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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
14章 英雄期II 賢者への途編
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325話 待ち受ける悪意

相当久しぶりに出張しました。幸い悪意は待ってませんでした。

「予定通り明日出動する、それでよろしいでしょうか? 御館様」


 公館大会議室で、出動前の最後となる幹部会議が終わろうとしていた。


「うむ」

 俺はダノンの確認に応える。

 アリーが誇らしい顔をしている。1番心配されていた、光神教団の派遣動員が明日の出動に間に合ったからだ。


 聞いたところでは、アリーとエリザ女史が頼みに行った相手、デイモス司教が尽力してくれたそうだ。

 まあ、ここ数ヶ月超獣が出現しておらず、教団の人員にゆとりがあったこともあるのだろうが。俺が頼みに行ったら同じ結果になっていたという自信は無い。


「それでは、御館様」

「うむ。皆、短い期間で、よく出動準備を整えてくれた。礼を言う。ただし、今回は我々が先任として初めての出動になる。ここには居ないが、スードリ達情報諜報班との連携が重要となる。心してくれ」


「「「はっ!」」」


「2時間後に、団員総会を開く。散会!」


 ダノンの宣言で、幹部の大部分が会議室を辞して行った。


   † † †


 翌日。3月7日

 乳母に抱かれたルークに見送られて館を出た。

 ローザは、俺の首席秘書官として同行させることにした。彼女が強く望んだからだ。


 言い訳になるが、彼女が同行しなくても済むように、俺も一応努力した。

 俺の身の周りの世話をしなければならないという、ローザの使命感を緩和するため人型ゴーレムのレプリーを改善した。ツゥラッド迷宮跡で譲り受けた(ワイズ)晶片(クオーツ)の疑似人格魔術で、俺が一々制御しなくとも従者として身の回りのことをできるようにしたのだ。


 それで、ローザの試験を受けさせたのだが。これでは旦那様を長時間任せることはできません。精々1時間ですねというのが、答えだった。


 アリーにも相談したのだが、お姉ちゃんのやりたいようにさせて上げたらと言われたし、幸いルークも良く乳母のエストに懐いて居るようなので任せることにした。

 それにより、ローザとルークが接する時間が多少なりとも増えたのは、良かったと思う。ただルークが、成長後どう思うのかまでは分からない。


 少し後ろ髪引かれる気持ちが有りつつも、都市間転送を使って、瞬く間に3千5百ダーデン(3千km強)離れたグルモア辺境伯領都オリヴィエイトに到達した。


 去年来た時は秋だったが、今の暦は春真っ盛り。既に初夏の陽気だ。

 馬車の車窓に見える、森は随分と蒼い。


 まずはスードリ達と合流した。


「報告は以上です」

「スードリ、ご苦労」


「スードリ班長。今の情報を総合すると、我ら騎士団が、超獣に近付くことすら困難と言うことか?」

「はい」

 バルサムとダノンの眉間に皺が寄る。


「その焔をもう少し具体的に教えてくれ」

「超獣キュロスが吐く焔は射程およそ200ヤーデン。その間隔は10秒に満たぬ場合があります」

 かなり特異な魔獣だな。


「焔に当たらなければ……」

「それが、焔の影響で周囲の気温がかなり上がりますので」

「うーむ」

 バルサムが額を手で覆った。


「狼狽えるな。俺の単独討伐を基本に戦術を組み立てれば良い」


「しっ、しかし、お館様。それでは……はっ! 了解です」

 バルサムは苦虫を噛み潰す面持ちだ。俺に全部託すのは不本意なのだろう。無論功名心などではなく、俺の身の安全を心配しているのだ。


「それと、もうひとつ懸念すべきことが」

 スードリが無表情に語り始めた。


     †


 その後、監察官と面談した。

 さらに遅れて、ようやく辺境伯に面談したのは、オリヴィエイト到着1時間後だ。待たされたのは当地に駐留していた陸軍と打ち合わせをしていたからと聞いた。


 城内大広間に通される。


「おおう。ラルフェウス閣下。良く来て下さった」

 セバンテス伯が歩み寄ってきた。


「お久しぶりです」

「うむ。まさか。閣下に超獣討伐依頼をすることになるとは、思いませんでした」


「あぁ。今回は大使の任務ではありませんので、閣下は……」

「ああ、そうでした。ラルフェウス卿とお呼びしましょう」

「再びお会いできて嬉しくもありますが、理由がこれでは遺憾に存じます」

「まったくです」


 セバンテス伯は、少しやつれている。


「騎士団の皆さんは既に領都を発たれたのですな」

 確か、家令のイストリだったな。


「はい。お館様と側近ならびに我らオリヴィエイト駐留組を除き、ディースへ出発しました」


 俺が答える前に、ダノンが返答した。バルサムが率いた本隊は、国家危機対策委員会の監察官達と面談後、俺とローザを残して30分前に出発した。そもそもここ(領都)では旅装を解いていない。


「真に(かたじけな)い」

「伯爵はお心易く……」


「それはそれは。だが、些か遅かったな」


 んん?

