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天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
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310話 孫とは可愛いものらしい

うーん。孫ができたとなると、夫婦双方の親たちが張り合おうとするのは何なんですかねえ。

乳母(めのと)!? 乳母ですか、義母上」


 王都に戻った翌日。王宮に参内して委員会に報告と証拠品である魔導器の引き渡しをして帰ってくると、ダンケルクの義母が館で待っていた。

 現在、居間で応対中だ。応接室は臨時でローザの部屋になっているからな。


 足がお悪いのにそれを押して、何の用で来られたかと思っていれば、乳母の件が本題のようだ。


「そろそろ準備が必要ですよ。婿殿も(れっき)とした貴族。よもや乳母を置かないつもりではありませんよね」


 子は親が育てる。

 動物のほとんどはそうだ。だから、真っ当なことなのだろう。


 だが貴族社会は違う。

 男爵以上の貴族の子女は、乳母と呼ぶ使用人や、(もり)役という家臣が育てる場合がほとんどだ。


 違和感を感じている俺自身も、事情があったとはいえマルタさんという乳母が居たし、ローザと親子ぐるみで育てて貰った感がある。お袋さんも丸投げではなく、育児はしてくれたが。


「はあ。まあ……」

「まあでは困りますよ。大事な孫のことなのですから」


 確かにローザは猶子(ゆうし)なのだから、俺とローザの子はこの義母の孫だ。血の繋がりはないが。とはいえ、この義母からの斡旋は意外だった。

 それに……。


「お言葉を返すようですが。生まれてくる子が、まだ男なのか女なのか分かりませんし……」

「まあ! ローザさんからは、男子と訊いておりますよ。ルイーザ(お袋)殿もアリーさんもそうだと言っていたのではないですか?」


 確かにエルメーダに行った時には、そう言う話になった。しかし、まだ生まれてもいない子の性別だ。


「いずれにしても、婿殿は男であればモーガンを傅役に付けるご所存とローザさんから伺っております。あとは乳母です」


 その件は、ローザに以前話した通りだ。

 俺は宮廷貴族(注)だから家令を傅役にするのは一般的だし、短い付き合いだがモーガンには全幅の信頼を置いている。それに男子誕生の折に頼めば、彼は引き受けてくれると確信している。

 ちなみに子が女だった場合は、そもそも傅役は置かず教育係を置くに留めるのが一般的だ。


「ですが、乳母についてはどうなっているか、モーガンから訊いておりません。最早産み月まで3ヶ月余り、早産という可能性もあるのですから。決めておくに()くはありません」


 反論の余地はない。


「ローザは、どう思う?」

 とはいえ。ソファーの横で座る、妻にも訊いてみなければな。


「義母上のお言葉通りかと存じます。私は、旦那様の秘書の職と身の回りのお世話で忙しく致しますので、育児に割ける時間は少ないでしょう。よって、優秀な乳母が必要になって参ります」


 うぅむ。

 ローザは、自分が率先して育児をする気はないようだ。

 そもそも身籠もったと知ってから、ローザはかなり悩んでいたようだ。その証拠に一時食が細った。俺の秘書を休止しなければならないことが嫌だったようだ。


 以前、ローザは子供が好きではないのかと、今思えば無神経な質問をした。ローザは小首を傾げて普通かと思いますと返してきた。


 いやいや、自分が幼かったにも拘わらず、俺をちゃんと育ててくれたじゃないかと訊き返すと、旦那様を子供などと思ったことはありません、少なくとも洗礼された後はときっぱり答えた。


 確かに自分自身早熟だと思う。

 育ったシュテルンの隣村に超獣が現れた8歳の時に上級魔術師をはっきりと志し、それ以降は早く成人したいと思って来た。

 しかし、ローザはそれより遙か前、洗礼の後は幼児の俺を大人として扱った。俺を育てたとか世話を焼いたではなく、彼女にとっては仕えていたいう認識なのだ。


 そうか。

 俺と、俺の子供では違うのかと思い知ると、どうすれば良いかと不安になった。

 このままずっとローザの食が細っていったらと。何歩か譲って身体的には魔術でなんとでもなるが。


 その時はプロモスに行かねばならなかったし、焦っていたのが顔に出ていたのだろう。見かねたらしく意外にも側室になったばかりの、アリーが助言をくれた。


 (ローザ)は、何かの例えではなく俺のことを天使か神の生まれ変わりと崇めている。

 だから、自分の存在意義は、俺の役に立つ人材かどうかだけしか見ていない。


 まあ、そういう節は感じていた。

 だからこそ、どう対策するかが分からないと訴えると、アリーは呆れたと言う顔をしながら、対策は簡単だ! そう断言した。


 まずは、ローザが身籠もって嬉しいと大いに喜べ。

 そして、姉を賞賛せよ!

 子供を産むのは、とても俺のためになる、俺にとって嬉しいことだと姉に言って聞かせろと。


 いやいや。

 嬉しがったし、礼も言ったと反論した。が、一拍も置かずして厳しい応手が飛んできた。


 全然足りてない。

 旦那様は少し困惑していた。

 でも優しいから、姉を労る気持ちで言葉を紡いだに過ぎない。

 私でも分かったのに、姉がそれを見抜けないとでも思っているのか!


 そうだったかも知れない。

 正直15歳で子供を作ってしまったかと思ったしな。

 反省してアリーに感謝したところ、対象が違うと叱られてしまった。


 アリーの勧めに順い、ローザに切々と言って聞かせた。

 すると眼に見えてローザの食欲が改善したのだ。ようやく身籠もったことを誇りに思えるようになったらしい。


 ただ、後日。

『最近お姉ちゃんが、旦那様の子を産むことは崇高な任務と言ってたけど。大丈夫かな……』

 任務──

 最良ではないが、前向きだから悪くないと高を括っていたのだが。


「それで良いのか?」

「はい。旦那様の子ですから、大丈夫だと思います」

 どう大丈夫なのだろうか?

