321話 友ができるとき(上)
子供の頃はできたけど、大人に成ったらやりにくいことは、他人に心を開くことですねえ。
だから友達ができにくいんすよねえ(小生だけかな?)。
で、書いていたら、長くなってしまいました。でもキリが悪いので2つに分けて、後半は今日中に投稿します(……在庫少ないんだけど)。
バロール殿の婚約者だというナディスという人の素性が大体わかった。例の聞いていた幼馴染みの人だろう。
「ははは。大丈夫だ。ラルフは身分に拘る男ではない。それにナディ。お前もいずれ子爵夫人となる身なのだからな。それに客である、お前が座らないと、ラルフ達も座れないぞ」
「はっ、はい」
ナディスさんはようやく腰掛けた。
ふと、ローザが下の方を見ていることに気が付いた。
「ナディさん。そう呼ばせて戴きますわね。ナディさんは、働き者なのですね」
「あっ」
家事で荒れた自分の手を見られていると気付いた彼女は、あわてて膝の上から引っ込めようとした。しかし。淑やかの極みにしか見えないローザだが、その体術は俺からに見ても群を抜く。ナディさんの手を逃さぬ勢いで、それでいて優しく掴むと両手で挟み込んだ。
「あっ、あのローザンヌ奥様」
「ローザと呼んで下さい。今でこそ子爵夫人など大仰なものに収まっていますが。去年までは、私も平民。旦那様に仕えるメイドでしたのよ」
「えっ、奥様が?」
ナディさんは、バロール殿を仰ぎ見ると、彼は肯いた。
「ローザです。歳下の私が言い出すのは申し訳ありませんが、是非親しくさせて下さい」
おっ。
ナディさんの頬を、幾筋も涙が流れていく。
「こっ、こちらこそ」
バロール殿は、彼女の頭を撫でると、少し上を見上げ何かを堪えていた。
しばらくして、バロール殿が口を開いた。
「俺が、魔術の能力を買われ、故郷の領主だった子爵アンテルス家の猶子となったのは14歳の時だ。まあ、その筋ではよくある話だ。それで、王都の士官学校へ入ることになって、許婚のナディとは一時別れることになったのだ」
「まあ……」
事前に話を聞いていないローザは意外そうだ。
「そうなのだ。それから数年してナディが、農家の後添えに入ったと聞いて、私は愚かだった。ナディが俺を見限ったと思ったのだ」
「いっ、いえ。私がバロール様を裏切ってしまったのです。私がそのまま居れば、バロール様のご出世の触りになると言い含められ、浅はかにも……」
「結局、寄親の伯爵家の二女モルガン……離婚した前の妻だが、彼女を宛がうという企みに向けたアンテルス家の差し金だったのだ。俺もまんまと術中に嵌まってしまった」
ふむ。
身につまされる話だ。
俺達も強行にローザが王都に付いてくると言わなければ。
いくつか噛み合う運命の歯車が異なっていれば、目の前に居る2人のような境遇になっていたかも知れない。
「バロール殿が離婚されたのは3年前と聞いていますが……なぜ今、ご婚約となったのでしょう?」
「ああ、ナディの夫がな。去年の春に亡くなったのだ」
「それから、バロール様からお話を戴きまして、子爵様の妻になるなど、最初はお断りしたのですが……」
なるほど。流石に前夫との子を身籠もっていないかどうか確認が必要だったのだろう。
「そこを、バロール殿が魔術と同じように、手数で攻めて陥落させたと」
「あっははは……あん? ラルフは、俺を馬鹿にしていないか?」
「気の所為です」
「バロール様。お優しいのは、旦那様にだけではなく、ナディさんにもそうなのですね」
「あっ、ああ。奥方に言われると照れるな。はははは」
マーヤが、皆に茶を出してくれたので、早速喫する。
「わぁ、おいしいです。このお菓子もとても」
「確かにな」
「でも私、お茶とか淹れたことなくて」
「そうだが……うちでもメイドを雇うのだから」
「はい」
少し残念そうだ。
「ローザ」
「そうですね。ナディさんがよろしければ、私がご指南致します」
「えっ?」
「そうだ! ここの奥方は、お茶もお菓子もなかなかの腕前だった」
忘れて居なかったが口にしなかった……ですよね、バロール殿。
「はっ、はい。ぜひ、よろしくお願いします」
「まあ大袈裟ですよ」
ゆったり茶を喫する。
「はあ。では、そろそろ。我が館に来られた主旨を。バロール殿」
「いっ、いや。今日来たのは、もちろんラルフの子息誕生をだな」
「それは、そうなんでしょうけど。もう一つあるのでしょう? ご遠慮なく」
「むぅぅ。ラルフは良く気が回るが、意地悪だな」
「意外とそうなんですよ、バロール様。うふふふ」
「で?」
「ああ、そうだな。俺とナディは再来月結婚するんだが……」
「それは、おめでとうございます」
「……ああ。そのときには軍官舎を出て、家を買おうと思っているので、ここの館を見せて欲しい。是非参考にさせてくれ」
「承りました。では、息子をご紹介かたがた、館をご案内しましょう」
†
茶を喫し終わり、本館の1階にある居間、食堂、厨房、浴室を案内しつつ、離れに入った。
「こちらが、離れです」
「ここを新しく建てたのか」
俺とバロール卿は、妻達と距離を取った。
流石に俺が受け答えをすると、気が引けるらしい。
ナディさんは、ローザが案内している。彼女は手帳に何か書き付けているところは微笑ましい。
「ええ。子供を育てるには……手狭だと、家令が申しておりましたので」
「そうなのか? 逆に規模が大きいと思っていたのだが? あっちも有るのだし」
「まあ確かに。うちは事業もやって行くことになったので、思ったより広くなりました。退役されて、騎士団を構えるのでもなければ、本館位でもいけるかも知れません」
バロール殿は宮廷貴族で、領地を持って居ないからな。
「軍を辞める気はない……おっ、この床、あれだろう! 王宮の披露会で展示した」
「ええ。父が、ササンティア石をくれたので、使ってみました」
「ああ、俺にはよく分からんが。 なあ、ナディ」
「はい」
「ここは良い趣味だと思うよなあ」
「はい。素敵です」
ナディさんも肯く。
「ありがとうございます、そう言って戴けると父も喜びます。この先は客室です。部屋数は大小織り交ぜて8区画、4区画には次の間が付いています」
部屋を開けて見せる。
「ふーむ。それぞれに手洗いとシャワーが付いているのか」
「いえ、付いているのは広い方だけです。後は共用です。では2階に参りましょう。ああただ、この上には従魔が居ます。大人しいので、害はありません」
「ああ。聖獣様だな」
「聖獣様?」
「蒼白くて、でっかーい狼だ」
怖がらせるなよ。
階段を昇り、小ホールに上がってくる。
ナディさんは、恐々した足取りだ。
予めセレナには言い含めた通り、寝たふりをしていたので事なきを得た。
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訂正履歴
2010/10/14 少々加筆、語順の入れ替え
2022/02/14 誤字訂正(ID:1907347さん ありがとうございます)




