32話 一夜明けて
これまで、本作品で毎日1投稿を続けて参りましたが、継続が厳しい状況になりました。
つきましては、恐縮ながら、当面火木土(予備 日)の各曜日に投稿させて戴けばと存じます。
引き続き、ご精読の程よろしくお願い致します。
ううぅん……。
どこだ、ここ?
板の間、茅編みの床に寝ていた。
げっ!
横にアリーが寝てる。
「はっ! 怪我人!」
「おお! ラルフ君起きたか!」
この声は!
「はっ、伯爵様! ……あっ、あの、おはようございます」
「うむ。また会ったな……ああ、心配するな。怪我人なら我が麾下の魔術師が看ておる」
「はぁぁ。それは、よか……」
覚醒してきたら、伯爵様の横に威厳ある軍人さんが何人も居る。
げっ!
そして、俺の横には……
「おい、アリー起きろ! 起きろって!」
揺さぶる。
「よいよい、寝かしておけ。まだ日も昇るかどうかの時刻だ。そなたら2人は昨晩の殊勲者だしな」
「はあ……」
落ち着いてきて反対側を見たら、その中にお父さんも居た。
「なあ、ディラン。そなたの息子、そして家人はよくやってくれた。村人が皆感謝していたぞ」
「はっ。知らせに応じ、自ら駆け付けて頂いた御館様にも、感謝しておりました」
「そうそう! あの馬丁ヨハンだったか? そなたの馬を良いものだ、よく言うことを聞くと褒めていたぞ」
マールのことだ。僕と話をしだしてから、なんとなくだが賢くなった気はする。
「ああ、いえ……」
「それを、インゴート村民のために。自分のような下賤の者に貸してくれたと、城で泣いて喜んでおった。上司としては駆け付けねばなるまい」
「伯爵様!」
「何かな? 村長殿」
「こたびは、村の危急に多大なる物資を、ご支援頂きありがとうございます」
マヌエル村長さんは、胸に手を当てて何度も感謝を示す。
「うむ。昨夜の超獣は……詳しくは言えぬが、一昨日に他領から情報が寄せられていた。しかし、どこに出現するかまでは分からなかったのだ。済まぬな」
「いっ、いえ。そのような……」
「済まぬが。超獣を相手には領軍では歯が立たぬ。もっと大きな被害を予想しておった。が、一村で超獣は止まったゆえ、準備した物資を持って来られたと言うわけだ。だが、次もそうとは限らぬ。それに、亡くなった者は戻らぬ。対策を進めねばな」
対策と言えば……上級魔術師か。
「おお、日が昇ってきたな」
土間に暁光が射してきてる。
「では、城へ戻るとしよう。ジレッタ、後を頼むぞ。追っ付け例の者達もやってこよう」
「はっ! お任せを」
「ああ、ディラン。数日登城は不要だ、この辺りの者の為に働いてくれ。
†
明るくなって、村全体が見えてきた。
北東の森に、超獣が出てきたであろう経路が見える。十数ヤーデン程の幅で夥しい木々が悉く薙ぎ倒されている。
あそこは……照葉樹の森で、気持ちが良い場所だったのだがなあ。僕の感慨は横に置いて……
その手前には畑が一面に広がっていたが、超獣が通った痕跡が大きな溝となってる。
これは脚で立って、歩いていたわけじゃない。のたうちながら、這って、こちらつまり村の中心部に向かったと。小麦の収穫が終わっていたのが、せめてもの救いだったかも知れないが。
そしてその痕跡から、数十ヤーデンの距離は農家や倉庫であったろう建物が、全て離れる方向に倒れている。
木々が薙ぎ倒される音で、異常に気が付き、大方の住民は避難したが、一部は逃げ遅れた。村長の屋敷に運び込まれた者以外にも、不明者や死人が出ていたらしく、瓦礫を退けながら探している。僕の探査魔術は下級で、生きている者しか分からない。同じような術式を持った魔術師が探してくれている。
伯爵様の一行が半分がお帰りになったあと、方々の村人や城から兵隊さんが沢山やってきた。100人は居る。村は何時にない人の多さだ。
お陰で僕やアリーの仕事はもう残っていないようだ。
ぼうっとその様子を眺めているだけだ。
「ラルちゃん、ラルちゃん。あの人達、凄い力持ちだねえ」
「ん? ああ、背が高い人達はドワーフで、それ以外の人はホビットみたいだね」
僕達人族より数は少ないけど、とっても腕力が強い。行ったことは無いけど、この村にはその人達に集落があるって、バロックさんは言ってたな。