 声の主は少し離れた所、壁際に居た軍人だった。国軍の制服を身に着けている。


「貴官は?」

 近寄ってきた軍人に、ダノンが問うた。


「ミストリア陸軍オリヴィエイト駐留連隊司令部参謀長だ」


 20歳代後半の容貌。階級章は少佐。スードリが言っていた、彼が懸念点だ。


「ああバズイット家の方でしたかな……参謀長殿」

 そう。例のバズイット伯爵家の分家である男爵家出身と先程聞いた。

 知っていて、ダノンはとぼけながら周りを見遣る。


「いかにも。レミンカ・バズイットだ。連隊長は諸事繁忙につき、駐屯地にて執務しておられるが。それが何か?」

 連隊長は、中佐もしくは大佐。彼はそれに次ぐ者だ。連隊長は軍事行動の責任者、参謀長は作戦の立案と連隊長の補佐が主任務のはずだ。


「早まったとは?」

 バズイット少佐が俺の前に立つ。


「先程辺境伯殿に申し渡したように。既に、当連隊がディースから先に展開し、超獣討伐の任に就いている。はっきり言おう。邪魔をするな。騎士団とかいう者共を引き返させてくれ給え。それに10日もすれば、王都から深緋連隊(サカラート)がやってこよう。それまで領都にて縮こまっているが良い。その方が身のためだ」


「バズイット少佐。聞き捨てならぬことを仰ったな」

「ん? 貴官は?」


「超獣382-1向け派遣筆頭監察官ホグニだ」

 さっき30分ほど討論した。文官だが芯がしっかりした人物のようだ。


「ああ、委員会の者か。何用だ?」

「こと、超獣討伐に限っては、軍は超獣対策特別職の麾下に入ることになっていることをよもや忘れてはおりませんな?」


「ははは。栄光ある陸軍が、非軍人の麾下に? 馬鹿馬鹿しい! 法律が如何になっていようと、そのような前例は聞いたことがない!」

「でしょうな。ラルフェウス卿は、深緋連隊所属でない2人目の例ですからな。ですが、陸軍の軍規にも書かれていることです」


 ホグニが真顔で答えたのが、疳に障ったのだろう。少佐の額に血管が浮いている。


「ところで、辺境伯殿はどのようにお考えか?」

「はい。先程の打ち合わせで、ラルフェウス卿に委ねるように申し上げたのですが」


 辺境伯は、国防の最前線として国境付近を護る者だ。とはいえ、平和が続く中で領軍を養うのは中々厳しいものがある。だからこそ、王国が軍を駐屯させているのだ。

 領軍と国軍は連携して任に当たることになっては居るが、領主に国軍の指揮権はない。


「お聞きになりましたかな。では、ラルフェウス卿の指揮下に入って戴きましょう」


「断る。そもそも、既に作戦は始まっているのだ。それを邪魔するのであれば、当地と委員会は陸軍を敵に回すぞ」


「陸軍……あくまでも駐屯連隊が、当委員会の勧告に従わない場合は、国王陛下に報告することになりますが」

「何だと?!」


 ホグニと少佐の睨み合いが続く。


「ラルフェウス卿はどのようにお考えか?」

 セバンテス伯が水を向けてきた。辺境伯の彼としては、俺と軍が協力し合って貰いたいのだろう。


「ディースより先の地元民は、ほぼ避難が終わったと訊いている。そこまで兵を引かれよ」

「ふん! 論外だ」

「そうでなければ、普通科である兵達の命は保証できぬ」


「誰が、そのようなことを望んだか! 駐屯連隊にそのような腰抜けは居らぬわ」

「重ねて言う!」

「くどい! 文句があるのならば、参謀本部を通すのだな」

 聞く耳は持っていないようだ。


「無論、そうさせて戴きます」

 ホグニが淡々と答えた。


「狗めが!」

 少佐は喚くと、大股で大広間を出て行った。


「お館様……」

 家令(イストリ)が寄ってきた。

「ああ、申し訳ない。万一に備えて領都の避難計画を詰めることになっておりまして」

「ああ、それは重要ですな。どうぞ、そちらへ」

「私は、ラルフェウス卿を信じております。では!」


 辺境伯と家令を見送る。


「困ったものですな」

 監察官だ。


「ラルフェウス卿、先程申し上げたように王都へ報告は致しますが。参謀本部から当地に命令が帰ってくるまで、どんなに急いでも3日は掛かりましょう。さらに前線まで2日は覚悟戴かないと」


「監察官」

「なんでしょう」

「単なる推理だが、参謀長がバズイットの一族とは言え、少しやり過ぎだと思うのだが。何か成算があるのではないか?」


「うぅむ」

「さっき、陸軍を敵に回すのかと言っていたが、何か動きでも」


 監察官は長い溜息を吐いた。


「これは言うべきことではないと思いますが。確かに、ラルフェウス卿を今回先任で当地に派遣するに当たっては、委員会内で揉めたのです。特に軍選出の委員が、時期尚早であると論陣を張りましてねえ」


「つまり、軍もそう考えていると言うことか?」

「いや、無論軍の大多数は国王派です。ただ必ずしも一枚岩では有りません」


「くだらん」

「はっ?」


「俺を追い落としたいのか、軍内部の派閥争いなのか、目的かは知らないが。国軍兵の命を何だと思っているのか」

 言葉にしてみると、怒りが湧いてくる。


「あっ、ああ。仰る通りで。普通科の装備で超獣と対するなど、狂気の沙汰。今回のキュロスの特性を知ればなおさらです。少しでも被害を減らすよう、早速王都に連絡します」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/10/28 誤字訂正、細々加筆

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2022/11/26 誤字訂正(ID:1439312さん ありがとうございます)

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