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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
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312話 乳母

中学校の頃に、おしゃれな同級生(非友人)が、近くで「私ウバ茶が好き」と言ったのを、乳母茶?と脳内変換したのは内緒です。

「エストリッドと申します」


 公館の執務室に、執事が女性を連れてきた。

 普段なら本館の応接室で応対するのだろうが、今は臨時でローザの私室になって居る。

 20歳代後半であろう。僅かにふくよかな体型。


「ご当主のラルフェウス様、奥様のローザンヌ様だ」

 ソファーに座る我々を、モーガンが紹介してくれた。


「はい。よろしくお願い致します」

「ではお掛け下さい」


 彼女も腰掛け目線が揃う。


「御館様。メイドに確認させましたが、母乳の方は良く出ます」

「そうか、それは何より」


 まあ、乳母として奨められたのだからな。とはいえ確認は重要だ。

 少し丸い顔にやや下がった眉、優しそうな表情でエストリッドは肯いた。


「小さいお子さんが居るのだな?」

 まあ母乳が出るのだから、訊くまでもないが。


「3歳になる息子が居ります。先年亡くなりました主人の忘れ形見です」

 ふむ。次に聞きたかったことを先回りしてくれた。なかなか気が回るようだ。


 未亡人だ。この家に専任して詰めて貰えることを意味している。

 事前にモーガンから聞いているが、改めて本人から訊く。


「立ち入ったことを訊いて悪いが、ご主人は?」

「はい。主人は、国軍の大尉でしたが、任務中に魔獣の群れに襲われ、事故死致しました」

 亡夫は男爵家の次男とか書いてあったが,軍人だったのか。次男であれば爵位を継ぐことはできないので職業軍人になったのだろう。その境遇で大尉は、なかなか出世だ。優秀だったのだろう。


「まあ。それは、小さなお子さんを抱えて大変だったでしょう?」

 ローザと母子の差こそ有れ、同じような境遇だ。


「奥様ありがとうございます。官舎は出ることになりましたが、義兄が良い方で。現在は嫁ぎ先のラーハ家に身を寄せておりますので、さほどは。ですが何時までもお世話になっているわけにはと思っていたところ、ダンケルクご本家のドロテア奥様よりご紹介を受けまして」


 男爵(ラーハ)家は、ダンケルク家の分家だ。


「そうか。だが、我が家に仕えるとすると、その息子さんはどうされる?」

「お生まれになるお子様が、男の子であれば……よろしければご一緒に育てさせて戴ければと存じます」

 乳母の子、所謂(いわゆる)乳兄弟が対象者の家臣になることは良くあることだ。この乳母候補も少なからず期待しているのだろう。


 こちらとしても、必ずしも悪いことではない。乳兄弟の場合、成長過程を共にすることで、子への忠義心についてはかなり期待出来るからだ。もし乳母の子が資質が見合わないと判断されれば、それなりの処遇をするだけのことだ。


「女であれば、どうする?」

 訊きたかったのはこちらの方だ。

 エストリッドの表情が一瞬強張った。


「我が子は嫁ぎ先へ預けます」


 ふむ。きっぱりと言ったな。この質問がされることを予測していたにしても、なかなかの決意だ。

 視界の端で一瞬ローザの眉根が寄ったのは、そうなるのは嫌なのだろう。

 とはいえ、娘の近くに同じような歳頃の男の子供を置くのは、如何にも外聞が良くないのだろうなあ。


 俺が仮に問題ないと言っても、周囲、例えばお袋さんが黙っていないだろう。そのことは、エストリッドが一番理解している。


「よろしいでしょうか。では…………」

 モーガンが声を掛けた。


     †


 エストリッドには別室に控えて貰い、乳母雇用の是非について話し合うことにした。


「まずはモーガンの見解を訊かせてくれ」

「はい。人物としましては、質問の受け答えもしっかりしておりました。明朗で神経質ではないと思われます。面談した結果は良好でしたので、結論としてはダンケルク家の推薦がございますし、雇用をお奨めできます」


「そうか。俺もほぼ同じ意見だ。ローザはどう思う? それが一番大事な事項だ」

「私もそうは思うのですが……」

 浮かない顔だ。


「心配なことがあるのだな」

「はい。生まれてくる子が、もし娘であったら。我が子を育てて貰う彼女と彼女の子を引き離すことになるというのは、どうも……」

 意に染まないようだ。


「それで?」

「男か女かはっきりするまで、待って貰うわけには行かないでしょうか?」


「それは、難しいでしょうな……」

 モーガンがきっぱりと答える。


「そうだな。ローザが子の性別を思い悩むのは看過できぬ」

 ローザは応接室で見せた時より、残念そうな顔をした。


「では、お断りなさいますか?」

「いや、少し待て」


 俺は、身体ごとローザに向き直った。


「ローザ」

「はい」

「子は授かり物だ。だから敬意を表して、どんな子か探ることはしなかった。だが、視ても良いか?」

 霊格値が恐ろしく高いことは、探るまでもなく感じ取れた。それゆえに遠慮していたこともある。


「旦那様に掛かれば、男か女か分かるのですか?」

「多分な」


 ローザを悩ませるよりは、今確定した方が良い。


「わかりました。お願い致します」

 即答か。


 まずは、受動感知から。

 意識を掌に持っていくと、暖かくなってきた。


「行くぞ」

 ローザが微笑みながら瞼を閉ざした。


 腕を伸ばし、ローザの腹を触った。

 ほう……。


 脳裏にはっきりとした像が浮かんだ。


 燦然たる光に中に、人の形が立ち上がる。


 ────ルーグ


 光の神の異名か──

 手を離すと、眼の中に満ちた輝きが失せた。


「おとこ」

 ローザが、眼を見開いた


「息子だ。ローザ達の言った通りだったな。判断はローザに委ねる」


 妻は晴れやかな顔で肯いた。


「モーガン。エストリッドさんを雇用します」

「畏まりました。奥様」

 モーガンは、胸に手を当てて恭しくお辞儀した。


     †


 執務室にエストリッド再び呼び寄せると、執事に続いて少し強張った表情で入って来た。


「エストリッドさん。御館様また奥様と相談の結果、あなたを乳母として雇うことにしました」

 モーガンが宣言した。


「ありがとうございます。よろしくお願い致します」

 エストリッドは胸に手を当て、跪礼した。


「では、これより御館様、奥様とお呼びするように。ちなみに、側室として、アリシア様がいらっしゃるので、お二人がご同席されている場合は、こちらをローザンヌ奥様、後日ご紹介するであろう御方をアリシア奥様とお呼びするように」


「分かりました。それでは私のことは、エストとお呼び下さい。それであのう。何時こちらの御館に参ればよろしいでしょうか」


「エスト」

「はい。御館様」


「できるだけ早くだ。庭の西側に、生まれてくる息子が過ごす離れを今月中には建てる予定だ。そこに子供共々住むように。それまでは、寮が空いているので一旦そこに住むと良い」


「承りました……えっ、あのう。今、息子様と仰いましたか?」

「ああ、息子だ。間違いない」

「はい」


 何度か瞬いた。


「では、モーガンとこれからのことを良く打ち合わせるように」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2020/09/12 モーガンによるラルフの呼び方訂正(旦那様→御館様)

2025/05/06 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

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