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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
14章 英雄期II 賢者への途編
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329話 光の槍

遅くなりました。


外面如菩薩内心如夜叉と言いますが(仏教的な意味はともかく)。女性は菩薩にも夜叉にも成るってことですよねえ。

 何条もの蒼い光が、猛烈な勢いで俺を襲った


 意識は事態を飲み込めなかった。

 しかし、躯はまるで予期していたように動き、魔導障壁の魔圧を前方から後方へ変位させた。


 着弾の煌めきを見ながら、意味が分かってくる。


 魔導兵器に撃たれたのだ、背後から。

 俺を狙ったのか?

 俺は彼らを救わなかったか?


 閃光がちかちか目前で散る。

 先程の火焔に比べれば、どうということはない……ないが!

 沸々と腹腔に怒りが湧いてくる。


 やはり、この連隊には消えて貰おう。

 一時休止し掛けた魔術を、再び意識上層に持ってくる。


復唱(チェイン)並行励起(カンクゥレン)送達(オーヴィエ)】】】


 多重化された術式が、光となって眉間の奥に流れ込み、冷えていたはずの脳髄が沸騰していく。


 遙か上方から夥しい魔力が渦巻き頭頂に収束──

 燦然と光量子を放射し始めた。


 発動!


 白い光輪が、無数の花咲き乱れるごとく大地に描かれていく。いずれもその中心には兵がいる。数秒を経たずして輪が絞られて消え失せると人影も滅した。


 輪の生滅が連鎖した。


 大量の魔力を消費して魔術行使が途切れた時、陣地から兵が1人残らず消失していた。


 ひとつ肩で息をした俺は、振り返って超獣に対峙した。


「待たせたな」


 理解はしていないだろうが、俺を数多くの単眼で捉えている。

 ゆるゆると高度を上げていく。


 軍を出し抜いて、先に超獣に当たる。

 手順はともかくも。正に目指した状況──

 

 自分を偽る。怒りを突沸させぬように。


 腹に響く重低音と共に、目映い火炎が飛来した。

 当たるものか!

 数十ヤーデンも右を、虚しく通過していく。次は下、そして左と少し躱すだけで当たりはしない。


 障壁もなく直撃を受ければ、一瞬で燃え尽きるな。


 魔術焔の連射により、超獣の甲殻が赤味を帯びて靄を纏うように揺らめいている。


「焔が吐き足りないか?! ならば願いを叶えてやろう」


 右腕を空に突き上げ──


魔 晄 槍(ルーゲン・ランツァ)──】


 開いた掌に(きら)めきが生まれ、輝きを高めていく。

 握り込むと魔晄は伸びて、俺の背丈を遙かに超え、見る間に先鋭さを獲得する。


 左腕を超獣に向けると、輝く槍を投げ下ろした。

 唸りを上げて弧を描くと、超獣(キュロス)の第2節中心に突き刺さった。


 キシャッァァァアァァァアアアア!!


 大地に縫い付けられた超獣は、ジタバタと藻掻きながら薄緑の体液を吹き上げる。虫ならともかく、40ヤーデンを超すような図体では、迷惑この上ない。


 さっさとケリを付けよう。


ਗਥਚਖਸਛ(ゲェエルド) ਠਛਞਗਙ(デムス) ਅਗੳਣੲਸ(アグニス) …… ਣਝਥਨਣਡ(テスト) ਚਅਲਓਰ(カロル) ਦਰਅਈਨ(ドレン)


 10ヤーデン前方に上昇と下降気流が瞬時に生まれた。

 成功!

 後から考えれば、俺は躁となっていたのだろう。自らが編み出した魔術で。


 からの──


潜熱(カロル)剥奪(ドレン)!!】


 魔晄槍の周囲を絶え間なく稲光が走り、黄金から滑るように虹色を帯びていく。

 数秒も間があったろうか、空に向いた槍が導波管と化し、その石突きから紅色の焔が噴き出した。魔獣が接する大地が見る間に白くなっていく。


 焔は途切れず天を焦がすが、大地は凍て付いて氷柱を突き出し始めた。

 熱を移動させる術式は、恐ろしく効率が良い。


 断末魔と共に無秩序に蠢いていた超獣は、その動作を鈍らせていく。


 はぁぁぁ!

