表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天界バイトで全言語能力ゲットした俺最強!  作者: 新田 勇弥
13章 英雄期I 血脈相承編
315/472

304話 ラルフ 魔術で黙らせる

恐縮ながら、投稿を連休進行に致します。次回投稿は8月16日の予定です。

「ほう……」


 野の端から放たれた魔晄は、何条も何条も広々とした地を縦断していき、一瞬にして千を超す魔獣を屠った。


 流石は電光(ブリッツ)の異名に相応しい。


 魔獣共の進行は押し留めた。だが、殲滅には至らない。斃した魔獣はざっと見える範囲の2割といったところか。

 その後、喚声が上がり、魔力としては数段落ちるが数多くの魔術が発動した。


     †


「ラルフェウス・ラングレン殿、ご着到!」

 俺を呼び込む声がして、幔幕の中に入ると顔馴染みが居た。


「おお、ラルフ来たか。早いな」

 バロール卿が、ローブの上を脱いで汗を拭いていた。


 幔幕の周りには、特務典雅部隊(エレガンテ)第2隊の、紅く揃った制服を纏った魔術師達がならび、折り畳み椅子に、もう2人の上級魔術師が座って居る


「はっ! 綸旨(りんじ)(したが)い、ただいま到着致しました」

 片脚を引いて略礼する。


「ん? どうした? いやに堅苦しいな。ああ、そうか。この2人だな。紹介しよう、左が11番隊隊長カストル・ローリンズ大尉、右が16番隊隊長……ああ、ダイナス中尉の方は同期だったな」

 そう、俺と同じ日に上級魔術師に成った男だ。


「はっ!」

 2人にも略礼すると、彼らも立ち上がって略礼を返してきた。

「カストル卿。初めて御意を得ます。よろしくお願いします」

 20歳代前半のやはり背が高く痩せた男だ。口髭を生やしている。


「これは痛み入る、子爵殿。我ら男爵風情に随分丁寧ですな」


 嫌みだな。

慇懃(いんぎん)な態度だが、不快な表情を隠さない。

 軍人は、階級に従うが爵位を重視しない。それに、子爵が超獣との戦功で陞爵したものなら誇りもするが、大使、外交官としての功績だからな。


「いえ。カストル卿は上級魔術師として先任ゆえ」

「恐縮ですな。ところで兵……ではなく、騎士団でしたかな。とにかく麾下は、その従者1人ですか?」

 訝しむ顔だ。その向こうでバロール卿が笑いをかみ殺している。

 この従者がゴーレムと分かっているのだろう。


「我らの任地は、監察官よりシャムガル村と伺いましたので、騎士団はそちらに直行させております」


「なんだと!」

 突如、カストル卿の口調が切り替わり、声の凄みが増す。


「僭越であろう! 少佐の指示も無く、勝手に兵を進めるとは軍律を……」

「黙れ、カストル!」


 バロール卿が一喝した。

 ほう。表情には怒気を感じないが、結構な迫力だ、背後に並んで居る魔術師連が、たじろいでいる。


「はっ! しかし……賢者に対し、礼を失して……」

「黙れと言った」


 その圧力で、前傾していたカストル卿の居住まいを戻させた。


上級(アーク・)魔術師(ウィザード)の出動は軍の活動ではない。そもそもラルフは軍人ですらないのだからな。監察官の指示に従うのが至当だ。それに、ここに本人が出頭しているではないか」


 そういうことだ。

 賢者は、魔術師の格付けであって、魔獣対策専門職の上役ではない。まあ一緒に出動すれば責任者を任じられるし、敬意を表するのが慣例だからこうしてやって来ている。


 カストル卿の顔が紅くなり、口を引き結んでいる。


「不服そうだな」

「いっ、いえ」

「卿はラルフが礼を失していると言ったが、私に言わせれば貴官の方が礼を失しているぞ。なぜ、ラルフ達が出動することになったか、考えれば分かることだ」

「はっ! 申し訳ありません」


 先に出動していたのは、カストル卿とダイナス卿だ。彼らが順調に魔獣を抑え込んでいれば、出動することはなかった。不手際がなかったにしても、あの魔獣の数だ。おそらく厳しいだろう。


 カストル卿は項垂れたが、代わりに彼らの部下達であろう魔術師達の視線が突き刺さってくるな。バロール卿もそちらを見遣って軽く首を振った。


「少佐!」

「何か?」

 呼んだのは今まで黙っていたダイナス卿だ。


「確かに、少佐と2番隊に後詰めを戴かざるを得ない状況に陥ったのは我らの手落ち。恐懼するところではあります。が、日頃仰っている次に賢者となる者は、ラルフェウス卿! これについては、未だ納得がいくところにはありません」


 おいおい。そんなこと言い触らしているのか! バロール卿。


 買って貰うのは光栄だが。そこまで行けば、ありがた迷惑だ。

 聞かされる方にとってみれば、若造の非軍人が上級魔術師になっただけでも業腹であろうに、賢者に成るとか賞されれば反感しか生まないぞ。


「はぁぁ。ラルフ」

「はい」

「俺は立場上、貴公の実力を知っている、為人(ひととなり)もな。だが、他の者はラルフのことを知らぬ」


 だろうな。

 俺のことは、国王陛下のお気に入りとか、あるいは新聞に書かれるように大貴族に取り入る女誑しぐらいに思っているだろう。


「それにだ。ここに揃っている者は、士官学校でも選りすぐりの魔術師達だ。戦闘魔術師なんて者は、皆我が我がってな、自尊心がローブを着て歩いて居るような者だ。逆に、そうでなければやってはいけぬ」


 確かにそうだ。自分を信じなければ、魔術を使って戦いなどはできない。


「結局、その目でラルフの力を見なければ納得しないやつらと言うことだ」

 いやいや。あんたが火に油を注いでるだろう。逆に面白がっている嫌いさえある。


「それで、私は何をすればよろしいので?」

「ふふふ。相変わらず察しがいいな」

 いや、誰でも分かるだろう。


「さっき、空から俺の魔術行使を見て居たろう」

 流石だな、気付いていたのか。


「そのお返しに、ラルフの魔術を、皆に見せてやれ。折角だから派手なやつをな」

 はあ。やっぱりか。

 賢者殿はニヤついている。自分が見たいんだろ?

