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33話 国家魔術師

ようやく風邪が治ったみたいです。インフルエンザが流行しているようですね。

皆様ご自愛下さい。

 声を掛けられて、驚いた。

 ここ数年、気配を知らずに背後に立たれたことはない。アリーを除いてではあるが。


 振り返ると、森の方にいる軍人と同じ制服を着ている。深紅のローブの上に、袖が無く、紋章の部分だけ刳り抜いた白いチュニックを重ね着している。その着用方法は、ミストリア国軍の伝統と聞いたことがある。


 6ヤーデン程の距離。

 明らかな高魔力保持者、魔術師──


「惨事級超獣※の出現場所として、森は立ち入り禁止区域になってる。知っているな!」

 アリーは僕の服の袖を握った。


「森に入る気はありません」

 まあ、背後に立つ段階で、何かしら悪意があるよな。ただ子供を追い払いたいなら、腕を振って、行けと言えば良い。


「そうか。それにしても、お前! 子供にしては魔力が高い。見た目通りの年齢か?」


 なかなか恐い表情だ。若いのに細面で眼窩が深いこの人に睨まれたら、ありもしないことまで喋ってしまいそうだ。


「それに、その魔狼(ウォーグ)は?」

「僕が、どう見えているかは分かりませんが、8歳です。それから、この子は首の登録票を見ればわかりますが、僕の従魔です」


「ふん。貴族の子供か。いけすかん」

「ペディウス! 何してる?」


 別の同じ軍服を着た魔術師がもう1人、こちらへやって来た。


「あーいや、小隊長殿。変な子供が居りましたので、確認してただけです」

「変な?」


 小隊長と言われた人は、少し年配のようだ。僕とアリーを見て、セレナを見た。


「確かに魔力上限値が高そうだな。君か? 昨日六脚巨猪(ヴァラーハ)を斃したという少年は?」

 へえ。やはり魔力上限値を気にするんだ。まあ指標としては、わかりやすいのだろうけど。


「こっ、このガキが?」

「朝礼の話を聞いてなかったのか? 従魔を連れた8歳の少年が1人で斃したと……」

「斃したのは、この2人と1頭でです。僕1人ではありません」


「ふーむ、そうか。ああ魔術師は、いつでも人材不足だ。我ら、魔術師が集うミストリア軍対超獣魔導連隊もそうだ」

「対超獣……」

深緋連隊(サカラート)とも言うが聞いたことはないかな?」


 正直に首を横に振る。

 サカラート。

 伯爵様が仰っていた”例の者達”とは、この人達か。


「小隊長殿、こんな田舎じゃ伝わってませんって」

「らしいな」

「あのう。魔術師とおっしゃると、上級魔術師の方々ですか?」

「おうよ!」

「ペディウス!」

「へーい」


「いや、我々は国家魔術師だが上級魔術師ではない」

「そうそう。この中隊には上級魔術師様はいないよ。エレガンテは、森の向こう側だよ!」

 なんか若い魔術師は、苛ついているように見える。


「エレガンテ?」

「ペディウス! 上級魔術師がいらっしゃる部隊だ。済まんが、これ以上は軍機でな。とにかく我々の調査が終わるまでは、森には近付かないでくれ給え」


「もう小隊長は子供に甘いんだから。さあ、行った! 行った!」


 ペディウスと呼ばれた人に追い立てを喰らった。

 軍に抵抗できるわけもない。


「帰るか……」

「だね!」


 村長さんに挨拶し、お父さんには館に戻る旨を告げて帰路に就く。


「ラルフェウス様ぁ!」

「ローザ姉!」


「はあぁ、やっと追い付きました」

 走ってきたのか、少し息が上がっている。


「一緒に帰ろう」

「はい」

 ローザ姉はにこやかだ。


「あれ? お母さんは?」

「ああ、まだこっちの村を手伝うって」

「へえぇ、珍しい」

「ああ、あの男の人と話し込んでたけどね」

「ふーん」


「それにしても、ラルフェウス様、昨夜はお疲れ様でした」

「ええぇ。アリーちゃんもがんばったよ」

「そうね。アリーもとってもがんばったわ。お疲れ様」

「えっ? えへへへ……」

 姉の賞賛が意外だったらしく、思いっきり照れてる。


「……普段の姿からは想像できないくらい」

「もう! 一言多いよ!」


 こんなに、楽しそうにしている姉妹も、8年前はフェイエ君と同じ境遇だったんだな。


 決心した!


