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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
14章 英雄期II 賢者への途編
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333話 陸軍秘密会議

定例でない会議というか、会議まで行かなくて立ち話とか、後から考えると案外重要だったりするんですよね。喫煙所とかね

 ラルフがオリヴィエイトで残務処理をしている頃、王都の陸軍内でも動きがあった。

 南街区のとある庁舎群の一角に、1台、また1台と辻馬車が着き、高級軍人が降りてくる。概ね将官、あるいは佐官だ。


 2階にある会議室に、3重に丸く席を並べ数十人が座って居るが、私語もなく重苦しい空気が部屋を圧していた。

 遠くから鐘の音が聞こえた時、正面に座って居た士官が立ち上がった。司会なのだろう。


「本日は、緊急会合にお集まり下さいまして、ありがとうございます。初めにこの会合では、後日、不測の事態を招かぬよう、議事録は作成しないことを申し上げておきます。また特定の方のお名前は出さぬよう、必要ならば階級のみで呼称願います。なお当方からは、挙手された方に大変恐縮ながら手を持って指名させて戴きますので、ご容赦願います」


 そこまで一気に喋りきると、そこで数秒待った。


「ご異議がないようなので……なんでしょう」

 議事進行を遮って恰幅の良い将官が手を挙げていた。


「あぁぁ。異議ではないが。質問がある」

「はい。お答え出来る範囲でお答え致します」


「そうか、では。この場に、参謀本部の者が見当たらないのは、なぜなのか? 経緯を教えてくれ」

 不躾な発言だが、前列の者が何人か肯いたところを見ると、共通の疑問あるいは不満だったのだろう。


「参謀本部にも然るべき出席者を求めましたが、回答がございませんでした」

「やっぱりか! この状況を招いた元凶のクセに。まあいい。ここで吊し上げても気が晴れるだけで意味がないからな。ああ、話の腰を折って悪かった。議事を進めてくれ給え」


「では、さっそく情報共有のため、魔導具が写した映像をご覧戴きます」


 壁際に居た何人かが窓のカーテンを閉めていき、議場は暗くなる。


「予め申し上げますが。音声はないため良いのですが、何度か非常に眩しい箇所がありますので、ご注意下さい」


 部屋の遮光が終わると、魔導具から光が投射され前方の壁に像が結ばれた。


 むぅ。

 何人かが唸った。

 映像は、司会の者達以外は、誰も見たことがない状況だったからだ。


「これは、空を飛んで撮影しているのか!?」


 感嘆とも、疑問とも分からぬ呟きが漏れた。

 恐ろしい程の速度だ。

 比較的大きい川の上を、流れの蛇行を無視して真っ直ぐに飛んでいる。明らかにどこに行くかが決まっていることが分かる。

 

「超獣だ!」

 川に降りる斜面に居た。その対岸には、地を這うように多くの兵が見える。

 そこにぐんぐんと近付くと、像が止まった。もう彼らに手が届きそうだ。


 そして視界が小刻みに震えた時、地上の兵達の多くがこちらを、つまり空を見上げた。


「なぜ、皆が一斉に?」

「ああ……ここに居た兵達のほとんどの証言に拠れば、空飛ぶ魔術師が自分たちに撤退せよと、命じた音声が聞こえたとのことです」


「むぅぅ……だとすれば」


 数分も経っても撤退の動きはなかった。そして。


「撃った! あれか……」

 呟いた者は、その蒼い光条が秘匿兵器だと知っていた。


「おおぉ……!」

「命中だ!」

「むぉぅ」


 響めきが起きた。

 しかし、蒼い煌めきが途絶えた時、落胆に変わっていた。


「超獣は苦しんでは居るが……」

「決定的ではないのか……」

「魔導障壁を破れていない」

「くぅ……やはり、だめか」


 皆、結果は知って居るはずだが、映像を初めて見たのだ。この反応は無理もない。


「しかし、これで、上級魔術師の命令を無視したのは、動かぬところになったな」

「だが、既にあそこまで超獣が近づいて居たのだ。命令履行は困難だろう」

「言い訳だ!」


 盛り上がり掛けた問答は、映像によって中断させられた。

「おお、火焔が!」

「むぅ」


 超獣が吐いた焔が、放たれた(アズル・)(フレッチャ)に直撃し、虚しく空中に弾けた。

 その刹那、映像が眼にも止まらぬ高機動を見せ、突如大地が迫ってくる。

 数多くの呻き声が発せられた。

 信じられぬ制動で衝突は免れたが、凶悪な火焔が襲った。そうは見えたが、実際は違った。

「これは、ラルフェウス卿が……身を挺した、のか?!」

「そういうことか」


「その通りです。証言に拠れば、魔導障壁で数百の兵を護られました」


 皆が唸った。しかし、一番反応が大きかったのは次だ。

 なぜか映像が水平に転回。目の端に蒼い光が見えてから、一気に視界が蔽うまでに膨張──


「うぅわっ!」

 皆が後ろに仰け反った。


「なんだ、これは!」

「いや、色からして蒼箭なのだろうが……」

 目の前に蒼い煌めきが生まれ、散っていくなか、響めきが起こった。


「こっ、これを受けて、ラルフェウス卿は無事だったのか?」

 誰も答えなかった。皆が、いや問うた者すら、この後、ラルフが超獣を斃したことを知って居るのだ。蒼い光が絶え、いくつもの光の輪が地に生まれ、兵達が消えた。

 しかし、それを見ても声が上がらない。

 人間、余りも信じられない光景に出くわすと、却って反応出来ないものだ。


 光の槍が超獣を大地に縫い付け、焔を天に吹き上げ、最後には凍り付いて弾け飛ぶまで会議場は静寂が支配した。


 映像が終わり議場が闇に包まれるまで、皆、唖然として固まったままだった。

 カーテンが開き陽光が射し込むと、何人も(しわぶ)きをして眉間を押さえた。


「相変わらず、恐るべき強さだ」

「超獣を子供扱いか。信じられん」

「確かに、これほどの威力、上級魔術師でなければ……惜しい」


 ダン!

