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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
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311話 誹謗と盾

思いも寄らず庇ってくれる人が居る時有りますよね。ありがたいことです。

「ラルフェウス・ラングレンにございます」


 ここが御座の間か。

 王宮に参内すると、洗練されては居るが華美という概念からは程遠い部屋に通された。

 広さも5ヤーデン角ほど。

 片膝を付いて跪礼した。


「ははは……あまりにも質素で、驚いたか?」

「ああ、いいえ」


 まあ、その通りだ。王宮の中を歩いてきたのにもかかわらず、国王の部屋とは思えない。御座の間なのだから、普段執務をされる場所だろう。


 アストラに後から聞いた話しでは、侍従や閣僚以外の人間が立ち入ることは余り例がないそうだ。


「それはともかくラルフェウス卿。この度の出動、ご苦労であった」

「はっ!」


「まあ、こちらに座り給え」

「はい」

 会釈してソファーに腰掛ける。


「今日は一度参内して帰ったのに、再び来て貰って済まぬな」

 式典の折りに見る陛下は謹厳だが、対面の場では人懐こい。こういうところはスワレス伯爵様に似ている。人心収攬術かも知れない。


「ああ、いえ」

「委員会から会うのを止められていたのでな」

「止められていた……」


「ははは……ルタールを知っておろう」

 肯く。この前の監察官だ。


 陛下が顎を(しゃく)ると、侍従が新聞を取り出し、俺の目の前に置いた


「委員会でこの記事が問題になったそうだが、ルタールが卿を庇って一席ぶったそうだぞ」

「はぁ……」


 むぅ。

 俺の記事が紙面にあった。ラングレン子爵、大いなる無駄でテンギル伯爵領領民を危険に陥れると見出しに書いてある。


 なるほど。

 今回の魔獣駆除出動の審査会で、新聞記事を元に俺を批判する意見が出たのだろう。その結論が出る前に陛下が認めてしまうと、その配下たる委員会が俺を追及できなくなるからな。それで、謁見を見合わせたということか。


 ざっと見て内容を記憶する。

 出版元は、大スパイラス新聞か。大袈裟な社名だ。


「聞いたことのない新聞社ですが」

「朕も今日まで知らなかったが。どうなのか?」

「はっ! 主に貴族や有力者の醜聞を専門に載せる不定期刊の新聞社です。ですが、今日の分につきましては、万を超える部数が売れていると聞いております」

 侍従が答えてくれた。


「それで記事に関して、どう思うか」


「さて、無駄か否かは価値観により変わりますゆえ、評価する者次第ですな。そもそも光神教でさえ人間が魔獣を狩ってはならぬという宗派もあります」


「卿は冷めて居るな」

「それゆえ、信じるところに遵って、全力を尽くすことが肝要と存じます」


「ははは。卿らしい物言いだ。それで、結果だが。ルタールは、数百ヤーデンに渡って壁を魔術で築いても、卿が汗一つ掻かなかったと申してな。現地住民の生命財産を守るため、ラルフェウス卿にとっては造作も無かった。つまり、的外れな記事であると断言したそうだ。担当監察官がこれほど強弁するのであればと他の委員も押され、任務は適正に完了したと結論づけた」

「ありがたいことです」

 彼に何か礼をしたところだが、相手が監察官ではそうも行かない。


「ふむ。それにしてもこの記事。疑似魔獣発生魔導器は機密ゆえ、市井には公開されないところを突く辺りが巧妙だ。背後に何者かが居そうだな」


「はっ! 確かにテンギル伯爵領から記事の元となる情報を伝達し、本日発行するには些か早過ぎる様に感じます」

「つまり、都市間転送の仕組みを使える貴族が付いていると申すのだな?」

「ご明察の通りかと」


「そうか。では黒衣の者に調査を命じよ!」

 黒衣連隊(ノアレス)か、中佐のところだな。


 はっと答えて、さっき新聞を差し出した侍従が下がっていった。

 機を図っていたのか、ここで別の侍従がお茶が出してくれた。 


「さて、その件は、よしとして本題だ」

 んん、今まで話は本題では無かったのか。


「はい」

「近々子息が生まれると聞いたが」

 背中に冷たいものが走る。


「男か女かまでは存じませんが、来年2月に生まれてくる予定です」


「そうか、それはめでたいな」

「ありがたく存じます」

 さて、何を仰るのだ?