「アリー、ローザ姉……」

「何でしょう?」

「何?」


「僕は、上級魔術師(アーク・ウィザード)に成る。成って超獣を斃すよ!」


 姉妹は、僕の両手を取ると、胸元に持って行った。


     † † †


 それから一月後。

 お父さんとマルタさんは、あれからも何度かインゴート村へ行っていた。

 村もなんとか落ち着いてきた。


 そして、フェイエ君との別れがあった。

 屋敷が潰れたし、それを造り直したとしても、しばらくは耕作もできないと言う状況で、成人までは20ダーデン離れた親戚の家に身を寄せることになったそうだ。

 別れの日。

 僕はバーナル君に呼ばれて、校舎裏に居ると彼が居た。


「じゃ、じゃあ、僕は用事があるから!」

 そういって言ってバーナル君は、走って戻って行ってしまった。 


「ラルフ君。僕、この学校に来るのが最後の日なんだ」

「そうなんだ」

 うすうす聞いては居たが。


「それで、今まで、避けていたんだけど……バーナル君に頼んだんだ」

「うん」

「僕、ラルフ君に謝らないと……じゃない! 謝りたいんだ。ごめんなさい」


「うん。僕もごめん」

「えっ? ラルフ君は、何も悪くない……よ」


「あの日が来るまで、超獣は遠い世界のことと思ってたんだ」

「はっ?」

「アリーのお父さんが、殺されたのに。僕の先祖も殺されたのに、明確に斃すにはどうしたら良いかって考えたことも無かった」

「いっ、いや、あんなデカい怪物、いくらラルフ君でも、あの時来てたあの赤白の人達だって……」


「もちろん、斃せない。あの時も、今でも。だけど10年後は、20年後は。そう考えなかった自分が許せない、準備を始めなかった自分が腹立たしい。だから、ごめん」

 フェイエ君が、目を白黒させている。


「あっ、うん」

「だから手始めに、上級魔術師(アーク・ウィザード)になることにした」

「そっ、そうなんだ」


 フェイエ君の手を取る。

「お互い、超獣なんかに負けない大人になろう」


「ふふふふ……ははは。ありがとう。僕を元気付けてくれたんだね」


 笑って、彼の門出を見送ることができた。


 もう一つ。

 僕の妹が無事生まれた。

 名前はソフィア。


 その赤ん坊は、最初領都で見た軽業師が連れていた猿にそっくりで、人間なのかと思ったけれど、順調に育って、とってもかわいくなってきた。


「ソフィー! お兄ちゃんだよ。つんつん」


 軽くほっぺや脇腹を突いてやると、両手をぶんぶん振って喜ぶ。


「可愛いぃなあ。こりゃあ、将来美人になるぞ!」


「……馬鹿兄」


「ん? アリーなんか言った?」

「何にも」

 何だか、つまんなそうな顔をしてる。


「そうだよね、ラルちゃん。初めての年下だもんね。可愛いよね」


 みんな、アリーは僕の妹(分)と思っているけど、4日だけ早く生まれたことを鼻に掛けているんだよなあ。

 何かというと、姉がとか、お姉ちゃんがとか。

 まあ姉は、ローザ姉だけで十分だよ。

皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


※超獣の被害分類

無害級(ハミレス):出現したが被害無し

小禍級(イビル): 被害はあるが死者なし

惨事級(ホリブル):十人以下の死者あり

災厄級(ディザスター):百人以下の死者あり

天災級(カタストロフ):千人以下の死者あり

国難級(クライシス):千人以上あるいは都市を壊滅させる以上の被害


訂正履歴

2018/02/01 チュニックの記述はおかしかったので修正

2020/03/25 後書きの天災級の説明だけ以上になっていたので以下に、国難級の説明も合わせて訂正(通りすがりの読者様、ご指摘感謝です)

2021/05/07 誤字訂正(ID:737891さんありがとうございます)


謝辞

2019/06/12

文中の軍機は軍規の誤りでは?とのご指摘を頂きました。ありがとうございます。

しかしながら、これにつきましては(上級魔術師が居る場所は)軍事機密の略の意味で使って居ますので変更無しにさせて戴きます。ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誰のせいでも無いことを自分のせいと思い背負い込む主人公はちょっと、しんどいです。それをしても別に聖人君子でも無ければ神でも無いんだから無駄に期待を背負い込んで余計最悪な事態になる。責任…
[一言] フェイエの家が屋敷だったみたいだけど、なぜ屋敷と言われるような家に住んでいたのかと思う。貴族でもなさそうやし。
[良い点] 転生ものだけど記憶がないタイプ、かつ、成長を追っていけるのが楽しくて読み進めています!おもしろいです。 [気になる点] 時々、表記揺れだったり、わかりにくい表現や言い回しがあったりする点は…
2020/03/25 14:15 通りすがりの読者
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