 正面中央の最前列席に座って居た将官が、テーブルを叩いた。


「今は、ラルフェウス卿を褒めそやしている場合ではないだろう! 問題は、蒼箭を故意に撃ったことだ、我が陸軍がな。何の言い訳もできないではないか!」


「り、陸軍全体の責任ではなかろう! そっ、そうだ、あの一派がやったこと」

「それに撃ったのが故意か偶然か置くとしても、射線上にやって来た、ラルフェウス卿にも落ち度が……」

「数百人の兵の命を守ることが落ち度だと? 陛下が、ご覧になるのだぞ!」


 そう。

 この映像は、元々ラルフェウス卿が国家危機対策委員会に提出した魔導具に記録されたものだ。委員会の主宰たる国王陛下は、漏れなくご覧になる。それを知らぬ者はここには居ない。


「バズイットも困ったことをしてくれたものだ」

「彼の家だけで話が済めば良いが」


 いくつも、溜息が漏れた。

 王宮や政府は、長い期間を掛けて軍への締め付けを厳しくして来ている。軍閥化していたのはもう過去のことだ。しかし、今回のことで風当たりが一層強まることは間違いない。


 だが陸軍規模に留まらず、彼の一族から距離を取らねば自分の身が危ない、そういう思いが去来していない者が何人居ただろうか?

 正直対策しようがない。表立って対策する方が目を付けられて、却って危険だ。だからこそ、表向き緊急会合という名の秘密会議をやっているのだ。


「ところで……」


 一人が思い付いたように話し始める。


「人間も超獣も斃せないどころか、魔導障壁すら破れない、秘匿兵器とは何なんだ?!」

「確かにな。随分予算を掛けていたようだが?」

「期間もな。10年来の大作という触れ込みだったが?」


 現実からのささやかな逃避だったのか、僅かに関心が逸れた。


 そのとき。律儀に手を挙げた者が居た。

 挙手して司会が指すと言う仕組みは有名無実に化していたが。


「あっ、ああどうぞ」

 立ち上がった者は、軍人には見えない細身の者だ。制服も少々違っている。


「まずもって、超獣撃滅、ラルフェウス卿のご無事が確認された由。お喜び申し上げます。先程蒼箭につきまして、看過出来かねる発言がありましたので……」


 発言は意表を突いたが、怒りが他の出席者を揺り戻す。


「超獣の魔結晶を使っている割に、蒼箭の威力はさほどでもなかった。流石は研究者、皮肉が効いている」

「なるほど。その魔結晶を提供した者には、無力だったというわけだ。ふっ」


 研究者と呼ばれた者は、野次った者達に軽く視線を向けたが、表情は微笑みさえ浮かべている。

「……些か訂正させて戴きたく存じます。陸軍研究所が、オリヴィエイト駐留連隊に貸与した蒼箭は対人殺傷用に調製したものです」

「言い訳だな! 蒼箭は超獣にも効くと研究所は報告書を出していたではないか?!」


「はてさて、困りましたな。用兵家の皆様に伺いますが」

 参謀本部の出席者が居ないということは、ここに居るのは用兵家ばかりだ。


「ある国に効いた戦術が、そのまま別の国に効くなどと仰る用兵家はいらっしゃらないのではないですか?」


「用兵のなんたるかを、研究所の人間に言われるまでもない」

 凄みはあったが、反論になっていない。


「これは失礼致しました」

 よって悪びれることもなく、研究者は続けた。


「話を戻しましょう。映像をご覧になれば分かる通り、対人用調製の結果、戦果を最大化するため、魔力をできるだけ拡散させております。だからこそ、あれほどチカチカと光ったのです。超獣用に調製する場合には、魔導障壁を貫通させるよう魔力を集束させます」


「ふん! ラルフェウス卿は人間ではないのかね? 対人用に調製したと聞こえたが」


「研究所では、ラルフェウス卿をこれまでの人間の範疇で考えるべきではないと結論づけております。魔界の強度共に数値記録が残っている100年間、最高値を記録しています。彼は現時点で、最高の楯であり最高の矛と言えます。流石は次期賢者候補……おっと。皆様方の中では禁句でしたか、失礼致しました」


 そこまで言われて、皆気が付いた。

 ここで、彼と言い争っても、何の益もないことを。

 しかし、反論が起きないのを、同意が取れたと解釈したのは、研究者と呼ばれた男は満足そうに肯いて着席した。


 その後。特段の議論も発生せず、緊急会合は幕を閉じた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

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訂正履歴

2020/11/25 誤字訂正(ID:1824198さん ありがとうございます)、少々加筆

2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/06 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

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