 魔圧を上げると放電光が強まり、超獣の赤黒かった結節にまで霜が侵食して白く変わっていく。

 それにつれて、焔も徐々に勢いが弱まった。


「はっははは……」

 嬌声が耳に届く。


 ここは空中。首を巡らすが、鳥すら飛んでいない。

 つまりは俺の声だ。


 やはり、真剣に戦うと俺は無意識に笑うようだ。現に気味が良い。


 が、その上機嫌も長くは続かず、白い塊はキンキンと硬質音を立てた挙げ句。弾け飛んだ。


解除(ハールト):潜熱剥奪】

【解除:魔晄槍】


 自らが行使した魔術を取り払うと、超獣の姿はなく。ただ白い黴のように霜がこびり付いた土地が見えた。その周縁は開いた坑の周りに留まらず、川の流れすら凍て付かせていた。

 少しやり過ぎたか。


 むう。

 飛び散った光量子が音もなく凝集して閃光を発した。

 眩さが収まり、翳した掌を退けた時、長大な6角錐たる紅い魔結晶が浮かんでいた。


 3つ目か。


 正気が戻ってくると、魔力消費に見合った疲労が襲ってきた。

 やはり超獣は侮れぬ。


 右手を翳して魔結晶を収納すると、少し離れた河原に降り立つ。


 さて、バルサムに、連絡しなくては。


     †


「説明は以上だ」


 ざっと500を超える兵を前して、お館様が残していった言葉に、私の推測を補足して10分ほど喋った。だが、腑に落ちたという顔が見当たらない。


 だろうな。

 いきなり斜面を転がり水に落ち、泡を食って這い上がれば、さっきまでとは異なる場所に居た。


 それは、我がお館様の魔術による現象ですなどと言って、納得する者が居れば知性を疑う。

 当然だが、目の前にいるほとんどの兵は何が起こったのか、全く理解できず、超獣はどこだと混乱していた。

 しかし、こうして彼らがやって来たのだ。事実としか言い様がない。


「あっ、あのう。騎士団の副長殿でしたか?」

 士官の一人が前に出た。


「バルサムで結構だ」

「では、バルサム殿。あの時、一瞬意識が途絶える寸前、我々の足下に白い輪が広がったのですが」

 そうだそうだと賛同の呟きが多数漏れた。


「それが、我々を運ぶための魔導陣だったと仰るのか」

 ほう、専門的だな。この士官は魔術師か?


「本職は、その輪を見てはいないが。おそらく迷宮に存在する転層陣と同様の魔術だろう」


「では、700人もの人数を、そのラルフェウス卿お一人で行使した魔術でここまで運ばれたというのを信じろと?」


 そんなに人数が居るのか! それはともかく。彼の言うことが正論だ。だが行使したのはお館様だ。常識の方が逃げ出す。


「体験されたように実際にここまで転位したわけであるし、大勢を安全かつ円滑に出現させるために、あなた方の背後にある築山を作られたのも、お館様だ」


 築山造成時、最後に頂上に撃ち込んだ魔導具を目掛けて、兵達を転位させたのだ。

 迷宮の転層陣で問題になるのは、行き先の転層陣にいつまでも人間が居座って干渉し,転送不能になることだ。お館様はそれを見越して、築山を作った。非才な私が、あの大勢をどのように転位させたのか想像だに出来ないことは当たり前としても、準備すら一分の隙すら怠らないとは。全く空恐ろしい程の主君を持ったものだ。


「なっ、なるほど。あの砂でできた小山で、我らは負傷することもなく迅速に避難……させて戴いたというわけだ」

「確かに! それ以外に考えようがない」

「その方を、我々は……」


 諍い? 右だ。


「黙れ! 何が避難か! あの魔術師は、我ら連隊の邪魔をしただけではないか!」

「なんだと!」

「ふざけるな!」


 そんな感じだったろうか……最初は口喧嘩から始まって、罵り合いに発展し、殴り合いになった。制服からして士官と下士官だ。


 トラクミルを始めとする団員と、駆け付けてきた辺境伯軍の兵が割って入って、止めた。


「何が諍いの原因のなのか?」

「それは、そのぅ……」

「第1のやつらが、我々を救ってくれた上級魔術師を背後から撃ったのだ。新兵器で!」

「黙れ! 貴様、あれは軍機だぞ! それをペラペラ……」


 喚居ていた士官の目前に、筆頭従者(ローザンヌ)が居た。

 いや、さっきまで横に居たはず。


「なっ、何をする!」

 士官服の男が持ち上がっていく。


 男の胸ぐらを両手で掴み、腕が伸び切っている。

 目を疑うが、持ち上げているのは、確かに筆頭従者だ。


 あの細い腕のどこに、あんな力があるのか?

 早朝に時々長刀の稽古をされているが……生粋魔術師の私にはできない所業だ。


「御館様を背後から撃ったのですか?」

「ひぃぃ」


 お館様の通信が入るまでの数分間、その暴挙は誰も止めることはできなかった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/11/11 少々加筆

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