323話 夢の中で(13章本編最終話)
13章の終わりです。(次話は閑話です)
そうですね。ルークが生まれ、1世代分を描いたことになるので、少し充実感があります。
と言っても、全然まだラルフも若いですからね、活躍は続きます。
さて、章区切りですので、ご感想、おまちしてお待ちしております。
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誰だ?
見渡す限り蓮華が咲き乱れる畑に、男の子が座っていた。
5歳ぐらいだろう。
明るい金髪で眼を引く容貌だ。
誰かに似ている。
男の子は蓮華を無心に摘んでは綯っている。短い指を器用に操って、何かを作っているらしい。
やがて長く紐状になると、その端同士を結びつけて輪にした。
「ここにいらっしゃいましたか」
「あっ、お兄ちゃん」
少し年嵩の少年がやって来た。鮮やかな茶髪、凛々しい顔付き。歩き方がキビキビとしている。
「……様、その呼び方はお止め下さい」
「ええ、お兄ちゃんでいいじゃない。僕のことも様なんか付けないでよ」
「奥様に叱られます」
兄弟なのか。しかし、言葉遣いが変だ。
「むう」
頬を膨らませた。
「それで、何を作っていらっしゃるんですか?」
「冠!」
そうか、冠か。なかなか可愛い物を作ったな。
「花冠ですか。中々良い出来です。奥様に差し上げるのですか?」
「うーんん」
首を振った。
「……にあげるの」
「母にですか?」
「うん」
本当の兄弟ではないらしい。
「しかし、奥様には差し上げず、母にだけ渡そうとしても受け取らないと思います」
「なんで?」
「お分かりですよね?!」
「うう……」
「奥様に差し上げましょう。きっとお喜びになります」
「嘘だ!」
「えっ」
「母様は喜ばない」
「そんなことは……」
「そうなの! 母様はこう言うよ! 花を触るなんて、女の子がやること。もっと男らしいことやりなさいって! お父様の子なのだから、立派な人間に成りなさいって!」
ブンブン首を振った男の子は涙を浮かべ、少年は項垂れた。
「僕は、本当に母様の子なのかな」
「何を仰るのですか」
「父様と……の子だったら良いのに」
なぜか名前が聞こえてこない。
「そうだったら、本当のお兄ちゃんだし」
「むぅぅ……」
「父様のことが好きなんでしょ?」
「好きなんて……尊敬しています。……って話を逸らさないで下さい」
「……が受け取ってくれないなら」
むっ──
何の前触れもなく魔圧が高まり、次の刹那。花冠が燃え上がった。
ああ、この子は。
「ああ……もったいない」
「ふんだ」
見る間に痕形もなく燃え尽きた。
「それと……外で魔術を使わないと約束されていましたよね!」
「ふん。父様が、僕の年の頃は魔獣を斃してたんだよ。僕だってできるさ!」
「はい。もちろんです。でも、約束は約束です」
†
「おはようございます」
寝室のベッドに居た。
「おはよう、ローザ」
「はい。お着替え致しましょう。旦那様」
起き上がると寝間着の前を寛げ始めた。
「どうかされました?」
「ああ……」
ローザの顔を見過ぎたようだ。
「夢を見た」
「夢! どのような夢なのです?」
「ああ、ルークが出て来た。ああ、フラガも」
「フラガもですか?」
「うむ。見渡す限りの蓮華畑に居た。何だかなあ、随分育って居て、ルークが5歳ぐらいに見えた」
「まあ、狡い! 私も見たかったですわ!」
「ははは。それは済まない。誰かにそっくりだと思ったのだが……」
「旦那様の小さい頃にそっくりだったんですね? 魔術を使っていたりしましたか?」
「そう、火焔魔術をな……なんで分かった?」
「旦那様は4歳で魔術を使って、館の窓を吹き飛ばしましたからね」
むう。
あの歳で、あそこまで制御が効いた魔術を使い熟していた。俺があの歳の頃できただろうか? 我が子ながら末恐ろし……ああいや、夢だった。
「そうだったな。まあ、なんだ。ルークには優しくしてやってくれ」
「はあ……」
†
今日は休みだ。
離れに行って、息子に対する。
何かございましたら、お声をお掛け下さいと言って、エストは次の間に下がっていった。
最近のルークは、揺り籠がお気に入りだ。
敷物を敷いた上に座り込んで揺らしてやると、涎を垂らしながら喜ぶ。
「フェ、フェーン」
ああ、今日もナディさんがくれた涎掛けをしているな。
頭を撫でてやると、目を細めた。
「良いか。ルーク。蓮華の花冠を作ったらな……2個作ってでだなあ。1個はローザ、母様にやってくれ。父と約束だぞ。頼むぞ。燃やすな、ふふん」
次の間の方をを見ると、フラガが立っていた。
手招きすると、ニパッと笑った。とてとてと小走りでやって来る。
腕を広げたが、数歩前で止まった。
笑いが消えている。
「どうした?」
「おかあさんが、だめって」
ああ、俺に失礼になるとでも言われたのだろう。
いじらしいなあ。
立ち上がって寄っていき、フラガの両脇に手を入れて俺の頭の高さまで持ちあげて、ぐるぐると回った。
あははは。流石に笑顔になった。
その後は、敷物の上に2人で座り込む。フラガはとゆっくりと揺り籠を揺らした。
「良いお兄ちゃんだな」
「あい!」
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訂正履歴
2020/10/17 誤字脱字、少々加筆
2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)




