328話 魔導兵器 吼える
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どういうことだ?
上空を飛ぶ、上級魔術師の指令があったにも拘わらず、連隊司令の反応がない。先程焦れて伝令を出した。
それから刻々と時間は経つが、100ヤーデン程下の陣には反応がない
やはり、あれを無視して、あくまで戦端を開くつもりか?
おっ、紅い腕章をした兵が、下から戻ってきた。
「伝令、伝令! 戻りました」
「ご苦労! 司令はなんと?」
「ただいま領都に問い合わせ中。よって作戦に変更なし。各自予定の行動を取れ」
むうぅ。
いくら、通信魔導具が配備されているからといって、一々お伺いを立てていては、対応が遅れるなど、下士官でも分かることだ。
連隊は、あの参謀長が赴任して来てから変わった。組織が腐る時は頭からというが、我が連隊もそうなのか?。
「中隊長! あの魔導師に従わねば軍法違反に……」
副官の言はもっともだ。だが第2大隊長の言葉が、頭を過ぎる。我が中隊が独自に引けば、戦列は瓦解する。
「分かっている。だが我々は、司令の命令に従う義務がある。作戦通りなら、あの陣地から発砲がある。第1射したら、すぐに駆け付けるぞ」
「「「はっ!」」」
そうこうしている内に超獣は速度上げ、対岸の地面に刺さった赤旗の列を超えた。秘匿兵器の匣、それが陽光の下でも視認出来るほど、蒼く、そして鈍く輝いていく。
魔導兵器──
あの匣から漏れ出す不気味な力場が最高潮に達した。
その刹那、匣から幾十条もの光が飛び出した。
眼に止まらぬ速さ! 蒼く弧を曳いて超獣へ飛ぶ。
一拍遅れて空気との擦過音耳に届いた
箭を放った黒い匣。
多連装魔導弩。制式名称、蒼箭
陸軍研究所開発局が作り出した秘匿兵器。
秒を待たずして蒼箭は超獣に殺到。
いくつもの魔閃光が弾け、遠雷のような爆音が轟く。
やったか?!
キシャャァァァアアアアアア!!!
ちぃ! 超獣は健在だ……いや、効いてはいる、効いてるぞ。
それが証拠に、巨大な体躯をのたうち回らせている。その度に、耳障りな凶声を上げる。
「おぉぉおおおおおお!!」
遊軍の喚声が上がる。
「第一中隊前進! 急げ!」
だが我が隊に快哉を上げる暇はない。今、撃った蒼箭の弩を再び装填させるため、この荷車をあの陣地に運び込まなければならない。
油断するな、第1射では致命傷には至っていない。
キュロスの歩みは止まるどころか、速度を上げたぞ。
荷車と並行して走りながら、陣地を見る。
何している! 匣は3つある。第2射だ! 早く撃て!
激しい動悸がと荒い息を吐きながら、陣地に到着した。
「ご苦労、装填急げ!」
そのときようやく左に離れた陣地から、射出音が響いた。再び空に蒼い光が弧を描いた。
よしっ……なんと!
轟音と共に空中が蒼く染まった。
身を揉んでいた超獣が再び焔を吹いた。その火焔が第2射を薙いだのだ。
突如魔導弾が空中で爆発したのだ。
しかし、それだけでは済まなかった。
空を焦がした火焔は、右の陣地へ向かっていく。
「総員伏せろ!」
叫びながら、地に伏す。
轟音が起きない。
硫黄のような臭いが鼻を突き、肌がひりつくように熱い。
だが炎には灼かれてはいない。
恐々顔を上げると、信じがたい光景が見えた
火焔が何かに遮られて飛び散っていた。
何秒か経ったのだろうか?
壁?
目映い焔が途切れると、金色の障壁がそこにあった。あれが、遮っていたのか?
そして、中心に白い人型が見えているのだが。
「上級魔術師だ! 上級魔術師が、焔を防いだ。防いでくれた」
誰かの叫びで我に返る。
命拾いだ、長く嘆息した。
おおぉぉぉと喚声が上がったが、一瞬後に悲鳴に変わった。
蒼箭の光が!
空に弧を曳いて、上級魔術師の背に吸い込まれるように殺到していく。
魔光が閃き、爆音が轟く。
何てことだ!
