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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
14章 英雄期II 賢者への途編
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337話 信頼が置ける者

他人で全幅の信頼を置ける人って……うーむ。ラルフがうらやましい。

 バロール卿との話が終わると委員会に寄った。

 上席特別職に就任する前後の差異をまとめた書類の受け取りをし、ようやく帰路に就いた。


 王宮から送ってくれた馬車を、公館に横付けして貰うと、騎士団ほぼ全員が、玄関ホールで出迎えてくれた。賢者となったことを告げると、大きな拍手を贈られた。


 ローザが嬉しそうにしているのを見て、初めて充足感を得た気がした。王宮ではローザは壁際に離れていて反応が見られなかったのだ。まあそこでも嬉しそうにしていたとは思うが。


 皆に礼を述べて、そのまま騎士団幹部を集めて会議を始めた。

 王宮での出来事をざっと説明し、上席特別職に成ったことに伴う差異を説明した。


「つまり、お館様が上席特別職……」

「ああぁ……賢者で良い」

「はい。賢者に成られたことで、月番がなくなると言うことですか」

 ペアレスは、いつも反応が良い。月番とは優先的に出動が割り当てられる月、つまり当番制のことだ。


「ああ、その代わり非番月もなくなる。いつ出動するかは、超獣あるいは魔獣次第だ」

 賢者という存在は、超獣対策としての切り札だ。大凡の場合、出現してもすぐに出動とは成らない。国家危機対策委員会が慎重に状況を見極めるので、準備時間があることが多いらしい。ただ、それも状況次第だ。


「うーん」

 悲鳴のような声を上げて、アリーが頭を抱えた。


 一番厳しい状況にあるのは、救護班長の彼女だ。

 回復魔術師の多くと看護の人員は、光神教会に依存している。

 これを成り立たせているのは、月番制度が大きい。月番と非番があり、人材を借り出す期間が大体予想が付くからだ。


 それが先月の出動は指名出動だったため、予想外の時期の出動になり、人員の確保が困難だった。


 今後は、毎回そうなるとアリーは理解したのだ。

 無論以前から、人材を集める努力をしていて2人ギルド経由で増えたが、回復魔術師はそもそも数が少ない上に、引く手数多だ。そう簡単に集められる訳ではないのだ。


「今、アリシア班長が唸ったが、人手が足らないのは救護班だけではない。騎士団を増員し、長帯陣や連続した出動に耐えられるように、交代番体制を取る必要がある」


「交代番ですか……」

 この辺は、王宮でバロール卿に訊いたところだ。

 既存の賢者の場合、緋色連隊(スカーレス)が代わる代わる支援に来てくれるそうだ。


 我が騎士団に、支援はない。

 だから自前で用意するしかない。それが交代番だ。

 要するに月番非番を騎士団内で作るわけだが、無論今の人員でできるわけが無い。人員の増強が必要だ。

 それができれば、団員を回して疲労を蓄積させないようにする。さらに、替えが利かない幹部団員には、俺やバルサムに従者が付いているように支援人員を付ける。


「ダノン。団員数の募集は5割増しを目処に進めてくれ」

「承りました」


「しかし。そうなりますと物入りですな……ああぁ、大変喜ばしいこととは存じますが」

 ケイロンは、まずいことを言ったと言う自覚があるのか、薄い頭を掻いている。だが彼に取ってみれば、そうだろう。一部門とはいえ、出て行く金が突如1.5倍になるのだ。


 彼の役目は、財務担当であって経理担当ではない。つまり出て行く金には、入ってくる金を平衡させなければならないのだ。それは、彼だけの問題ではない。


 我らがそんな苦況に追い込まれることは、委員会は当然わかっている。したがって。


「そうだな。ただし、この説明書に拠ると、国からの補助金額支給対象の申請可能な人数枠が50人から100人まで増やせるとあったぞ」

「おお、それは助かります」

「うむ。上席特別職の職務説明書については、経費処理等が多く書かれているからな、とりあえずケイロンに渡しておく」

「ありがとうございます」


 とはいえ、補助金だけで足りないのは間違いない。彼らの人件費はともかく、装備費、糧秣費、福利厚生費……。彼らの任務に対する情熱は並々ならぬものがあり、喜ばしい限りだが、それも財務の裏付け有ってこそだ。ケイロンは出動することはないが、実際のところ騎士団は彼が支えているのだ。無論支えているのは彼だけではないが。