「ラルフェウス卿」

 横から声が掛かった。見覚えがあるこの男は侍従長だ。式典の折りによく陛下の傍らに居る。


「なんでしょう?」

「陛下は、御年2歳の第7王女クリスティナ様と、生まれ来る貴殿の子息との婚約をご所望である」


 はっ?

 動揺して侍従と陛下の表情を窺う。が、冗談ではなさそうだ。余計に意味が分からない。


「とはいえ、先程申し上げた通り……」

「もし娘であったら、第5王子エンツォの妃という方法もある」


 方法もある?

 …………婚姻は目的ではなく手段か。


「気付いたようだな。これは方便だ」

「はぁ」


「卿がダンケルクとファフニールから配偶者を娶ったのは賢明であった。卿に対する縁組み攻勢は二の足を踏まざるを得ないからな。しかし、貴族というのは執念深い者だ」

「矛先が生まれ来る子に向くということですか」

 話が少し見えてきた。


「その通りだ、生まれたことが知れれば、日を置かず婚姻申し込みが殺到するであろう。子爵というのは手頃だからな」


「そういうものですか」

「はっははは……。よくできた家令が付いているとは聞いたが、興味なしか。相変わらず面白いやつだ。まあ卿は貴族制などに毒されぬ方が良いが。あっははは……」

 何が面白いのかよく分からないが。


「陛下」

 侍従が窘めてくれた。

「ああ。すまん。話を進めてくれ」


「子爵様のお子様がご誕生の暁には、陛下が婚約を所望されているという流言を王宮より発します」


「流言ですか」

 ふぅぅ……方便とはそう言うことか。そう思った時、渋い表情の侍従が一瞬口角を上げた。


「はい。ある程度、噂が行き渡った時期を見計らい、使者を差し向けます。そして、再び遂に申し入れをしたと流言を発します」


「嗅ぎ付けた貴族共は卿を質すであろう。その折りに卿は否定すれば良かろう、本当にないのだからな。否定しながら思わせぶりに笑えば、勝手に裏を勘繰る。貴族とは、そういう生き物だ」


 つまり、そういった有象無象の貴族からの風除けを陛下が買ってくれると言うことだ。如何に執念深い貴族も、競争相手が王家となれば対抗心を燃やせないだろうしな。


 俺の保護と言うこともあるだろうが、貴族達が競い合う状況も好ましくはないということか。


「承りました。よろしくお願い致します」

 


     †


「お帰りなさいませ」

 夕方、本館の玄関に戻ると、モーガンとローザが出迎えてくれた。


「ああ。義母上はお帰りになったようだな」

 魔感応に反応がない。


「はい。30分程前までいらっしゃったのですが、お帰りになりました」

「そうか。悪いことをしたな」


 そのまま、執務室に入って話をする。


「やはり、この件でしたか」

 モーガンが新聞の記事を指差した。王宮御座の間で見せて貰った大スパイラス新聞だ。


「うむ。これは?」

「はい。ウォルテさん、救護班の助祭が持って来てくれたのです」

「そうか。アリーは見たのか?」

「はい。食堂で、やけ酒を飲んでおります」


 ほう。

「新聞社に押し掛けんばかり怒りまして、館を飛び出そうとしたのですが……」


 むぅ。


「幸い、モーガンが明日の新聞も楽しみですなと申しまして」

「思い留まったか」

「はい」

 光景が目に浮かぶ。


「そうか」


 ん? ローザが俺の顔……いや、もう少し後方を見ている。


「光背が焔のよう」

 

 怒りが星幽(アストラル)を揺らがせていた。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya



訂正履歴

2020/09/09 脱字,少々加筆

2020/09/16 誤字訂正(ID:1797755さん たくさんありがとうございます)

2022/08/06 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

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