 義母上が帰られてからゆっくり問い詰めよう。


「婿殿には差し出がましいかと思いましたが、内々にラーハ家に話をしております」

「ラーハ家……」

 ダンケルク家分家の男爵家だったな。


 義母上は肯いて続ける。

「もちろん乳母を決めるのは無論婿殿です。お気に召すかどうか、面接して戴きたく存じます」

「はい」


「では、明後日の休日はいかがですか? こちらに伺わせますが」

 早いな。


 まあダンケルクの義母としては、ファフニールの義母と殊更競う気はないだろうが……いやまあ、少しはあるかな。

 例えば。

 生まれてくる子が男ならば長男という利はあるとしても、将来アリーも男子を出産した場合、ファフニール家がごり押しして来ると怪しくなるのではないか?

 例えば、そういった潜在的な不安だ。ファフニール家は、侯爵で大身だ。その必要性は考えにくいが。


 義母上としては、そうならないように少しでも孫の立場を強化したいと考えるのは自然なことだ、悪いこととは言えない。


「承りました。モーガンも同席させますが、よろしいですかな」

 俺などより、人を見る目が確かだからな。


「もちろんです」


 むっ!

 廊下の向こう……何か起きたようだ。


「話は変わりますが、館をどうされるのです? 今日来てみれば、その廊下の部分を工事しているようですが」


「ああ、あれは。昇降魔導具(リフテン)を設置しました」

 食堂から廊下を挟み、庭側に小さく張り出させて造った。


「リフテン……とは?」


「ミストリアでは見掛けたことはありませんが、プロモスの王宮に有った魔導具です。それを再現しました。具体的には箱状の籠という人が乗る部分が魔石の力で昇降して、階段を昇ることなく階層を行き来できるようにする物です」


「ほう、それは」

「私が昇降に難儀しているだろうと、旦那様が造ってくれたのです」

「今は1階である応接間に家具を運び込み、そこでローザに寝起きさせております。ただ2階にも来たいと申しますので」

 階段を行き来させる場合はメイドを2人以上付けるように申し渡しているが、気軽に行ける方が良いからな。

 ローザの部屋と1階を亜空間で繋げることも考えたが、1階は客も来るので防犯上芳しくない。


「それは良いですね。何か孫のためには?」


 義母上としては、孫の育成環境が気になっているのだろう。あとは……。


「他には、西南の角に離れを設けます」

 本館も手狭になったからな。

 敷地は離れの設置で半分程度埋まるが、公館の方にまだ土地はある。役所に確認したが、王都の条例に引っ掛かることはない。


「離れですか?」

「ええ。子供を育てる場所です。ああ、既に手配しておりますが、別の場所で建てて運び、本館と繋げる工事を致します」


 ふむ。既に手配してと言ったところで、少し残念そうにしたな。


 やはり、義母上としては、何か援助したかった様子だ。

 爵位も同じ子爵に成ったのだ。援助ばかりすれば俺の面子を潰すことになりかねない。だが、孫のためとなれば名分が立つ。


 が、既に人材の面で協力戴いているからな。自分でやれることはやらなければだめだ。


 来たか。

 ノックがあり扉が開いた。モーガンだ。


「失礼致します」

「どうした?」


「申し上げます。王宮から急使が参りまして、御館様に急ぎ参内するようにとのことです」


 ふむ。この席に割り込んでくるのだ、それ以外の理由は無いだろう。

 呼び出したのは、間違いなく国王陛下だろう。今日はお時間が取れないとのことで、お目に掛かっていない。


「義母上、お訊きの通りです。申し訳ありませんが、行かねばなりません」

「ええ、それはもう……」

「それでは、失礼致します。ああ、折角お出でになったのですから、ローザとゆっくり話でもして行って下さい」


 会釈して応接室を辞すると、急ぎ着替えて参内した。




(注)

 ミストリア王国の貴族は大きく分けて、封地(領地)を与えられる位封貴族と、歳費を与えられる位禄貴族、封禄のいずれも与えられない名誉貴族、准男爵がある(士爵、名誉士爵は、平民であり貴族ではない)。

 また別の分け方として、国王の直臣を直参貴族、貴族の一族や家臣に与えられる爵位持ちを陪臣貴族という分け方もある。


 そこで、宮廷貴族だが。よく使われる言葉ではあるが、実際のところ非公式かつ曖昧な定義にすぎない。最大公約数としては王都在住が必要条件で、概ね位禄貴族と名誉貴族のうち宮廷に参内出来る者を指す。ただし、位封貴族でも宮廷内での公職を持ち、王都に在住(封地は家臣が統治)する者を含める場合もある。


 ちなみに傅役だが。領主に子供が生まれた場合、嫡男には有力な陪臣を傅役に付け家内の多数派を形成するというのが常道。ただし、次男以降はなかなか難しい課題となる。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

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訂正履歴

2020/09/05 誤字、少々加筆

2020/09/15 ラルフの口調を変更(ID:1797755さん ありがとうございます)

2020/09/16 誤字訂正(ID:1797755さん たくさんありがとうございます)

2021/09/11 誤字訂正

2022/01/31 誤字訂正(ID:1897697さん ありがとうございます)

2022/08/06 誤字訂正(ID:1346548さん ありがとうございます)

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

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