「あっ、バロックさんだ!」
力持ち集団のすぐ横にいて、何か指図しているようだ。恐らく今回のことを聞いてあの人たちを連れて来たのだろう。
「本当だ、ホビット? の人と話しているね」
なるほど。こういう時に手を貸してくれたとなれば、排他的な村人も、ドワーフやホビットとも馴染むだろう。
「お母さん!」
振り返るとマルタさんが居た。パンが入ったかごを持ってる。炊き出しやら、後片付けの手伝いできているようだ。
「ラルフェウス様。おはようございます」
「ああローザ姉。おはよう」
「ローザとお呼び下さい。それはともかく、こちらをどうぞ」
お盆の上に、不揃いの木の深皿がいくつも乗っていて、少し湯気が昇る入ったスープが注がれている。
「ありがと」
スプーンもないので、そのまま傾けて啜る。
「おいしい」
「ふふ。よかった」
ローザ姉の味だ、柔らかい。
「ああ、手伝いの方、あちらにも……あれ? マルタさん! マルタさんですよね?」
「あっ、えっ?」
「ボースンですよ。ほら、亡くなったラーケンさんの仲間で……」
ラーケンって、アリーとローザ姉のお父さんの名前だ。ウチのお父さんと同じ位の男の人が、マルタさんに話しかけてる。
「ああ、そうだ! ボースンさん。お久しぶりです。どうしてここへ?」
「ああぁぁ。その話をしたいのはやまやまですが、あちらで待っている人達が居ますから、まずは行きましょう」
「ああ、そうですね。ローザ行きましょう!」
「ああ、これ!」
ローザ姉に深皿を返すと、アリーと2人になった。
「お父さんの知り合いかぁ」
ボソッとアリーが言った。
アリーが生まれる少し前に亡くなった。かろうじて、ローザ姉は憶えているそうだけど。
「アリー。あっちの方へ行ってみよう」
「森? しばらくは入っちゃだめって……」
そう、伯爵様のお触れが出ている。
「森の中には入らないよ」
「じゃあ、行く」
近くで寝ていた、セレナを伴って広場から北東へ向かう
10分歩くと、完全に潰れた屋敷、今では屋敷跡になったところが見えてきた。
「ここって……」
「フェイエ君の家だ」
中に入ったことはないけど、以前に来たことがある。
納屋も母屋も、奥へ向かって、まるで突風を受けたように倒れている。瓦礫の山に人影が見える。何か探しているのか屈んでいる。
こちらを向いた顔は埃に塗れ、目の下は濡れていた。
「ラルフ君!」
こちらに歩いて来る。
「大きな大きな猪を斃したんだってね……」
僕に掴みかかった。
アリーの反応を眼で抑える。
「何で、あの蒼いのもやっつけてくれなかったんだ……ここで、ここでぇ……お父さんが、僕のお父さんが潰されたんだよぅ。どうして、どうして……」
僕の胸を、泣きながら何度か叩いた。
「フェイエェェ!!」
突然の少女が飛んできて、彼の襟首を掴んで後ろに引き倒した。
「ねっ、姉ちゃん!」
「お前恥ずかしくないのかい。男なら、誰かに守ってもらうより、自分で守りな! 父さんならそう言うだろうさ」
すげえ啖呵だ!
「大体ねえ、この人らは私の腕を治してくれたんだ。馬鹿なことしてると、承知しないよ!」
そうか、アリーが魔術で回復させたんだった。
「すみません。弟を許してやって下さい」
そう言った姉の眼も光っていた。
「いいえ。少し僕が無神経でした。亡くなった人のために、祈らせて下さい」
「はい」
下げていた頭を上げると、フェイエ君は背を見せていた。
お姉さんに目礼して、そこを立ち去る。
森との境界に近付いてきた。
誰か居る。
赤地に白で紋章が染め抜かれた服。軍人のようだ。
「おい!」
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訂正履歴
2021/05/07 誤字訂正(ID:737891さん ありがとうございます)
2022/07/09 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)
2022/10/05 誤字訂正(ID:1119008さん ありがとうございます)