 それはともかく。

 賢者になったことで基礎経費が年間7千ミストから1万5千ミストに上がる。そちらからも回せるだろう。


     †


 会議室を出たところで、本館付執事のコルスが待っていた。

 20歳代の男だ。まだ執事職に就いてから日は浅いが、気真面目な印象を持って居る。去年11月にファフニール家から回して貰った2人の内の1人だ。最近まで、エルメーダの製薬工場に出向して貰っていた。


 コルスは俺の姿を見付けると、キビキビとした歩調でこちらへやって来た。


「失礼致します。お館様」

「うむ」

「モーガン殿から伝言にございます。大変恐縮ながら本館へお戻りになるとき、先触れを戴きたいとのことです」

 なるほど。


「お館様は、ただいまからお戻りになります」

 ローザが代わって答えた。

「承りました、奥様。先触れは無用です」


「コルス。ここでは、私を従者と呼ぶように」

「失礼致しました、首席従者様。では」

 コルスは本館へ通じる廊下を、小走りで去って行った。


 ちなみに我が家の幹部従業員の体制を、今年に入って見直した。


 家令、つまり総執事頭はモーガン、これは変わらない。

 俺に代わって、我が家のことを総覧するのが役目だ。つまり全ての責任者で、従業員は全て彼の部下となる。貴族同士の付き合いや役所関係など対外的な案件は彼が仕切る。さらに専門的には家全体の財務は彼が握っている。財政支援のブリジットと経理担当のプリシラは彼の直属の部下だ。また特命全権大使を支えるアストラ以下特務執事の4人は、実質俺の部下だが、形式上は彼に属する。


 副家令はレクターだ。

 我が家の規模が大きくなって、家令の職務が増えたので新しく置いた。副家令は、大まかに言えば俺や家族の衣食住の全ての面倒を見るのが役目となる。よって直属の部下は一番多く、本館付きの執事、メイド、コック、その他乳母のエストに力仕事や庭仕事する3人の非常勤も含めた従業員なども彼の部下となる。また館で主催するパーティ等の催し物や、公務以外で王都を出るような旅行のときも、彼が責任者となる。


 家宰はダノンだ。

 通常家宰と言えば、貴族家の事業を取り仕切る職だが、我が家では騎士団に特化している。彼の下には、騎士団とは別に執事のサダールとニールスに加え、公館付きメイドが付いている。


 副家宰はラトルトだ。

 彼はコルスと共にファフニール家から回して貰った。こちらは、30歳代後半でなかなか人当たりが良く、会計士の資格も持っている上に、ブリジットによると事務仕事の手腕がすばらしいそうだ。それで副家宰だが、我が家の家宰は前記の通りなので、騎士団と大使職に関する以外の事業を取り仕切るのが役目になる。つまり、製薬業や、通信魔導具等権利許諾の面倒を見てもらう。そのような重要な職に、雇ったばかりの者を割り当てませんがと本人が言っていたが、彼を信用していると言うよりは、正直ファフニール家への信用だ。差し当たり、月の半分以上はエルメーダの新工場に派遣している。


 メイド頭はマーヤだ。

 メイドの代表で監督兼教育係でもある。人事の系統的には、メイドは概ね副家令の部下、公館付きのメイドは家宰の部下だが、査定や配置転換には彼女の助言を得ることになっている。


 それから役付ではない執事としては、コルス、ノイシュ、リセルが居る。ノイシュとリセルは、モーガンが見つけ出してきた者達だ。コルス、ノイシュは通常はレクターの下に付いている。リセルは3月になってから我が館に来たのだが、コルスの代わりにエルメーダに派遣して、ラトルトに付けた。


「お館様?」

「ああ、少し考え事をしていた」


「それでは、本館の準備もありましょう。ゆっくりと参りましょう」

「そうだな」


 ローザとアリーを連れて公館を後にし、普段の倍ほどの時間を掛けて本館ホールに入ると、モーガン含めて本館付きの者達が勢揃いしていた。

 

