片の中身を魔術で見られる者など、子爵様の他に聞いたことがありません。一般人は、その魔導具を使って、やっと眺めることができるだけです。その上で、書かれている文字が解読出来ません。小説だと申したのは、解読を依頼した学者の報告書を読んだからです」
「ふむ。ならば、なぜ疑っていないと言った?」
「そっ、それは……呪文内に頻出する神名と修辞に対する魔術効果相関の一考察。拝読致しました」
げっ!
読んだのか。エリザ先生に騙されて書いた学位論文を。
「はぁ……」
「あれを、替え玉が書いた物だと主張する者がございましたが……」
「はぁ?」
「ああいえ。私は、けして……」
「あのように拙い物、真に自分で書いた物でなければ、そのままにしておく訳がない」
貴族の中には、他人に論文を書かせて箔を付ける者が居ると聞いたことがあるが、あの内容では本末転倒だ。
「なんと!」
当時学院の課題だと思って、やっつけで書いたからな。大筋の内容に誤りはないが、今から思えば、もっと深く考察を入れるべきだと思っている。だがエリザ先生は、十分十分、これ以上は読んだ者が分からなくなるから。もうお腹一杯! とか言っていたが。
「拙いなど、とんでもない。斬新かつ、端倪すべからざる教養と洞察力に富んだ分析と拝察します」
ぐっ! 精神的痛みがが……。
「あのように素晴らしい論文を書ける者が、替え玉執筆など行うはずがありません。私はそう確信しております。ただ、子爵様の様にいくつも卓越した才能を発揮される人間など存在しうるのか? そう主張されて、中々言い返せず……いや、しかし。これで確信が持てました。あれはご自身でお書きになった物です」
「当たり前だ」
「大変失礼致しました」
なんだか、視線がチクチクきて居心地が悪い。
「ああ、それから。余り言いたくはないが、気が散るのでな。しばらく話しかけないで貰えるか」
「申し訳ありませんでした。そのように」
邪魔が入らなくなって閲覧が捗り、2つめの知晶片を見終わった。
民俗学というべきか、エルフ庶民の習俗などが年代別に書かれていた。こっちはざっと頭に入れたので、後で反芻しよう。
3つ目に手を翳す。
おお、見付けた! これだ!
正真正銘の歴史書だ。
年表もある。主な出来事。今の王都がある地域の人口、税金の推移、統計諸表。
これを見るだけで、いかに古代エルフ文明が優れたものであるかがわかる。基本的に都市国家だったというが、成熟しているな。どんどん憶えながら読み進めていくと……。
あった。
超獣の統計だ。これは良い!
近郷の都市国家の数値まで、分類してしっかり記載されている。
エウシュ暦265年、270年……年間出現数が12体,9体……3体まで減ったが。都市国家レームゥセズ消滅。超獣による爆発による……か。
次の年も、2ヶ国が滅んでいる。
やはり超獣の出現個体数が減った代わりに、巨大化が進み、昇華時であろう被害が極大化している。最終的に13の都市国家が滅び、10年程超獣が現れない小康期が訪れたか……。
ゲドが言っていた通りだ。
時代は合っているようだが、周期的に現れる現象か?
とにかく記載を憶えよう。
10分後。
読み終わった。さて歴史の知晶片は、あと1個残っているが。
館長のお陰で、ここに来てからまだ1時間位しか経っていない。もう少し良いか。
4つめに手を翳す。
ゲッフ、ゲフ! アフ、ゲッ、ダ…………。
「だっ、大丈夫ですか?」
聞き慣れぬ言葉であったが、意味はわかった。
「ああ……大丈夫だ」
妾とは似ても似つかぬ声が出た。少し太いが悪くない。
「子爵様?」
……子爵だと 無礼者め! 妾は女王なるぞ!
むう!
言い掛けてやめた。
目の前にある、クリスタルに顔が映ったからだ。
これは誰か?
エルフではない。が、恐ろしく麗々しい顔が映っている。
若い! まだ十代の……少女にしては眼が随分凛々しいが。
茫としていた頭が、少しすっきりしてきた。
そうか! 思い出した。
妾は死の病に侵されて、このクリスタルへ思念を臨終間際に封じたのだった。解読出来る知性の者を乗っ取る罠を仕掛けて。
そうか。妾は死んだのか。
解読できたということは、この少女は相当なキレ者に違いない。
気の毒だが、妾が乗っ取ったのだ。本望であろう。
残留思念など、そう長い間保つことなどできぬのだ。しばらく、この身体を借りておくぞ。
「如何されましたか?」
男が妾に手を伸ばして来た。
借り物はいえ、妾の身体に触ろうとか。
「下がりおれ!」
むっ!
見知らぬ男を咎めるべく、一歩踏み出した時──
ありうべからざる感触があった。
自然視線が下がる。
なんだ、これ?
違和感の源に手を持って行く。
こっ、これは……エルフと人、種に違いがあれど、それぞれの半分に共通な器官だ。
なんと、男だったのか。
妾が乗っ取ったのは、少女ではなかった。この容貌からは信じられぬが。
むう。
それはそうだ。あのクリスタルを見る者が、女とは限らぬ。
男かぁ……。
まあいい、贅沢は言わん。
こめかみに手を添えると、記憶が浮かんできた。
ラルフェウス・ラングレン、16歳か。
「あっ、あのう」
「外に出る。案内せい!」
「お探しの情報は見つかったのですか?」
何を言っているか分からないが、とりあえず。
「ああ。今日は終わりだ」
「はっ、わかりました」
このような辛気くさい部屋に何時までも居られるものか。
意識があるうちに、逢いに行かねば。
妾の言うことを諾々と受け入れた男に着いて歩く。躯が軽い。
なにやら、見たこともない構造の建物を通り抜け、階段を昇ると、ようやく日の明かりが見えてきた。
大きな木の扉を抜けると、男が挨拶した。
「では、私はこちらで失礼致します」
「うむ、ご苦労!」
妾はご機嫌だ。
ふむ。左に行けば、外に出られそうだ。一歩進んだ時。
「お館様!」
なぜか、妾のことだと分かったので、首を巡らすと妙齢な女が立っていた。
むう。
さっき見た、今の妾の外観に対しても、勝るとも劣らない美貌だ。
どうやら、乗っ取った男の従者のようだ。
こういう時は。
「ううむ。頭が痛い。連れて帰ってくれ」
「……それは、いけませんね。ご案内致します」
しめしめ。うまく行ったようだ。城のようなところから出て、馬車を乗り継いだ。
ふう。
車窓から外を見る。見たこともない大都市だ。まあ文明程度は大したことがない。
ふむ。人族が多いな。
妾の生前は蛮族であったにも拘わらず、今ではこの世の主の如く振る舞い居って。まあ良い。どうするかは、世情を知ってからの方が良かろう。
ん?
首筋に冷たい物が触った。いつの間にか短刀が突きつけられている。
「あなたは、一体何者なのです?」
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訂正履歴
2021/01/13 若干表現調整、加筆
2022/09/23 誤字訂正(ID:288175さん ありがとうございます)