彼は友軍を護った。その友軍に背後から撃たれたのだ。
救世主を自ら害したのだ。
だが──絶望すら、突然終わりを迎える。
地面が丸く光った。
次々と白く燦めくと、輪の内に兵達が続々と包まれていく
光輪が、一際明るくなると兵が消えていた。
何だ、何が起こっている?
小官の足下も光った。
「まっ、待て!」
次の刹那、地に転がっていた。
砂地? 斜面?
思わず受け身を取ろうとしたが、頭から水に落ちた。
全くの混乱の中で、必死で藻掻くと、いつの間にか水際に居た。
次々上がる水音に振り向くと、何人もの兵達が砂の斜面を転がっていた。そして水へ落ちて、音を上げる。
はっ? はっ?
なにが起こっているのか、全く理解できない。
できないが、生存本能だろう。気が付くと巻き込まれないように岸から上がっていた。数歩歩いて、その場にへたり込む。
はっ! 超獣!
どこだ? どこに行った?
居ない。どっちを向いても姿が見えない。
はぁぁ。助かったのか?
いやいや!
あの黒煙はどうした?
硫黄が燃えるような臭気は?
ガクガクと揺れる膝に活を入れて立ち上がる。周りには何百人もの友軍兵がいた。
砂の小山の周りに、水堀のような物があった。
落ちたのは川じゃない。
その頂上に次々と人が湧き、斜面を転がってくるのだ、
「大丈夫ですか?」
「あっ、ああ」
見たこともない制服の兵だ。濡れていない。
よく見ると、同じ制服が何人か居て、我が旅団の兵を水から引き上げている。
「きっ、貴官は、どこの隊の者か?」
見ればまだ若い。
「ラングレン騎士団です」
騎士団?
「ここは、一体どこなんだ?」
† † †
飛行魔術で川を下っていくと、超獣の姿が見えた。超獣の後方で火の手が上がっている。
軍は? あれか!
川の右岸に数百ヤーデンに広がり、兵が動いている。陸軍の陣地だ。
超獣との距離、既に500ヤーデン程しかない。
【音響増厖!!】
「オリヴィエイト駐留連隊に告ぐ!!」
自分の鼓膜が痛くなる程の音量。しかし、止めるわけに行かない。
流石に気が付いたのか、兵達がこちらを見上げている。
「上級魔術師の職権に基づき命ずる。直ちに撤退せよ! 繰り返す直ちに撤退せよ!」
ジリジリと時間が過ぎる。
ちぃ。やはり言うことを聞かないか。
むぅ。
陣地内で、急速に魔圧が高まった。
なんだ、箱?
スードリが言っていた居たヤツか。
すると箱が割れるように上部が開くと、幾筋も蒼い光が飛んだ。
魔導兵器、弩か!
放物線を描き、超獣に向かう。
魔力が一気に拡散──爆発だ。
キシャャァァァアアアアアア!!!
むぅ。
超獣が、悶えるように暴れ出した。
超獣の魔導障壁は破れてはいない。寸前で阻まれた。よって、致命打にはなっていないが、それなりに効いている。
同型の箱が後2つ。
どうする?
見守るか……いや強制的に止める!
【深甚】
俺の周りから光が失われ、時が減速した。
額がチリチリと痛みを上げながら、位置を合わせ込んでいく。
相対座標算定!
数百の行列式が唸りを上げて脳内を駆け巡っていく。
刮目──
第2射か、蒼い曳光が閃いた時、それを赤黒い焔がそれを迎え撃った。
超獣が吐いた炎──
まずい!
頭が急に冷えると、無秩序にうねくる焔の帯が、数秒後にどうなるかが見えた。
超獣を弾き飛ばすか?
いや。
一気に降下しつつ、自らの魔導障壁に魔力を注ぎ込む。
地上すれすれで停止。
陸軍陣地を背負って、展開した金色の壁が、うねる炎の帯を間一髪で受け止めた。
超獣を弾き飛ばして発生する無秩序な焔より、俺は身を挺することを選んだ。
熱い!
焔は防げても、輻射熱が完全に遮断出来ていない。耐えること……実際は10秒もなかっただろう。しかし、いやに長く思えたが、ようやく途絶えた。
だがその刹那、背後が輝いた。
蒼く──
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訂正履歴
2020/11/07 くどい表現削除
2020/11/07 脱字訂正