 


「承りました」


「ん? おお、ちょうどいい」

 カストル卿とダイナス卿が怪訝な顔をした。

 

 呟いたバロール卿は、手早くシャツを替えて、従者のトゥニングにローブを羽織らせて貰って立ち上がった。幕を捲って外に出て行く。2人の上級魔術師が俺を睨みながら、それに続く。


 ちょっとした段があって、平原が見渡せる舞台のような場所に出た。

 ふむ。さっきはここからあの魔術を撃ったのだろう、微かに空気が電離した焦臭さがが鼻腔を刺激してきた。


 さっきの魔術の競演が、近辺に居た魔獣を大方屠ったのだろう。数百ヤーデンはまばらだ。しかし、バロール卿は、左の方を見ている。


 やはり、あれを察知していたんだな。その視線の先に突如土煙が上がった。

 遠雷のように地響きが轟きながら、数百頭ほどの塊が躍り出てきた。


「あれをなんとかしてくれ!」

「はっ!」


      †


 並み居る魔術師に続き、小官も幔幕を出た。

 どうやらラルフェウス卿の魔術を見ることができるようだ。敬愛する賢者バロール少佐が皆へ魔術を見せてやれと仰り、彼がそれに応えたのだ。


 彼。ラルフェウス卿は、小官が不合格となった今年の上級魔術師試験に合格した。

 当然、軍に入り、特務典雅部隊(エレガンテ)の一隊を率いることになると思っていたが、そうはならず。自身で騎士団を創ったと聞いた時は驚いたものだ。

 それがあれよあれよという間に、2体の超獣を撃滅してしまった。


 先程、11番隊隊長が彼に突っかかっていったが、気持ちは良くわかる。それほど魔術師にとって彼は羨望の対象なのだ。その魔術が見られると思うと興奮する。少佐に感謝だ。


 しかし、どうするのだ?

 先程の大規模な魔術行使で、近くに大した数の魔獣は居ない。そう呑気に思っていたら、戦慄が走った。多くの魔獣集団が、突然現れたのだ。


『おお、ちょうどよい』

 少佐の言葉を思い出し、背筋を冷たいものが駆け上がる。幔幕の中に居て、この魔獣の群れを感知していたのか。

 流石は少佐!

 いや。それは彼もか。ラルフェウス卿も動揺したところが無い。


「あれをなんとかしてくれ!」

「はっ!」


 彼は事もなげに答えた。

 待て待て。彼我の距離は300ヤーデン程。

 疾走して来る魔獣達は、瞬く間にここへ殺到するぞ!

 小官含め、周りに立った魔術師は身を固くしたのがわかる。


 魔術発動には、魔圧を上げる精神集中が必要だ!

 もう間に合わない──電 光(ブリッツ・デ)バロール以外には


 なんだ?

 ラルフェウス卿の身体が眸と明るくなり、頭上に眩い何かが渦巻いた。


 あれは……霊光冠(クワルナフ)というやつでは。

 

 我が故郷。

 光神教会の天井画に描かれた、聖者や天使の頭上で輝いていた。

 光の輪。


 は?


 魔界強度が信じがたい勢いで屹立していく。

 その現実離れした力場の中で、彼は緩やかに動いた。

 そう。

 右手を胸の高さまで持ち上げた。

 それだけだ。


 ただ、それだけで異変が魔獣群の中で起こった。犇めく地響きが消えたのだ。


 なぜ──

 解は見えていた。しかし理性が視神経を拒絶する。

 何百もの魔獣が地を離れ宙に浮かんでいく、世界が理が怠る光景を。

 

 角を生やした牛とも猪とも見える魔獣は、昇りながらもじたばたと脚を足掻かせている。それが数秒と経たぬ間に芥子粒に見える程に高度を上げた。


「時空魔術……」


 誰かの声で我に返った。

 そうか。ラルフェウス卿が魔術で持ち上げているのだ。

 右手は、いつの間にか頭上にある。

 だが、これからどうする気なのかと脳裏に過ぎった刹那、彼は斜めに腕を振り落とした。


 なっ!


 揮われた角度を(なぞら)えるように、何かが空から次々と墜ちた。

 数拍遅れて地響きが押し寄せる。

 何が起こった?


「ははは……。魔獣に魔獣をぶつけて斃すか。やるな! ラルフ」


 そうか!

 あの綺羅綺羅とした魔獣昇華光が弾け続けるのは、墜ちた場所にも別の群れが居たからか。


『優れた魔術師とは、無駄の無い魔術師だ!』

 グレゴリー師の言葉が耳の奥に甦る。賢者の双璧が認めているのか。


「どうだ。皆納得したか?」


 バロール少佐の問いかけに、居並ぶ魔術師達は声を発し得なかった。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2020/08/08 誤字、細々加筆

2020/10/17 名前間違いヴェスター→ダイナス(申し訳ありません)

2022/08/18 誤字訂正(ID:1844825さん ありがとうございます)

2023/03/18 誤字訂正(ID:78534さん ありりがとうございます)

2025/03/04 誤字、文章乱れ訂正(ran.Deeさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