 割れんばかりの拍手で迎えられる。

 軽く会釈して、謝意を伝えるが拍手が鳴り止まないので、手を挙げて止めた。

 答礼をと思ったところ、ローザが数歩前に出た。


「先程、旦那様が王宮にて、賢者の称号を贈られました」

 再び喚声と拍手だ。


「そして、改めて子爵の爵位も授かりました」


 ローザの言葉は、執事は理解した様だが、メイド達には余り理解出来なかったようだ。

 今までも子爵様だったわよねえと言う認識だ。


「ああ。これまで、子爵は我が代限りだったが、今日を以て我が後継者も長ずれば子爵を授かることになったということだ」


 ようやく、皆の腑に落ちたようだ。


「おめでとうございます!」

「「「「おめでとうございます!!」」」」


「ありがとう。そう言う訳だ。皆安心して我が家に仕えてくれ」


 モーガンとレクターを伴って、執務室に入った。


「聞いての通りだ。2人にはまた面倒掛けることになるが、披露会をしなければなるまい」

「承りました」

「それはもう。嬉しい限りでございます。つきましては、開催の時期は、どのように致しましょう? 子爵と成られた時よりも、招待客は増えますゆえ……」

 レクターが言い淀む。


「すぐには開催できないと言うことだな」

「誠に恐縮ながら」


「そうだな。4月の末が良いだろう」

「それは……」

 レクターは少し意外そうにモーガンを見る。まだ1ヶ月以上あるからだ。


 招待客の選定に本家、ダンケルク家とファフニール家との調整、招待状の送付と回収。2週間強というところだろう。


「開催は、バロール卿の婚礼をお祝いしてからの方が良いだろう。永代子爵と成られた、披露もされるとのことだったからな」


「なるほど。ご上策と拝察致します」

 モーガンは、先達を立てることになり、軍関係との折り合いも良いだろうと理解したようだ。


「ああ、2人に頼みがある」

「「はい!」」

「うむ。バロール卿……ディオニシウス子爵家の話だが。なにぶんできてほやほやの家だ。家令は決まっているそうだが、その手の準備は何かと手が足りない。向こうから依頼が来ることになっているが、支援をとバロール卿から内々に頼まれた。よろしく頼みたい」

 バロール卿は、ウチのパーティーに出席して、モーガン達の行き届いた手腕に感心したそうだ。


「畏まりました。ご親交に支障のないよう務めます」

「うむ」


「もうひとつ、大事なことがある」

「はい」


「ルークが生まれてから半年経つ。4月末の当家の披露会の場で、傅役(もりやく)についても披露したい。モーガン。傅役を引き受けて貰いたい。短い付き合いだが、人品共に信頼しているのだ」

「はぁ」


「必要で有れば、しばらく時間をとっても良いが」

「ああ、いえ。お館様に、非才なる身を買って戴き、大変光栄に存じます。ですが、ルーク様の傅役となれば大役にございます。私のような者でよろしいのでしょうか?」


 長男の傅役を任されるというのは、執事としては大変名誉なことらしい。子供の人格形成、行儀作法の習得、教育の全般を委ねる訳であり、しかも長男とも成れば、嫡男となる可能性も大だ。主人から鉄壁の信頼を寄せられていると同義だからな。


「もちろんだ」


「はっ! 身の引き締まる思いです。謹んでお受け致します」

「そうか。よろしく頼むぞ」


 引き受けて貰えるとは思っていたが、嬉しいな。


「私からも、よろしくお願いします」

「はい。奥様」


「モーガン殿おめでとうございます」

「うむ」


 家令というだけで家の中で権威だが、長男傅役ともなると長らく務めることが確定となるので、はっきり言って主人と夫人以外は逆らえる者が居なくなるそうだ。


 だが、モーガンにならば任せても良いだろう。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/12/09 誤字、細々表現見直し、語句統一

2021/01/04 賢者に就任→上席特別職に就任

2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/06 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2022/09/23 誤字訂正(ID:288175さん ありがとうございます)

2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

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